11月18日 関電交渉報告
プルサーマルどころではない
使用済燃料プールの臨界評価は米国規格に忠実ではないと認める
忠実に計算すれば、高浜3・4号のプールで臨界の危険性
プールには原発炉心の約8倍もの使用済燃料が貯蔵される−臨界が起きれば大事故に

  

 11月18日、グリーン・アクションと美浜の会で関西電力との交渉を行った。午後6時から3時間、市民側は約20名が参加し、関電からは広報部員3名が出席した。交渉の内容は、(1)使用済燃料プールの臨界安全性、(2)首藤バルブ製作所のデータねつ造問題(以上10月26日付質問書)および(3)ECCS等の検査漏れ問題(11月12日付質問書)についての3点であった。プールの臨界問題では関電が米国の規格ANSI/ANS-57.2を基準にしていると言いながら、忠実に適用するのでなく独自解釈で使用しているということを事実上認めた。
 使用済燃料貯蔵プールの臨界の危険性はきわめて重要な問題である。この危険性は六ヶ所再処理が行き詰まっているために、原発サイトの貯蔵プールをぎゅうぎゅう詰めにせざるを得ないことからきている。例えば高浜3号機の貯蔵プールAエリアでは、貯蔵容量を663体から1240体にまで増やし、高浜4号機でもまったく同じである。
 Aエリアだけで1炉心分157体の約8倍もの使用済燃料が貯蔵される。核分裂性のウランとプルトニウムで比較すると、1炉心の4〜5倍だと思われる。ここで臨界が起これば、チェルノブイリ事故を超えるかも知れない。バケツ6〜7杯だけでもJCO事故だったことを想起しよう。このプールのある建屋は格納容器の外(「5重の壁」の外)にあるため、放射能は容易に飛び出してくる。
 これほど重大な問題なのに、関電の評価は実にずさんで勝手なものであることが下記のように交渉で明らかになった。

◆関電は米国の規格ANSI/ANS-57.2を忠実には適用していないことを認める
 関電の回答通りに計算すると、臨界の危険性が出てくる!

 関電は高浜3・4号機の燃料プールについて、臨界事故を起こさない基準を0.95から0.98に引き上げている。その根拠として、米国の規格ANSI/ANS-57.2を参考にしたと前回の交渉で回答していた。
 そこで今回は、まず、未臨界の評価基準を0.95から0.98に変更した当時、すでにANSI/ANS-57.2が廃止されていたことについて質問した。関電は、「現在でも米国原子力規制委員会(NRC)の文書レギュラトリーガイド等で引用されており問題はない」と回答した。
 次に、ANSI/ANS-57.2には未臨界性の評価として0.98という記述がないのに、関電が評価基準として0.98という数値を使用している根拠は何かという質問には、ANSI/ANS-57.2が安全余裕として0.02〜0.05をとるように書かれているから1から0.02を引き0.98だと回答した。

 ANSI/ANS-57.2では、臨界評価の方法として中性子実効増倍率に関して以下の式を提起している。
 ks(評価値)≦ka(基準値)
 左辺のksは貯蔵プールのラック内燃料に関する中性子増倍率の最大評価値で、計算上の不確定性とラックに関する不確定性を含めることになっている。
 右辺kaは「最大許容増倍率」すなわち「基準値」で、こちらも計算と製造公差に基づく不確定性と、加えて安全余裕を考慮することになっている。具体的には、
 ka(基準値)=kc(1.0)−Δku(不確定性)−Δkm(安全余裕)
と記載されている。関電のいう安全余裕の0.02は最後のΔkmのことであり、kcが1.0となるので1−0.02で0.98と回答したことになる。
 では不確定性のΔkuはどこに消えたのか。関電は不確定性を「合計して左辺に持ってきた」と回答した。つまりANSI/ANS-57.2を忠実に適用していないことになる。なぜ、ANSI/ANSに忠実に計算せず独自のやり方をするのかと質問すると、評価基準の値がラックのスペックによって変わると面倒だからとか、その方が扱いやすいからだとか、0.98となれば他のプールと同じ値に揃うからだとか、などという理由を述べた。交渉参加者は、ANSI/ANS-57.2を根拠にしたというならば忠実に計算するべきであるということを何度も関電に問いただした。関電は「結果は同じでしょ」といいながら、「忠実にやらなアカンのですかね?」と忠実にしていないことは認めた。そして、数値としてはホワイトボードに
 0.977≦0.98 (不確定性含む)
 0.967≦0.97
 0.957≦0.96 (不確定性含まない)
という3種類の数値を書いた。一番目は関電が高浜3・4号機で実際に使用した数値である。一番下(3番目)は関電が不確定性として合算した0.02を右辺と左辺からそれぞれ引いただけの値である。参加者が何度も問題を指摘し、例えばの数値として書いたのが2番目の式であるが、これは最初の式の両辺から0.01を引いただけである。参加者は左辺には更にラック内燃料の評価計算にある不確定性を加えるべきであることなどを追及したが、関電は左辺の計算誤差はゼロであるなどとしてこれらに関しては認めなかった。
 それでもついに関電は、ANSI/ANS-57.2に忠実にすれば、不確定性0.02を構成する中身のうち、臨界実験に関する部分0.0156を右辺のΔkuに当てはめ、他のラック等の製造に関する不確定性部分を左辺のksに含めることを認めた。実は、この場合を関電のデータに基づいて計算すると、評価値0.965>基準値0.964となる。すなわち不等号は逆転し、評価値が基準値を上回り、臨界が起こりうるという大問題が浮上するのである。

◆首藤バルブ製作所のデータねつ造弁は、「安全上問題ないところなので十年程度かけて取り替える」


 内部告発で発覚した株式会社首藤バルブ製作所のデータねつ造問題については、試験片を作り材料試験等を行うべきなのに、試験をせずデータねつ造していた問題である。関電は首藤バルブ製の弁が美浜、大飯、高浜原発で合わせて989個も使用されていることを認めた。しかし、安全上問題のないところで使用しており、すぐに取り替えるつもりはないと強調した。そして例えば、12年に1回の点検間隔のところに使っていれば12年以内に交換すればいいことになっており問題ないと述べた。また、設置済の弁から試験片を採取し機械試験や成分分析などを行った結果として構造強度上問題なかったとしているが、関電ではプラントメーカ保有の1台と大飯2号機のわずか1台から採取しただけであると回答した。
 首藤バルブが関電に納入した製品の品質は、検査会社の証明書類によって保証されるはずである。ところが、首藤バルブは検査会社の書類から転記した書類をつくり、印鑑も偽造していたという。そのような不正が見抜けず、内部告発で初めて明らかになったのだから、一般に関電が納入する製品の品質保証はどうなっているのか、疑問が生じるのである。

◆2007年に「もう、検査漏れなどない」と宣言していたはずなのに、ECCS等の安全上重要な箇所で検査漏れ

 関電は11月11日のプレスリリースでECCS系統の安全上重要な弁の溶接部13ヶ所が検査対象から漏れていたと発表している。しかし関電は「検査対象から漏れていた」ことは認めているが、「供用期間中検査の規格で要求される検査間隔等を逸脱するような事例はありませんでした」と検査期間に間に合ったので実質的には検査漏れでないとプレスリリースで述べている。交渉でもこのことを強調した。しかし、2007年に志賀原発の臨界事故内部告発当時に経産大臣の指示によって、関電が過去にさかのぼり不備はないと宣言していた。それなのに、まだ検査漏れがあったのだ。これについて質問されると、自社の宣言でありながら「手元に資料がない」ということで、次回までの宿題になった。


(10/11/23UP)