【雑誌ネイチャー最新号の論文紹介】

汚染:食べ物や水中のチェルノブイリの遺産


 食べ物や水の中の放射性セシウムというチェルノブイリの遺産は、当初予想されていたよりも100倍も長く残留する。このショッキングな研究結果が、イギリスのJ.T.Smith達6名によって雑誌「ネイチャー」2000年5月11日号に発表されている。このような傾向は、すでにノルウエイの湖の魚について指摘されていたが、今回新たなデータによって確証されたのである。
 当初のセシウム濃度が早く減衰すると予想されたのは、事故後2〜3年以内の早い減衰傾向をそのまま延長したものであった。ところが実際は、3年目あたりから放射能濃度はなかなか減衰しないようになり、イギリスやノルウエイの淡水魚は、1kg当たり約1000Bqもの高濃度をほとんど維持している。環境中の半減期は当初1−4年だったのが、増加して6−30年になるというように、セシウム137の物理的半減期である約30年に近づいているとさえ、この論文の中で言われている。
 この原因は、土壌中のセシウムが当初予想されたような不可逆過程で土壌から一方的に放出されるのではなく、むしろ可逆的に吸着と放出を繰り返し定常状態を保っていることにあると指摘されている。つまり土壌のセシウム汚染が減衰しないために、食べ物の汚染も減衰しないのである。
 この論文の研究結果によれば、例えばイギリスにおける羊の肉を食料とすることへの制限は、今後さらに10−15年間は持続させる必要があり、それは当初の予想より100倍も長いのである。さらに、旧ソビエト連邦のいくつかの地域では、森の木の実やキノコなどが現在でも1kg当たり1万〜10万Bqもの高濃度に維持されており、今後少なくともさらに50年間は食料への制限が維持される必要があると主張されている。



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