関電の「独自対策」が保安院の対策を骨抜きに
■保安院 「的確な外注管理の実施を」
■関 電 「配管管理を日本アームから当社に移管」
老朽原発の危険な運転を止めよう
関電と国の責任を追及していこう


 9月27日、国は午前8時半から第6回事故調査委員会を開催した。保安院が用意した「中間報告」は、大した議論もなく承認された。その後10時から、中川経産大臣が関電社長と会い、「厳重注意」文書を手渡し、年度内に再発防止対策を報告するよう要求した。さらに、事故を起こした美浜3号機は、「技術基準適合命令」によって当面運転を停止すると発表した。また、美浜1号・高浜3号・大飯2号の3基について、既に出していた「定期安全管理審査の評定結果」をBからCに格下げした。今後関電に対して、「外注管理の実態等に焦点をあてた」特別な検査等を実施すると発表した。しかし、

■関電が肩すかしを食らわせ、保安院の対策を骨抜きに
 関電は、午後3時から本店で社長が出席して記者会見を開いた。その場で、保安院の「中間報告」とは無関係に、関電が独自にまとめた「再発防止策」等を発表した。「中間報告」や大臣の「厳重注意」の目玉は「外注管理しっかりやること」であった。すなわち日本アームの管理をしっかりやれとの内容である。
 しかし、関電が発表した独自の「当面とるべき対策」は、配管肉厚測定作業を除いて、日本アームの行っている業務を関電に「移管する」というものだ。「肉厚測定作業を除く2次系配管肉厚管理業務は、当社が自ら全て実施することとし、必要なシステムを含め、協力会社から当社に移管する」という内容だ。
 これは、保安院の指導内容とは明らかに異なる。保安院は「下請けとの責任分担が不明確」等々で「的確な外注管理の実施」を要求している。しかし関電は、日本アームから業務を「移管」して自らが今後点検等をやると発表した。「必要なシステムを含め、協力会社から当社に移管する」という。関電が増資して開発させた「原子力検査データ処理システム」(NIPS)だけでなく、日本アームの人員の所属を形式上関電に変えるのも「移管」である。この関電の独自方針によって、保安院の指導内容は、実質上骨抜きになった。保安院は、「肩すかし」を食らわされた。
 もちろん、こんなことは関電にしかできない。他のPWR電力会社は、三菱重工業に配管点検作業を委託している。三菱重工を電力会社に「移管する」などということは到底できない。日本アームという子会社を持つ関電だけがとれる方策である。保安院は、全電力会社に対し、27日、「『中間とりまとめ』の第8章第1節に掲げる対策を斟酌し、貴社の予防措置に反映することを強く期待する」との文書を出している。すなわち「的確な外注管理の実施」である。しかし、当の関電が「外注をやめる」と言って、保安院の指導の外に出たのだから、他の電力会社が真剣に取り組むはずもない。
 保安院は、事実上骨抜きにされた対策について、一体どうするつもりなのか。あの関電が配管の管理を行うことを放置するつもりなのだろうか。

■リスト漏れの経緯は継続調査
 保安院の「中間報告」は、前回の委員会での批判等々を考慮して、破断した配管が検査リストから漏れていた経緯については、今後調査を進めると明記せざるを得なかった。しかし、「中間報告」で書かれている経緯は、関電・日本アーム・三菱重工業の三者三様の言い分を引き写しているだけだ。矛盾があってもそれを詳しく調査するという姿勢すらない。こんな姿勢で本当に「根本原因」を明らかにできるのか。保安院はまず、リスト漏れの経緯について8月30日の報告徴収で得た資料を全て公開することだ。

■「管理指針」は妥当と結論づける
 「中間報告」は、2次系配管の「管理指針」について、「PWR管理指針に規定された初期設定減肉率は概ね妥当なものと評価される」と結論づけた。指針を上回る減肉が存在していることを自ら認めながらである。女川2号で見つかった約1年で3ミリもの大幅減肉については一言も触れなかった。「中間報告」の骨子で書いていた「BWRについては・・・現在の管理手法で特に問題となるものではない」という文言を復活させることはできなかったが、「BWRの減肉率はPWRを下回っている」を実質的な結論としている。しかし、この結論は、女川2号の事実に反している。
 他方、関電は27日発表した「今後の課題」の中で、「肉厚管理データの拡充を図るため、至近3回以内の定期検査において、その他部位の未点検箇所を全て点検する」と打ち出した。しかし、これは、約4年もかけて未点検箇所の約11,000箇所(11基の原発で)を点検するというものだ。なぜそんなに時間をかけるのか。検査リストから漏れたことにより一度も点検をしていなかった配管の破断によって今回の事故は起きた。この11,000箇所は、点検リストには載っているが一度も検査をしていない。配管の実態が一切分かっていないのだから、4年もかけるのではなく、即刻点検すべきである。また同じ事故が起きても、「次回定検で点検する予定でした」と言い訳するとでも言うのか。さらに、「未点検箇所」だけでは不十分だ。1度点検していても、その点検時期が10年以上も前である箇所もたくさんあるはずだ。事実、大飯1号では、10年間点検しない間に、大幅な減肉が生じ、違法運転状態になっていた。全ての点検箇所を即刻点検し、その実態を公表しなければならない。

■老朽化対策に目をつむる保安院
 27日午後、保安院長は福井県知事を訪問し、「中間報告」の内容等を説明した。知事は、事故の背景にある老朽化対策について触れられていないこと、また作業者の安全確保策が取られていない事等をあげて「中間報告」を批判した。知事は、24日に経産大臣に要請書を出していた。その中でも、「正に美浜3号機の事故は高経年化対策を怠った事故である」と規定し、老朽炉に対する「安全対策に万全を期すよう」要請していた。しかし、この要請内容は、全て踏みにじられた。
 保安院の「中間報告」は、事故を3者の単なる「管理ミス」と位置づけ、契約内容等々の指導という些末な対策に終始している。今回の事故の背景には、定検短縮、検査の手抜き、修繕費削減などで利用率を上げ、経済性を最優先にした危険な運転がある。老朽原発にむち打って働かせるという危険な運転を強いている。国や関電は、この事故の本質から目をそらし、単なる「管理ミス」で済まそうとしている。電力自由化の中で、電力会社は一層経済性最優先の運転を強行してくる。手厚い検査等できないのであれば、もはや老朽炉を廃炉にする以外に大事故を防ぐことはできない。そのような時代に入っていることを、今回の事故は訴えている。

■関電はランクCに格下げ。関電の原発運転許可を取り消せ
 保安院は、美浜1号・高浜3号・大飯2号の3基について、既に出していた「定期安全管理審査の評定結果」をBからCに格下げした。C評価とは、「当該審査を受けた組織は、定期事業者検査の実施につき重大な不適合があり、品質マネジメントシステムが機能していない。」というものである。昨年10月の電気事業法改正によって、これまでの自主検査(現在は「定期事業者検査」)を、原子力安全基盤機構が評価し、それを元に保安院がA、B、Cの3ランクで評定を下すことになった。昨年10月の法改正以降に実施された「定期事業者検査」に対する評価であるため、この間に定検が行われた3基のみが対象となっている。この3基のランクCへの格下げは、関電の品質保証が劣悪であるために取られた措置であり、基本的に関電の全ての原発のランクをCと評価したのと同じである。関電に対し、「検査の実施に重大な不適合があり、品質マネジメントが機能していない」というのであるから、関電に原発を運転する資格などないと言っているに等しい。本来であれば、関電の運転許可の取り消しをこそ言い渡すべきだ。

■自らの責任を一切不問にする国・保安院
 保安院は自らの責任について一切不問にしている。保安院は、BNFLデータねつ造事件以降明らかになっている関電の安全無視・人命無視の体質を放置し続けてきた。今年2月には、プルサーマル再開のために「関電の品質保証体制は整っている」とお墨付きを与えたばかりだ。それを今度はCランクに格下げする行政措置だけでお茶を濁している。2次系配管の管理を電力会社まかせにしてきたことの反省もない。
 今回の事故については、原発が動いている段階で定検作業を開始するという危険な作業を禁止することすらしていない。電力会社が血道をあげる定検短縮には欠かせないことだからである。「中間報告」では最後の第9章として「作業員の安全確保等」の項目がある。その内容は、「運転中に定期検査準備作業のため作業員がタービン建屋で作業していたことが直ちに問題となるものではない」と容認し、「作業環境の潜在的リスクを周知する方策として、事前研修の実施」等をあげるだけだ。事前研修を受けていれば、事故には巻き込まれないとでも言うのか。

 保安院の「中間報告」は、老朽原発にむち打つ危険な運転を容認するものである。このままでは、何度でも同様の事故は繰り返される。
 「中間報告」のずさんな内容、その矛盾点を突いて、関電と国の責任を徹底して追及していこう。十分な検査等ができないのであれば、老朽原発は廃炉にする以外にない。
 事故そのものと、事故後の関電の対応に多くの人々は怒りを募らせた。さらに保安院の「中間報告」が、地元福井県をはじめ多くの怒りと批判を呼び起こしている。保安院は来春に「最終報告」を出すという。老朽化した原発の2次系配管の実態を多くの人々の前にさらけ出し、老朽原発を止めていこう。