2012年3月5日
井県議会議長 田中敏幸 様
福井県議会議員 各位 様
要望書

傍聴が認められない全員協議会で、
拙速に保安院の「安全対策の検討状況」を聞くことに抗議します。

大飯原発近傍の3つの活断層の連動を考慮すれば、
大飯原発の耐震安全性は成り立ちません。

古文書の津波に関する調査結果を待つべきであり、
調査範囲も丹後半島まで広げるべきです。

福井県議会は、全員協議会で原子力安全・保安院から「安全対策の検討状況」に関する報告を聞くことを決め、本日(3月5日)午後に開催されようとしています。私たちは、以下の理由からこれに抗議します。

理由1.
大飯原発3・4号のストレステスト結果については、原子力安全委員会の検討会で現在審議が続いています。2月29日に行われた同検討会でも、「ストレステストの二次評価との関係はどうなっているのか」「想定津波高さは妥当なのか」等々多くの委員から質問や意見が出されました。このように国の審議が続いており、安全基準も判断基準も不明確な現状である今、果たして保安院の説明を聞く必要があるのでしょうか。「運転再開と切り離した勉強会」といえども、保安院の説明をこの時期に聞くことは、大飯3・4号の運転再開を急いでいる国に同調しているのではないかと、多くの人々が危惧することにつながります。(※注1)

理由2.
全員協議会は、一般傍聴やインターネット中継も認められずに開催されようとしています。地元合意が重要というのであれば、リスクを負う恐れのある住民が、そのリスクを理解したうえで判断をくだせるためのしくみが用意されるべきではないでしょうか。多くの県民、全国の市民が福井県議会の動向を注視しているなか、このような秘密主義的な開催の在り方そのものに大きな疑問をもたざるを得ません。


また、全員協議会を開く以前の問題として、以下の問題があることをお伝えします。

3月1日に参議院議員会館で、福島みずほ議員に対する保安院からのレクチャーが行われました。市民もその場に同席したため、そこで明らかになった点を下記にご紹介します。(保安院からの出席者は末尾に記しています)

1.ストレステストは「運転再開の安全性判断である」――知事と異なる見解
福井県の原子力安全専門委員会は、2月20日に保安院から説明を受けた際に、「ストレステストは運転再開の安全性判断ではない」と確認をしています。また、西川知事は何度も「ストレステストは運転再開の安全性判断にはならない」と繰り返してきました。しかし、3月1日に、保安院は、「ストレステストが運転再開の安全性判断だ」と述べました。これは、西川知事や原子力安全専門委員会の見解とは異なります。
また、保安院は「福井県が求めている『暫定的な安全基準』の中身が分からない」とも語っていました。このような保安院の姿勢を認めてしまってよいのでしょうか。

2.大飯原発近傍の3つの活断層の連動性を考慮すれば、耐震安全性は成り立ちません (※2)
関西電力が2月29日に公表した資料に基づけば、3つの活断層が連動して動けば、揺れは現在の基準地震動700ガルを超え、約1000ガルにもなります。
そうなれば制御棒挿入時間は「評価基準値(許容値)」を超え、炉心溶融を防ぐことはできません。
保安院は、「『評価基準値』を超えた場合は運転できない」と明確に認めています。
この重要な問題について、専門家の意見も聞き、検討してください。

3.古文書の津波調査を政府は事実上無視しようとしています
(1)古文書にある津波の形跡調査を、これまでの範囲を広げて調査することになっているのに、その結果を待たずに運転再開について結論を出そうとしています。この津波跡の再調査の結果が出るのは、11月頃の予定ですが、「運転再開とは切り離す」と保安院は述べています。(※3)

(2)津波調査の範囲を三方五湖の東側に限っていますが、丹後半島方面を調査するよう京都府知事と府下の全市町村長から昨年6月に要望が出されています。また、福井県も文部科学省に対して改めて調査を要望されました。ところが保安院は、丹後半島の津波調査は行わないと答えました。京都府からの要望に対しては返事さえ出さずに完全に無視する姿勢でいることを3月1日に確認しました。(※4)


 以上のように、政府は、大飯原発の安全上の重要な問題を考慮することなしに、急ピッチで運転再開を進めようとしています。これらの問題について、県議会をはじめ、県民や周辺の市民の声を聞き、各所で十分に議論されることを求めます。


3月1日の福島みずほ議員へのレクに出席した保安院職員
 原子力発電検査課 企画班長:今里和之氏/原子力安全技術基盤課(ストレステスト担当) 企画班長:田口達也氏/耐震安全審査室 上席安全審査官:御田俊一郎氏ほか

提出者:
原発設置反対小浜市民の会
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
グリーン・アクション
森と暮らすどんぐり倶楽部
ブルサーマルを心配するふつうの若狭の民の会
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン 

[参考]
(※1)◆ストレステストは福島原発事故の知見を踏まえていない
福島原発事故の実態や原因は、いまだ解明されておらず、国の事故調査委員会の結論もまだ出されていません。ストレステストの目的が「福島発事故を起こしたような地震や津波があっても、福島のような事故にならない」ことを担保するためならば、まずは、福島原発事故の原因究明が先のはずです。

また、安全対策というのであれば、福島原発事故の教訓をもとに『考えうる最悪のシナリオ』が現実になった時でも、原発の安全性を担保できることが求められます。例えば、大雪の日の深夜に巨大地震が起き津波が引き起こされた場合などです。

しかし、ストレステストでは、建屋の火災発生は想定されておらず、放射線量が非常に高く作業員が原子炉に近づけなくなる可能性も検討されていません。また、非常用電源設備燃料のガソリンをヘリコプターで供給するとしていますが、福島原発事故の際には、余震、ガレキ、高線量のなかで水を上空から撒くことすらままなりませんでした。

(※2)◆大飯原発近傍の3つの活断層の連動性を考慮すれば、耐震安全性は成り立ちません
・関西電力が2月29日に公表した資料に基づけば、3つの活断層が連動して動けば、揺れは、現在の基準地震動700ガルを超え、約1000ガルにもなります。
・そうなれば制御棒挿入時間は「評価基準値(許容値)」を超え、炉心溶融を防ぐことはできません。
・保安院は「『評価基準値』を超えた場合は運転できない」と明確に認めています。

保安院の指示によって、関電は2月29日に活断層の連動性についての報告書を提出しました。そこでは、これまでの評価を変える必要はないと結論づけています。例えば、従来通り、大飯原発近傍のFo-BとFo-Aの2本の海底活断層の連動だけでよしとし、陸地の熊川断層を含めた3つの活断層の連動を考慮する必要はないとしています。

しかし、関電は「参考」として、この3つの活断層が連動した場合の評価を提出しました。関電の評価でも、3連動を考慮すれば、現在の基準地震動である700ガルを超え、約1000ガルにもなります。これに対して関電は、「ストレステストで1.8倍の余裕があるため大丈夫」としていますが、これは話が違います。ストレステストは「余裕」をみるものです。しかし耐震安全性評価では、近傍の活断層から基準地震動を計算します。それをもとに、機器の耐震安全性について、「評価基準値」を超えないことが必要です。例えば、現在の2連動だけ評価でも、制御棒挿入時間は、評価値が2.16秒、評価基準値が2.2秒で、余裕はわずか2%しかありません。三連動を考慮すれば、制御棒挿入時間はさらに長くなり、「評価基準値」を超えてしまいます。3月1日に保安院は「評価基準値を超えた場合は、原発の運転はできない」と認めました。

このように、3つの活断層が連動して動けば、大飯3・4号の耐震安全性は成り立たなくなります。このように、大飯原発の耐震安全性にとって重要な問題が浮上しています。これらについて、地震の専門家の話を聞いて、じっくり検討すべきではないでしょうか。

(※3)◆津波跡の再調査結果は5月、11月に――しかし、「これは再稼働とは関係ない」
津波跡調査については、「地震・津波に関する意見聴取会」の委員から、三方五湖周辺で関西電力等が行った調査は不十分であるとの意見が多く出され、現在再調査が始まっています。この調査結果は、天正地震に関する調査結果が5月頃に、また総合的な調査結果は11月頃になります。

しかし、3月1日に保安院は、「津波跡の再調査と再稼働は関係がない。再調査の終了を待つことはない」と述べました。再調査の結果を踏まえて、運転再開の安全性について判断するべきではないでしょうか。

(※4)◆京都府知事などが求めた丹後半島の津波調査――「やらない」
昨年6月に、京都府知事ならびに京都府下の全市長、町長は連名で、「過去の日本海丹後地域における文献等も踏まえ・・・科学的調査をすみやかに実施し、その結果を情報提供すること」を求めています。

しかし、3月1日に保安院は、「丹後半島の津波調査はやらない」「京都府の要望については回答していない」と述べました。宮津市の真名井神社の波せき地蔵には、約1300年前の大宝年間の大津波をここで切り返したとの伝承があります。波せき地蔵は標高約40mの高さにあり、津波がいかに巨大なものだったかを示唆しています。また「丹後風土記残欠」や「舞鶴市史」でも大津波の記録があります。このような伝承や文献に真摯に向き合い、京都府知事などの求める応えるべきではないでしょうか。

丹後半島の津波は、大飯原発に大きな影響を与えます。西川知事は、「若狭地域で大津波の切迫性がない」とした保安院の見解に対し、文科省に見解を示すよう2月23日求めています。しかし現在の保安院の姿勢では、これも否定することになってしまいます。

(12/03/05UP)