声       明

IRPA第10回広島大会を皮切りとした
ICRPによる
放射線防護基準の根本的改悪策動に反対する

ICRPの改悪の先取り=東海村臨界事故の被曝者切り捨てを許すな


 国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射線防護基準の根本的な改悪策動を進めている。広島で開かれる国際放射線防護学会(IRPA)第10回大会(5/15〜19)を皮切りに、その公然たるキャンペーンを開始しようとしている。来日するクラークICRP委員長は5月17日、平和記念公園内の会議場において講演を行い、合意形成に向けた第1歩にしようとしている。
 改悪の内容は、@線量限度(公衆1mSv/年、職業人20mSv/年<日本は現行50mSv/年>)を廃止し、「政策的・実務的しきい値」に他ならない「対策レベル」(30mSv/年)を導入する。30mSvまではあびるにまかせよ。Aさらに集団線量に基づくリスク評価を廃止するというものである。住民・労働者に一層の被曝を強要し、原発の廃炉等にともなう膨大な核廃棄物処分を安上がりに行うことを狙っている。
 それは単なる量的な緩和策動ではなく、従来の放射線防護基準の枠組みそのものを根本から改悪するものであり、住民と労働者に無制限に被曝を強要するフリーハンドを政府当局と原子力産業に与えるものである。
 私達は、ICRPによる放射線防護基準の根本的な改悪に断固反対する。私達は、被爆地広島で、被曝者を切り捨てる被曝基準改悪のキャンペーンが開始されることに対して特別の憤りを覚える。
 日本政府とそのお抱えの学者たちは、東海村臨界事故の被曝被害切り捨てで、ICRPの防護基準改悪を先取りし、そのお先棒を担いでいる。東海被曝者の切り捨ての中心となったその同じ人物たちが、この基準改悪のための会議のホストとなっていることに、二重の怒りを感じている。私達は、東海村臨界事故の被曝住民の切り捨てを許さない。

 東海村臨界事故は、多くの住民と労働者の被曝事故である。すでに二人が事故の犠牲となって亡くなった。周辺住民は、国によって「いわれなき被曝」を強要された。私達のひかえめな試算(科技庁の試算に中性子線の危険を2倍にした)でも、少なくとも1000人以上の人々が1mSv以上の被曝を被っている。地元住民の間では、事故直後から体調の異変が起こっている。さらに、今後数年から、10年、20年後に現れるであろうガン・白血病等々に対する不安が高まっている。
 しかし、政府は住民の訴えを無視し、3月31日、健康管理検討委員会がまとめた「最終報告」で被曝被害をばっさり切り捨て、闇に葬り去ろうとしている。
 「最終報告」は@中性子線の人体影響を過小評価し、A50〜200mSvという実務的政策的「しきい値」を設定し、Bさらに集団リスク評価を意図的に回避し、ガン死の危険性を具体的に認めない。これらによって、被曝被害を否定し、特別な健康管理は一切必要ないと結論づけている。
 さらに彼等は、これを今後の「被曝管理指針」にしようとしている。健康管理検討委員会のメンバーは、ICRPの日本の代表者たちであり、今大会の担当主催者たちである。彼らは、ICRPの基準改悪の先導役を勤めようとしている。「50mSv以下は切り捨て」、「クラークを呼んでくれば100mSv以下はもう常識」(長瀧重信:放影研理事長、健康管理検討委員会主査)等々の発言を繰り返し、東海村臨界事故の被害者を切り捨てている。

 アメリカを中心とする、原子力を推進する政府や原子力産業界は、現行の防護基準を大幅に緩和させるようICRPに圧力をかけている。彼らはとりわけ、現行の防護体系が前提にしている、「しきい値なし」理論(被曝しても安全な放射線レベルはないという周知の事実)と、「集団線量」によるリスク評価(放射線の影響を被るすべての人口集団と全期間にわたる被曝を問題にしなければならないという当然の評価手法)に攻撃の矛先を向けている。彼らの狙いはただ一つ、原発事故の後処理や日常的な放射能の排出、そして再処理・廃炉・核兵器製造工場閉鎖に伴う大量の核廃棄物処理にかかる、膨大な費用を節約することである。労働者と一般大衆に大量の被曝を強要することで、自らが生み出した膨大な核廃棄物の処理等々を安上がりに行うことを狙っている。
 一方、チェルノブイリ事故やセラフィールド周辺住民等の被害はますます深刻になり、またその因果関係が明らかにされつつある。現行の防護基準ですら人々の健康を守るには全く不十分であることを、現実が示している。どんなに低レベルの放射線でも人体に対し様々な障害を引き起こし、またその影響は子孫にも及び、将来にわたって蓄積されていくということが、最新の科学的知見によって一層明らかにされている。
 しかし、クラークとICRPは、一方で「しきい値なし」という科学的事実を承認しながら、他方で原子力産業の要求を全面的に受け入れ、既存の規制の枠組みそのものを取り去ろうとしている。科学的根拠は何もない、政治的、権力的な事実上の「しきい値」の押し付けに他ならない。あからさまな被曝者切り捨ての論理である。「個人ベース」の防護と称して「集団線量」を廃止することは、確率的にしか評価し得ない大量の個人、将来の世代の人々への影響を切り捨てることである。

 私達は、東海村臨界事故の被曝被害の切り捨てを許さない運動を通じて、ICRPの改悪攻撃に反対する。世界の反原発運動、反核運動、環境保護運動と連帯して、ICRPの基準改悪攻撃を阻止していこう。

      2000年5月14日
          プルトニウム・アクション・ヒロシマ
                  広島市高南郵便局 私書箱1号 TEL/FAX 082-828-2603
          阪南中央病院 東海臨界被曝事故被害者を支援する会
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          美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
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                   TEL 06-6367-6580 FAX 06-6367-6581



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