別紙
2004年9月21日


保安院の2次系配管「管理指針は妥当」の根拠は、
電力会社の選んだわずかなデータが、指針の範囲内に収まっていたことだけ

配管の減肉率が最大となるデータで「管理指針」を再評価すべきです


 原子力安全・保安院は、9月末に美浜3号機事故に関する「中間報告」を出し、現行の2次系配管「管理指針」は妥当なものだと結論づけようとしています。9月6日に福井市で開かれた第4回事故調査委員会の資料4−1−5「中間とりまとめに記載する事項について」の中で、「PWRの減肉率については、実績がPWR管理指針で規定されている数値にほぼ収まっていることから・・・安全上の問題は生じない」(p5)と明記されています。
 しかし、9月13日に福島みずほ参議院議員と市民が行った保安院との交渉の中で、この結論がいかにデタラメなものであるかが明らかになりました。
 9月17日に行われた第5回事故調査委員会で、原子力安全・保安院から出された「中間とりまとめ案」(資料5−1−5)では、前記の結論は変わっていませんでした。しかし、その結論の根拠として採用されたデータが、限定された性格のものであることが付記されています。この付記は、上記交渉での市民の主張を事実上取り入れたものとなっています。その結果、「中間とりまとめ案」の結論には根拠のないことが、誰の目にも明らかになりました。

■保安院が管理指針妥当との根拠にしているデータは電力会社が自らの都合で選択した少数のもの
 資料5−1−5、5.1(2)で保安院は次のように記述しています。「『PWR管理指針』は平成2年に策定されているが、その後10年以上経過し減肉に関する多くのデータが得られているにもかかわらず、最新のデータを踏まえた見直しが行われていなかった。このため、今回PWR各プラントで測定された減肉に関するデータを用いて、『PWR管理指針』の妥当性について検討を行った」。ここで用いた「減肉に関するデータ」とは、注釈で、「電気事業者から得た最小肉厚地点における減肉率等のデータ(PWR21箇所、BWR27箇所及び、美浜発電所3号機38箇所)」としています。
 このデータは、保安院の8月11日付け報告徴収に基づいて出されたものですが、その報告徴収は点検リスト漏れの有無を報告させるのが目的でした。当初はこの報告徴収によって減肉率の評価をしようなどというつもりはなく、ただ、点検がどのように行われているかを知りたいがために、1号機につき1例の減肉率データを出すよう口頭で指示したというのです。その際、どの部位のデータを出すかの指示はせず、また減肉率が最大である部位のデータを提出する指示もせず、電力会社の自由意志に委ねたと言います。これらのことはすべて上記交渉で保安院が明言したことです。
 結局、ここでいう「減肉に関するデータ」とは、電力会社が自ら適当と判断して提出した各号機1例のデータに過ぎないのです(美浜3号を除いて)。そうすると電力会社は、あまり極端な例のデータは出さないで、差しさわりのないデータを提出したものと考えるのが妥当でしょう。

■電力会社が選んだ一部のデータから、どうして管理指針の妥当性が結論できるのでしょうか
 このデータから保安院は、「実績減肉率は、『PWR管理指針』に規定されている初期設定減肉率を一部を除き下回っており、同指針に規定された初期設定減肉率は概ね妥当なものと評価される」(5.1(2)@)と述べています。電力会社が勝手に選んだ1号機1例の減肉率データから、なぜこのような一般的な結論が出せるのでしょう。保安院の手元に届いた減肉率データをはるかに上回る減肉率が実際に存在している可能性が高いのです。なぜ保安院は、最大の減肉率となる例を提出するよう指示しなかったのでしょう。保安院の出した結論に何の根拠もないのは明らかです。

■管理指針を上回っている事例をどうして重視しないのか
 前記にも記述されているように、限られたデータであっても、管理指針の初期設定減肉率を上回る例のあることが認められています。このことは5.1(3)において、「一部の減肉率が『PWR管理指針』を上回っており」という記述ではっきりと認められています。
 そもそも管理指針とは、あらゆる場合を安全余裕をもって包絡しているはずのものです。それなのに、どうして管理指針を上回る例を無視して、管理指針は妥当だなどと言えるのでしょうか。安全性の観点からは、むしろ極端に減肉が進む例をこそ重視すべきではないでしょうか。

■減肉が加速している事実を認めないままでの余寿命の評価は危険です
 資料5−1−5、5.1(3)で保安院は、データが限られたものであることは認めつつも、「点検が行われている箇所については、適切な余寿命評価が行われ、これに基づき補修又は取替えが行われている限り、安全上の問題は生じないと考える」と述べています(強調は保安院)。
 しかし、余寿命評価が正当に行われるためには、減肉率の評価が正しく行われる必要があります。その減肉率は一定であると管理指針では仮定していますが、実際には明らかに加速している例があります(大飯1号の主給水管エルボなど)。この事実をすなおに認めて減肉率の評価をし直さない限り、余寿命の評価を誤って、配管が破断に至る恐れがあります。
 ところが保安院はこの加速の事実を認めようとはしていません。

■BWRでも、女川2号ですさまじい減肉が起こっていました
 9月6日段階で保安院は、「BWRについては、全体として少ない減肉傾向にあり、現在の管理手法で特に問題となるものではない」と断定していました。ところが女川2号では、1年余りで配管の肉厚が半分以下になってしまう事例のあったことが市民の追及で明らかになりました。しかし、8月11日の報告徴収に応じて東北電力が提出した減肉率のデータは、この女川2号機のデータではなく、それより1桁低い減肉率データでした。女川2号の事実を受けて保安院は、9月17日段階の「中間とりまとめ案」では、前期の記述を削除せざるを得なくなったのです。つまり、BWRの減肉の減肉傾向はよく分からないままということになりました。

■減肉率が最大となるデータを使って、「管理指針」を評価し直すべきです
 現在の「管理指針」の妥当性を評価するためには、減肉率が最大となっている例に眼を向け、そのデータを使って評価しなければ意味がありません。破断した美浜3号の配管でも、また大飯1号の主給水管エルボの大幅な減肉等でも、予想を超えて減肉が進んでいる実態が明らかになっています。その典型が女川2号の例です。
このような大幅な減肉進行の事実が、現在の「管理指針」の範囲に収まってはいないことを素直に認め、それへの対応を考慮しない限り、いつまた大事故が起こるか分かりません。さらにあるがままの実態を把握することがどうしても必要になっています。
 保安院は9月13日の交渉で、「減肉率が最大のデータは集めていない」、「そのようなデータを提出するよう指示する予定もない」と言っています。その理由の一つとして、「美浜3号機のデータを多数使って評価しているので、それで検討できる」というのです。これは、関電が「他の原発のデータから類推して安全と評価した」という考え方と同じです。保安院は、関電の「類推して安全」という手法に対しては、「認められない」、「はなはだしく不適切」とはっきり批判しながら、この管理指針の妥当性の評価では、自らが「類推して安全」という手法を取っているのです。
 配管の減肉率が最大となる部位のデータを各号機ごとに収集し、「管理指針」の評価をやり直すべきです。


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