関西電力の2次系配管管理の見解に関連して
技術基準の適用等に関する保安院への質問書


原子力安全・保安院長  松永 和夫 様

2005年1月31日

 美浜3号機事故を契機とした2次系配管管理について、2005年1月20日に私たちは関西電力と交渉しました。そこでは、次のような驚くべき回答が相次ぎました。例えば、ミルシートに記載された「実機材料のデータ」を使って必要最小肉厚を算定する方法は、貴院が認めているものだと回答しました。やはり関西電力は、2次系配管管理を適正に行う姿勢がないとの強い疑念を持ちました。

 関西電力からの回答(要旨)は、次の通りです(口頭での回答のテープ起こし)。
*「『発電用火力設備の技術基準』は、平成12年に性能規定化され、何ミリの厚さを要求する規定ではない法体系になっている。それは、火力でも原子力でも同じである。」
*(ミルシートに記載された「実機材料のデータ」に基づく配管管理に関して)
 「性能規定化している趣旨を踏まえて、(技術基準の)別表(許容応力表)によらない方法でやってもよい。ただし管理指針、手順を定めずに実機材料のデータで判断したことが不適切なやり方であると、保安院が美浜発電所3号機2次系配管破損事故調査委員会の資料で書いている。」
 *(「発電用火力設備の技術基準の解釈について」のただし書きを適用したことについては、余寿命が2年以下の配管のみに適用したことを認めず)
 「余寿命を延ばす意図で適用したのではなく、『ただし書き』の条文を適用しただけであり、火力だけに限るとの記載がなかったので、当時は原子力に適用できると考えた。」

 以上の関西電力の回答に関連して、貴院に以下のことを質問します。

1.1)「発電用火力設備の技術基準」は平成12年に性能規定化されています。原子力設備の2次系配管等には、この「発電用火力設備の技術基準」が準用されています。原子力設備に準用する場合も、「性能規定化」されているとの見解ですか。

  2)上記の見解である場合、「原子力設備でも性能規定化した」ことを明らかにしている法的根拠、並びに文書等を示してください。

  3)「発電用火力設備の技術基準」を準用して適用される原子力設備と告示501号が適用される設備とはどのように区別しているのですか。例えば、PWRの主給水管(隔離弁より蒸気発生器側)については、どちらの基準が適用されるのですか。

2.1)ミルシートに記載された「引張試験」値(降伏点または引張強さ)を配管管理のための「最小必要厚さ」算定に使用してよいとの見解ですか。

  2)ミルシートとは当該材料がJIS規格の要求事項を満たしていることを証明する「検査証明書」です。ミルシートに記載されている「降伏点」強度などと「発電用火力設備の技術基準」別表に記載されている「許容引張応力」とは全く異なる規定の強度と考えますが、貴院も同じ見解ですか。

  3)「美浜発電所3号機2次系配管破損事故調査委員会」の第3回(8月27日)で、貴院の梶田課長は、「ミルシート上の、もともとその材料、配管が持っている許容応力を入れれば、今現在も十分な強度が保たれている可能性はあるというふうに・・・」(議事録24ページ)と委員に説明されています。
 この説明は、ミルシートに基づいて最小必要肉厚を算定してもよいという意味ですか。

  4)梶田課長は、上記3)で引用した個所の後で、「(社内基準に決めるべき)判定ルールの問題」であり、「保守管理、保安規定の運用として不適切、問題があると考えている」と説明されています。この見解は、先述した関西電力の私たちへの回答と同じように、社内基準を定めれば技術基準ではない基準を適用しても問題はないという考え方ですか。

  5)他方、昨年10月8日に開催された福井県原子力安全専門委員会で、梶田課長は、「(関西電力が提出した資料2…ミルシートの実績値による必要最小肉厚算定…について)『念のために取替える』と記載しているが、技術基準に対する認識が不十分であると言わざるを得ない」と指摘されました。
 この指摘内容と8月27日の第3回事故調査委員会での説明内容とは異なっていますが、どちらが保安院としての見解ですか。

  6)ミルシートの実績値を用いて必要最小肉厚を算定する手法は、国の技術基準に違反するのかどうか、貴院の見解を明らかにしてください。その場合、その根拠となる資料も示してください。

3.1)昨年9月27日付「中間とりまとめ」で、貴院は、「ただし書き」の適用について次のとおり「適切と言えない」と関西電力を批判しています。
「・・関西電力鰍ェ"発電用火力設備の解釈について"の「ただし書」を独自に解釈し、余寿命が短い(余寿命評価が1年未満)配管に適用していたためである。このような運用は適切とは言えない。」(23頁)
 ところが、ミルシートの実測値を使った関西電力の余寿命評価の妥当性について、「中間とりまとめ」には何一つ書かれていません。この理由は何ですか。

  2)関西電力が行ったミルシートの実績値による余寿命評価について、保安院として不適切であるとの見解を表明している文書はありますか。ある場合は、その文書を示してください。

4.肉厚が薄くなり赤信号が点灯している配管に限って、余寿命が延びる手法(ミルシートでの「試験値」の使用や「ただし書き」の不適切な適用)を使った関西電力の「必要最小肉厚」の計算方法は、「過失」ではなく「悪意のある」規制逃れと言うべきものです。
 貴院は、関西電力がどのような動機・意図から「ただし書き」を適用したのか、事情聴取したのですか。このような確認は、関電の行為が「過失」か「悪意のある」規制逃れかを見極めるために、必要で重要なことだと考えます。
 事情聴取を行っている場合、意図が何であったかを示してください。事情聴取を行っていない場合は、行わない理由を明らかにしてください。

5.現在、原子力発電の安全規制のあり方について、性能規定化の検討が進んでいます。美浜原発3号機の配管で大事故を起こし、国民の関心が高い2次系配管管理について、ミルシートの実績値等を使用するという「事業者の自由裁量」による配管管理は、今後も認めないという厳格な規制が行われると理解してよろしいですか。
 
 以上、関西電力に対し、安全性を最優先した適切な2次系配管管理を行うよう求める立場から、貴院に質問します。回答は文書でお願いします。
 なお、平成13年7月に総合資源エネルギー庁が示した「原子力安全規制の理念」を引用します。
 この理念どおり「明確で、公開されている」回答を行ってください。
(原子力安全規制の理念)
一.明確であり、公開されていること。
  ・国民の視点に立って、安全規制の考え方、各種基準や実際に講じた措置について、十分な説明を行うべきである。結果だけでなく、その過程についてもできるだけ明らかにする必要がある。
  ・安全規制の制度や規準は明文の形で明らかにすることはもちろんのこと、理解されやすい形にすることが大切である。

<総合資源エネルギー調査会第4回性能規定化検討会資料4-5より引用>


(付記)この質問は、福井県知事と福井県原子力安全専門委員会にあてた要望書にも添付していることを申し添えます。

2005年1月31日
  グリーン・アクション 代表:アイリーン・美緒子・スミス
    京都市左京区田中関田町22−75−103 TEL 075-701-7223 FAX 075-702-1952
  美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 代表:小山英之
    大阪市北区西天満4−3−3 星光ビル3階 TEL 06-6367-6580 FAX 06-6367-6581