2月18日付「原子力発電所の配管肉厚管理に対する要求事項について」
検査の簡略化を図った保安院の暫定的通知
■PWR管理指針よりも大幅に後退
■「その他部位」の検査は切り捨て同然の「中期的な計画策定、検査」のみ
■BWRでの「代表部位」による点検省略に「お墨付き」


 2月18日原子力安全・保安院は、「原子力発電所の配管肉厚管理に対する要求事項について」を各電力会社と原子力安全基盤機構に通知し、公表した。通知の中で、「本要請は、日本機械学会において、配管管理に関する技術規格が策定され、・・・当該規格が判断基準として位置付けられるまでの間の暫定的な措置」としている。
 公表にあたり保安院は、「従来、配管肉厚管理の具体的方法については電気事業者に委ねていた」が、「事故の再発を防止するための当面の措置として、・・各電気事業者が同検査(肉厚管理のための検査)を実施する場合に遵守すべき事項」を定めたと表明した。
しかしながら、具体的な検査方法については、「代表部位」の選定などこれまでと同様に電力会社任せである。それ以上になによりも、検査対象部位の選定に関して、「その他部位」を事実上切り捨てる意図が見えている。この「暫定的管理指針」は、検査の強化ではなく、検査の簡略化を図ったものである。

◆検査の簡略化を図る「対象箇所の選定」
 「通知」は「検査対象箇所の選定」にあたり、まずは「1.(1)に該当する部位」を検査対象部位と規定する。また、「1.(1)に該当しない部位」についても一応は検査範囲に含めて「適切に検査」するとしている。つまり後者は例外扱いするという発想に立っている。
 「1.(1)に該当する部位」とは、オリフィス下流部など「偏流の影響を受ける部位」で、かつ「減肉が顕著に発生すると予想される部位を検査対象箇所として選定すること」と規定している。この部位は基本的にPWR管理指針での主要点検部位と同じである(ただし、玉型弁下流部など2種類を追加している)。この部位については、測定ポイントや検査実施時期、余寿命に応じた措置などを指示している。
 他方、「1.(1)に該当しない部位」(PWRでの「その他部位」相当)については、「中期的(10年)な検査計画を策定し、検査を実施すること」と極めて曖昧である。どのような検査をいつ行うのか全く示していない。これでは、この部位の検査を切り捨てていることに等しい。
 ちなみに、現行の「PWR管理指針」での検査対象箇所は、「偏流の発生する部位」すべてであるとまず規定している。この部位のうち、減肉傾向が想定される部位を「主要点検部位」、減肉傾向がないと考えられる部位を「その他部位」と区分している。また「その他部位」の点検は、「10年間に約25%を点検対象とする」と、弱いながらも一応は具体的な規定を含めている。
 ところが、「暫定管理指針」は、「顕著な減肉が予想される部位」だけを具体的な検査の対象として選定し、これ以外の「偏流発生部位」(その他部位)については、検査内容・方式を定めず「中間的な検査計画策定」を事業者にゆだねることで、現行の検査よりも後退する。PWR管理指針をベースとした検査を「要請」している素振りを漂わせながら、その実、検査の簡略化を図っているのである。
 なお、「その他部位」である2箇所(玉型弁下流部と流量調整弁下流部)を「(1)に該当する部位」に加えたのは、大飯1号主給水管で大幅な減肉(玉型弁下流部)が発生したからである。同時に、その引き上げを通じて逆に、多数の「その他部位」の検査を大幅に後退させることを「合理化」しようとしている。
 しかし実際には、「その他部位」でも大幅な減肉が生じている。大飯1号での玉型弁下流部以外にも、美浜3号では10箇所で必要最小肉厚を下回る著しい減肉が見つかっている。そのうちの2箇所は、減肉対策材のステンレス鋼であった。「その他部位」での検査の後退が危険であることを事実が示している。

◆現行の「代表部位」による点検省略に「お墨付き」
 東電などの沸騰水型原発(BWR)については、これまで各社でバラバラであった配管検査に、共通の検査方法を示した。しかし、現行の「代表部位」による点検省略を認めている。「本指示文書発出前における検査対象箇所の選定として、絞込みにより選定を行っている場合については、別紙1を参考にして、再度、その妥当性確認すること。」としている。
 「検査対象箇所の絞込みの実施例」(3種)を別紙1で示しているが、3例とも、環境条件と構造条件等が同一ならば、どの範囲まで拡大できるのか、その限界は示されていない。この3種類を組み合わせれば、相当な広範囲で「絞込み」が可能となり、検査対象箇所数を大幅に減らすことができるのである。
 これまでBWRでは、同じ環境下にある配管群は、どこかの1箇所を「代表部位」に選定して検査を行い、他の箇所の検査を省略する手法が採られていた。この方式に「お墨付き」を与えたのである。
 「減肉が顕著に発生すると予想される部位」がいくつあっても、「環境条件(温度、湿り度、流速、溶存酸素濃度等)及び構造条件(口径、肉厚、材質等)等」が類似している部位は、どれか一つを「代表部位」に選定して検査すれば、他の多数の部位の検査を省略できるのである。
 保安院は代表部位の選出にあたって、「環境条件及び構造条件が類似すると思われる箇所においても、減肉の発生状況が異なる可能性がある・・」と注意しているが、これは単なる言葉だけの注意に過ぎない。本当にこのような理解でいるのなら、代表方式をはっきりと否定すべきである。
 また、「代表部位の算出された余寿命が5年未満となった以降は、・・類似箇所も含めて全ての箇所を検査対象に選定すること」との留保を付けているが、前記の注意どおりなら、代表の余寿命が5年以上でも、代表されている多数の部位のどこかで余寿命がゼロやマイナスになることが十分ありうることになる。

◆「類推」による管理手法についての判断を示していない
 関電は、大飯2号機の「主要点検」部位(第5ヒータ空気抜管)で、前後にある90°曲がり部の肉厚測定により、その間にある45°曲がり部の健全性を評価していた。関電は、90°部の方が減肉条件は厳しいから、「類推」で45°部の健全性が評価できるとし、肉厚測定を省略していた。このような「類推」手法が妥当なのか、一切言及していない。
 保安院は、これまでの2回の交渉では、「類推手法には合理性がある」と回答した。ところが最近、電話で再度確かめたところ、他の職員はそのような手法は認められないと回答した。保安院は、正式な見解を出すべきである。 
 このような「類推」を管理手法として認めるなら、BWRでの「代表部位」と同様の点検省略がPWRでも行われることになる。保安院は、各電力会社の実際の検査手法に目を向け、その妥当性の判断を示す責任がある。
 美浜3号機の「その他」部位での著しい減肉箇所10箇所中4箇所が45°曲がり部であった。「類推」手法には妥当性がなく、配管管理ができないことの証である。

 現在までに明らかになっている配管の減肉の実態は、あれやこれやの方法で検査を簡略化したり、省略することの危険性を示している。すべての箇所の徹底した検査以外には安全性は確保できない。