11/9保安院交渉の報告
「機械学会と電事連と保安院で『しかるべきデータ』で管理指針を見直しますが、
電力会社から配管検査の実態を聞くことはできません」
「近くの配管から類推しても問題ない」−−しかしその根拠を明らかにできず
「大飯2号の件については今日は答えられません。確認して伝えます」



 11月9日、第1衆議院会館の第二会議室で、美浜3号機事故に関する保安院との交渉を行った。原子力資料情報室、当会、石巻市民の会など、大阪、京都、東京、石巻から15名が参加した。保安院からは、前回の9月13日と同じく、検査課の荒川統括安全審査官、森下企画班長と防災課の白神企画班長の3名が出席し、主に森下氏が回答した。事前に提出していた質問書と「原発の配管点検に関する保安院への緊急要請書」をもとに交渉を行った。「緊急要請書」は、北海道から九州まで43団体と5名の個人の賛同を得て、交渉の冒頭に提出した。交渉は民主党の稲見議員の尽力によりもたれ、議員も最後まで交渉に参加された。
 会場の都合で1:30から3:30までと時間の制約があり、積み残した問題等については、次回継続して交渉を行うことになった。以下に、ポイントを絞って報告する。

■東電の配管管理の実態を市民から聴き取り、必死でメモする保安院。
「東電からは聞いてません」。「各事業者から配管検査の実態を聞くことはできません」。
「電事連と機械学会と保安院で、『しかるべきデータ』で管理指針の見直しを始めている」


 「緊急要請書」でも、質問書でも、私達は、全ての電力会社に対し、配管の検査の状況について情報を収集するよう保安院に要求した。関電の原発では、事故直後、11基の原発で1万箇所以上が、運転開始以来一度も検査されていないという驚くべき実態が明らかになっていた。他の電力会社でも、検査を一度も行っていない箇所が相当な数にのぼると予想されるためである。
 11月5日に東電と交渉を行った参加者からは、東電の原発の配管管理の実態が紹介された。新しい原発になるほど、点検箇所は少なく、柏崎刈羽7号では検査済みが108箇所、今後検査予定箇所107箇所、今後も検査の予定のない箇所3042箇所等々。保安院は、「新しい原発になると検査対象が少ないということは知らなかった」、「それは東電から聞かれたのですか」と質問し、市民の発言を必死になってメモしていた。異様な光景だ。電力会社の検査の情報を、市民から聴き取りしているようなものだ。参加者から「保安院は東電から聞いていないのか」と問われると「ええ、聞いてません」と平然と答える。「緊急要請書」でも述べている、配管管理の実態について報告徴収をして明らかにすべきだと追及しても、「それはできません」と、何があっても認められないという決意のように語り、理由を問われると「必要ないと思っているからです」としか答えられない。そして、保安院としては、今後「管理指針」を策定するために、機械学会と電事連を呼んで既に会議を行い、そこで「しかるべきデータを出すよう」口頭で伝えたという。「そんなやり方では透明性がないではないか」、「しかるべきデータとはどんなデータなのか」、「出発点としている『中間とりまとめ』そのものが極めて不透明なものだ」と厳しい批判が続いた。
 PWRの2次系配管やBWRのタービン系統の配管については、30年近く、電力会社の「自主検査」であり、国は一切関知してこなかった。保安院は、美浜3号機事故で、美浜3号機の過去の検査データ等は取り寄せた。しかし、管理指針すらなく電力会社の勝手な判断で行っているBWRの減肉管理の実態など何も知らないという保安院の実態が明らかになった。「これまでは事業者まかせにしていた」と反省の弁をたれるが、これは今も同じことである。これでどうやって「安全規制」を行うというのか。電力会社にとって都合のいい「しかるべきデータ」で、「管理指針」を作ろうとする動きは、要注意だ。まずは全国各地で、それぞれの電力会社と交渉を行い、配管肉厚管理の実態を明らかにしよう。「不適切なデータ」や、検査の手抜きの実態等を具体的に暴き、厳しい肉厚管理を要求していこう。

■「近くの配管から類推しても問題なし」−−しかし根拠を明らかにできず
 「大飯2号の件については今日は答えられません。確認して伝えます」


 大飯2号では、主要点検部位として定められているにもかかわらず、近くの配管の測定値から類推して安全だとして、25年間1度も検査をしてこなかった部位が6箇所あった。これについて保安院としての判断を問うと、「保安院からの指示で関電が検査を行い、必要肉厚を満足していたから問題ない」と答える。「それでは結果オーライではないか。近くの配管から類推するという手法そのものを認めるのか」と追及すると、「基本的には問題はない」と言う。しかし、他の原発から類推して安全という関電の手法に対しては、保安院は「中間とりまとめ」で批判している。その根拠として「管理指針にもそのような手法は明記されていない」、「社内基準にも明記されていない」として「合理的手法ではない」と批判している。しかし、近くの配管から類推するという手法も、管理指針にも、社内基準にも明記されていない。主要点検部位であるにもかかわらず、検査の間引きをしてもいいと言うわけだ。何を根拠に、近くの配管から類推しても問題なしなのかと激しく追及すると、「何十年もの運転・検査の実績があり、根拠は、これらデータを精査して・・・」
などと述べ、「今から、根拠を探すのか」と批判の声が飛んだ。結局、その根拠を明らかにすることはできなかった。
 保安院は、大飯2号での「近くの配管から類推しても問題なし」とする見解について、追及されるたびに、何度も沈黙を重ねた。しかし、「一般論として、厳しい箇所を検査しておれば、緩やかな箇所は検査してなくてもいいというのは合理的な考え方」と繰り返す。大飯1号の場合は、A・B・C系統の同一箇所の配管では激しい減肉が起きていたが、D系統の配管ではほとんど減肉がなかった。このような場合、Dの配管を見て大丈夫と判断をくだしてしまえば大変なことになるではないか、それでも合理的な判断だというのかと問われると、また沈黙し、「たしかにそうだが、一般論としては・・・」と苦しい答弁を繰り返していた。結局「大飯2号の件については確認し、お伝えします」ということになった。
 保安院のいう、「一般的に考えて検査をしなくても合理的判断が下せる場合」という考え方は極めて危険なものである。事実は、そんなに単純なものではない。原発の配管がどうなっているのか、具体的実態を明らかにさせ、それを元に検討を行わなければ、美浜3号機と同じような事故は防げない。

■福島T−5、女川原発の激しい減肉問題では、自らの誤りを認める

 福島第一原発5号機の問題で、福島県知事は、配管が必要肉厚以下になっている可能性があるため、すぐに運転を停止して検査を行うよう東電に要求した。ところが保安院は、これは局部減肉であり、東電が肉厚の実測値から割り出した減肉率は高すぎるなどと言って、すぐに配管を調べる必要はないという見解を発表していた。
 さすがにこの問題では、保安院は自らの見解を軌道修正を余儀なくされた。減肉が局部的だから問題ないとしていたが、9日の交渉では、「局部減肉の定義もあいまいなのに言い過ぎだった」と訂正した。いろいろなPWR原発の減肉率の平均値0.2〜0.3mm/年と比較して、福島T−5の減肉率0.6mm/年は高すぎるのであり得ないという論理については、「平均値との比較を強調しすぎた」と一応は自己批判した。
 さらに女川原発でのひどい減肉に関しても、これまでの見解を軌道修正した。女川原発では、年3mmにも至るひどい減肉があり、ステンレスに替えても減肉が止まらないという事実があった。しかし「中間とりまとめ」ではこれをまったく考慮せず、「BWRはPWRに比べて減肉の程度が低い」と勝手に判断していた。
 ところが交渉では、女川原発での減肉現象も、「今後の検討課題の中に入れる」とはっきり回答した。この点でも、自らの誤りを認めざるをえなかった。

■「肉厚管理だけが問題と言う関電には憤りを覚える」。しかし「MOXのお墨付きは変わらない」

 11月2日にグリーン・アクションと私達が行った関電交渉で、関電は、事故の原因として「中間とりまとめ」に書かれている「関西電力の品質保証が機能していない」という保安院の指摘を認めようとはせず、「肉厚管理だけが問題だった」と繰り返した。この関電の姿勢について、なんらかの指導を行うべきではないのかと質問書で聞いていた。これに対し保安院は、「関電には憤りを覚える」と厳しい言葉で回答した。交渉の後でも確認したが、「中間とりまとめ」で書かれているのは「肉厚管理だけではない」とはっきり述べた。
 また、保安院は高浜3号等で、事故後に「定期安全管理審査の評定結果」をランクBからランクCに引き下げた。その理由として「定期事業査検査の実施につき重大な不適合があり、品質マネジメントシステムが機能していない」としている。しかし、今年2月には、高浜3・4号についてプルサーマル再開のために「社長をトップとした品質保証体制は整っている」とお墨付きを与えていた。
 この2月の評価を取り消すべきだと追及した。すると今度は、「2月の評価は間違っているとは思っていない。ランクCは配管の管理に付随するものだ」等と言いだした。「では、ランクCでもプルサーマルをやれるというのか」と追及すると、「関西電力には全社的に反省してもらわなければならないが」と言いながら、「今話題になっているMOX調達は別の問題」等と言い出す。参加者は次々に、「全社的に問題があると言いながら、なぜプルサーマルだけはOKなのか、一般的な感覚では到底信じられない」、「ランクCとは、安全性に関係している。なのにMOXだけはいいのか」等々追及が続いた。
 保安院は、「ランクCは自主検査に関する品質マネジメントの話です」、「安全性とは関係ない」とまで言い出した。配管肉厚管理に限定しても、その品質マネジメントが機能していない訳だから、「安全性とは関係ない」とは暴論だ。さらに、「中間とりまとめ」では、「関電の品質保証体制が機能していない」と書いており、このことは、社長をトップとする品質保証体制が機能していないことを問題にしているはずだ。東電事件の後に取り入れられた「品質保証体制の構築」の目玉が、「社長をトップとする品質保証体制」であると宣伝してきたのは保安院ではないか。なのに、MOX燃料の調達については問題なしという。極めて矛盾した回答だ。
 11月2日の関電交渉で、「MOXでは品質保証は整っていると評価をいただいている」と関電は強調していた。まるで口裏を合わせているかのようである。原子力委員会の長計策定会議で再処理継続を継続するためにも、関電のMOX調達については問題にしないということになっているのかと勘ぐりたくなるほどである。そして最後に、「全社的な品質保証に問題はあるがMOXに関する品質保証は大丈夫などというから、関電からも軽く見られるのではないか」と厳しく指摘された。

■美浜3号機事故について「道義的責任は感じるが、法的責任はない」

美浜発電所は保安規定に違反しているのではないかとの質問に対しては、「違法です」と言った後に、しかし「過去のことなので法律は遡及されません」と。また、大飯1号で約5年間ほど最小肉厚を割り込んで運転していた問題については、「それを知った段階では違法運転です」と荒川氏は前回と同様に回答した。
 美浜3号機の破断した箇所が点検リストから漏れていた経緯については、「中間とりまとめ」では何ら明らかになっていない。その後の調査の進展状況を問うた。すると保安院は、「これまでの体制ではなかなか進まない。そのために、新たに追及の体制を構築した。追及のポイントも整理した。これから再度取り調べ、いや調べて追及する」と、3度も「追及」という言葉を使っていた。しかし、「新たに構築した体制」がどのようなものであるのかは語らなかった。
 最後の質問は、美浜事故に関する国の責任に関してである。保安院は「道義的責任は感じている。事業者まかせにしていた。しかし法律上の責任はない」と居直った。

 最後に、強い余震が続いている中で、柏崎刈羽原発を停止するようにという要求について、保安院は「このまま止めずに動かしていても何の問題もない」と回答した。参加者からは「地震で7号機が停止したが、その連絡も遅かった。地震防災に人もとられている状況で、原発で事故があったらどうするのか」と声があがったが、時間切れとなった。

 2時間という限られた時間だったため、多くの問題がまだまだ山積みだ。交渉の最後に、近いうちに再度交渉を行うことを保安院と確認した。