7月29日「原発さよなら署名」提出と政府交渉の報告
◆10万筆を超える「原発さよなら署名」を提出
◆泊3号−「本格運転を開始するようにとの指示は出していない」(保安院検査課石垣室長)
       「地元の合意がなければ本格運転入りはできないと思う」(同上)
◆「津波で必ず全ての電源が喪失するわけではない」(安全委員会事務局 巣瀬巌氏)
◆福島原発事故の実態から意図的に目をそむけ、責任逃れに汲々とする国

 7月29日午後2時〜4時過ぎまで、参議院議員会館B107号室で「原発さよなら署名」第一次集約分の提出と政府交渉を行った。北海道、青森、岩手、福島、首都圏、京都、大阪、和歌山、島根、高知、福岡、佐賀から署名活動を進めてきた約80名が参加した。政府交渉は、福島みずほ議員の尽力によって実現した。政府側からは、原子力安全・保安院の検査課室長石垣宏毅氏、安全委員会事務局の巣瀬巌氏など8名が出席した。

◆10万筆を超える「原発さよなら署名」を提出。福島原発事故を繰り返してはならない。

 政府交渉の冒頭に、机に山のように積み上げられた「原発さよなら署名」107,985筆を提出した。玄海プルサーマル裁判の会代表の石丸さんは、「電気より生命が大事だということが事故によりはっきりしました。福島原発事故を二度と繰り返さないために、原発から撤退することを強く求めます。この署名は全国の皆さんの思いと汗の結晶です」とあいさつし、署名を手渡した。
 「原発さよなら署名」は、全国95団体の呼びかけで、福島第一原発事故一ヶ月後の4月16日に開始された。6月末の第一次集約と提出日までに集まった署名を提出した。ドイツなど海外からも約5千名の署名が寄せられた。原子力からの撤退と自然エネルギーへの転換を求めるこの署名は、玄海2・3号の運転再開反対や各地の原発の運転停止を求める活動、さらに福島の子どもたちを放射能から守るために取り組まれた年20ミリシーベルト基準撤回、避難拡大の運動など、事故後の各地の様々な活動と共に進められてきた。福島第一原発事故によって、生活の基盤を根こそぎ奪われた人々、被ばくを強いられた人々の「原発さえなければ」という苦悩と怒りと結びつきながら署名に取り組んできた。
 署名活動は初めてという方、3・11までは原発に関して無関心でいたという多くの皆さんが、原発から撤退する以外に、子供たちの生命や生活、環境や自然を守ることはできないと感じて、署名は広まっていった。福島原発事故を繰り返してはならないという強い思いが込められて、市民の手によって進められた。署名を集めていただいた多くの皆さんありがとうございました。
 私たちは、原子力からの撤退に向けて、まず、定期検査中の原発の運転再開を許さず、すべての原発が運転を停止する状況をつくりあげていくことを現実的な展望としている。そのため、泊3号の本格運転再開を阻止すること、経産省の緊急安全対策やストレステストの欺まん性に焦点をあて、参加者一丸となって追及した。交渉のポイントについて報告する。

◆4ヶ月以上も調整運転を続ける泊3号の停止を強く求める。
 ・「ズルズルと調整運転を続けるのは良くないので、止めるのか、最終試験を申請するのかのオプションを北電に提示した。最終試験を受けて本格運転を開始するようにとの指示は出していない」(保安院の石垣室長)
 ・「地元の合意がなければ本格運転入りはできないと思う」(同上)


 交渉ではまず、震災直前の3月7日に原子炉を起動し、4ヶ月以上も異常な調整運転を続ける泊3号の運転停止、本格運転再開をやめるよう求めた。事前に提出していた質問では、7月11日付の枝野・海江田・細野氏の見解で示されている、経産省の緊急安全対策だけでは、「原発の運転再開について国民・住民の十分な理解が得られている状況ではない」との見解について、泊3号もこの見解に含まれるのかを問うている。保安院検査課の石垣室長は「泊3号も含まれる」と認め、運転再開を断念して停止している玄海2・3号と「同じ対応になる」と回答した。同時に、泊3号の本格運転再開は「3大臣の政治判断で決まる」として、保安院自らの責任を棚上げにする発言を力なく繰り返した。
 福島みずほ議員も参加され、「保安院としてもズルズルと調整運転を続けることは良くないと言っている訳だから、まず調整運転を停止すべきではないのか」と厳しく問いただした。また、地元北海道からの参加者は、「前日28日の記者会見で北電社長は、保安院から本格運転に移るための最終試験を申請するよう指示されていると述べている」、保安院が本格運転を指示しているではないかと厳しく追及した。新聞報道でも、保安院の森山善範原子力災害対策監が、北電等に対して本格運転に入るよう指示をしていることが報道されていた。これに対して石垣室長は、「ズルズルと調整運転を続けるのは良くないので、止めるのか、最終試験を申請するのかのオプションを北電に提示した。最終試験を受けて本格運転を開始するようにとの指示は出していない」(保安院検査課の石垣室長)と語った。北電社長は保安院の指示で本格運転を再開したいと述べ、保安院はそのような指示はしていないと述べた。この両者の食い違いについては、後日確認することになった。
 さらに、北電社長は同日の記者会見で、本格運転再開の申請について「道の同意がなくても、国が受け付けると言うならば出す」と述べていた。一方、7月14日に北海道知事が国に出している質問に文書回答がないため、高橋知事は判断を保留している。高橋知事への回答について問うと、「まだ政府内部で調整中で回答していない」とのみ答えた。地元の同意なしに本格運転を進めていいのかと問われると、石垣室長は初め「電力と自治体の問題なので」と言葉を濁していたが、「地元の合意がなければ本格運転入りはできないと思う」と述べた。
 このように、北電と保安院の言動は食い違っていることになる。他方、26日に大阪市内で行われた関電交渉では、調整運転を続けていた大飯1号について、「保安院から本格運転入りの指示があった」と関電は述べていた。
 北電と保安院はそれぞれ自らの責任を回避している。こんな無責任な状態で泊3号の本格運転入りなど到底認められない。交渉で明らかになった保安院の言動を広範に知らせて、泊3号の運転を即刻やめるよう求めていこう。

◆緊急安全対策の命綱「タービン動補助給水ポンプは1台しかない」
「多重性はないが、津波で必ず全ての電源が喪失するわけではない」「がんばれるものでがんばってくれ」(安全委員会・審査指針課 巣瀬巌氏)


 泊3号は、ストレステストも受けず、経産省が安全宣言をした緊急安全対策だけで本格運転を再開しようとしている。この緊急安全対策は、福島事故で現実となった全電源喪失が起きても炉心溶融を防ぐことができるというものだ。その命綱が、蒸気で動くタービン動補助給水ポンプであり、それによって一次冷却水を自然循環させることになっている。
 交渉で保安院は、このタービン動補助給水ポンプは、各原発(PWR)に1台しかないと認めた。このような安全上重要な機器については、多重性(複数系統設置)が確保されていなければならない。しかし、1台しかないこのポンプが地震や津波が来ても確実に動くというのが緊急安全対策のシナリオだ。
 このように多重性がないポンプ1台で、どのように安全性が確保されるのか、1台限りでいいのかと安全委員会に問うた。すると審査指針課安全調査副管理官の巣瀬巌氏は、驚くべき発言を繰り返した。「津波で必ず全ての電源が喪失するわけではない」「非常用ディーゼル発電機は複数台ある」「前提が違うかもしれないが、忘れてならないのはECCS等も動くということ」。参加者は一斉に、福島原発事故の実態を知らないのか」「福島原発では全ての電源が喪失した。複数ある非常用ディーゼルも全て動かなかった」「ECCSは電源がなければ動かない。福島原発では動かなかった」「3・11前の一般論を述べているだけだ」と怒りの声をあげた。そして巣瀬氏は「がんばれるもの(機器)でがんばってくれということです」等と無責任な発言を行った。「それで住民の安全が守れるのか」等々、安全委員会のあまりにも「前提が違う」、事故の実態から目をそらした態度に抗議が集中した。
 安全委員会の安全設計審査指針27では、長時間の全電源喪失はあり得ないとしている。このことについて班目委員長は「間違っていた」と5月に認めている。この問題についても巣瀬氏は「福島は残念だったが、他の原発で、一挙に全ての電源が使えなくなるかは分からない」「非常用電源は多重性が確保されている」「現在審査会で専門家の先生方に審議してもらっている」と語った。参加者からは「推進派の専門家ではなく、地元住民の声を聞くべきだ」等々の批判の声が続いた。
 緊急安全対策の欺まんと、自らの安全設計審査指針が崩壊した現実から意図的に目をそむけている。あまりにも無責任で事故前の想定にしがみつく安全委員会の姿勢を多くの人々、地元自治体などに伝えていこう。安全委員会も保安院も、原発の安全性など眼中にはない。あるのは、自らの責任逃れだけだ。大事故を引き起こした後もこのような無責任な姿勢をとり続ける国に原発の運転継続など許してはならない。

◆福島原発事故の実態とは無関係なストレステスト

 福島原発事故以降、定期検査で停止している原発の運転再開について、国はストレステストを実施するという。このストレステストについて政府は、福島原発事故を踏まえたものだと表明している。では、福島原発の事故の実態は把握できているのか。東電が5月23日に出した報告書では、3号機の高圧注入系配管が地震で破損した疑いがある。これについて保安院は、交渉の前日に東電が出した報告書を持ち出し「当時作業員が部屋に入れたこと等が聴き取り調査で明らかになった。配管が破断しておれば高温の蒸気で近づけないはずなので、配管は破損していない」という新見解を持ち出した。しかし、なぜ今になってそのような報告書が出たのか、聴き取り調査はいつ行われたのか等の質問には答えられず、実態調査はまだできていないと認めた。
 さらに、タービン建屋に大量の高濃度汚染水が溜まっていることについて、漏えいルートは把握しているのかをたずねていた。これについては、原子炉建屋から移動したもの、雨水によるもの、地下水によるものが考えられるなどと述べ、原子炉建屋からタービン建屋に来ている配管が破損することにより漏洩している可能性はあると認めた。しかし、結局漏えいルートは確認できていないと認めた。
 このように、福島原発の事故の実態が把握されていないのに、ストレステストを実施して停止中の原発の運転再開を行うという。ストレステストの内容については、「裕度を明らかにするのが目的であり、○×はしない」「客観的な判断基準はなく、4者の政治的判断で決まる」と述べた。 また、再処理工場もストレステストの対象とする方向で検討していると述べた。参加者は「福島原発事故の全容も明らかにならないのに、解析のみのストレステストで原発の運転再開を判断するのはおかしい」と厳しくクギをさした。新潟、福島、愛媛県知事も、事故の実態に基づかないようなストレステストの結果では運転再開は認められないと述べている。ストレステストによる運転再開を断念させていこう。


 交渉後の交流会で、ほぼ同時刻に保安院が「やらせ」問題で記者会見を行っていたことを知った。参加者は、こんな保安院に泊3号の本格運転再開の許可など出させてはならない。全ての原発を停止させ、原子力からの撤退を早期に実現しなければと意思を強くした。
 「原発さよなら署名」の第二次集約は10月末だ。各地の運動と結びついて署名を拡大していこう。

(11/07/30UP)