避難促進・自主避難者支援を求める対政府交渉 
〜「避難の権利」確立を求めて〜
<報告>

子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク、福島老朽原発を考える会(フクロウの会)、国際環境NGO FoE Japan、グリーン・アクション、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)、国際環境NGO グリーンピース・ジャパンは、6月30日、参議院議員会館で、避難促進・自主避難者支援を求める政府交渉を行いました。

本交渉では、下記がポイントとなりました。

@避難区域の妥当性について
福島市内でも高線量地域が存在するという実態が最近明らかになった(資料2)。市民団体の調査によって、福島市の渡利地区では、高濃度の土壌汚染が確認された(資料3)。この深刻な汚染の実態は放置され、また、それら地域に住む人々や自主避難者について政府は無策のまま放置している。避難の地域の「縮小」ではなく、「拡大」が必要になっている。

・ 日本政府の「20ミリシーベルト」基準を前提にしたとしても、実際の汚染レベルの深刻さ(空間線量および土壌汚染)および現在内部被ばくを考慮に入れれば、避難区域にすべき場所がある。
・ 20ミリシーベルト以下であっても、自主避難を認める区域を設定すべきである。
・ 自主避難に対しては、補償措置および行政サポートを提供することを明言すべきである。

A子どもの被ばくのトータルな管理、避難・疎開について
福島の保護者の訴えや全国の市民からのサポートによって、文科省は5月27日、今年度の学校における被ばく量を「年1ミリシーベルトを目指す」とした。

しかしこれは、学校外の被ばく、事故直後の3月の被ばく、内部被ばくを考慮したものではない。既に、子どもたちの被ばく量は1ミリシーベルトの数倍にも達していると考えられる。現に、フクロウの会などがフランスの研究機関ACROに依頼した尿検査により、子どもたちが内部被ばくしている事実が明らかになった(資料1)。

このため、早急に避難、夏休みの前倒し等の被ばくの低減を行政が主導して行うべきである。

参考資料
(資料1)福島の子どもたちの尿検査結果について 
       >http://dl.dropbox.com/u/23151586/110630_1.pdf
(資料2)福島市の測定ポイントおよび線量〜渡利平ヶ森周辺 
       >http://dl.dropbox.com/u/23151586/110630_2.pdf
(資料3)福島市内の土壌汚染 
       >http://dl.dropbox.com/u/23151586/110630_3.pdf


■明らかになった事実
・ICRP、IAEAの参考レベルは内部被ばく、外部被ばく双方含めている。日本政府は、ICRPの緊急時被ばく状況の参考レベルを採用したはずだが、避難区域設定に当たっての「20ミリシーベルト」には、内部被ばくは含まれていない。
・一方で、原子力安全委員会は、「内部被ばくを含めるべき」と発言した。翌日、文書でも同様に回答した。
・日本政府は、土壌汚染に関しては、空間線量に反映されているという理由で考慮に入れないと回答したが、一方で、双方の関係については明確に回答しなかった。
・子どもたちの学校の内外を通したトータルの被ばく量管理については、政府内で担当している部署はない。
・文科省の「今年度、学校内において1ミリシーベルトを目指す」という方針について、1ミリシーベルトを超えた場合、文科省が何をするのかについては、不明であった。
・文科省は、学校給食からの内部被ばくは、カウントしていない。理由は、市場に流通している食材は放射能の暫定基準を下回ると回答したが、それに関する調査は実施していない。

■政府交渉を踏まえた市民側の要求(抜粋)
・日本政府の「20ミリシーベルト」を基準とした避難区域設定には、内部被ばくが考慮されておらず、土壌汚染の広がりを踏まえたものではない。また、「20ミリシーベルト」は妊婦・乳幼児・子どもにとって高すぎる基準である。これらを踏まえ、避難区域設定を見直すこと
・希望者全員が内部被ばくの調査が受けられ、詳細な結果が本人に通知されることを確保すること
・自らの判断で自主避難を行う住民に対して「避難の権利」を認め、自主避難者に正当な賠償の保証と、行政的なサポートを行うこと、
・夏休みの前倒しや避難・疎開のあっせんを国が行うこと
・学校給食の放射能汚染の状況について早急に調査を行うこと
・子どもたちのトータルな被ばく管理の実現に国が責任を持つこと

交渉では、福島からの方々も含めて約250名の市民が参加しました。
避難や疎開、夏休みの前倒しなど、あらゆる手を尽くして、子どもたちを一刻も早く守ってほしいという市民の悲痛な訴えに対して、政府の現状認識は甘く、対策が不十分であると言わざるを得ませんでした。

政府の「20ミリシーベルト」基準を前提にしたとしても、実際の汚染レベルの深刻さ(空間線量および土壌汚染)および内部被ばくを考慮に入れれば現在避難区域にすべき場所があるのに放置されています。もしも、土壌汚染評価を考慮すれば、60km圏や80km圏内であってもチェルノブイリの際に用いられた基準では、「移住の義務区域」あるいは、「移住の権利区域」に含まれる地域が多くあります。

これ以上、無用な被ばくを重ねることを一刻も早くなくすためにも、避難促進も含めた被ばく低減のための措置が即刻取られるべきです。

以下、市民側の事前質問に対する政府側の回答です。

1.福島原発事故に伴う住民の被ばく量の把握と避難区域の設定について

(1)避難区域の設定の「年間積算線量20ミリ」の基準については、国際放射線防護委員会(ICRP)と国際原子力機関(IAEA)の緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値(20〜100ミリシーベルト)を考慮したということだが、この基準値は、内部被ばくと外部被ばくの両方を考慮したものということで間違いないか。

回答:(原子力被災者生活支援チーム)ICRP、IAEAの参考レベルは内部、外部含めてと考えている。

(2)避難区域設定において、内部被ばくによる積算線量を除外し、外部被ばくのみを判断基準にしている理由は何か。

回答:(原子力被災者生活支援チーム):外部被ばくが想定結果として得られやすく、使いやすい。内部被ばくは個々人の生活様式による。避難区域のほうでは使いにくい。内部被ばくがどのくらいあるか試算したところ、外部に比べて数パーセントになるだろう。現実的には外部被曝を目安とすることで問題ない。

回答:(原子力安全委員会)内部被ばくも考慮に入れるべき。

市民側反論:ICRPは内部被ばくを除外していないのに、その基準を採用している日本政府が内部被ばくを無視しているのはおかしい。政府内部でも意見が食い違っている。
また、空間線量だけを基準として、土壌汚染を無視しているのは問題である。

(3)子どもたちを含む一般住民の内部被ばくによる積算線量については、どのようにして明らかにするつもりか。

(4)子どもを含め県民の中では内部被ばくに対する不安が高まっている。希望者すべてに対して、ホールボディーカウンターの検査を実施すべきではないか。

回答:(原子力被災者生活支援チーム)被ばく線量は、福島県の健康調査で、6月18日に調査開始すると公表した。基本調査は、202万人を対象とする。被ばく線量を推定する。先行して、浪江町、飯舘村、川俣町山北地区で開始する。内部被曝については同じ地域から120名を実施する。今週月曜から放医研でWBC、尿検査、行動調査を実施し測定中。尿検査とWBCとの関係などを蓄積することにしている。

市民側:日本政府は、すぐさま、内部被ばくの現在の状況、とりわけ妊婦や子どもたちの状況を、あらゆる手段をつくして検査する必要がある。測定機器が足りないのであれば、国際的な協力も求めていくべき。結果は、元データも含めて本人にきちんと伝達すべき。

(5)文科省が積算線量を算出するための測定点としている場所は、どのように選定したのか。その地区で最も線量が高い地点が選定されているのか。

回答:積算線量の推定マップの公表を行っているが、160地点が最新であり、ほかのデータもあわせて、マップを作成した。作成前から、空間線量率を測定している場所もある。放射能の汚染の広がりを把握するためにバランスよく選定している。追加測定点は、地元自治体と相談して、設けた。

(6)積算線量を算出するにあたり、屋外に8時間、屋内に16時間とした上で、屋内を屋外の0.4倍としている根拠は何か。実態に即しているのか。

回答:(文科省科学技術・学術政策局原子力災害対策支援本部)
外にどれくらいいるか、家屋にどれくらいいるかの仮定を置く必要があった。原子力安全委員会3月26日付けで試算。木造では、低減率を0.4とした。


(7)チェルノブイリにおいては、強制避難レベルは約5ミリシーベルト(土壌555,000ベクレル/平方メートル)、フランスの避難勧告レベルは10ミリシーベルトであるが、日本政府として「20ミリシーベルト」を選択した理由は何か。

回答:(経済産業省 原子力被災者生活支援チーム)IAEA、ICRPの提言、緊急事における参考レベル、20−100ミリシーベルトのうちの下限の20ミリシーベルトを採用している。4月10日の原子力安全委員会の提言を踏まえた。実際の適用では、内部被ばくは考慮にいれず、外部被曝分としての20ミリシーベルトを適用。

回答:(原子力安全委員会)チェルノブイリにおける5ミリシーベルトは事故後の復旧段階で用いられたもの。事故後は1−20ミリシーベルトが適用されるべきと安全委員会は考えている。外部だけでなく、内部被曝も含めるべきである。

市民側:ICRPの「緊急時」は、事故後、長くても数週間、管理体制が崩壊している状況を指すため、それを現在の状況に適用することはおかしい。
日本政府の「20ミリシーベルト」はチェルノブイリ事故の経験などを活かしていない。

(8)少なくとも放射線に対する感受性が高い妊婦・乳幼児・子どもに対しては、成人よりも避難の基準を厳しくすべきではないか。

回答:(生活支援チーム、安全委員会)
妊婦、子どもへの特別な配慮は、放射線防護でもいわれている。政府対策では、緊急時避難準備区域では、子ども、妊婦の避難を勧めている。20ミリシーベルトを超えると考えられる比較的高い線量のところは、特定避難勧奨地点に指定し、子ども、妊婦の避難を勧めている。

市民側:日本政府の基準は、あくまで内部被ばくを考慮に入れない「20ミリシーベルト」であり、これは、妊婦・乳幼児・子どもに対しては、あまりに高い値である。

2.避難の権利の保障について

(1)住民は自らの線量とリスクを知るために、どのような手段があるのか。どのような措置を講ずるつもりか。

回答:県が健康調査として、被曝の線量の推定を開始し、先行調査している。健康状態は今年度やり、長期間の調査となる。何かしら変化あったら、早く見つけて、早く措置をとる。

(2)行政が指定した「避難区域」以外の区域の住民で、自らの判断で自主避難を行った場合、その費用は補償されるのか。その判断基準は何か。未定の場合、どのようなプロセスでいつ決定されるか。

回答:(文科省研究開発局原子力損害賠償対策室)
原発事故の被害については、東電が賠償を行う。文科省としては、どういうものが今回の事故の賠償の対象となるのか。指針として取りまとめて公表する。これまでは避難区域の方々についての検討を行ってきた。7月末をめどに、避難区域以外の方々についてもどうするかをまとめる。

市民側:自らの判断で自主避難を行った住民には、正当な賠償を行うことを明言するべき。また、避難を勧告し、正当な賠償など、「避難の権利」を保証する区域を設定すべき。

(3)線量が高い地域において、自主避難を行う住民がのちに補償を受け取れるようにするため、「被災証明」が発行されるべきではないか。

回答なし

(4)避難区域の周辺で比較的線量が高い地域において、避難を勧告し、避難の権利を保障するような区域を設定すべきではないか。

回答:(経済産業省原子力被災者生活支援チーム住民安全班)
20kmを超える場所であり、20ミリシーベルトを累積するところは計画的避難区域と指定されており、おおむね避難は完了している。優先してお子さんは先に避難という配慮。エリア的な広がり。スポット的に高いところは、特定避難勧奨地点で、自治体と相談して、住民とも話し合う。避難の支援もする。
それ以外は、災害救助法の適用なので、避難された方はそれで対応する。

市民側:市が行った調査、また市民団体による土壌汚染調査の結果(資料2、3)で、渡利地区。生活環境全体が高い値になっていることがわかる。平ヶ森の公園では、立ち入り禁止になる前日まで子どもたち遊んでいた。これらの線量が高い場所では、国の援助が得られる体制を即刻とってほしい地域の高いところがいたるところにあるが、そこだけ除染すればいいというようなことではない。
土壌汚染の影響は始まっているので、チェルノブイリの教訓を得るという意味で、早急に対策してほしい。
事故が収束していないのに、避難区域を「縮小」すると報道されているが、これは問題である。
自主的に避難していく人たちの行政サポート必要である。20ミリシーベルトを下回る地域でも設定する必要がある。避難の権利区域を設定すべき。

3.子どもの避難・疎開・夏休みの前倒しについて

(1)学童の避難・疎開について、学校ごとの疎開の受け入れを表明している自治体もあるが、国として受け入れを表明している自治体等の調査はしているのか。国が積極的にあっせんを進めるべきだと考えるがいかがか。

回答:文科省スポーツ・青年局学校健康教育課
県と協力して継続的にモニタリングを行っている。線量は低減している。避難区域の考え方の設定は対策本部の判断も考えて検討するべき。

(2)夏休みの前倒しについては学校長の判断で可能だが、国としても積極的に進めるよう助言・支援を行うべきではないか。

回答:夏休みの前倒しについても同上。新たな措置は考えていない。こどもたちの安全を考え、自治体で適切に判断してもらうことになる。

市民側:文科省が「1ミリをめざす」と言いながら、具体的に何をするのかが不明。文科省が言う「あらゆる低減対策」に避難、疎開も入れてほしい。

4.子どもたちの被ばくのトータルな管理について

(1)文部科学省は、子どもたちの被ばく量に関して「今年度1ミリシーベルトを目指す」としているが、これは、始業式以降の学校内(始業から終業まで)に限定され、給食による内部被ばくを除いた値である。子どもたちの被ばく量を最小化するためには、3月11日以降の被ばく量をカウントし、学校外における被ばくや内部被ばくも考慮にいれた「トータルで1ミリシーベルト」を目指すべきではないか。

(2)学校内のみならず、3月11日以降の学校外の被ばく量、内部被ばく量を入れた、現在の子どもたちのトータルな被ばく量の把握について、どのように行われているのか、行うつもりなのか。

回答:(文科省)
文科省としては、学校においてまず低減するための方策を講じる。これについては、文科省として当面の対応を5月に示した。その中で土壌の除去や線量計の配布を行った。まず文科省の責任である、学校をきちんとやる。最終的に1ミリシーベルトを目指す。

(3)学校給食による内部被ばくは「学校内」の問題であるのに、「今年度1ミリシーベルト」という学校内被ばくの中に含めないのはなぜか。

回答:文科省としては、今年度1ミリシーベルト以下を目指している。学校給食の食材は、市場に出回っているものを使用しており、暫定基準値以下でありは問題はない。大きな影響ない。

市民側:文科省は学校内に限ってだけは被ばく量低減の対策をとるとしているのに、学校給食は含めないということはおかしい。食品はすべてを測定しているわけではない。そもそも暫定基準値は高く設定されている。文科省の対応は、これらを無視して、学校給食からの内部被曝はゼロとしているもの。
給食を1ミリシーベルト目標の中にカウントすし、食材について放射能の調査を行うことをお願いしたい。

(4)学校給食については、暫定基準値以内の食材を使用しているとのことだが、暫定基準値を守ったとしても、最大で年間17ミリシーベルトもの被ばくを許すことになり、これだけでは全く不十分ではないか。食材中の放射能についてのより詳細なモニタリングと産地の厳格な管理が必要だと考えるがいかがか。

回答:(文科省 スポーツ・青年局 学校健康教育課 課長補佐)
出荷制限の措置がとられているもの以外は不検出もしくは微量。現時点で措置考えていない。

(5)内部被ばくについて、子どもに固有の計算方式(実効線量係数など)を考慮しているか。

(6)1ミリシーベルトを目指すために、モニタリングと校庭の表土除去に対する限定的な財政支援の他に国が行う具体的な措置は何か。

回答:積算線量計の配布および財政支援を行っている。合理的に達成できる限り低くする。放射線防護専門家、医療などの専門家と相談しながら進めている。

(7)福島県が行う県民健康調査について、国はどのように関与するのか。

回答:財政的支援と技術的支援を行っている。

政府参加者:
茶山秀一(経済産業省 原子力被災者生活支援チーム 放射線班)
渕上善弘(経済産業省 原子力被災者生活支援チーム 医療班)
竹永祥久(経済産業省 原子力被災者生活支援チーム 住民安全班)
栗原潔(内閣府 原子力安全委員会事務局 管理環境課 課長補佐)
山田裕(内閣府 原子力安全委員会事務局 管理環境課 安全調査副管理官)
村山綾介(文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力災害対策支援本部 モニタリング班)
山中満理子(文部科学省 研究開発局 原子力損害賠償対策室 係長)
石田善顕(文部科学省 スポーツ・青年局 学校健康教育課 課長補佐)
村松哲行(文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力災害対策支援本部 医療班 班長補佐)
郷路健二(文部科学省 スポーツ・青年局 学校健康教育課 課長補佐)
遠藤正紀(文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力災害対策支援本部 総括班 係長)
今田潤(文部科学省 初等中等教育局 教育制度改革室 専門職)
西田将史(文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 企画調査係長)

(11/07/12UP)