20ミリシーベルトに関する
IPPNW(核戦争防止国際医師会議)から高木大臣宛の手紙

2011年4月29日

日本国
東京都千代田区霞が関3−2−2
文部科学省
高木義明大臣閣下

親愛なる高木大臣:

IPPNW(核戦争防止国際医師会議)は、貴省が今週明けに、子どもが被曝してよ
い電離放射線の最大許容線量を引き上げたことを深く憂慮しています。

貴省が設定した毎時3.8マイクロシーベルトという許容線量は、年間に換算する
と33ミリシーベルト以上に相当するもので、幼稚園、保育園の子どもたちと、小
中学校の生徒たちに適用されます。

被曝による健康へのリスクは被曝線量に比例するもの、つまり被曝が多ければ多
いほどリスクも高まるということ、さらには、リスクのない線量というのは存在
しない、ということは科学の常識になっております。国際放射線防護委員会(I
CRP)は、被曝を極力低減しなければいけないと勧告しています。一般人の被
曝は、自然放射線と医療による被曝を除き、年間1ミリシーベルトを超えない量
に抑えるべきです。

原子力産業の労働者に対してICRPの勧告は、許容される最大被曝量を連続す
る5年間の平均で年20ミリシーベルトまでとすること、また、その5年間のうち
1年でも50ミリシーベルトを超えてはならないとしています。日本では、福島原
発事故の前の基準である年間100ミリシーベルトはすでに国際基準を上回るもの
でしたが、3月11日の震災と津波に伴う悲惨な原発事故を受けて、250ミリシー
ベルトにまで引き上げられました。

米国国立科学アカデミー「電離放射線の生物学的影響」第7次報告書(BEIR-VII)
によると、被曝1ミリシーベルトにつき1万人に1人、固形癌(白血病以外の癌)
にかかるリスクが増し、10万人に1人、白血病になるリスクが増し、1万75
00人に1人が癌で死亡するリスクが増すと予測されています。しかし決定的な
要素は、人によってリスクが異なるということです。放射線被曝によって生じる
癌のリスクは乳児(1歳未満)の場合は大人の3倍から4倍であり、女の乳児は
男の乳児よりも2倍影響を受けやすいのです。

全般的に放射線被曝に起因する女性の癌のリスクは男性よりも40パーセント高
くなります。最も放射線に敏感なのは胎児です。先駆的な研究であるオックスフォー
ド小児癌調査によると、母親のレントゲン撮影で胎児が10−20ミリシーベル
トの被曝をした結果、15歳以下の子どもの癌罹患率が40パーセント増えてい
ました。ドイツの最近の研究では、25年間にわたる全国の小児癌の登録データ
を調べた結果、正常運転をしている原子力発電所でさえ、半径5キロ以内に住ん
でいる5歳以下の子どもは白血病になるリスクが倍以上だったという結果が出ま
した。原発から50キロ以上離れている場所でも有為に高いリスクが確認されま
した。これは予想を大きく上回る結果で、子どもと胎児が特に放射線に弱いとい
うことが明らかになりました。

また、一般的な放射線測定器で測定される外部被曝量に加え、福島の子どもたち
は、呼吸によって肺に沈着する粒子や、汚染された食品や水を通じて内部被曝を
します。さまざまな放射性物質が食物連鎖を通じて濃縮し、最終的には人体にお
いて凝縮します。私たちは医師として、福島の子どもたちにそのような有害なレ
ベルの被曝を許容するということは許し難く、子どもたちと将来の世代を保護す
る責任の放棄であると考えます。

私たちが日本政府に強く要求することは、すでに健康と安全をおびやかす状況に
おかれている人々の被曝許容量を引き上げるのではなく、この悲劇の結果として
汚染された福島原発周辺の避難区域を更に拡大し、日本の人たちの健康と安全確
保を他の何よりも優先させるためにあらゆる手を尽くすことです。

誠意を込めて

共同代表 ヴァップ・タイパレ
共同代表 セルゲイ・コレスニコフ
共同代表 ロバート・ムトンガ
東南アジア・太平洋地域副代表 ティルマン・ラフ

(翻訳:乗松聡子)

(11/05/08UP)