美浜3号機事故に関する関電・三菱重工業の報告書と保安院の「暫定的評価」について
事故の直接原因は三菱重工業が最初にリスト漏れを犯したため─責任転嫁する関電
事故の本質的原因は、関電の安全性軽視と経済性最優先の姿勢にある


 3月1日、関西電力は「美浜発電所3号機二次系配管破損事故について」「美浜発電所3号機事故再発防止策〜より安全な原子力の事業運営を目指して〜」を発表し、国や福井県等に報告した。また、三菱重工業も同日「関西電力株式会社美浜発電所3号機二次系配管破損事故に関する報告書」を国に提出した。原子力安全・保安院は、3月3日の第8回事故調査委員会の場で、資料8−2−1「追加調査について」で、「当院の暫定的な評価」を示した。
 関電、三菱重工業の報告書と保安院の「暫定的評価」は、11名もの死傷者を出した美浜3号機事故の重大性に鑑みて、無責任極まりないものである。とりわけ関電の報告書は、刑事訴追問題を最大の関心事として、関電そのものと、トップの責任を隠蔽することに終始している。保安院の「暫定的評価」は、それを補完することに重点をおいている。ここでは以下に、事故原因と技術基準違反の問題に関する基本的な批判点を述べる(事故経過や設備への影響については、別稿を予定している)。
 保安院は、3月14日に福井市内で開く第9回事故調査委員会に「最終報告書(案)」を出し、3月中に事故の幕引きをはかろうとしている。しかし、それぞれの報告書の内容等を見ると、事故原因であるリスト漏れの経過も責任も不明のままである。事故の幕引きではなく、関電、三菱重工業、保安院は、事故原因と事故経過・事故による設備影響などの問題点に対し、まず全ての資料を公開し、それぞれの責任を明らかにすべきである。

1.破断した配管のオリフィス下流部が点検リストから漏れたままになった原因について
(1)関電は、三菱重工業に責任を転嫁している
 事故の直接的原因である、破断した配管のオリフィス下流部(以下、当該部位という)が28年間点検リストから登録漏れの状態にあったという、事故の直接原因の核心的問題について、関電は言い訳と三菱重工業への責任転嫁に終始している。
 関電の報告書では、PWR管理指針策定時(1990年前後)から事故に至るまでの経緯が書かれている。関電は、リスト漏れの根本原因をどうみているのか。そのことについては、3月1日の記者会見で関電社長が述べ、また3月3日の第8回事故調査委員会で飯塚委員の質問に対し関電副社長が述べている。すなわち、「リスト漏れの根本的原因は、管理指針が策定された当時から、三菱重工業が当該部位を点検リストから漏らしていたこと」だという。最初に作られたリストに漏れがあるなど思ってもいなかった、それを後から修正するのは困難だという。藤社長は記者会見で、三菱重工業への損害賠償請求を検討していると語った。三菱に責任を転嫁することで、自社の責任を軽くみせるためのものである。
 三菱重工業が当初にリスト漏れを犯した責任はそれとして大きなものである。しかし、
事故を引き起こした関電が、リスト漏れに対する自らの責任を認めず、他者に転嫁するとは、言語同断である。関電が公表している経緯に照らしても、美浜3号機の当該リスト漏れを見直す機会は何度もあった。それにも関わらず、関電はそれを怠ってきた。自らの責任を他者へ転嫁し、「登録漏れとは聞いていない」の言い訳ばかりを繰り返している。遺族への謝罪の言葉を何度述べようとも、形だけのものでしかない。
 これに対して保安院は、資料8−2−1「5.当院の暫定的な評価」で、「5.3保守管理業務の基本姿勢について」の中で、「保守管理作業においてアウトソースは不可欠であるが、発注者である関西電力の適切な管理の下で行われなければならない。上述の報告書の記述は、このような管理不十分なままのアウトソースの結果によって発生した責任が、一義的には、原子炉設置者の責任であることの自覚が不足していることを示している。」(P5〜6)と批判している。保安院が公に苦言を呈するほど、関電の姿勢が無責任極まりないというものだ。

(2)リスト漏れの経緯に即したいくつかの問題点
[1] 管理指針策定時に当該部位がリストから漏れていた問題について
  −関電はなぜチェックしなかったのか−

 関電と三菱重工業の報告書によると、点検対象部位として流量計オリフィス下流部を点検リストに載せることは、関電が主張したことだった。当初三菱重工業が作成した管理指針(案)には流量計オリフイス部は登録されておらず、最終的に関電が策定した管理指針で、当該部位を含むオリフィス下流部が点検対象となった。三菱重工業はこの管理指針が策定された時点(1990年)で、当該部位を含む47箇所の登録漏れを犯していた。これをもって関電は、当初から漏れていたのだから、三菱重工業に責任があると主張している。しかし、オリフイス下流部を点検対象に含めるように主張したのは関電である。それなのに、当初その必要性を認めていなかった三菱重工業が作成したリストに対し、なぜチェックをしなかったのだろうか。

[2] 関電は、高浜4号機の同じ部位が点検リストから漏れていたと聞かされていながら、なぜ他の原発でもリスト漏れがないかチェックしなかったのか
 関電報告書では、1997年(平成9年)に高浜4号機で同じ部位が点検リストから漏れていたと子会社の日本アームから報告を受けていたと初めて認めている。リスト漏れの報告を受けたのは、この1件だけだという。しかし、関電報告書では、「当社は他プラントには展開しなかった」と書いているだけである。なぜリスト漏れを知っていながら他のプラントでリスト漏れがないかをチェックしなかったのか、その理由は一切書かれていない。関電は、それまで何度も点検リストを見直す機会があったが、その都度に「リスト漏れという報告は聞いていない」を繰り返している。そしてリスト漏れを知らされた高浜4号の場合でさえ何もしなかった。なぜ「他のプラントに展開しなかった」のか、その原因を明らかにすべきである。

[3] 事故直前に大飯1号の大幅減肉が発覚したとき、なぜ当該部位が未点検であると知ったのか。そして、なぜ何もしなかったのか
 関電が美浜3号機の当該個所が未点検であることを知っていたという「新事実」が報告書には記載されている。関電報告書では、事故の約1ヶ月前に発覚した大飯1号主給水配管での大幅減肉を受けて、関電若狭支社が追加点検部位の抽出を指示し、美浜発電所が未点検部位として美浜3号機の当該部位のリスト漏れを発見したという。しかし、この大飯1号の大幅減肉問題で関電が点検を指示したのは、減肉部位と同じ玉型弁を使用している大飯1号機と2号機の同部位に対してだけであり、他のプラントについては、大幅減肉が起きた「給水系統」の点検指示だけである。美浜3号機当該部位は「復水系統」である。それなのに、どうやって美浜発電所は指示以外の当該部位を抽出したのか大きな疑問が残る。この経過について具体的に明らかにすべきである。
 よしんばこれが事実であったとしても、その時の関電の対応は、「次回定検(事故の5日後に開始予定の定検)で点検する計画であった」ため、放置したという。関電がこの大飯1号機に関する最終的な報告書を提出したのが7月27日である。保安院は関電のこの報告書を妥当と認め7月29日の第53回原子力安全委員会に報告した[http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2004/genan053/siryo4.pdfの8頁目]。事故は、その11日後に起きた。こうして美浜3号機の当該部位は、関電の不作為によって、また保安院のお墨付きによって補完され、最後の見直しの機会も失われたことになった。
 美浜事故の1ヶ月前の7月初めに明らかになった大飯1号の主給水管減肉問題は、予期しなかった2次系部位でのエージョン・コロージョンによる大幅減肉であり、さらに2次系配管管理が三菱重工業から日本アームに変わり、関電が減肉情報を日本アームに伝えなかったという状況で起きた。それゆえ、美浜3号事故の予兆・警告そのものであったというべきである。私たちは当時この減肉問題を重視し、関電に対し、他の原発の減肉も検査すべきだと要求した。しかし関電は、いっこうに耳をかさず、居直り続けた。大飯1号のこの事例からだけでも、関電の安全軽視の体質そのものが事故の原因であるということができる。

[4] 「点検リスト漏れ」とは何か
 事故の直接的原因は、美浜3号機の当該箇所が点検リストから漏れていたことにある。この「点検リスト漏れ」とは具体的に何を意味するのか。三菱重工業の報告書では「付番見落とし」という表現になっている。関電は「破損事故について」(概略版)で、事故1年前の2003年(平成15年)5月時点と、6月時点の当該スケルトン図(スケルトン番号102)を公開している(概要版11「美浜発電所3号機主復水系統のスケルトン図」)。当時配管管理を行っていた関電子会社の日本アームのスケルトン図であり、6月時点では当該箇所が「リストに掲載されている」ことを示すために出しているものだ。関電報告書では「日本アームが20回定検終了後に出した総括報告書では、当該部位に付番を追加したスケルトン図が添付されていたが、登録漏れの修正の連絡は受けなかった」という。
 この二つのスケルトン図を見比べると、両方とも「オリフィス」という文字と矢印が書かれている。異なる点は、6月のスケルトン図には、番号が書き入れられているということだけだ。
 「点検リスト漏れ」、「付番見落とし」とは、この番号が書いてなかったというだけなのか?「オリフィス」という文字は最初から入っていたのだから、そこに点検番号が入ってないことなどすぐに分かったはずだ。一目瞭然で、それを見つけることなど何も難しい話ではない。少なくとも、日本アームが管理を開始した1996年以降の10年間、このスケルトン102番の図は、関電も日本アームも何度も目にしてきたはずである。関電も日本アームもいかにずさんな管理を行っていたかの証左である。三菱重工業が管理していた当時の当該スケルトン図も公表すべきだ。


関電報告書 概要版11 「美浜発電所3号機主復水系統のスケルトン図」より

[5] 保安院は、点検リスト漏れの経緯について全ての資料を公開せよ
 しかし、保安院は、上記を含め、点検リスト漏れの経緯について、具体的に問題点を指摘することを放棄してしまっている。関電の報告書と三菱重工業の報告書には矛盾する点も多々ある。これらについて保安院は徹底した調査を行い、その経過を全て明らかにすべきである。同時に、大飯1号の場合を含め、自らの責任も明らかにすべきだ。原因とその責任を曖昧にしたままで、「再発防止策」が具体的でないと関電を批判し、報告書の再提出を要求してみても、何の意味もない。事故の真実の姿を覆い隠すだけだ。

[6] 事故1年前に、破断箇所のオリフィス・フランジを取り替えたときに、配管が薄くなっているのが分からなかったのか
 私たちとグリーンアクションが出した質問書(2005年2月10日付)に対して、関電はその一部について電話で回答してきた(3月2日)。その中で、美浜3号機の当該オリフィスをはさんでいるフランジを2003年5月からの定検で取り替えたという。事故1年前のことである。その時既に、破断した配管は相当減肉し薄くなっていたはずである。これらについては、関電の報告書でも、保安院の「追加調査」でも何も書かれていない。事実関係を明らかにすべきである。 

(3)管理指針の策定によって、配管検査は1/3以下に削減されていた
   保安院、電力会社等は新たな規格を策定し、一層の検査の手抜きを狙っている
 関電や保安院は、PWR管理指針については基本的に問題はなく、運用さえしっかりやっておれば事故が起きるようなことはないと言っている。しかし、今回三菱重工業が明らかにした資料で、管理指針策定後には、二次系配管の点検個所が大幅に削減されているという実態が明らかになった。管理指針が策定されたのは1990年、その数年前までは、関電の原発1基で年間の点検個所数は平均900箇所ほどだった。しかし管理指針が策定されたことによって、それは300箇所以下にまで削減されている[三菱報告書概要(4)]。


三菱重工業の「報告書概要」より−保安院HPより

 さらに、点検の実態について、「当時(注:日本アームに検査が移行される1996年まで)関西電力殿各プラントの配管経年変化調査工事の計画に際し

三菱重工業「報告書」より−保安院HPより
ては、1プラントあたり約1,000箇所の中から余寿命を参照し一定検当たり約100〜200箇所の点検箇所を調査した。なお、他電力は約300箇所を調査した。(図−2)」(三菱報告書p6)。と書いている。他の電力会社は一回の定検で約300箇所を検査していたが、関電の場合はわずか100〜200箇所だったという。大幅な検査の手抜きが、管理指針策定によってなされた。さらに関電の測定実績は、他電力の1/3〜2/3だった。
 管理指針では、偏流が発生する部位は、減肉が生じる「主要点検部位」と、減肉傾向のない「その他部位」に分けられている。「その他部位」は10年間で25%の検査を行えばよいとなった。この「その他部位」という概念によって、一定検で検査する箇所が大幅に削減されたと推測される。しかし、美浜3号機事故の1ヶ月前に見つかった大飯1号主給水管の大幅減肉も、つい最近明らかになった美浜3号機での10個所の減肉も全て「その他部位」で発生している。管理指針そのものが極めて不十分なものであることを示している。
 さらに、現在機械学会では、新たな配管減肉管理の規格策定作業が行われている。保安院は2月18日にその規格ができるまでの間に使用する「暫定指針」を発表し電力各社に通達した。その「暫定指針」では、「その他部位」については10年間の「中期的計画」をたてるとしているだけだ。さらにBWR原発で現在行われている「代表部位」設定による検査の大幅手抜きを容認している。また、機械学会が公表し、現在ご意見募集をしている「配管減肉管理に関する規格(案)」、配管管理の責任は電力会社にあり、電力会社が作る管理指針が規格に合致しているかどうかの確認を学会に申請する必要さえないという。電力会社任せの無責任極まりないものである。美浜3号機事故を受けての対策がこれである。
 この指針策定にも係わっている三菱重工業は、今回の報告書で「PWR原子力プラントの二次系設備は原子炉等で構成される一次系とは異なり放射性物質を扱っておらず、配管には火力プラントで実績があり経済的にも有利な炭素鋼が主に使われている。炭素鋼を使用した二次系配管では、偏流の発生し得る部位は常に減肉の可能性がある。このため、二次系配管と配管構成部品についてはプラント運転開始後の健全性(強度)を減肉管理によって確保する必要がある」と書いている(三菱報告書P3)。すなわち元々経済性を優先させて減肉しやすい炭素鋼を使用しているのだから、偏流の発生する部位は、「その他部位」も含めて、徹底した検査によって管理する以外にない。三菱の報告書に従えば、検査の手抜きなど、とうていできないはずである。
 現在の管理指針は、ただでさえ抜け穴だらけである。保安院・電力・原子力メーカ、機械学会が進めている管理指針の見直しは、それを一層改悪し、検査の手抜きにお墨付きを与えようとするものである。

2.技術基準違反の常態化等について
(1)姑息な関電と、それによって得点稼ぎを狙う保安院
 関電は、PWR管理指針策定以降、これまでに技術基準に違反しているのを知っていながら、配管の取替を先延ばしにしてきた事例等について報告している。配管余寿命が1年未満で運転中に技術基準に定められた計算必要厚さを割り込む可能性があったもの67部位。その内、測定時点で計算必要厚さを下回っていたものが34部位もあったという。まさに技術基準違反の常態化、安全軽視の関電の体質を如実に示している。
 これに対して保安院は「暫定的評価」で、上記関電の発表には、配管余寿命ゼロ年のものが加えられておらず、さらに複数回の定検で配管取替を先延ばしした事例を加え、「当院は、PWR管理指針の不適切な運用が78件、そのうち技術基準に明らかに適合しないものは46件」と関電報告書を訂正している。
 関電は、今になっても、自らの法令違反を少しでも小さく見せようとしている。姑息極まりない態度だ。関電が姑息すぎる分、保安院が得点を稼いだかに見える。住民にとってみれば、なんとも最悪の関係である。

(2)保安院は、類推して検査を省略する関電の手法を認めるのか
 関電と保安院が問題にしているのは、技術基準に違反する場合にのみ限定している。これは、関電が行ってきた不適切な配管管理の氷山の一角にすぎない。関電が行ってきた、手抜き検査の実態には何らふれていない。その端的な例が大飯2号で行われていた、類推手法による検査の手抜きだ。大飯2号の第5ヒータ空気抜き管の4部位は、「主要点検部位」と定められているにもかかわらず、運転開始以来25年間一度も検査をしていなかった。その理由として関電は、4部位(45度エルボ部)の前後にある条件の厳しい90度エルボ部を測定し、そこから類推して4部位は測定しなくても安全だと判断したという。これについて保安院は、これまで2回の交渉の場で、「この類推手法には合理性がある」として関電の手法を批判するどころか、擁護し続けている。他方、保安院の他の職員は、そのような手法は認められないと電話で私たちに回答している。主要点検部位に「類推で検査省略」という手法を認めるのかどうか、大飯2号に適用した関電の類推手法に対して、保安院は正式な見解を出すべきだ。
 また関電は、美浜1・2号機で、火力基準の「ただし書き」を悪用していたことを保安院に指摘され、その後ミルシートの実績値を使って配管余寿命を計算していた。技術基準に従えば、最小肉厚を割っているにもかかわらず、余寿命8年などと報告していた。今回の関電報告書では、「降伏応力ベースによる余寿命評価」の事例については、1995年(平成7年)に6箇所あったことを記載している。すなわちミルシートの実測値による評価を行っていたのは不適切と認めている。しかし、美浜発電所でのミルシート問題については一切ふれていない。保安院も、このことに関して一切ふれていない。美浜発電所でのミルシート実績値による管理手法は妥当と評価しているのかどうか、見解を明らかにすべきだ。

(3)技術基準違反の原因は、現場第一線と三菱重工業
[1] 経営トップは「安全第一」、現場は「定検短縮最優先」
  福井県警の捜査に対し、トップに影響が及ばないよう、関電と保安院が同一歩調
 関電は、このような技術基準違反について、その背景として「定期検査工程を遵守しようとする意識が強かったこと」、「メーカからの技術連絡書に、技術的にその時点で問題はなく次回定期検査での取替や補修が推奨されていること」としている。
 まず第一に、「定期検査工程を遵守する意識」とは短縮された定検期間を守ろうとする意識のことだ。関電は、これは現場の意識であり、「『安全を最優先する』という経営方針の精神に沿わない判断を下した可能性がある」(「再発防止策報告書P19)という。すなわち、会社としての経営方針は「安全性最優先」であったが、現場の第一線が勝手に定検短縮をやっていたと言わんばかりである。しかし、関電の報告書が認めているように、「当社は、・・・原子力利用率を向上させていくという方針のもと、平成9年以降、定期検査の短縮に取り組んできた。・・・近年においては、設備利用率80%以上を達成している」(同上P19)。関電は、現場の意識ではなく、会社の経営方針として定検短縮の号令をかけてきた。1990年代前半までは、定検に150日間ほどを要していた。しかしそれ以降短縮され、2003年の定検日数の平均は82日間にまでなっている。定検短縮に照応し、設備利用率は上昇し、90年代後半には80%を超え、2002年にはほぼ90%に達している。下請け会社に報償まで出して、経済性最優先の定検短縮に血道を上げていたのが実態だ。[関連資料:美浜3号機事故の背景−老朽炉にムチ打つ、修繕費削減・定検短縮(美浜の会HPより)] これに対して保安院は、「安全第一という関西電力の方針とは裏腹に、現場の第一線では、定期検査工程を優先するという意識が強かったことを示すものであった。この経営層と現場第一線における認識の乖離について、監督機能などが十分に機能せず、この結果、こうした問題が長年にわたり是正されずにいたことは重要な問題である」として、経営トップの責任を覆い隠し、関電と全く同一歩調をとっている。福井県警の捜査に対して、経営トップに責任が及ばないよう、暗黙の了解の上、両者が動いているかのようである。

[2] 技術基準違反は三菱重工業の指導によるもの−またも責任転嫁
 第二に、技術基準違反の背景として、関電は「不適切な運用を行なった部位に共通することとして、メーカ(注:三菱重工業)からの技術連絡書に、技術的にその時点で問題はなく次回定期検査での取替や補修が推奨されていること」をあげている。「材料手配が間に合わないことから三菱重工業と協議の上、運転圧力を用いた評価により取替の先送りをしたものである。この運転圧力による評価方法は三菱重工業から日本アームへ引き継がれ・・・」(関電「再発防止策報告書」P17)、「三菱重工業から技術連絡書により提案されたもので、当社は三菱重工業を信頼し、こうした評価で問題ないと判断したものと考えられる」(同上P17)等々と繰り返している。三菱重工業が配管取替を先送りしてもいいと言ったからだと、言い訳している。ここでも責任を転嫁している。
 他方、三菱重工業は報告書で、「検査において余寿命が1年未満と評価された場合には、プラント運用の実態に照らし、技術的に十分安全であると評価されるものについては、電力会社と当社で協議し余寿命の再評価を行い、電力会社の判断で次の定期検査まで当該配管の使用を延長した例があったことについて監督官庁から不適切との指摘を受けました。」(三菱報告書P10〜11)として、配管取替を先送りするよう判断をしたのは関電だと述べている。この両者の意見の食い違いについて、保安院は真実を明らかにすべきだ。
 さらに、関電の違法な配管管理は、二次系配管の管理を三菱重工業から日本アームに移した1996年(平成8年)以降に生じたものが、全体の約9割にあたる(67件中59件)。1997年以降、違法な配管管理が多発し、原発の設備利用率もそれまでの60%代から一気に80%代へと跳ね上がり、設備利用率の全国平均に追いつき追い越している。

[3] 技術基準違反と美浜3号機事故は別だと主張する関電
 また、関電は、このような技術基準違反などの行為について、「これらは事故の直接的な原因ではないが」(再発防止策報告書P16)とわざわざ断りを入れている。美浜3号機で点検リストから漏れ続け大事故を起こしたのは、ずさんな配管管理とは別問題であり、たまたま3号機ではリスト漏れが継続していたと言いたいのである。全くの言い逃れだ。このような技術基準違反の横行とリスト漏れは、安全性を軽視し、経済性を最優先する関電に染みついた体質と経営方針という本質的問題に根ざす別の発現形態でしかない。1997年以降の経済性最優先の危険な運転が、ついに大事故を引き起こしたのである。このような根本的問題について、具体的に事実を明らかにし、その責任を明確にすることなしに、事故は必ず繰り返される。

3.関電の再発防止策について
  「より安全な原子力」と経済性最優先は両立しない

 関電は、「再発防止策」として、「より安全な原子力」という言葉を念仏のように繰り返し、安全キャンペーンを徹底すると言う。「安全キャンペーンで問題は解決しない」とは、第8回事故調でも委員達が繰り返している。具体的に定検期間をどう定めるのか、修繕費を節約せずに安全管理を進めるのかについては、なんら具体的な方策はない。それどころか、定検日程については、「これまでは、・・・期間の短縮を目指した最適な工程策定を行ってきた。今後はこれまでの実績を踏まえた上で、より一層の労働安全や補修期間等に十分配慮した工程の設定に努める」として、これまでの定検短縮の実績を踏まえる方針を示している。修繕費の削減については、「修繕費の低減と安全のための投資 ・現場の安全をさらに高めるための投資がこれからも不可欠」とだけ述べ、「修繕費の削減」に対しては継続して行う意向を暗に表明し、今後の対策としては「ゆとりある原子力の職場づくりのための資源の再配分」と一般論を述べているだけだ(「これまでの保全活動と事故未然防止対策の概要)。
 「より安全な原子力」と経済性最優先は両立しない。そして関電は、経済性最優先の運転を、一層老朽化の進む原発にむち打ちながらやっていくというのである。

 11名もの死傷者を出した美浜3号機事故の原因も、技術基準違反等のずさんな配管管理の原因も、関電の定検短縮等による経済性最優先の姿勢にある。「事故を二度と繰り返さない」と関電が言うのであれば、そのことを正面から認め、責任を明らかにしなければならない。特に、会長と社長の責任が身をもって示されるべきである。監督官庁として保安院は、このような関電を野放しにしてきたことの責任を明らかにする責務がある。それなしには、事故は繰り返される。

2005年3月7日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会