5月21日の会議に向けて
福井県原子力安全専門委員会への要望書

福井県原子力安全専門委員会 委員 各位様

 次回5月21日の原子力安全専門委員会において、基準地震動に対する制御棒の挿入時間などを関西電力に確認すると報道されています。
 この件等に関して、以下の2点をぜひ関電に確かめていただきたく、およその趣旨を記述しますので、ぜひ真意を読みとっていただくよう要請いたします。

1.FoB−FoA−熊川断層が3連動した場合の基準地震動と制御棒挿入時間
 FoB−FoA−熊川断層の3連動問題については、1月27日に原子力安全・保安院から検討の指示が関電に出され、2月29日に関電が「参考」として、断層モデルによる地震動の評価結果を国に提出しました。その結果について、3月28日の国の地震・津波に関する意見聴取会に保安院が評価を提出し、その中で760ガルという関電の評価を妥当とするとともに、その地震動に基づく安全性評価を行う必要があると述べています。この保安院の評価は3月30日の貴委員会で報告されました。
 さらに4月23日の地震・津波意見聴取会に関電は、断層モデルだけでなく応答スペクトル法(距離減衰式)に基づく結果も報告しました。この2種類の方法での扱いは、耐震設計審査指針に基づくもので、事実上基準地震動として3連動を扱っていることを意味しています。この結果は5月8日の貴委員会で報告されました。
 このように、FoB−FoA−熊川断層の3連動は起こるべきものとして扱われており、しかも事実上基準地震動として扱われています。言葉の上で「仮に」とか、「念のため」とかということで、評価をあいまいにすることは許されません。これら一連の経過の中では、保安院が評価する必要があるとした3連動の場合の機器等の安全性評価はまだ検討されていません。それゆえ、制御棒挿入時間の問題もまったく未検討となっています。
 そこで、以下に3連動の場合の基準地震動と制御棒挿入時間の問題について、関電に確認していただきたい点を3点記述します。

(1)事実上の基準地震動について
 2月29日と4月23日に関電が国に提出した地震動(応答スペクトル)の解析結果では、断層モデルによる結果が支配的となっており、いくつかの線が従来の基準地震動Ss−1(700ガル)の線を越えています。関電はその中から1本の線を抜き出して760ガルと称していますが、それらすべての線を包絡するような線を引いて、改めて新たな基準地震動を策定することは行われていません。
 しかし実際に関電は、2009年3月頃には、基準地震動を包絡線によって決めており、その方式を国の委員会でも説明していました。ところが2009年秋に、断層の見直しなどで断層モデルによる結果がより大きな値を示すようになってからは、1本ずつの線を基準地震動とし、それにSs−2,Ss−3、・・・などと名前を付けるように変えています。
 そのようにしても、特定機器の固有周期のところではそれに相当するSsの値を考慮しているなどと言っていますが、その場合、最大加速度を決める0.02秒での値は小さく出るようになっています。実際の機器等はさまざまな固有周期をもつ部品の複合体であること、断層の破壊開始地点がさまざまであり得ることからも、やはり総合的な観点に立ち、包絡線を引いて基準地震動を策定すべきではないでしょうか。
 この点を5月15日に保安院の耐震関係担当者に聞いたところ、1本ずつを基準地震動にするような方式は別に決まっているわけではないということでした。
 以上に述べた考え方に立てば、断層モデルによる地震動(応答スペクトル)のすべてを包絡するような線を引いて、それを新たな基準地震動とするような、2009年初期に関電自身がとっていた評価方式になぜ立たないのかが問題になります。この点は5月8日の貴委員会でも問題提起されましたが、改めてぜひ関電に問いただしてください。

(2)制御棒挿入時間の評価について
 制御棒の挿入時間は原発の安全性にとって、まず「とめる」に関わる重要事です。大飯3・4号機の場合、現行2連動の場合の評価値は2.16秒で、評価基準値2.2秒の98%にまで迫っています。
 保安院は3連動の場合に、断層モデルによる1本の線を抜き出した760ガルという評価を妥当とし、その場合の安全性評価を行うことが必要だとしています。加速度が現行基準地震動の700ガルから、760ガルに増加した場合、保安院が推奨する線形予測で制御棒の挿入時間を推測することができます。そうすると、制御棒挿入時間は約750ガルで評価基準値の2.2秒を超えることになるので、760ガルでは基準値を上まわります。このような場合、何らかの補強工事等を行って、評価基準値以内に納めることが必要であることを、保安院は繰り返し認めています。
 保安院の担当者に5月15日に聞いたところ、関電は基準地震動の見直しを行っているとのこと、また、現行基準地震動による制御棒挿入時間は2.16ではなく、1.88秒となるよう見直しを行っているとのことです。しかし、このような見直した評価はまだ保安院に提出さえされていないことも事実です。
 他方、関電はストレステスト報告書の中で、JNESの実験結果を基に、1.8Ss(1260ガル)でも2.2秒で挿入されるかのような評価を出し、保安院は3月13日の原子力安全委員会の第5回総合的評価検討会での資料第5−3号の中でも、その趣旨を説明しています。しかし、このJNESの実験は基本的に安全裕度を見るための試験であって、それが直ちに基準になるというような性格のものではありません。耐震安全性評価の正当な手続きに従って、制御棒挿入時間の評価をすべきなのはいうまでもありません。
 現在の公認された評価に立つ限り、活断層3連動の場合に、過小評価である760ガルに立ってさえ、制御棒挿入時間は評価基準値を超えることは確実であり、これでは大飯3・4号の運転はできないと考えるべきではないでしょうか。この点をぜひ関電に確かめてください。

(3)クリフエッジ(崖っぷち)基準である1.8Ssと耐震安全性評価基準について
 関電は2月29日に政府に提出した「参考」において、3連動した場合の断層モデルによる結果は、現行基準地震動を超えるが、クリフエッジ(崖っぷち)である1.8Ss(1260ガル)より小さいので、「問題ない」と評価しています。ただし、ここでいう「問題ない」がどのような意味で使われているのかは、定かでありません。
 従来、耐震バックチェックにおいては、安全性の基準は評価基準値であるとされてきました。制御棒挿入時間に関しては、大飯3・4号機の場合は2.2秒がそれに相当しています。そして、評価値がこの評価基準値を超える場合、何らかの補強工事などを行って、評価値が評価基準値を超えないようにしない限り運転は許されないというのが従来の考え方です。現在もこの考えは生きているどころか、むしろ福島事故を受けてさらに厳しくとらえ直すべきです。
 この点については、3月28日の保安院見解によって、3連動の場合に760ガルを妥当とし、それに基づいて安全性評価をする必要があるとされています。しかし、関電は未だそのような評価を政府に提出していません。仮に提出したとしても、耐震バックチェックの手続きに従って公式の評価を受ける必要があります。

 以上に述べた考えに立てば、3連動の場合の安全性評価がなされていない現状において、大飯3・4号機の運転ができるという状態にはないと考えるべきではないでしょうか。この点をぜひ関電に確かめてください。

2.斜面の安全性評価について
 国の地震・津波に関する意見聴取会では、大飯原発の斜面の安全性評価について委員から多くの疑問が出されました。5月14日の同聴取会資料では、関西電力は1・2号機の斜面の滑落・崩落の危険性があることを認め、2014年頃から斜面の表層部を取り除く等の工事を行うとしています。
 他方、原子力安全・保安院は、5月15日の国会議員も出席した市民との交渉の場で、大飯原発の斜面の安全性評価について、評価はまだ終了しておらず、報告書をまとめるがその時期は未定であると述べました。
 また、15日の交渉では、斜面崩落の危険性について、福井県原子力安全専門委員会・福井県知事・おおい町長・おおい町議会に至急報告することを私たち市民団体は要請しましたが、これについて保安院は、検討すると回答しています。
 このような状況の中、斜面の崩落の危険性は大飯1・2号機の斜面だけに限られるのか、隣の大飯3・4号機の斜面には危険性はないのか、その安全性についても慎重に検討され、5月21日の貴委員会で関電に確認してください。
 さらに、関電からの説明だけではなく、保安院の評価報告がまとまってからその報告を受け、貴委員会として慎重な審議を行うべきではないでしょうか。

3.さらに、以下の点を要望します。
(1)活断層が3連動した場合の大飯3・4号機の制御棒挿入時間の評価について、国に問いただす場を委員会として設けてください。

(2)活断層が3連動した場合の大飯3・4号機の制御棒挿入時間の評価について、国が正式の評価手続きをとった評価を終了するまでは、大飯3・4号機の再稼働に関する判断はしないという態度を、貴委員会として明確に表明してください。

2012年5月20日

 グリーン・アクション
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(12/05/21UP)