2月15日保安院交渉報告

─福島1−5の保安院見解は今も正しい─
「現実に起こった減肉は、これまでの知見ではあり得ない」

「ミルシートで配管管理を行うのは不適切。
関電には直接電話して、しかるべき措置をとる。」

東電は小口径配管でエルボ部の測定を直管部の測定で代替
保安院は他の電力会社が同じ手口を使っていないか調査せず

配管の実態調査もせずに、代表部位で手抜き検査を容認する
保安院の暫定的「管理指針」


 2月15日午後2時から3時半まで、衆議院議員会館で、原子力安全・保安院との交渉を行った。保安院からは前回と同じく荒川統括安全審査官、検査課の森下氏、防災課の白髪氏に加え、検査課の関氏の4名が参加した。美浜事故以降明らかになってきた配管減肉問題などを中心に、石巻・新潟・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫から、10名の市民が参加した。近藤正道議員と稲見哲男議員の尽力でこの日の交渉はもたれた。近藤議員はほぼ最後まで参加され、保安院の姿勢を厳しく追及された。
 前日の14日、保安院の青山伸審議官は、配管減肉に関する暫定的な「管理指針」を通達として電力会社に今週中に出すと、福島県議会で表明していた。そのため、交渉の冒頭で近藤議員は、「管理指針」通達を提出するよう要求した。これに対し保安院は、「案の段階なので、最終的には文言が変わるということをご了解いただいて、これが終わったら議員事務所に提出する」と約束した。しかし、交渉の後、「上司から提出できないと言われた」と前言をひるがえした。代わりにと、青山審議官が福島県議会で話した資料を議員事務所に送ってきた。この資料では、暫定的「管理指針」の内容などほとんど分からない。保安院の老朽化対策室の室長も務める荒川統括安全審査官も同席した上で、議員に約束したことをいとも簡単に破るとは、全くもって許し難いことだ。

 交渉の最初に、この暫定的「管理指針」の内容の説明を受けた。交渉で明らかになったこの「管理指針」の内容については、最後に箇条書きでまとめているので、参照してほしい。以下、交渉のいくつかの点について、報告する。

■「福島1−5原発の保安院見解はいまも正しいと判断している」
 「現実に起こった減肉は、これまでの知見ではあり得ない」

 まずはじめに、福島1−5原発で昨年9月の定検で見つかった減肉問題について。東電は、肉厚の実測値から減肉率を0.6ミリ/年、余寿命0.8年と計算したが、配管を取り替えず運転を続けようとした。他方福島県は、余寿命0.8年は1年未満なので、次回定検までに最小肉厚を割り込むおそれがあるため、県民の安全を第一に考えて配管の取替を要求していた。これについて保安院は10月7日に見解を発表した。それは、減肉率0.6ミリ/年は過大評価であり、さらに技術基準には余裕度を持たせてあるから、仮にそれを割り込んでも安全上問題はないというものだ。福島県はもちろんのこと、今年初めには、多くの市民団体が連名で保安院に抗議文を提出していた。保安院は2月14日の福島県議会でも、この10月の見解を繰り返していた。
 はじめに近藤議員が、「今度出す暫定的『管理指針』では、余寿命13ヶ月未満の配管は取り替えるということだが、そうすれば、福島1−5で問題になった余寿命0.8年の配管も取り替えるということになる。取り替えなくてもいいと言っていた保安院の見解とは異なる結論を暫定的『管理指針』で出されたということだ。そうなれば、常識的には、昨年の保安院の見解は間違っていたということになる。一言謝っていいのではないか」と追及された。これに対して保安院は、「いや違います。新しい管理指針の内容と昨年の見解は別のものです」と言い出した。
 そこで、取り替えなくても安全上問題なしとした保安院の見解について、現在でも正しいと判断しているのかと問うた。保安院は、「今でも正しいと」と言う。その根拠を問いただしていくと、耳を疑いたくなるような回答ばかりだった。キーワードは「これまでの知見」だった。保安院は、「我々は持ちうる全ての知見を用いて減肉率を予想し、安全だと判断した、誤った判断だとは思っていません」と力説する。その保安院の知見に基づく判断とは次の内容だ。
 ・まず、東電が実測値から導いた減肉率0.6ミリ/年は、実測値であるが、高すぎる。これまでの知見からはあり得ないことだという。
 ・そして、保安院の知見としてPWR原発の減肉率の平均値0.2〜0.3ミリ/年を当てはめて計算すると、次回定検までに最小肉厚を割り込むことはほとんどないと判断した、とのこと。
・さらに、減肉が起きた箇所は90度以下の低温域であり、これまでの減肉に関する知見では、150〜200度で進展することになっている。この知見に照らしても、低温域では減肉は進展しないと主張。
とにかく、保安院のこれまでの知見からはずれていれば、減肉は進まない。現実に大きな減肉率が出たとしても、実測値であろうと、無視するというものだ。
 参加者は、「個々の配管の減肉の進展を見るのに、平均値を当てはめて計算するなどあり得ない話だ」と批判。「実測値を用いた東電の計算が誤っていたのか?東電の計算方法を批判しているのか?そうではないだろう」と問われると、「計算が間違っていたわけではなく、これまでの知見からみて・・・」と繰り返す。「金科玉条のようにPWRの減肉率の平均値を振りかざしたのは良くなかったと、前回11月の交渉で認めていたではないか。前回よりも後退している」と追及されると、「金科玉条と言ったのは、それだけで判断したのではないということ、エロージョン・コロージョンの工学的知見から減肉が進むのは高温域ということもある」を繰り返す。「現実に起きている実態から出発すべき、それが科学的姿勢というものだろう」と追及されても、「当時の知見では、最大減肉率で0.6ミリというのは未だにデータとしては認識していないし・・」と繰り返す。参加者一同はあきれかえり、「実測値でしょう」、「なぜ現実から出発しないのか」と声が飛ぶ。
 この問題では、福島県知事も保安院の見解を厳しく批判している。福島県との対立もあってか、保安院は自らの見解に固執し、前回よりも後退した回答だった。「これまでの知見」にそぐわなければ、実測値であろうと考慮の対象外という保安院の見解は、安全規制を担うものとしてはそれだけで失格だ。この福島1−5の見解にしがみつきながら、新たな「管理指針」を作成したと言っても、厳格な配管管理など実現できない。

■ 「ミルシートの実績値で配管管理を行うのは不適切。関電には直接電話して確認し、しかるべき措置をとる」
 次に前回に続いて、関電が大飯2号で同一配管の他の部位から類推して検査を省略した問題。保安院は当該箇所は45度エルボ部であり、類推した箇所はより厳しい90度エルボ部なので、「一定の合理性はあると思う」と回答した。前回と同じである。さらに、条件の厳しい箇所を点検すれば、緩やかな箇所の点検を省略してもいいと暫定的「管理指針」に明記しているという。検査の省略を保安院が率先して認めると言うわけだ。
さらに、その90度部位を測定したのは、「91年4月と95年9月だと関電から聞いている」という。10年以上も前に測定した値から類推してもいいということかと問うと、「点検の間隔があきすぎていると思う」と述べた。この大飯2号の件は、その他系統ではなく、主要点検部位なのに、「その他系統は10年に25%の頻度で点検することになっているが、点検頻度をあげるようにと思っている」とトンチンカンな話しをしていた。
 次に、1月20日の関電交渉で、関電が未だに「技術基準とは別の方法で、ミルシートの実績値を使って配管管理を行っても問題ない」と言っている問題に移る。保安院は「ミルシートは使わないことになっている」、「新たな指針でもミルシートを引くというのはないはずだ」と言う。それでは、関電の見解は不適切だと判断しているのかと問うと、「そう判断しています。そう思ってもらってかまいません」、「ミルシートを使うのは適切な算出方法ではない」と述べた。では、日本原電がミルシートを使ったことに対し保安院は文書で批判しているが、関電に対してはなぜ文書で批判しないのかと問う。すると荒川氏は、「それはまったく議論するほどの問題ではないと思いますが」と切り出し、「電力会社が材料の実力ということの説明で使うのは自由です。基準上は別ですが」と話をはぐらかそうとした。「関電は、今も技術基準とは別の方法でミルシートで判断できると言っている」と念を押すと、荒川氏は「技術基準上は言うまでもなくそういう説明をするのはおかしいが、実力の説明ではあり得る」と素知らぬ顔をして繰り返す。結局、森下氏が「1月20日の件は関電に確かめてしかるべき対応をとります。個別に私が聞きます」と明言した。そしてジェスチャーを交えながら、「今回の事故の問題は大きいので、関電の問題は最終報告書できちんと指摘する」とも述べていた。
 保安院は、関電にどのような問い合わせをしたのか、その結果はどうだったのか、そしてどのような「しかるべき対応」をとるのか、即刻明らかにすべきだ。

■ 東電は小口径配管でエルボ部の測定を直管部の測定で代替。
 保安院は他の電力会社が同じ手口を使っていないか調査せず。

  次に、頻発するBWR原発配管での穴あき問題。前日の14日に東電交渉を行った参加者からは驚くべき報告があった。昨年12月に福島1−4での配管穴あき・蒸気もれ事故は、小口径配管のエルボ部で起きていた。東電の説明では、「小口径配管のエルボ部はUTでは測定できないため、下流の直管部を測定して、エルボ部の測定値にしていた」というものであった。東電が出したスケルトン図では、直管部を測定したにもかかわらず、エルボ部が測定済みと記載されていたという。破廉恥極まりない。減肉の起きにくい直管部で代替させていたわけだ。また2月に起きた、柏崎原発での配管穴あき・蒸気もれ事故の場合は、エルボ部の下の直管部で起きていた。しかし、測定した箇所は、穴があいた箇所の2センチ上で見逃していたという実態が報告された。
 これについて保安院は知っていたのかと問うと、「最近、現地の保安検査官事務所で確認した。今も調査中だ」という。そして、「直管部を測ってエルボ部の測定値としていることは認められない。そういう代表はない。きちんと是正させる」と述べた。しかし、「小口経配管は測定できないと言っているが」と問うと、「レントゲンを用いてやる方法がある(RT)。新しい指針の中でも、その方法と組み合わせてやるように書いている」と得意そうに話し出した。「レントゲンで測れるのか」と聞くと、「UTに比べて精度が低いのは確かですけども、UTほどよくありませんけど」と繰り返し、「ある程度の性能のところまではいけると認識してます。減肉傾向を見るという意味では有効かと思います」と、なんとも頼りなげで無責任な回答だ。参加者の頭に浮かんだことは、応力腐食割れの測定で、UTが亀裂の深さを正確に測ることができなかったという事実だった。同じことが起きるのではないかとの不安がよぎった。
 次に、「美浜事故以降、保安院は、BWRの検査体制は問題ないと言ってきた。そして今回立て続けに穴あき事故が起きている。保安院の評価は間違っていたとまず謝罪すべきではないか」と地元新潟からの参加者は厳しく批判した。これに対しては、「万全とは言っていない」、「事故後、検査の回数は増えている」等々居直りを決め込んでいた。そして、「美浜事故から半年間、保安院の検査が甘いからこんな事故が起きるんだ」、「事故以降、徹底した検査を行うよう要求していた。検査しておれば、福島・新潟の穴あき事故は起きなかったはずだ」と追及が続く。保安院は、「本件を知っていようがいまいが、新しい指針を出せば、そのルールに乗っ取れば、きちんとなると確信している」とまで言い出した。「検査の実態も分からずに、どうやって指針が作れるのか」、「福島と新潟の漏れは、想定の範囲内だったというのか」。
 「ずっと要求している。どうして実態を把握することをしないのか。検査をきっちりやれという指示をしないのか。実態も分からず、代表部位を選定することすらできない」、「直管部で測ったデータをエルボ部の測定データと言っているようでは、データそのものに信憑性がない。そんな指針など、絵に描いた餅だ」、「減肉が起きないと言われている『その他部位』や代表部位以外の箇所で穴あきが起きている。だから、全て調べてほしいと要求してきた」、「電力会社に対して、そこもここも全部徹底して調べろと指示を出せばいいじゃないか。それをなぜしないのか」と続く。保安院はじーっと沈黙。そして都合が悪くなると、「今、機械学会で検討してもらっている・・・」を繰り返すだけ。
 「東電以外の電力会社が、同じように直管部を測ってエルボ部の測定値にしていたということはないのか。それは調べているのか」と問うと、4人が不思議そうに顔を見合わせて「いいえ」とつぶやいた。あきれかえってものが言えないとはこのことだ。他の電力が同じことをやっていないか確認するよう要求した。
 最後に、美浜事故の最終報告は3月下旬に出す、そのために3月上旬に事故調査委員会を開く予定であること、3月下旬までに複数回の事故調を予定しているとのことだった。早ければ3月上旬の会合には最終報告書の案が出るようだ。最終報告が出てから交渉を持つということにならないようにと念を押した。近藤議員も、次の会合のため退席される前に、「暫定指針も出るので、それを見ながらもう一度この問題についてやってください」と念を押された。
 「新たな管理指針は案の形で公表して、市民からも意見を聞くようにしてほしいと」と要求すると、森下氏は、「近藤議員ともお約束しました。暫定の管理指針は、帰ってからお出しする」と最後に再度明言したのだが、結局約束を破った。

 保安院の暫定的「管理指針」の内容は、下記にあるように、類推・代表部位による検査の省略を前提としたものである。これでは事故を防ぐことはできない。保安院の暫定的「管理指針」に対する批判に着手しよう。配管の徹底管理を要求していこう。

[保安院が交渉で述べた暫定的「管理指針」の内容]
<PWR管理指針について>
・ PWR指針自体は技術的には、きちんと運用されれば事故を防げる内容。
・ その他系統について改善すべき点がある。10年に25%という点検頻度については、頻度をあげるように。
・ 最近のトラブル事例も加えて検査対象箇所をきちんと選定すること。
・ すなわち材料が炭素鋼だけでなくステンレス鋼、低合金鋼にも同様に管理対象が広がる。
・ 測定方法については、PWRについては現在の指針の測定方法を踏襲。
・ 新しく余寿命の計算の仕方も指針の中で示す。
・ その計算方法でやった後に講ずべき処置についても明記。
・余寿命が5年を切る段階にあった場合は取替計画の策定に着手すること。これは従前PWR指針では2年になっていたが、余裕をもたせる。
・2年未満13ヶ月以上の場合は次回定検で配管の取替。
・13ヶ月未満の場合は今時定検で配管の取替。

<BWR管理指針について>
・ BWR事業者については、各社がバラバラな計算方法、バラバラな管理をしているのがはっきりしてきたので、きちんと事業者統一としての考え方を要求する。
・ 計算方法とか、余寿命を計算した際の措置としてはPWRと同様。

<技術基準について>
・ 必要肉厚の計算は技術基準に従ってやることを明記。
・ その中ではミルシートを引くというのはないはず。
・ 火力の技術基準の解釈の「ただし書き」については、基準を見ても誤解を含む余地があるので、適用しないという旨を明記。

<類推・代表部位の選定について>
・ 類推、代表部位をどういうところにするかは非常に慎重に、本当に代表しているのか妥当性をチェックするよう指示を出す。
・ 代表部位については、いくつか例示は示した上で、同一の流体とみなされるとこでより緩やかなところなど2〜3の事例を示した上で、それをチェックして慎重に代表部位を選ぶよう指示を出す。
・ 代表部位に選んだところもトラブルがあったら全数点検をする。
・ 代表している部位につながるところも5年を切る時点で、順々に検査するので、そうなったら全数点検に入る。

<小口径配管の測定方法について>
・ 小口径配管で、UTで測れないものはレントゲンを用いてやる手法(RT)を組み合わせる。