関西電力の「緊急安全対策」及び地震・津波想定
に関する疑問を踏まえた要望書

福井県知事 西川一誠 様
福井県安全対策検証委員会 御中
委員各位様

 福島第一原発では、炉心溶融や使用済燃料プールの冷却喪失によって重大事故が起こりました。大量の放射能放出による被ばくと汚染は深刻を極め、生活の基盤は根こそぎ奪われ、将来にわたって生活と健康が脅かされています。関西に住む私たちは、若狭の原発で同様の事故が起こることを深く憂慮せざるを得ません。とりわけ、生命の水瓶である琵琶湖が放射能汚染されることを強くおそれています。
 関西電力は、3月30日付の「経済産業大臣からの福島第一・第二原発事故を踏まえた緊急安全対策の実施指示」を受けて、「緊急安全対策に係る実施状況の報告」を4月14日に提出し、4月27日にはその改訂版を提出しました。
 この緊急安全対策や関電の地震・津波評価で、若狭の原発では炉心溶融が起こることはないと言えるでしょうか。この点に私たちは下記に述べるような強い疑問を抱いています。
 その疑問点を踏まえ、人々の生命と健康、生活、環境を守るために、すべての原発を止めるよう判断をしてくださることを要望いたします。

関電の「緊急安全対策」及び地震・津波想定に関する疑問点

1.緊急安全対策で想定されている全電源喪失の安全設計審査指針上の位置づけについて
 3月30日付国の緊急安全対策の指示は、全電源喪失を前提にしています。これについて原子力安全委員会の班目委員長は、「安全設計審査指針は『長期間にわたる全電源喪失を考慮する必要はない』と規定しており、『明らかに間違い』と述べた」と報道されています(5月20日付毎日新聞)。確かに、安全設計審査指針の指針27「電源喪失に対する設計上の考慮」では原子炉施設は、短時間の全交流動力電源喪失に対して、原子炉を安全に停止し、かつ、停止後の冷却を確保できる設計であること」と規定しています。
 原発は安全設計審査指針に基づいて設計・建設されています。結局、現存の原発はすべて、全電源喪失は設計上基本的にあり得ないという仮定に立って建設されているため、全電源喪失に設計上耐えられないのは自明なことではないでしょうか。

2.天正大地震に伴う津波の評価について
 山のような津波によって人々や家屋が流され、若狭湾に甚大な被害をもたらした1586年の天正大地震が大きな衝撃を人々に与えています。これに対して関電の津波想定はせいぜい3m以下となっています。
 関電は天正地震のことを1981年に知っていたとのことですが、それにもかかわらず低い津波想定にしていました。また関電は、天正地震についてこれから調査するかどうか検討するとしか言っていません(5月27日プレスリリース)。天正地震の高い津波を想定すれば、全電源喪失は避けられないと関電は率直に認めるべきではないでしょうか。

3.地震の評価について
 地震のマグニチュードに関する関電の想定は、美浜原発でM7.7、大飯・高浜原発でM7.4であり、今回の地震規模のせいぜい90分の1程度となっています。活断層評価でも和布−干飯崎沖断層と関ヶ原断層を切り離しています。
 原発震災を訴えてきた石橋克彦氏は、次は若狭の原発が最も危険だと強調しています。今回の地震と同規模の地震が起こることを関電は率直に認めるべきではないでしょうか。

4.タービン動補助給水ポンプに全面依存する危険について
 3月30日付の国の指示が示したチャート「PWRにおける津波発生時の事象と対応策」では、炉心冷却は「タービン動補助給水ポンプによる蒸気発生器2次側への給水冷却」に全面依存しており、関電の対策もそれに従っています。
(1) タービン動補助給水ポンプは原発の各号機に基本的に1台しかなく、安全性を保証するための多重性を満たしていません。

(2) 各原発では、このポンプはディーゼル発電機と同じ階にあるか、より下の階にあります。ディーゼル発電機が機能喪失するのに、なぜこのポンプは健全だと言えるのでしょうか。

(3) このポンプはこれまでしばしば故障を起こしています(2000年代だけで6件)。それなのに、地震と津波に襲われた条件のもとで、けっして故障しないという保証はどこにあるのでしょうか。

(4) 福島第一原発3号機では、高圧注水系配管が地震動によって破損したことが強く示唆されています。タービン動補助給水ポンプの系列配管が地震によってけっして破損しないという保証はありません。

(5) タービン動補助給水ポンプが動かない場合、炉心冷却の手段は他にはないと思われます。

5.電源車が実際に働くかどうかについて
(1) 電源車は高い位置に置かれていて、そこから所定の接続位置まで移動させることになっています。その経路が地震によって著しく破壊されることがないという保証はありません。
(2) 特に美浜原発の直下には活断層があり、地面が段違いになる可能性があります。
(3) 電源車等には敷地内1カ所の燃料タンクからタンクローリーで燃料を運ぶことになっていますが、その経路が地震によって破壊されないという保証はありません。
(4) 各原発の電源車等への長期的な燃料の補給はどこから行うのか明らかにされていません。そのアクセス道路は1本しかなく、その道路が地震によって破壊されないという保証はどこにもありません。

6.住民の避難、琵琶湖の汚染について
 関電の原発で重大事故が起これば、周辺住民は放射能に襲われます。アクセス道路が1本しかなく、それが原発の傍を通っている場合、住民はどのようにすれば安全に避難できるのでしょうか。
 また、関西の生命の源である琵琶湖が数時間で放射能によって汚染されてしまい、甚大な被害が発生することは避けられません。

要  望  事  項

1.上記の疑問点について、福井県安全対策検証委員会で慎重に検討してください。

2.上記の疑問点について、関電が福井県民や広く関西の人々に、公的な場で納得のいくよう説明し疑問点に答えるよう、関電に求めてください。

3.すべての原発を直ちに停止してください。
 上記の疑問が存在する限り、全電源喪失−炉心溶融−格納容器内の水素爆発によって、壊滅的な放射能被害が生じる恐れが十分にあるというべきです。
 人々の安全を何よりも重視すれば、すべての原発を止める他に選択肢はありません。現在定期検査で停止中の原発はそのまま停止し、運転中の原発は直ちに停止するように関電に求めてください。

4.調整運転を続ける大飯1号の運転を直ちに停止してください。
 大飯1号は、地震前日の3月10日に原子炉を起動し、ほぼ3ヶ月も100%出力で運転を続けています。国の最終検査を受けることもなく、また地震・津波に対する安全性が確認できないものを運転し続けることは許されません。大飯1号の運転を直ちに停止するよう関電に求めてください。

2011年6月8日

琵琶湖の水がみんなのいのち・さよなら原発ネットワーク
 NPO地球とともに/(株)よつ葉ホームデリバリー京滋/京都・水俣病を告発する会/グリーン・アクション/コープ自然派京都/コープ自然派奈良/脱原発へ!関電株主行動の会/脱原発わかやま/日本熊森協会滋賀県支部/毎月26日のランチタイムに関電前に集まる女たち/美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会/若狭の原発を案じる京都府民

 連絡先
   グリーン・アクション
     京都市左京区田中関田町22-75-103 TEL 075-701-7223 FAX 075-702-1952
   美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)
     大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル3階 TEL 06-6367-6580 FAX 06-6367-6581

(11/06/08UP)