美浜3号機事故の幕引きは許さない――9月13日保安院交渉報告
保安院の2次系配管「管理指針は妥当」の根拠は
「たまたま出てきたデータが『管理指針』の範囲内に収まっていただけ」

減肉率が最大となるデータで「管理指針」を再評価せよ



 美浜3号機事故をめぐって、9月13日に衆議院第一議員会館で原子力安全・保安院との交渉がもたれた。交渉の設定は民主党の稲見議員のご尽力により、交渉のよびかけ等は原子力資料情報室によって準備された。当日は稲見議員は都合で欠席となったが、社民党の福島瑞穂議員と両議員の秘書2名が出席された。市民側は、東京以外に福井、石巻、刈羽村、京都及び大阪から約20名が参加した。保安院からは、検査課の荒川氏と森下氏、防災課から白髪氏が出席し、おもに荒川統括安全審査官が答えた。午後3時から始まり、予定の2時間を超えて5時半まで行われた。地元福井から参加された小木曽さんは、「管理指針」の妥当性について、徹底して検討されなければならないと冒頭に挨拶された。直前に大幅減肉が見つかった女川原発の実態については、石巻からの参加者が具体的に減肉問題を指摘し、この女川の減肉問題も含めて事故調査委員会で検討すべきだと主張された。「中間報告」を早期にとりまとめようとする保安院を追及した。
 美浜3号機事故について原子力安全・保安院は、9月6日の第4回事故調査委員会に資料4−1−5「中間とりまとめに記載する事項について」を早くも提出し、9月中に中間報告を出して幕引きを図ろうとしている。その幕引きの判断の根拠として、資料4−1−5では次のように記載されている。「PWRの減肉率については、実績がPWR管理指針で規定されている数値にほぼ収まっていることから、指針に基づき点検の行われている部位については安全上の問題は生じない。また、BWRについては、全体として少ない減肉傾向にあり、現在の管理手法で特に問題となるものではない」(下線は引用者)。
 では、現在の管理指針に問題はないとの根拠に使われている「減肉率の実績」とはどのようなものか、それも含めて「PWR管理指針は、概ね管理手法として適切である」(資料4−1−5)と考える根拠は何か、このような点を確かめ、追及するのが今回の交渉の主な目的であった。
 以下に、重要点な点に絞って交渉内容を報告する。美浜3号機事故の幕引きに対抗する運動を形成するために、これらの内容が広く伝えていこう。

1.「減肉率の実績」とは、電力会社に選択をまかせた各号機1部位の検査例のこと
 保安院は事故調資料3−1−3で、各電力会社から報告された検査例を基に、減肉率が現行のPWR2次系配管管理指針で規定されている値を超えないとの一般的な結論を導いている。各電力会社からの報告とは、保安院の8月11日付け報告徴収に基づいて出されたものである。これについて次の点が判明した。
 8月11日付け報告徴収は、点検リスト漏れの有無を報告することだけが目的であったが、どんな点検が行われているかもつかみたかったので、点検の例を各号機につき1例出すよう口頭で要請したという。「このときは、そのデータを使って減肉率の評価をしようなどというつもりはまったくなかった」と保安院は何の躊躇もなく2度も説明した。どのような例を選択するか、どうまとめるかについては何も指示をせず、電力会社にまかせた。そのため、出されたデータの形式はバラバラになっている。その後、出されたデータが減肉率の評価に役立つことが分かったので、不十分な点について追加徴収も行って評価に用いた。
 そうすると、保安院が現行管理指針は妥当だという根拠に用いている肝心の「減肉率の実績」とは、電力会社が適当に選んだ各号機1部位の例だけということになる。「たまたま出てきたデータが管理指針の範囲内におさまっていただけ」と保安院は平然と答えた。それより相当に高い減肉率の例がないとの保証はまったくない。むしろ、電力会社は異常に高い減肉率の例を選ぶのを避けて、無難な例しか出していないに違いない。再び事故を起こさないようにするためには、最も高い減肉率の例を出させないと意味がないではないか。
 このように我々は声をそろえて強く主張し、特に福島議員は「各号機ごとに減肉率の最も高い例を出させるよう、各電力会社に指示してください」と何度も何度も繰り返し強く要求した。しかし保安院は、かなり困ったような思案顔をしつつも、訳の分からない理由を長々と並べ立てて、結局はこの要求を拒否した。ここでこの要求を飲めば、中間報告の提出というスケジュールに差し支えるためであろう。
 BWRはPWRに比べて減肉率が低いとの判断に立っているが、女川2号機の2次系では、わずか1年で約3mmの減肉というすさまじい例が出現した。この例を正確に調査しない限り、簡単に結論を出すことはできないはずだ。これに対し保安院は、この例はたぶんエロージョン・コロージョンではないと思うなどと述べ、調査は約束したものの、この例によって事故調査のスケジュールを変えることはないことを示唆した。
 最後に、中間報告は9月中に出すと明言したが、自分の主張に根拠がないことがはっきりしながら、中間報告の記述を変えるつもりもないことを表明した。これでは再び事故が起こることは避けられない。このような姿勢を再度大きく問題にしなければならない。

2.大飯1号のひどい減肉を放置したままの運転は違法である
 大飯1号では、主給水管のエルボ部でひどい減肉があり、法的な規制値である「計算上必要厚さ」を7年ほど前にこえて減肉が進んでいるのに、それを放置したまま運転していた。これは違法運転ではないかと我々は保安院に聞いた。そうすると、これは違法運転であるとの明確な回答が返ってきた。計算上必要厚さを超えても問題はないとの明確な説明がなされた場合には、必ずしも違法とはならない場合があるが、大飯1号の場合はそのような説明は一切なかったというものである。
 大飯1号の当該部位は、管理指針では「その他」に属する部位で、10年で25%を点検すればよいことになっている。大飯1号の場合はたまたま10年目の点検対象に選ばれたが、場合によっては40年後まで点検されないことになる。その間に、いつの間にか違法運転状態になる場合がたくさん出てくるではないかというと、その点はなんらか改善したいような意向も示唆したが明確な答えはなかった。

3.美浜1号機で火力の「ただし書」を援用した余寿命評価の方法は、本当は火力でも違法
 美浜1号機と美浜2号機で関電は、「発電用火力設備の技術基準の解釈について」の「ただし書き」を適用し、管壁厚の最小値(計算上必要厚さ)を法的規制値より小さくてもよいように見積もり、それでもって余寿命を長くなるように計算して、管の取り替えを避けていた。
 この「ただし書」とは、通常運転時に温度や圧力が最高値を超える時間が1%以下の場合は、材料の許容応力を通常の法的規制値の1.2倍にとってもよいという趣旨である。火力発電では、このような場合があるので、特例としてそれが許されているのである。ところが関電は、このただし書きにある1.2倍した許容応力を配管の肉厚の最小値(計算上必要厚さ)を求める式に代入して、最小値としてより小さな値を導き、それを余寿命計算に適用したのである。このことが違法の内容である。同時に、火力の場合でも、配管の肉厚を求める式に1.2倍した数値を使用することもあってはならないことであると、保安院は認めた。
 この火力の「ただし書」問題は、一般に火力で認められていることを、原発に適用したために問題であるかのように報じられている。しかし、配管の最小肉厚を求める場合は、火力の場合であっても、許容応力を1.2倍することは許されていない。その意味で、関電は極めて悪質なやり方で、配管の余寿命を延ばそうとしていたのである。
 この手法は、美浜原発3基で行われていた。本当に美浜原発だけなのだろうか。高浜原発や大飯原発でもこのようなことを行っていなかったのか、明らかにすべきである。また、関電の火力発電所でもこのような違法な方法をとっていないのか確認されるべきだ。

4.原子炉が動いている状態での定検作業をやめるよう要求
 今回の美浜事故では、原子炉が動いている状態で定検作業を開始していたため、多くの犠牲者が出た。このことについて、原子炉を止めてから定検をやるべきと要求した。これに対して保安院は、「準備作業だから定検作業ではない」、「労働安全の問題だから、保安院ではなく労働省の管轄では」などと言いだし、参加者から批判の声が飛んだ。福井の小木曽さんは、美浜発電所職員の話を紹介し、以前はこんなことはやっていなかったと指摘した。定検のための準備作業と定検の区別は何か、いつから、炉を止めずに作業をやっているのか、なぜそれが認められてきたのかについて保安院としての見解を明らかにすること、さらに定検の実態を把握し公開するよう要求した。