10月3日 関西電力との交渉報告

美浜3号の試験起動の強行について
「遺族の方々に説明している」と繰り返す関電
しかし「遺族は納得したのか」については回答せず



 10月3日午後5時40分頃から約3時間、関電本店4階の会議室で関西電力と交渉した。9月8日に提出していた質問書に沿って、美浜3号機の試験起動の問題を中心に行った。関電からはいつもの広報員3名、市民側は22名が参加した。主要な点について報告する。
 関電は美浜3号機の試験起動を9月21日(原子炉起動)に開始し、当日の10月3日に運転を停止していた。まず初めに市民側から、試験起動の前に交渉を持つように要求していたこと、遺族の同意も得られておらず、また警察の捜査の最中であるにもかかわらず起動試験を開始したことに抗議した。関電は承りますと述べ、起動試験のあらましを簡単に説明した。

■試験起動については「遺族の方々に説明している」(関電)
 しかし「遺族は納得したのか」については回答せず

 試験起動について、事故の遺族の方々の声が新聞等で報道されていた。「納得はいっていない」、「できれば動かしてほしくない」。この遺族の気持ちを踏みにじって試験起動を開始したことについて関電は、「予定をその都度報告している、遺族の方々には誠心誠意対応し、意向にそった対応をしている」と答え、「説明している」という言葉を何度も繰り返した。参加者は、「遺族の納得を得て起動したのか」、「説明することと、納得したかは別問題」と厳しく追及した。関電は同じことを繰り返し、「遺族の納得を得たのか」という質問には結局答えることはなかった。この関電の対応からも、遺族の方々が運転再開について深い憂慮と憤りを感じていることが、改めて浮かび上がった。
 また関電は、「遺族の方々とのやりとりは公にはしない」とした上で、「7月にも運転再開すると公表した事実はない」と居直った。実は、5月末に福井県から運転再開の了承を取り付けた頃から、7月にも起動試験を計画していると新聞などで報道されていた。これに対して、遺族の方々は「命日の8月9日前に起動するとは」と関電社長と直接あって心情を伝えていたことが報道されていた。関電はこの事実について認めようともしなかった。遺族の思いを踏みにじる関電の傲慢な態度は、これまでとなんら変わりがない。
 5名もの死者を出した美浜3号機事故については、今も警察の捜査が継続中である。「警察の捜査中なのに、それとは無関係に起動できるのか」と問うた。すると関電は、「我々は監督官庁の行政処分についてはすべてクリアしている」と述べ、経産省による1年間の運転停止処分等を念頭に、それらをクリアしたとして、原子炉規制の行政処分に基づいて試験起動を行ったと強調した。美浜3号機事故は通常の原発事故と異なり、5名の作業員の死亡について刑事事件としての立件が具体的に問題になっている。それにもかかわらず、警察の捜査と運転再開は関係ないと主張した。

■5月に美浜3号機で起きた冷却水漏えい事故について
 三菱重工社員に責任を押しつけ、自らの責任について言及なし
 関電社員が作業前ミーティングに参加していたかどうかも確認せず

 次に、5月16日に美浜3号機の点検中に起こった一次冷却水漏えい事故について質問した。この事故は、ホースを取り外す前にポンプを止めなかったために放射能を含む原子炉キャビティ水400リットルが漏えいした事故だった。事故当時から「基本の基本」ができていないと福井県などからも指摘されていた。
 関電は美浜3号機事故の「再発防止策」として「協力会社社員と意志の疎通を高める」ことをあげていた。昨年11月に福井新聞に出した一面広告では、作業前ミーティングに関電社員も参加し「作業上の注意事項や安全のための情報をお伝え」していると書かれている。
 しかし、5月の事故に関する原因や対策を記した関電のプレス発表(5月19日)では、「作業責任者が、指導員や作業員に対して『装置を停止させる』との明確な指示や注意を与えていませんでした」となっている。「作業責任者が・・・」「作業責任者が・・・」を繰り返しているが、これは三菱重工業の社員のことだ。すなわち、三菱重工業の社員が悪いと言っているだけで、関電の責任にはなんらふれていない。
 この点を追及すると「責任ってなんですか」などと無責任な言葉を繰り返した。それでは、「新聞広告では作業前ミーティングに関電社員も参加するとなっている、事故当日の5月16日のこの作業前ミーティングに関電社員も参加していたのか」と問うと、「今は分かりません」と、事実確認さえしていなかった。「事故後、必ず作業前ミーティングに参加するようになったのではないのか」と問うと、関電は「新聞広告には『積極的に参加しています』と書いてある」と答える。「積極的に参加」というのは、毎回参加するわけではないが、これまで一切参加していなかったことからすれば「積極的」という意味だそうだ。参加者からは失笑がもれた。
 この事故が起こった時の作業前ミーティングに関電社員が参加していたのか、参加していたとすればどんな注意を行ったのか、関電としての責任はどこで表明しているのかを明らかにするよう要求した。関電も回答を約束した。
事故が起こると下請け等の責任にする関電の体質は、これまで通り変わっていなかった。こんな姿勢で運転再開するなどもってのほかだ。
 
■高浜2号の大幅な配管減肉問題
 「大幅減肉」は測定点を4点から8点に増やしたために見つかった

 高浜2号では、今年4月からの定期検査で、配管の1箇所で必要最小肉厚を割り込む大幅な減肉が確認された(下表参照)。
配管名称 公称肉厚 必要最小肉厚 23回定検2006.4 18回定検1999.10 11回定検1990.4
タービングランクド蒸気管 8.6o 4.5o 3.3o 8.0o 7.1o

 18回定検で配管が「肉太り」しているのは、配管溶接のためのシンニング加工によって測定点がズレたためだと答えた。この「測定点のズレ」はこの間何度も問題になったことだ。また、今回見つかった大幅減肉は、測定点を4点から8点に増やしたため、これまで測定していなかった測定点で見つかったものだという。これは、測定点からわずかにずれた箇所で大幅な減肉が起きていても見逃す可能性が十分にあることを事実で示している。また関電は、この大幅減肉について「急激に減肉したものではない」と強調したが、長年かけて減肉していたものを見落としていたことについての反省は何もなかった。
 この配管の減肉について、関電はホームページで「計算必要厚さを下回っている箇所が1箇所確認されました」と書いているだけで、上記の表のような配管のスケルトン番号や、測定履歴、いったい何ミリに減肉していたのかさえ公表していない。これまで通りこれらを公表するよう要求すると「定期検査の報告としてはこれまでと同じです、事故調査委員会などに報告したものは公表していたが」と基本的にはHPなどで公表する意思のないことを語った。最終的に、スケルトン図等、これまで公表していた資料を後日渡すことを約束した。

■高浜プルサーマルの再開について
 「関電が先頭に立つというわけではないが、後ろから押すというのも・・・」

 関電社長が、プルサーマル計画について「(関電が)中心になってやらないといけない」、「(原発で実績のある関電が)計画を引っ張るのは当然」と語った記事が8月24日の福井新聞に掲載された。これについて、なぜ関電が「中心」なのか、どんな「実績」を基にそんなことを言っているのかと問うた。すると「PWR原発では11基と最も多い、長年の運転経験、美浜1号での小数体MOX燃料試験の実績、高浜3・4号で地元の了解を得ている」との一般的な回答だった。そして、「『引っ張る』とは、関電が先頭にたってプルサーマルをやるということか。『引っ張る』とは前に出ないと引っ張れないが」と問われると、「先頭というわけではない、後ろから押すというのも・・・・」と言葉を濁してした。今後の予定については、「地元の了解は得ているが、美浜3号の運転再開後にステップ・バイ・ステップで進める」と語り、まだ一般的ではあるが、以前のように「今はプルサーマルについてお話できる状況にはない」からすれば、近いうちにプルサーマル再開を狙っていることがうかがわれた。注意が必要だ。

■耐震安全性問題・・・トレンチ調査は美浜発電所のみ
 検査制度の改悪の問題・・・「状態監視保全」など、今後可能なものからやっていく

 国の耐震安全基準が改定されたことを踏まえ、関電としてどのような調査等を行っているのかを問うた。基本的にはまだこれからとのことで具体的な回答はほとんどなく、6月21日の関電プレス発表にそった説明だった。美浜発電所だけで行う予定になっているトレンチ調査については、基本的に日本原電が敦賀3・4号炉増設に関する調査を代用するようだ。また美浜発電所については敷地外でもリニアメント確認のためのボーリング調査を追加しているとのこと。プルサーマルが予定されている高浜や大飯でトレンチ調査や音波調査を行う予定はないのかと問うと、実施しないことの理由は述べなかった。
 検査制度の改悪と関係した「状態監視保全」や「オンラインメンテナンス」についても質問した。「状態監視」は現在もやっているが、それによる「保全」という位置づけにはまだなっていないとのこと。現在は「時間保全」という考え方で定期検査時に分解点検を行っているが、今後は可能なものからやっていくと語った。また「オンラインメンテナンス」については、「予備機がある場合には、故障しても運転を止めずに、予備機を使った運転を現在も行っている」、「運転中に故障を直して復帰させる」と認めた。同時に、現在は「大幅に導入しているわけではない」と付け加え、今後の導入には意欲をしめしているようだった。
 定期検査の期間を短縮するため、運転中に点検などを行うとする傾向が強まっている。関電の現行の保安規定で、待機中ポンプ等の起動制限がどのように規定されているのかを明にするよう要求した。

■「内部被ばくは百姓に泥」発言は「内部被ばくの発生に理解を求めたもの」
 最後に六ヶ所再処理工場の問題についてやりとりをおこなった。
 まず、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験に関する数値的な確認は以下のとおりだった。
・第1ステップで再処理された関電の使用済み核燃料は
    燃焼度30,000〜33,000(MWD/t)で3体=約1トン
・第2ステップで再処理予定の関電の使用済み核燃料は
    燃焼度30,000〜36,000(MWD/t)で51体=約23トン
・アクティブ試験全体で取り出される関電分のプルトニウムは0.3トン
・そのプルトニウムの使い道については、これまで通り「高浜3・4号、大飯1・2号のプルサーマルで使用」と一般論を答えるだけだった。
 また、青森県産品の購入などを行っているかとの質問に対しては、「青森県には大変お世話になっており」から始まって「社内新聞や社内の電子掲示板で商品を紹介している」だけで、購入にあたって会社からの補助などは一切ないとのことだった。
 アクティブ試験で起こった作業員の被ばく事故について、石川氏(日本原子力技術協会理事長)が「再処理工場で内部被ばくするのは百姓に泥が着くのと同じ」と発言したことに関して、関電も同意するかと問うた。これについては「この発言は内部被ばくが発生しうることに理解を求めたもの」と答え「被ばくを低減することも必要」と付け加えた。参加者からは「百姓に泥とはあまりにひどい発言だ」、「内部被ばくは水で洗っても消えない」等々怒りの発言が続いたが、関電は石川氏の発言を擁護しながら、「被ばくの低減も必要」と石川氏の発言にはない文言を繰り替えした。

 交渉の最後に、次回は本格運転の再開前に交渉を設定するよう強く要求した。関電は「最優先事項としたい」と約束した。
 関電は試験起動の結果の点検を10月末まで行い、11月中にも本格運転を開始する予定である。美浜3号機事故を改めて問い直し、運転再開を阻止しよう。