3月1日、福島みずほ議員への保安院レクの報告

○市民への説明−「保安院の窓口を決める」「市民団体からの要請を断るということではない」
○京都府等が求めている、丹後地域の津波調査−「やらない」「府には回答していない」
○三方五湖周辺の津波跡の再調査結果は5月、11月頃−「これは再稼働とは関係ない」
○耐震安全性評価で「評価基準値を上回れば、原発の運転はできない」

2012年3月3日 美浜の会

 3月1日に参議院議員会館で、福島みずほ議員に対する保安院からのレクチャーが行われ、市民も同席した。午後2時から3時半過ぎまで、福島原発事故の配管破損の問題、大飯原発の再稼働を巡ってやりとりが行われた。福島みずほ議員と石川秘書に加えて、滋賀、京都、大阪、首都圏から市民8名が参加した。政府側は、資源エネルギー庁から2名、原子力安全・保安院から4名が出席した(出席者リストは末尾参照)。

 全体的な特徴は、ストレステストと耐震バックチェックは切り離す、京都府知事等が求めている古文書に基づく津波調査はやらない、三方五湖を中心とした津波跡の再調査についても、調査結果が出るのは11月頃だが、運転再開とは関係がない等、重要な問題については運転再開と切り離し、とにかく大飯3・4号の運転再開を早急に推し進めようとする強引な姿勢だった。活断層の三連動問題については3月上旬に意見聴取会を開く等、保安院の動きは加速している。
 同時にこの日のレクでは、耐震安全性評価では、制御棒挿入時間等が「評価基準値を超えれば原発の運転はできない」ことを確認した。活断層の連動問題と合わせ、大飯3・4号の耐震安全性を具体的に問題にしていこう。
 また、京都府の要求を踏みにじっていることについては、京都の市民団体が5日に京都府への申し入れ行動を予定している。
3月1日の議員レクで明らかになったいくつかのポイントについて報告する。

■市民への説明について−窓口を決めることを約束。「市民団体からの要請を断るということではない」
 1月16日の政府交渉で保安院は、「30キロ、50キロと距離に関係なく要望があれば説明に出向く」と述べていた。そのため、関西各地や福井県内から、保安院に説明にきてほしいとの要望が寄せられた。しかし、問い合わせると、保安院の回答はばらばらで、「広報課へ言ってくれ」「市民からの要望は受けられない。自治体からでないと」等々たらい回しが続いていた。大阪府の危機管理室の職員が保安院に連絡すると、「保安院のホームページを見てほしい」と驚くような回答をしていた。
 これらについて保安院の田口氏は、「1月に言ったのは、基本的には自治体から要請があれば出向くという意味だったが、市民団体からの要請を断るという意味ではない」と語った。結局、窓口をはっきりさせることを確認し、福島議員事務所に翌日に連絡してほしいと求めた。しかし、まだ連絡は来ていない。

■ストレステストの位置づけ−「運転再開の安全性判断である」−福井県知事と異なる見解
 福井県の原子力安全専門委員会は、2月20日に保安院から説明を受けた際に、保安院の山田課長から「ストレステストだけで運転再開の判断はしない」との確認をとっている。また、西川知事は何度も「ストレステストは運転再開の安全性判断にはならない」と繰り返してきた。しかし今回保安院は、ストレステストの位置づけについて問われると、「ストレステストが運転再開の安全性判断だ」と述べた。これは、西川知事や原子力安全専門委員会の見解とは異なる。
 また、保安院は「福井県が求めている『暫定的な安全基準』の中身が分からない」とも語り、県の求めをいぶかるような口調だった。

■京都府等が求めている、丹後地域の津波調査−「やらない」「京都府には回答していない」
 昨年6月に、京都府知事と京都府下の全市町村長は連名で、「過去の日本海丹後地域における文献等も踏まえ・・・科学的調査をすみやかに実施し、その結果を情報提供すること」を求めていた。これについて、どのような検討状況にあるのかを問うた。
 保安院は、「丹後地域の津波調査はやらない」「京都府の要望については回答していない」「津波跡が確認できる三方五湖周辺の調査で十分」と回答した。参加者は、「あまりにも伝承や文献を軽視している」と強く抗議した。京都府知事をはじめ、自治体からの要望にもかかわらず、これを全く無視しているのだ。宮津市の真名井神社の波せき地蔵には、約1300年前の大宝年間の大津波をここで切り返したとの伝承がある。波せき地蔵は標高約40mの高さにあり、津波がいかに巨大なものだったかを示唆している。また「丹後風土記(残欠)」等でも大津波の記録がある。
 丹後地域の津波は、大飯原発に大きな影響を与える。福井県の西川知事は、「若狭地域で大津波の切迫性がない」とした保安院の見解に対し、文科省に見解を示すよう2月23日に求めている。しかしこの保安院の姿勢では、福井県知事の要求も事実上否定することになる。

■三方五湖周辺の津波跡の再調査結果は5月、11月頃−「これは再稼働とは関係ない」
 津波跡調査については、「地震・津波に関する意見聴取会」の委員から、三方五湖周辺で関西電力等が行った調査は不十分であるとの意見が多く出され、現在再調査が始まっている。天正地震に関する調査結果が5月頃に、また総合的な調査結果は11月頃の予定となっている。
 しかし保安院は、「津波跡の再調査と再稼働は関係がない。再調査の終了を待つことはない」と述べた。このように、一方では再調査を実施しながら、しかし運転再開とは切り離す保安院の姿勢は、とにかく早急に再稼働ありきを象徴的に示している。

■耐震安全性評価で「評価基準値を上回れば、原発の運転はできない」
 保安院の指示によって、関電等電力各社は2月29日に、活断層の連動性に関する報告書を提出した。関電は、これまでの評価を変える必要はないと結論づけた。大飯原発近傍のFo-BとFo-Aの2本の海底活断層の連動だけでよしとし、陸地の熊川断層を含めた3つの活断層の連動を考慮する必要はないとしている。
 しかし、関電はよほど気になったのか、「参考」として、この3つの活断層が連動した場合の評価を同時に提出している。関電の評価でも、3連動を考慮すれば、現在の基準地震動である700ガルを超え、約1000ガルにもなる。これに対して関電は、「ストレステストで1.8倍の余裕があるため大丈夫」(700×1.8=1,260)としている。しかしこれは論理のすり替えだ。ストレステストは「余裕」をみるものであり、基準地震動の評価とは異なる。
 耐震安全性の評価では、近傍の活断層から基準地震動を計算し、それをもとに、機器の耐震安全性について、「評価基準値」を超えないことが必要となっている。例えば、現在の2つの活断層の連動だけでも、制御棒挿入時間は、評価値が2.16秒、評価基準値が2.2秒で、余裕はわずか2%しかない。三連動を考慮すれば、制御棒挿入時間はさらに長くなり、「評価基準値」を超えてしまう。
 保安院の御田氏は、「評価基準値を超えた場合は、原発の運転はできない」と認めた。関電などが提出した連動性に関する報告書については、「地震・津波に関する意見聴取会」で3月上旬に検討するという。「意見聴取会の委員の内、地震の専門家だけ集まってもらって至急検討する」とも語っていた。また、機器等の耐震性については、「建屋・構造物の意見聴取会」で議論されるという。保安院は、活断層の連動評価について急いで意見聴取会を開き、再稼働を推し進めようとしている。さらに、「ストレステストと耐震安全バックチェックは別だ」と何度も強調した。

■福島T−3号のHPCI系配管破損問題−「警報が鳴ったという記録がない」だけ
 3号機の高圧注水系(HPCI)配管の破損については、これまでどおり格納容器圧力の実測値と解析値が合っていないこと、昨年12月16日に東電に出した指示への回答は不十分なままであることを保安院は認めた。さらに、IAEAに出した「蒸気漏れの可能性」(配管破損の可能性)については現在も修正していないことを認めた。
 しかし、「温度計の警報は鳴っていない」ことを理由に、基本的に配管の破損はないと判断していると言う。よく聞くと、「警報が鳴ったという記録がない」だけ、「中央制御室で警報を聞いていないため」というのが理由だった。これに対して議員からは、「事故当時、中央制御室には人はほとんどいなかったはず。人がいたというなら、当直日誌のような、それを証明できる資料を出してほしい」と要求された。後日、資料があれば提出することを約束した。
 このように、配管破損の可能性を排除できない。他方、ストレステストや30項目の安全対策では、配管の破損はけっしてないことを前提にしていることを認めた。これについては、「現時点で分かっているものを取り入れて・・」を繰り返すばかりだった。

■福島T−1号 事故当日の17:50という早い時期に、原子炉建屋内で作業員の線量計が振り切れた問題−「原子炉からのガンマ線説」は「推定です」
 保安院は1号機で作業員の線量計が振り切れた原因について、政府の事故・検証委員会の昨年12月中間報告の「それ(放射性物質)が建屋内に漏えいしたということ以外に考え難い」という記述をまず引用して格納容器外に放射性物質が出たことを認めた。同時に他方では、原子炉内から放射線が出たとも書かれていると述べた。保安院としては、基本的には後者だと思うとして、配管破損による放射性物質の充満によるとする理由を否定したい旨を強調した。
 しかし、通常の運転中でも作業員はエアロックを通って格納容器に入って計測などを行っているが、線量計が振り切れるようなことはない。この当時は、すでに原子炉は停止後約3時間を経過して放射能は減衰している。しかも、格納容器の外の分厚いコンクリートの壁を貫いてエアロックの扉の間にまでガンマ線が到達するのか等尋ねた。すると、「原子炉からのガンマ線説」は「推定で具体的な検討はしていない」と認めた。何の根拠もなしに、推定だけで、配管破損を否定しようとしているのだ。

3月1日の福島みずほ議員へのレクに出席した保安院の担当者
原子力発電検査課企画班長:今里和之氏/原子力安全技術基盤課(ストレステスト担当)企画班長:田口達也氏/耐震安全審査室上席安全審査官:御田俊一郎氏ほか


(12/03/04UP)