劣化ウランは広範囲・半永久的な放射能汚染をもたらし、深刻な被曝被害を引き起こす
最悪の非人道兵器=劣化ウラン兵器を使う
アメリカの対イラク戦争に反対しよう




写真:J.B. Russell氏のホームページより
 アメリカの対イラク攻撃は、最初の1日で300〜400発の巡航ミサイルを打ち込むなど、高密度の集中した空爆を加え、極短期間でイラクを徹底的に破壊・崩壊させるというものです。当然、劣化ウランの使用が疑われる貫通爆弾も大量に投下されることになります。対イラク戦争でまきちらされる劣化ウランの量は、前回の湾岸戦争とは比較にならないほど膨大なものとなるでしょう。また、湾岸戦争の場合、南部の砂漠地帯が主戦場でしたが、今回は首都バグダットとその周辺が主戦場になると予想されます。貫通爆弾は、バクダットを中心に地下施設を破壊するために使用されます。戦車部隊を中心とした陸上部隊もバグダットの近くまで押し寄せ、劣化ウラン弾を使うでしょう。人口が密集している都市部に劣化ウランがばらまかれることになるのです。たとえ同じ量の劣化ウランであったとしても、その被害の大きさは前回の比ではありません。
 劣化ウランは45億年の半減期を持つ放射性物質です。環境中にまきちらされれば、その影響は極めて広範囲に及び、

劣化ウラン使用の疑惑がもたれている貫通爆弾GBU-24
長期間持続します。汚染の除去も環境の回復も不可能です。さらに劣化ウランは、アルファ線と呼ばれる強い放射線を出します。体内に蓄積された劣化ウランは、内部被曝によって、癌・白血病、先天性の異常、その他全身にわたる様々な疾病・障害を引き起こします。特に身体が弱く、成長期の子ども達に被害が集中します。劣化ウラン弾は、その被害の持続性、不可逆性、無差別性からして明らかな非人道兵器であり、その使用は戦争犯罪に他なりません。
 すでにアメリカは、1991年の湾岸戦争において320d(英国原子力公社によれば700万人を死亡させる量)もの劣化ウランをイラクにばらまきました。その結果、子ども達の間で惨たらしい被害が発生しています。アメリカは、その子ども達とイラクの人々の上に、再びより大規模に劣化ウランをまきちらし、さらなる苦しみを与えようとしています。私たちは、アメリカの対イラク戦争と日本の戦争協力に断固反対します。最悪の非人道兵器=劣化ウラン兵器の使用は断じて許せません。

劣化ウラン弾とは核燃料の製造過程で出るゴミから作られた兵器
 劣化ウラン(DU)とは、原発で使う核燃料の製造過程(ウラン235の割合を高めるための濃縮工程)で出てくるゴミです。非常に大きい密度を持つため、戦車の装甲を打ち抜くための砲弾の材料としては最適な物質です。また、アメリカでは過去50年の間に、すでに50万d以上もの膨大な量の劣化ウランが作り出され、廃棄物として貯まり続けています(アメリカに濃縮を委託している日本の原発から出た分も含まれており、兵器転用の疑いがあります)。そのため、非常に安い値段で材料を入手することができる上、兵器として他の国にばらまくことで、廃棄物処分もできてしまうという一石二鳥の効果があるのです。1991年の湾岸戦争では、劣化ウランは戦車砲弾や航空機の機銃弾として使用されていましたが、1997年以降アメリカは、貫通爆弾や巡航ミサイルなど、さまざまな兵器に劣化ウランを大量に使うようになっていると言われています。

劣化ウランは核燃料とほぼ同じ強さの放射能を持つ核燃料物質
 劣化ウランは核燃料に較べて、核分裂性のウラン235の含有量は少なくなっています。しかし、核燃料と劣化ウランのどちらも、成分のほとんどを占めているのは、核分裂しにくいウラン238です。ウラン238もアルファ線と呼ばれる強い放射線を出すため、劣化ウラン(ウラン238:99.8%+ウラン235:0.2%)の単位重量あたりの放射能は、核燃料(ウラン238:97%+ウラン235:3%)に対して、約88%までにしか下がりません。放射能という点では核燃料とほとんど一緒なのです。日本の法律では、劣化ウランは核燃料物質に分類されています。輸送容器の中や原子力施設内で厳重に保管されるべき危険物であり、環境中に放出することは許されません。当然アメリカ国内でも厳重な管理が義務づけられています。アメリカ政府と軍は、核燃料と同様の危険な放射性物質を、兵器として他の国にまき散らしているのです。

米軍帰還兵とその家族に湾岸戦争症候群とよばれる多様な疾患が多発
 湾岸戦争に従軍した兵士の間で、癌・白血病、免疫不全をはじめ、全身にわたる様々な疾患が多発しており、総称して湾岸戦争症候群と呼ばれています。戦争後退役し、退役軍人省の給付の有資格者となっている50万4,047人の内、52%に当たる26万3,000人以上もの帰還兵が、体調の異変を訴え、政府・退役軍人省に医療を要求しています。また、37%に当たる18万5,780人が、病気や障害による就労等の不能に対する補償を要求しています。帰還兵のおよそ半数近くが何らかの健康被害を訴え、すでに9600人以上の帰還兵が死亡しています。戦場での劣化ウランへの広範囲・大規模な被曝が、この異常なまでの数の健康被害を生みだしたことは疑いがありません。湾岸戦争症候群に罹っている帰還兵650人を対象とした調査によれば、彼らが訴えている慢性的な症状は、脱毛や頭痛、関節痛、胃痛、下痢から記憶障害、睡眠障害等々、多岐にわたります。症状の多様性が、劣化ウラン被害=湾岸症候群の一つの特徴です。苦しんでいるのは帰還兵本人ばかりではありません。帰還兵の子ども達の間でも、先天的障害など深刻極まりない被害が発生しています。

イラクでは癌・白血病が多発−DUによって1万人以上の人々が癌にされた
 国土に320dもの劣化ウランをまきちらされたイラクでは、戦場に近い南部の都市バスラを中心に、癌・白血病が3倍〜7倍に増加しています。さらに最近の報告では、1999年以降、さらに急激な勢いで癌・白血病が増加していると言われています。バグダット大学医学部のジョルマクリー医師によれば、白血病の増加が特徴的で、バスラでの小児白血病(悪性)の発生数は、1994年〜1998年は24〜25人で推移していましたが、2001年は70人となっており、ここ2、3年における増加傾向が明確です。これまでの被害は潜伏期間に過ぎず、これからさらに被害が本格化するのかも知れません。
 イラク保健省は、イラク全体での年間の癌登録件数が約1800件増加したことを明らかにしています(1991年と1997年の比較)。この数字は、人口増加と比例した癌発生の自然増分を考慮に入れても、年間1000人以上の人々が過剰に癌に罹っていることを示しています。この数字は最低限の見積もりです。なぜなら、戦争と"制裁"によって破壊されたイラクの医療システムの下で、すべての癌患者が捕捉されているとはとても考えることができないからです。湾岸戦争後1991年から2002年までの間に、劣化ウランが原因と考えられる、およそ1万人以上の癌患者の過剰発生があったと評価しても決して過大評価にはならないでしょう。

イラクでは50万人以上の子ども達が死亡−癌はDU被害全体の氷山の一角
 被害は癌・白血病だけではありません。湾岸戦争後に産まれた子ども達の間で、四肢、眼、耳、鼻、舌および性器の変形、あるいは、欠損といった先天的障害が頻繁に現れています。また、癌は被害全体の氷山の一角に過ぎません。水面下には、湾岸帰還兵が示しているような、様々な姿を取った慢性的な疾病の広大な裾野が広がっているでしょう。劣化ウランによる免疫不全は、感染症とその死亡の増大要因として働き、軽微なものも含めて様々な先天的疾患は出生後の乳幼児死亡率を引き上げていると考えられます。劣化ウランによる汚染は、イラクの悲惨な現状を、拡大、増幅する役割を果たしているに違いありません。
 1999年にユニセフは、イラクにおける乳幼児死亡率の顕著な増加を明らかにし、1991年から98年までの8年間に死亡した全乳幼児のうち、約50万人が"制裁"のために死亡したのだと発表しました。現在では、その数はさらに増大し、おそらく70万人以上の子ども達が直接には戦争と"制裁"によって、そして少なからず劣化ウランの被害によって殺されていることになるでしょう。

劣化ウランは微粒子となって飛散し、広範囲な汚染と被曝被害を引き起こす
 劣化ウラン弾は、ターゲットとなった戦車を貫通しながら激しく燃焼し、車輌内の兵員を殺傷し、車輌を炎上させます。燃焼の結果、弾芯の金属ウランは酸化物の微粒子となります。これらの微粒子は大気中に浮遊するエアロゾルとなり、風に乗って広く拡散します。現地調査等から、最低でも40km、あるいはもっと遠距離まで劣化ウランのエアロゾルが到達すると指摘されています。
 エアロゾル化した劣化ウランは呼吸を通して容易に肺に取り込まれるため、非常に危険です。肺に入った劣化ウランは、そのほとんどが不溶性の酸化ウランとなっているため血液に非常に溶け難く、肺組織に付着したまま長期間残留します。そしてアルファ線と呼ばれる放射線を出し、周囲の肺細胞を損傷し続けます。
 従来、ウランは比較的早く体外に排出されるものと考えられてきました。しかし、被曝から7年が経過した後でも、帰還兵の尿あるいは精液から、通常よりも高い濃度で劣化ウランが検出されています。おそらく、肺に残留した劣化ウランの微粒子が、徐々に血流に溶けこんでいくことで、慢性的な内蔵や組織の汚染を引き起こしているものと考えられます。
 また従来、ウランはもっぱら腎臓と骨に蓄積し、化学的毒性による腎障害のみが問題であるとされてきました。しかし、最近の動物実験の結果、身体のあらゆる組織、睾丸や胎盤、リンパ節、脳髄にまでウランが蓄積され、免疫の低下を引き起こしたり、脳活動に影響を与えたりする可能性があることが分かってきました。また、胎盤を通して胎児にも蓄積し、骨変形等の奇形を引き起こすことが明らかにされています。

劣化ウランはアルファ放射能としての特別の危険性を持つ
 劣化ウランはアルファ線とよばれる放射線を放出します。アルファ線の到達距離は短いのですが、高いエネルギーをもっており、細胞に当たると重大な影響を及ぼします。体内に取り込まれた劣化ウランは、アルファ線による打撃を近傍の細胞に集中的に浴びせ、前癌細胞を密集して発生させることになります。米国のタンプリン博士やコクラン博士は、ホットパーティクル仮説として、そのような局所的で密集した前癌細胞を発生させるような被曝が、全身に平均化されて受ける被曝よりも、発癌の可能性をはるかに高める危険性を警告し、ICRP(国際放射線防護委員会)はアルファ放射能による内部被曝を10万の分の1以下に過小評価していると批判しました。ゴフマン博士の示した試算※に従って計算すれば、25歳の喫煙者に対する劣化ウランの肺癌吸入量(100%の確率で致死的な肺癌が生じる吸入量)は、約50ミリグラムとなります。米粒よりも小さいかけらでも、微粒子となったものを吸い込めば確実に癌が発生するのです。
 アメリカ政府・軍や、原子力擁護の学者達は、口を揃えて「線量が低すぎて影響が出るはずはない」「理論的にありえない」「ストレスが原因」等々と主張しています。「従来知見で説明できない」というように従来の知見を絶対化し、現実を否定するというのが彼らの常套手段です。確かに、劣化ウラン弾による環境と人体への影響は、想像を超えた大きさと深さを持っています。多くの点が未解明です。しかしだからこそ、現実に発生している被害から出発し、劣化ウランの人体影響に関する知見をより正確にし、精密化し、豊富化していくことが必要なのです。それこそが、真に科学的で責任ある態度です。※:「人間と放射線」J.Wゴフマン著 1981年
 アメリカにこれ以上劣化ウランを使わせてはなりません。イラク戦争反対の声をあげていきましょう。


アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
2003年2月