MOX燃料輸送容器に関する国土交通省への要請と質問
        -TN型容器の腐食原因と
        -不正MOX燃料返送用EXCELLOX容器の安全性について


国土交通大臣 扇 千景 様

 フランスに保管中のTN型輸送容器の腐食に関する調査結果「放射性物質等輸送容器の放熱用フィン浮き上がりに関する調査報告書」が、東京電力と関西電力等から国土交通省に提出されています。そこに書かれている腐食原因に照らして、MOX返送用EXCELLOX型輸送容器に関する以下の要請を行うとともに、2点について質問します。


高浜4号不正MOX燃料返送用輸送容器の検査に関する要請
 これまで関西電力は、不正MOX燃料返送に使われるEXCELLOX型はTN型と構造が違うから、腐食は起こりえないと説明してきました。しかし、TN型のオーバーレイ腐食及びフィン剥離に関して、関西電力自身の前記調査報告書に書かれている原因判断によれば、付属資料で説明するように、そのような主張は成り立たないことになります。
むしろEXCELLOX型では、過去の使用済み燃料運搬の頃に本体胴が水浸しになっていたと考えられるため、現在そこに腐食が生じている可能性は十分に予測されるところです。
 ところが今回、貴省は、EXCELLOX型には腐食はあり得ないと頭から決めつけ、腐食の兆候を調べる検査さえしていません。さらに、フィンと外装板の溶接部については、わずか1時間の目視検査しか行っていないし、隙間検査はしないと明言しています。これでは輸送容器の安全性は保証されません。
 TN型輸送容器で腐食が起こったという事実と関西電力自身の原因判断、さらにはEXCELLOX輸送容器の経歴を踏まえて、本体胴及び外装板とフィンとの溶接部について、ぜひ腐食のあるなしを確認できるような適切な検査を行うよう強く要請します。それまでは絶対に、当該輸送容器は使用しないようにしてください。

質問1.付属資料で述べている私たちの見解について誤っている点があれば指摘してください。

質問2.調査対象となったTN型輸送容器のうち、問題のあった下記の容器の輸送容器番号と所属を明らかにしてください。
(A) TN-17/2-708は東京電力の所属ですか。
(B)「209容器」とは、TN-12/2-209のことですか。それは関西電力の所属ですか。
(C)「使用承認容器ではないが、同様の浮き上がりが見られたTN-12/2型容器」の輸送容器番号(以前に使用されていた当時の番号)と所属を明らかにしてください。
(D)「本事象発生以前に破壊検査を実施した同型のTN-17/2型容器」の容器承認番号(以前に使用されていた当時の番号)と所属を明らかにしてください。

                                     (回答は6月27日(木)までにお寄せください)
20002年6月25日
 グリーン・アクション 代表:アイリーン・美緒子・スミス
      TEL:075-701-7223; FAX:075-702-1952
 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 代表:小山英之
      TEL:06-6367-6580; FAX:06-6367-6581


(付属資料)EXCELLOX型輸送容器でも腐食が生じている可能性についての説明
 EXCELLOX型はTN型とは構造が違うから本体胴に腐食が発生しないという主張の根拠は、本体胴まで水が浸入できないという判断にあります。なぜ水が浸入できないかと言えば、外装板が炭素鋼製で、下右図のようにフィンと溶接されているからです。しかし、もしこの溶接部に剥離が起こっていたとすれば、その隙間から水が侵入するため、この主張は崩れることになります。水が外装板の内部に浸入すれば、後はTN型と基本的に同じシナリオが当てはまります。
 さらにそれどころか、このEXCELLOX型は過去の使用済み燃料を運んでいたときには、いまと違う構造をしていました。そとのレジンも外装板もなかったのです。これでは本体胴は水びたしになったはずです。確かにTN型とは構造が違ったため、確実な腐食環境にあったと言えるわけです。
          
                 腐食したTN型                  不正MOX返送用EXCELLOX型
                          (関西電力ホームページより)

1.EXCELLOXの本体胴は以前水びたしになっていた
EXCELLOX型では、上図右側をよく見ると、TN型と違ってフィンが炭素鋼製の外装板に両側で溶接されています。そのため、後で述べる腐食の原因である水が、外装板の中にまで侵入することはできないように見えます。これが関西電力の主張する「構造が違う」点になっています。
ところが実は、EXCELLOXのレジンや外装板の構造は、過去の使用済み燃料輸送に使用されていた時にはなかったものなのです(下図参照)。MOX燃料輸送用に変更したときに初めて付け加えられたものなのです。
それなら、過去には本体胴に水が行くのをさえぎるものは何もなかったため、本体胴溶接部はスカート冷却水や雨水で水びたしになっていたことでしょう(下記の第3項参照)。その上をレジンと外装板で覆ったのですから、それだけ熱もこもるようになり、TN型よりも絶好の腐食環境になっていたことでしょう。

2. TN型容器で起こっていたオーバーレイの腐食とフィンの剥離
 フランスに置かれているTN型輸送容器では、フィンが浮き上がり、フィンの根元にあるオーバーレイに広く腐食が生じていました(上左図)。フィンはオーバーレイから「外れていた」または「剥離していた」のです。この点、関西電力と東京電力の「放射性物質等輸送容器の放熱用フィン浮き上がりに関する調査報告書」は次のように記述しています。
・前記第1項(A)の容器については、次のように書かれています(2頁)。「浮き上がりが見られた部分では、本体胴オーバーレイ部に腐食が発生しており、放熱用フィン取り付け溶接部分が本体胴オーバーレイ側から外れていた」。
・前記(C)の容器については次のように書かれています(2頁)。「オーバーレイの表面は、同様の腐食が見られ、腐食深さは約2mm程度であり、放熱用フィン取り付け溶接部分は本体胴オーバーレイ側から外れていた」。
・総括的に次のように書かれています(3頁)。「以上の原因調査の結果、フィン浮き上がりの発生した部位においてはフィン溶接部が剥離していたこと、同世代の容器であっても腐食の進展量に差異が見られたことから、以下の要因分析を行った」。

3. TN型におけるオーバーレイ腐食の原因は水だった
 調査報告書はオーバーレイ腐食の原因について、次のように記述しています。「本容器設計においては、鍛造炭素鋼胴体外側に約6mmの低炭素鋼オーバーレイ、その上に銅製放熱用フィンが溶接された後、レジン層が鋳込まれている。レジン層の外側は、取り扱い時のスカート冷却水や雨水等の侵入を制限するためにシリコンカバーで覆われている」(3頁)。設計上本来は、レジンとシリコンカバーで水の侵入を防げると考えていたに違いないが、ここの「侵入を制限する」という記述のままだと最初から水の侵入を許す構造で設計ミスであったことになるでしょう。
続けて調査報告書は「原因調査によりオーバーレイ部の全面腐食が確認されたことは、レジンの鋳込み時や容器使用中のレジンの膨張・収縮により、放熱用フィンとレジン等の隙間から水が浸入した可能性が考えられる」(3頁)と書いています。この文章表現には少しあいまいなところがありますが、レジンの鋳込み時やその膨張・収縮によって隙間が生じて、そこから水が侵入したと読みとれます。結局水が侵入したことがオーバーレイ腐食の原因だったと推定しています。
 次に、フィンがオーバーレイから剥離した要因については次のように記述しています。「オーバーレイ部の腐食の進展により放熱用フィン全体が腐食生成物によって押し上げられるとともに、取り付け溶接部の強度が低下し、炭素鋼、銅製放熱用フィン、およびレジン間の熱膨張差の複合作用によって放熱用フィンを変形させる可能性を考えることができる」。
 結局、水によるオーバーレイ腐食と熱応力の作用でフィンが剥離したと推定しています。

4. 腐食等の再発防止策の不思議
 上記のような原因究明は、通常なら、その原因を取り除くように再発防止策を立てるために行うはずのものです。腐食が水の侵入によって起こったのが原因だとする以上、水の侵入を防ぐことこそが再発防止策になるはずです。
 ところが、調査報告書4頁の再発防止策にはそのような対策は一言も書かれていません。第1に書かれているのは(1)経年劣化対策で、「炭素鋼オーバーレイを耐食性の高いステンレス鋼オーバーレイに材質を変更する。また、既存容器を使用する場合、適切な検査手法により検査を行い、容器の安全性能に問題のないことを確認・評価する」。「シリコンカバーを定期的に点検・保守する」と書かれています。EXCELLOXを信頼しているのなら、なぜEXCELLOXと同様にシリコンカバーを炭素鋼外装板に代えてフィンと溶接すると書かないのでしょう。きっとEXCELLOXの構造も信頼していないからに違いありません。
 他には、MOX燃料輸送は乾式で行うと書かれていますが、今回返送するMOX燃料が水につけられていたことについてはどう考えているのでしょう。この再発防止策の内容には、今回の返送用MOX燃料輸送容器の健全性につながるようなものは何も含まれていません。この調査報告書には、EXCELLOX型についてどう考えるのかについては一言も触れられていないのです。
 
5.返送用EXCELLOX型容器の徹底検査を
 もちろん、レジンの熱膨張関与の仕方はTN型と違うでしょう。また、TN型ではフィンが異種金属の銅製で腐食を促進する点でも異なっているでしょう。しかし、本体胴への水の浸入が絶対にありえないからというのが関西電力の腐食がないとの判断の根本なのです。これが否定される以上、腐食がないことが推定によってではなく、徹底した検査によって証明される必要があることは明らかです。
ただしいまは、EXCELLOX本体胴は外装板とレジンに覆われています。本体胴に腐食があるかどうかを調べるためには、やはり外装板とレジンを取り除いて検査することが必要です。その際もちろん、作業員が被曝しないよう、不正MOX燃料は取り除くことが不可欠です。

図 EXCELLOX型輸送容器の鳥瞰図−以前に使用済み燃料を運搬していた頃の構造
  容器本体の内側に鉛があるが、レジンや外装板は見られない。外からの水は本体胴まで直接通じるようになっている。



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