美浜3号機事故は経済性最優先の老朽原発酷使の危険を示した
全国各地で電力会社と交渉を行い
配管の減肉と手抜き検査の実態を明らかにさせよう!

保安院・電事連・機械学会による、手抜き検査の合理化を許すな


 5名もの死者を出した美浜事故から4ヶ月になろうとしているが、この事故の直接原因である点検リスト漏れの原因や責任は未だ明らかにされていない。むしろこの間、違法点検行為や手抜き検査の実態が表面に出てきた。未だ一度も点検したことのない配管箇所がきわめて多数存在している。ところが、原子力安全・保安院はその実態を把握する点検の必要性を認めようとしない。電力自由化の条件のもとで、老朽炉にむち打つ路線がまともな点検を阻んでいる。これでは、保安院が行っている「管理指針」の見直しとは、既存の手抜き検査の合理化に他ならない。
 まずは、配管のあるがままの実態を把握させ公表させよう。関電のみならず、東京電力や東北電力との交渉も取り組まれている。各地で電力会社と交渉を行い、配管の実態と、手抜き検査の実態を明らかにさせよう。それらの情報を交換し、集約して、保安院の手抜き検査を合理化し容認する動きにストップをかけよう。

■無謀な美浜1・2号機の運転再開
 福井県の西川知事は、11月26日、事故後の点検で止まっていた美浜原発1・2号機の運転再開を了承した。関電は1号機の運転をすでに開始し、2号機も4日に運転再開するという。
 とりわけ美浜発電所では、3号機の事故はもちろんのこと、1号機〜3号機まですべての原発で、配管の余寿命が1年を割り込んだものについて、意図的に「火力の技術基準」を悪用し配管の取り替えを引き延ばしてきた。関電は、まさに確信犯的で組織ぐるみの違法行為を行っていた。しかし、誰がそのような違法行為を指示していたのか等々、その責任さえ明らかにしていない。
 関電は経営への影響を避けるために、約3ヶ月止まっていた美浜1・2号を何とか早く運転再開しようと画策した。見返りとして原子力事業本部を福井県に移転すると11月13日に公表し、30歳以上の老朽炉に限り2次系配管の検査方式をわずかに高める措置を採るとした。国も呼応して動き、保安院長と資源エネ庁長官が19、20日にあいついで県知事を訪れ、来年3月に国の老朽化対策の「中間報告」を出すこと、及び県が進めるエネルギー研究開発拠点化計画への協力を約束した。
 しかし、これらが現在の美浜1・2号機の安全管理上の問題を解決するものでないことは明らかだ。現に3号機事故の後、3ヶ月半もかけて関電がしたことは、1号機で9箇所、2号機で16箇所の配管部位を点検しただけである。県知事は国への要請書で、「正に美浜3号機の事故は高経年化対策を怠った事故である」と述べているが、具体的な老朽化対策など、関電も国も何ら示していない。別の見返りで県民の安全を引き替えることなど許されない。

■次から次に明らかになる手抜き検査の実態
    2次系配管の実態を把握しようとしない保安院

 美浜事故によって、2次系配管の実態と管理のあり方に問題のあることが一挙に明るみに出た。
事故後の過程で、北海道電力、日本原電、九州電力でも「独自基準」で配管の余寿命を引き延ばす違法行為が行われていたことが明らかになった。敦賀2号では2次系配管の漏えいまでもが起こったが、保安院は当該箇所を隔離して使わなければ、すぐに配管を取り替える必要はないとした。福島T−5号では、保安院は「技術基準はもともと安全余裕があるから最小肉厚を割り込んでも問題なし」という見解まで出して、自ら法を踏みにじっている。BWRでは女川1・2号で、ひどい減肉がステンレス材に替えても止まらないという例が明らかになった。きわめて多数の部位を「代表部位」だけの点検で済ませている手抜き検査の実態も明らかになっている。大飯2号などPWRでも、ある部位を点検すればその類似箇所の点検を省略するという手抜きが行われていた。このようなあるがままの実態をまず把握することが必要である。
 ところが国・電力会社は、逆に実態が明るみに出ることを恐れ、これを隠したまま美浜事故の幕引きを計ろうとしている。徹底した検査が必要となれば、コスト増を強いられるからに違いない。11月9日の市民との交渉で保安院は、「実態把握の必要性は感じない」、「そんなことはできない」と言い切った。実態把握もしないまま、機械学会と電力会社とともに「管理指針」の見直しを行うというが、これでは形だけのもの、むしろ手抜き検査を合理化するものにしかならない。
 まずは、運転開始以来一度も検査したことのない箇所をすべて検査させること、検査したことのある箇所でも、前回点検から10年以上経ている箇所もすべて点検させることが必要である。減肉のスピード(減肉率)の最も高い部位はどこか、そこでの測定データ履歴をすべて公表させることがとりわけ必要だ。これらを各電力会社と保安院に求めていこう。

■老朽炉を酷使する経済性最優先の姿勢こそが美浜事故を起こした
 今年5月に公表された関電の「経営概況」では、経営環境の変化が強調されている。すなわち電力自由化である。関電ブランドの電気を安くつくることが至上命令とされ、「徹底した効率化」がうたわれている。その手段は、原発の設備利用率のアップ、修繕費などの節約などである。
 まさに、このような原発を酷使する新たな経営姿勢を1990年代半ばから採ってきたことが、設備利用率や修繕費、さらに定検期間などの様々な指標から明らかである。とりわけ注目すべきことは、関電の生産する全電気量に占める原発分の比率が約65%と全国的に格段に高いこと、同時に今年度で25歳以上の老朽炉が11機中の7機を占めるという恐ろしい事実である。
 このような経営姿勢の中で、下請けの「日本アーム」に検査を丸投げしたことによって、点検リスト漏れが見逃されたに違いない。さらには、美浜1・2・3号機での火力技術基準の「ただし書き」悪用による配管の余寿命の水増し、「他の部位から類推」しての検査省略などが必然的に産み出されたに違いない。安全と「効率化」は両立しない。そのことを今回の事故は如実に示している。
 関電が今回発表した老朽原発対策では、運転開始から30年以上の原発だけを対象としている。しかしこれは、美浜3号機が運転開始28年で事故を起こしたという事実を無視している。また、老朽化は暦年よりはむしろ実稼働年(時間)で測る必要があるという点も考慮していない。暦年での最高齢は美浜1号だが、実稼働年で言えば、その上に美浜3号、高浜1号、美浜2号及び高浜2号がくるので、美浜1号を老朽化対策炉とするのであれば、これら全てを対策対象とすべきである。美浜1号と大飯2号(運転開始から25年)の実稼働年は約15万時間と同じである。配管の肉厚管理も実稼働年で行っている。25歳以上の第一世代原発すべてを老朽化対策の対策炉とすべきである。
 老朽炉には十分な時間と経費をつぎ込んで手厚い検査と対策を実施することが絶対に必要である。

 老朽化が進む下、安全無視の強行運転をこれ以上許せば、更なる大事故の発生は避けられない。結局、老朽炉の運転は止めていかねばならない。そのために、当面まずは、徹底して美浜事故の責任を追及するとともに、全国各地で電力会社と交渉を行い、2次系配管とその管理の実態を明らかにさせていこう。検査の実態を保安院に突きつけ、既存の手抜き検査にお墨付きを与えようとする、配管管理の見直しと事故の幕引きにストップをかけよう。老朽炉を酷使する運転に縛りをかけ、廃炉へと追い込んでいこう。