5/13関電交渉報告
「運転中の定検準備作業は、やめるわけではない」
「ステンレス鋼の大幅減肉は、『見かけ上の減肉』です」
「見かけ上の肉太り」はどうなるのか?

 5月13日、午後6時から9時まで約3時間。参加者は、関電からはいつもの広報3名、市民側は18名。特徴的ないくつかの点について報告する。美浜3号機事故について、関電は前回と同じく「トップは安全第一だったが、現場は安全第一ではなかった」という姿勢に終始した。「安全第一でいくのなら、今後はプラント運転中に作業者を入れないということで良いか」と聞くと、関電は「工程の縛りがある」ので、「今後、運転中に作業員を入れないとは言えない」と答えた。5名の方が亡くなっているにもかかわらず、関電は、経済性優先・安全軽視の姿勢をまったく変えていないことが改めて明らかとなった。また、美浜3号で見つかっていたステンレス鋼配管の大幅減肉について、「減肉はない」と驚くべき回答を行い、肉厚測定では明確な減肉傾向が見られるにもかかわらず、これを「見かけ上の減肉」に過ぎないとした。破断箇所の点検リスト漏れについては、事故の1週間前に破断箇所が検査されていないことを美浜発電所は確認したが、若狭支社には報告しなかったという、また、それを証する資料は公表しようとしなかった。
 交渉の直前の5月11日、関電は、福井県原子力安全専門委員会に「美浜発電所3号機2次系配管の点検結果について(第3回報告)」を出した。関電のホームページには、その「抜粋版」として40頁の資料が出ている。交渉では、その5月11日付の約400頁の本資料をグリーン・アクションと当会分として2部手渡した。また、4月5日付質問書で要求していた破断箇所のスケルトン図2枚は、交渉参加者に配布された。

◆「今後、運転中に定検前の準備作業のため作業者を入れないとは言えない」、「高いリスクがあればリスクを下げて入れるように」
 藤社長と秋山会長の事故に関する責任については、「経営者としての責任はある」とは認めたが、「関西電力として安全確保を最優先するという方針だったが、法令や安全確保に理解を深めるための教育が不十分だった」と繰り返した。前回の交渉と同じくトップは安全第一だったが、現場は安全第一ではなかったという態度に終始した。

 これに対して参加者から、「安全第一ということは、今後は、タービン建屋等、事故の起こる可能性のある箇所での定検前の準備作業をやめるのか」と質問があがった。関電は、直接質問に答えず、「潜在的なリスクを含めて評価を行って労働安全を確保していく」と「リスク評価」などという抽象的な回答を繰り返した。そこで、「今後、炉を止めてからしか作業員を中に入れないということで良いですか」と確認すると、答えにくそうに「いえ、それはそうではありません」と答えた。

 参加者は驚き、「今後も運転中に作業員を入れて定検をやるということですか」と確認を求めた。これに対して関電は、「美浜1号機、高浜3号、大飯2号等、事故後の定検については、炉を止める前に作業員は入れていない」「今後の方針も決まっていない」と前置きした上で、「今後もし、プラント停止前に建屋内での作業がどうしても必要ということになるのであれば、協力会社の作業員の方のご理解が得られるならば、やらせていただきたいと思う」と明言した。

 これに対して「5名の方がなくなったのに、炉が動いている間は定検作業のために人は入れないということになぜしないのか」と追及する。「必要がある作業であれば、リスクを下げるようにするということです」と、関電はあくまでも、定検のため、運転中に作業員を事故の危険がある建屋内に入れる方向性を否定しなかった。「リスクが高ければ作業員を入れないということですか」と聞いても、「リスクが高ければそのリスクを下げるようにして、人を入れないというわけではない」と答えた。参加者から、「JRと同じじゃないか」と抗議の声が挙がった。

 「必要性、必要性というが、運転中に作業者を入れなければならない必要性とは一体どういう必要性なのか」と追及すると、「原子炉が止まってしまうと補助ボイラーが必要になるので・・・」などと言い出し、「定検が始まるとタービン建屋内の作業がふくそう(輻輳=重なる)しますので、その中で同時に準備作業をやっていくと作業者の安全確保ができないので、先にやれるものは先にやると、そうすれば、作業者の安全確保も図れる」と答えた。「作業者の安全確保のために、運転中に人を入れていた」というのである。人を馬鹿にしたような答である。

 そもそも準備作業を運転中にやらなければならない程、定検作業が過密なものになっていることが問題なのである。「3つの工程を一日でやるのではなく、3日に分けてやるようなゆとりをもった作業工程を組めばすむことではないか」と参加者から批判の声があがる。

 これに対して関電は、「われわれとすると、どうしても縛られた工程というものが・・・」と言いかけ、慌てたように「いえ、決められた工程がありますので」と言い直した。「名言ですね」「トップが縛っているんでしょう」と参加者からは思わず声があがった。

 関電は今年度の定検計画として、大飯3号では42日間、高浜1号では44日間の定検を予定しており、従来通りの定検短縮方針に変わりがないことを示している。結局、関電トップは厳しい定検短縮を今後も至上命題とし、そのために、今後も運転中に作業者を中に入れるような危険な定検作業を続けるということである。関電は定検短縮最優先・安全軽視の姿勢をまったく変えていない。

◆ステンレス配管の大幅減肉は「シンニング加工部を測定していたことによる『見かけ上の減肉』で、実際には減肉はなかった」
 美浜3号では、蒸気発生器ブローダウン水回収管の45度エルボ部で大幅な減肉が確認されていた(スケルトン図番号162-16と162-48)。この配管は、基本的に減肉は発生しないとされていたステンレス鋼製である。このため、事前の質問書では、この配管での減肉の原因を説明するように求めていた。

 関電は、5月11日に出した「美浜発電所3号機の2次系配管の点検結果について(第3回報告)」において、破壊検査の結果「減肉は認められなかった」と結論づけている。今回の交渉で関電は、この報告書に基づき、「内面を確認してみるとエロージョンとか、エロージョン・コロージョンによって減肉が起こっているような状態ではなかった」。肉厚測定による減肉は、「見かけ上の減肉であり、実際には減肉はなかった」と回答した。
※この「見かけ上の減肉」とは、減肉による配管の取替えを極力減らすために新たに持ち出してきた概念である(「見かけ上の減肉」については今後詳細に解説したい)。

 関電の点検結果整理票では、この配管は、計算上必要厚さ6.6mmに対して、最小肉厚の測定値は4回の定検で、9.1→7.6→7.1→6.4mmと推移しており、明らかな減肉傾向が見られる。ついには技術基準の必要厚さを下回るほどだ。「減肉はなかった」などとは信じがたい。なぜ「減肉ではない」のかと詳しい説明を求めた。関電は、「今回、最小肉厚を測定した部分は、溶接線の近傍で斜めに削られたシンニング加工部だったので測定部が少し変わると肉厚が変わってしまう」と説明した。シンニング加工とは溶接線での管内面の段差を少なくするため、内面の端を削って勾配をつける加工のことである。

 4回の測定値は、円周上のすべての測定点について、一様に配管の肉厚は減少傾向を示している。つまり、関電の説明に従えば、測定の度に、シンニング加工部のより肉厚の薄い方向へと測定点が移っていったということになる。全く奇妙な説明である。

 「測定毎に必ず薄い方を計っていたなどとは信じられない」「そんな都合のいいことがありえるのか」と追及すると、「ありえないといわれても困る、結果としてそうなっていたということしか言えない」と言い続けた。

 しかし、点検結果整理票では、シンニング加工部がある溶接線近くの箇所だけではなく、シンニング加工とは関係のない配管の中央部でも測定が行われており、この中央部の肉厚も減肉傾向が明らかである。そこで、「配管中央部の肉厚も減少しているが、これは減肉を示しているのではないか、これもシンニングの影響だとでもいうのか」と追及した。

 これに対して関電は答えられなくなり「申し訳ありません。中央部については確認させていただきます」と言わざるをえなくなった。配管中央部での肉厚測定値の減少について、後日回答することになった。

 関電のこれまでの測定値には、肉厚の厚い方へ測定点が移動したために、肉厚が突然大きくなる例が多くある。これは「見かけ上の肉太り」として考慮すべきだと言うと、「うけたまわっておきます」と答えた。

 5月11日の関電資料では、この配管について切断調査の結果「内表面は設置時の状態であり、減肉の兆候は認められなかった」としている。この意味を質すと、「溶接線の近くで最小肉厚になったということでシンニング部を観察したが、加工時のグラインダ痕が残っており減肉は見られなかったということ」と答えた。

 「シンニング部を誤って測定していたために、見かけ上、肉厚測定値が小さくなった」と考えたため、シンニング部を観察したという説明であった。これでは、シンニング部の誤測定が原因という結論を先に立て、これを説明するのに都合の良い材料を得るために行われた、予断に基づく調査という他ない。

 しかし実際には配管中央部等、最小肉厚部分以外の部分でも一様に肉厚測定値は減少している。「シンニング部以外の内面、例えば中央部での内面の状態については調べたのか」と追及すると、答えられなかった。シンニング部分以外の部分について内面がどうなっていたのかも、確認して後日回答することになった。

 また、もし仮に、減肉ではなくシンニング加工部の薄い箇所を誤って測定していたという関電の説明を受け入れた場合、最初から計算必要厚さを割り込んでいたような欠陥のある配管を使っていたということになる。関電は計算必要厚さ6.6mmに対して、肉厚測定値を6.4mm(162-16)、6.5mm(162-48)としているが、シンニング加工によってさらに肉厚が薄くなった部分もあるはずであり、実際の管厚は必要厚さをさらに割り込んでいたことも十分に考えられる。事実、11日の関電の詳細資料によれば、切断調査による測定での最小肉厚は、6.25mm(162-16)、5.94mm(162-48)であった。

 この点について「それなら、最初から最小肉厚を割っていたということじゃないですか」「最初からそういうものを付けていたということですか」と追及したが、関電は何も答えなかった。

 ステンレス鋼配管での減肉は重大な問題である。2次系配管管理に関する機械学会の規格案でも、ステンレス鋼配管ではエロージョン・コロージョンは基本的に発生しないものとされ、エロージョンによる減肉も特殊な事例なので一般的な管理指針に含めるのではなく、個別管理で対応するものとしている。

 蒸気発生器ブローダウン水回収管の減肉部分は、ステンレス製であり、水と蒸気の二相流で、流速は50〜60m/秒、温度は240〜275℃である。おそらく、このような大幅減肉が発生するとは考えられてこなかった箇所である。

 ステンレス鋼製の蒸気発生器ブローダウン水回収管での大幅減肉が明らかとなれば、現在進めている配管管理の新しい指針が、大きく揺るがされることになる。シンニング加工部の誤測定による「見かけ上の減肉」などという論理も、ステンレス鋼配管での減肉隠しの疑いが濃い。この配管の切断調査による全内面の観察結果等、具体的なデータを公表させ、減肉の有無を明らかにしなければならない。

◆美浜3号の破断箇所の点検リスト漏れの経緯について−「事故の1週間前にリスト漏れを確認していたが、報告はしていなかった」
 関電は、今年3月1日付の「再発防止報告書」で、事故の約1ヶ月前に見つかった大飯1号の給水系統での大幅減肉を受けた「水平展開」の結果、美浜3号機の破断箇所が未点検であったことを確認していたとしている。このような新たな事実は、昨年9月の「中間報告」にも記載さておらず、3月になって初めて出してきたものである。同報告書は、「水平展開」によってリスト漏れを知ったとしているが、関電が行った大飯1号の水平展開は、(1)同じ玉型弁を使用している大飯2号の同箇所の点検、(2)他の原発の給水系統の配管のチェックだった。このような水平展開で、なぜ、復水系統の破断箇所のリスト漏れが分かったのであろうか。奇妙な話である。そこで、今交渉では、なぜ3月になって突然このような話が出てきたのか、具体的な説明を関電に求めた。

 関電の説明によれば、「若狭支社からの指示は2004年7月30日に、美浜、大飯、高浜の3つのサイトに出されたもの」とのことであった。また、「破断箇所が未点検箇所であることを知ったのはいつか」と確認すると、「7月30日から、8月9日の事故が起きるまでの間に破断箇所が未点検箇所であることを確認していた」とした。しかし、「報告書をまとめる途中で事故となり、破断箇所の未点検について、美浜発電所は若狭支社へ連絡しなかった」と述べた。

 7月30日の指示文書の公開を求めたが、「社内文書なので非公開」と関電は公表を拒んだ。口頭で、「大飯の減肉を受け、その他部位を含め、次回定検で追加点検する箇所を抽出するように指示した」という内容のものであり、また、「過去に協力会社から検査の推奨を受けながら点検されていないものがあるので、これも重点的に検討して抽出せよ」という指示だったと説明した。

 後者の「協力会社云々」という話は初めて出てきた事実である。詳しい経緯を質した。関電は、「1993年の蒸気発生器取り替えの時に三菱重工の神戸造船所が、偶然、蒸気発生器の横の所を計ってみると減肉していた。三菱重工は、その部位の点検を推奨したが、関西電力には伝わっていなかったため検査されていなかった事例があった」と言い、この事例を受けて「協力会社云々」という指示が行われたと関電は説明した。

 ただの「水平展開」で見つかったというのではあまりも不自然である。そこで関電としては、「協力会社云々」の過程で見つかったと言いたいらしい。しかし、「協力会社云々で分かったということか」と確認しても、「いえそうではなく」と否定し、「それも含めて範囲を広げてチェックしていた中で見つけた」と言う。「未点検部位になっているということはどうやって確認したのか」と具体的な説明を求めても、「点検管理票を含めて確認していった過程で、未点検であることを見つけた」と曖昧な答えに終始し、リスト漏れを確認した経緯を具体的に明らかにしなかった。そして、破断箇所がリスト漏れであると知ったのは「事故後です」とこれまでの公式見解を繰り返した。

 さらに、「スケルトン図や管理票に破断箇所が付番されたのはいつか」と確認を取ろうとしたが、「2003年5月のスケルトン図に番号が付けられておらず、同年6月段階の第20回定検の結果報告に添付されているスケルトン図に付番されていることが確認できる」と答えた。しかし、日本アームが点検漏れに気づいたのは2003年の4月である。関電が福井県に出した報告書でも「4月までは未登録」となっている。「5月には登録されていたのではないか」と質すと、「管理票等にいつ反映されたのかは具体的時期は確認できない」とのことであった。スケルトン図、点検管理票にリスト漏れが反映された具体的時期については後日回答となった。

 交渉で関電は、4月5日付質問書で要求していた2種類の破断箇所のスケルトン図102番(それぞれA4版)を参加者に配布した。破断箇所に「オリフィス」という文言はありながら付番のついてない(リスト漏れの)2003年5月時点のものと、付番のついた(破断箇所は102−63番)同年6月時点のスケルトン図である。
【スケルトン図102(該当部分を拡大)】
2003年5月:破断箇所に「オリフィス」という文言はあるが番号がついていない(リスト漏れ)
 【スケルトン図102(該当部分を拡大)】
 2003年6月:破断箇所に番号が付されている(63番)

 また、「点検管理票とは」と言いながら、ホワイトボードに表を書き、「縦軸にスケルトン図番号と部位、横軸に第一回定検から順に定検回数があり、点検した場合は該当箇所に丸印がつく」と説明した。この点検管理票の公開はかたくなに拒否し続けている。

 リスト漏れをいつ関電が、どのように知ったのか、非常に歯切れが悪い。関電は「リスト漏れを発見した人間も、いつ見つけたのか等、非常に記憶が曖昧になっていて」と繰り返した。リスト漏れについて、隠されていることがあるとの印象を強く持った。