4月10日関電交渉報告



■ データ改ざん・違法処理など不正問題−トップは責任をとらず
■ 「データ改ざん(記録関係)」の点検で、「調べていない期間がある」と明言
■ 引継日誌を改ざんしても、メモがあれば、保安規定違反ではない
■ 今回の不正報告で、安全協定違反はない


 4月10日関電と交渉。午後6時過ぎから9時までの約3時間。関電本店4階の会議室で、関電からは広報の3人、市民サイドは17名であった。
 冒頭、グリーン・アクションとの共同の抗議文「関電の原子力発電所に関する不正報告は、自らの不正体質に蓋をし、誰も責任を取らない無責任体質を示している」(4月6日付)を読み上げ、美浜3号機と美浜1号機を即刻閉鎖せよと要求し、手渡した。
 3月30日に発表された「発電設備に係る点検結果報告書」(以下、不正報告書)について、4月6日に出した質問書に基づいて交渉した。時間の制約から、実際の回答とやりとりは次の点に限られた。4月6日付質問書の[1]基本姿勢についてと、[2]「不適切事象」の評価についての内、引継ぎ日誌の改ざんと保安規定違反の問題、美浜1号機の違法溶接問題。そのうち主要な点について以下に報告する。
 交渉で浮かび上がったことは、美浜3号機事故と同じく今回の不正問題でも反省がなく、責任を取ろうとしていない関電の姿勢であった。

1.不正問題について、社長以下の役員層の責任は認めず
  コンプライアンス(法令順守)等の「根付きが不十分」なので「現場第一線を支援」
  責任を「現場第一線職場」に押し付ける
 
 関電の不正報告書では、問題についての責任の所在が曖昧で、トップが責任を取ろうとしていないことが、交渉で改めて明らかになった。
 不正問題についてどのように反省し、誰がその責任を取るのかと追及した。
 不正報告書では、点検結果の総括として、「手続き漏れや改ざんをチェックする機能が十分でなかった」、「CSR(企業の社会的責任)、コンプライアンス(法令順守)の根付が十分でなかった」とし、「その点を踏まえた現場第一線職場に対する支援を検討していく」と記載している。
 そこで、会社ぐるみで不正を行っているのに誰がチェックできたのか、コンプライアンスの根付きが不十分なのは現場だけか、社長には根付いていたのか、と追及した。
 回答は、今後「社長も含めた全従業員が再発防止策に取り組む」を繰り返すだけであった。
 チェック機能が不十分であったことについては、今後は、独立した「経営監査室」でもチェックし、リスク管理体制・リスク管理状況のモニタリングを強化するとの回答であり、コンプライアンスの根付き不十分については、今後「関西電力としてコンプライアンス意識の徹底に努める」として、責任問題を今後の取り組みにすり替えた回答を行うのみであった。
 こうした回答に対し、参加者から「ということは(今後の課題が全社あげてのコンプライアンス意識の徹底ならば)関西電力全体としてコンプライアンス意識に不備があったのではないのか」と追及しても「だから、今後は守っていくと言っているではないか」と「今後」に逃げ込むだけだった。
 結局、「第一線職場への支援」「CSR・コンプライアンス意識の浸透」「社長・役員層からのメッセージの継続的発信」などと「現場第一線」に責任を押し付け、社長以下経営層の責任に蓋をするのである。
 美浜3号機事故の時も同じであった。誰も責任を取らず、再発防止策を作ったからとして責任問題に蓋をした。こんな体質の会社で、不正問題を根こそぎ断ち切ろうという精神が根付くわけがない。事実、「今後不正は一切出てこないのか」との質問に対する回答は、「再発防止策を着実に実施していくことで二度と同じことを起こさないように努めていく」「社員からの申告、相談を受付けて、不適切事象を把握する取り組みを継続し、その中で新たな事象が判明すれば、都度、調査や再発防止策の見直しを実施していく」というもので、「今後一切出てこない」とは回答できなかった。

2.データ改ざん(記録関係)の点検は、せいぜい2年前まで。
  「調べていない期間がある」と回答
 今回の不正報告での点検対象期間について質問した。それは「全ての膿」を出し切ったのかを問題にするためである。
 [1]「手続きの不備」は、「文書の保有期間である最長10年間、[2]「データ改ざん(計器関係)」は、「現時点」で、平成18年8月31日付保安院の計器関係点検指示に基づいて実施。[3]「データ改ざん(記録関係)」は、「至近」の記録。この「至近」の記録については、(イ)実用炉規則関係の記録は平成17年(2005年)度下期。(ロ)検査関係の記録は前回定検時、(ハ)国が規則に基づいて確認する必要のある記録は「至近」と回答した
 そこで、「至近の記録」とは何時の時点かと追及したところ、「調べていない期間がある」と驚くべき返答が帰ってきた。
「過去にまで遡ってしっかり調べたのではないのか」と問うと、関電は「2002年の東電問題の時と重複するところは省いている」「自主点検作業の記録を確認したのが東電問題の時で、(今回は)自主点検作業の記録以外の記録を点検した」と返答する。そして「2002年の東電事件以降を調べた」と言いながら、炉規則に基づく記録は2005年を調べたと、矛盾することを言い出した。そうであれば、少なくとも2002年から2004年度の間の記録は、点検していないことになるではないかと追及した。すると、「調べていない期間がある。その可能性がある」とはっきりと認めた。
 残存している記録を過去にさかのぼって徹底的に調べるのではなく、短期間の記録点検だけで、「過去の不正を清算する」と強調しているのが今回の不正報告である。
 また点検期間について、データ改ざん(計器関係)は、平成18年8月31日付の保安院指示に基づいて行ったという。他方、データ改ざん(記録関係)は、関電独自の判断で「至近」と区切ったことを認めた。
 データ改ざん(計器関係)については、不正報告書に「高浜3号、大飯3号以外については、定期検査にあわせて点検を実施することにしており、平成19年12月に完了予定」と記載されている。そこで、1月10日に定検を終えて起動した美浜3号については、定検期間中に点検できたはずであると問うと、美浜3号は点検していないと返答。美浜3号の起動を優先し、データ改ざんの点検を行わなかったことが明らかになった。
 つまるところ、点検期間も短く、点検していない期間もあり、美浜3号のように点検できるにもかかわらず点検していない不正報告書であり、ずさんな点検であることが明らかになった。

3.他の電力会社が「改ざん」と認めた温排水データ改ざんは「不適切な調整」と強弁
 大飯3・4号での復水器海水温度のデータ改ざんについて、「不適切な調整であるが改ざんではない」と言い張った。温度差の「目安値」は7℃以下となっている。そこで関電は、「調整後も7℃を超えているデータがある」ので改ざんではないという。なぜ温度差が縮まる方にばかり「調整」したのかの問いに対しては、「結果的にそうなった」と認めたものの、「なぜ」という問いには答えなかった。
 他の電力では同じ温排水データの不正を「改ざん」と認めているがと問うと、「他社のことは知らない」と返答し、あくまでも「不適切な調整」に固執した。関電の悪質な体質をよく表している。

4.保安規定で定められている「引継日誌」を改ざんしても、メモがあれば、保安規定違反にはならない
 法律(原子炉等規制法)では、関電自らが定めている保安規定を守らなければ、1年以下の運転停止、または原発設置許可の取り消しにつながる。時効もない。その保安規定には次のように記載されている。「(引継)当直課長は、その業務を次の当直課長に引き継ぐ際には、運転日誌および引継日誌を引き渡すとともに、運転状況を申し送る」。当日の回答によれば、引継日誌には主要な操作を、運転日誌には必要なパラメータを残すことになっているという。
 不正報告書には、「運転日誌」や「引継日誌」に記載していない不正が3事象報告されている。回答では、3つのうちの2つ(大飯3号・キャビティ水移送データ改ざんと大飯2号・充てんポンプ出口弁漏えい)については、引き継ぐことが必要であり、社内ルールに抵触しているという。ところが、聞き取り調査の結果「制御員どうしの引継ぎメモで、引継ぎがあったことが推認されたので、保安規定に抵触しない」と回答(このメモに何が書かれていたかは後日確認して返答すると約束)。さらに、「引継日誌に、何を書けとは保安規定では定められていない」などと言いだし、だから保安規定には違反していないとの見解を披露した。
 関電の見解では、キャビティ水の水位の変動がなかったようにデータを改ざんしたり、キャビティ水の移送操作を引継日誌に記録しなくても、保安規定違反ではないということになる。これでは、「引継」に関する保安規定は、ないに等しい。当直長以外の者のメモでもよく、二つの日誌を渡せば「引継ぎ」になるということになる。

5.美浜1号機の違法溶接問題−原因を調査する前から溶接やり直し。違法だが、申請書を出せばいいだけ
 美浜1号での違法溶接問題については、電気事業法違反にもかかわらず、2月19日に原因調査を開始する前に、すでに2月16日に溶接のやり直し方針を発表していることを問題にした。これに対して関電は、いずれにせよ溶接のやり直しは必要で、それは国に申請書を出せばいいだけで、国の承認事項ではないと主張した。違法溶接は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金という罰則規定もある重大な法律違反である。それにもかかわらず関電は、申請書を出せば済む話として、すり抜けようとしていた。

6.地元との安全協定違反は一切なし
 関電が報告した8つの不正の中で、福井県などと結んでいる「安全協定への影響が軽微なもの」として、3つの事案をあげている(大飯3・キャビティ水の移送実績の改ざん、大飯3・4の復水器海水温度に関する計器の不適切な調整、大飯2の充てんポンプ出口弁からの水漏れ事象に関する不適切な調整)。そのため、安全協定の第何条に違反しているのかを質問していた。交渉後の電話回答では、このいずれについても、「安全協定に基づく異常事象に該当するものではない」として、安全協定違反ではないと判断しているという。充てんポンプ出口弁からの水漏れについては、「わずか」とだけ書き、漏えい量も記載していない。充てんポンプというECCSポンプからの漏えいについても異常事象に該当しないとは、関電の安全性軽視の姿勢そのものだ。

 この日の交渉では、上記以外に、3月8日付質問書の美浜3号機事故に関する部分について回答を得た。この問題については、別途報告する。
 時間の制約で回答を得られなかったものについては、後日、電話で回答を受けた。別紙の質問書と回答を参照してほしい。