浜岡1号炉ECCS系配管破断事故
事故の実相と深刻さ、破断=爆発原因を明らかにするために
いまだ隠されている、原子炉圧力等の
事故時の運転パラメータを公表させよう


 月に一度定期的に行われる高圧注入ポンプ試験を実施すると、配管が突如、何の前触れもなく破断した。破断は、これまでに世界中の何処の原発でも経験したことのない、正に「爆裂」現象であった。すなわち、配管の内部で何かが爆発したとしか考えられないような破断事故であった。破断事故後20日も経て、中部電力は、行方が分からなくなっていた5つ目の配管の破片を発見したと公表した。破片は重さ4.5〜1.5キロもあり、5つ目のそれは3.1キロであった。

 「爆裂」がなぜ起きたのか?その原因は果たして何であったのか。事故直後には、ウォーターハンマーや熱疲労といった過去に原発が経験したことのある破断原因がまことしやかに語られていた。しかし破断した配管の断面には引きちぎられた跡(ディンプルと呼ばれる延性破壊の明確な痕跡)が見つかっている。専門家の話として蒸気爆発かあるいは水素爆発が発生したのではないか、とするコメントが伝えられている。そうであったとしても、どうしてあのような部分で蒸気爆発や水素爆発が起こったのか?あるいは起こり得たのか?これについては全く明らかにされていないままである。明らかになっているのは、誰も考えていなかったような破断=爆発が浜岡で起こったということだけである。

 このように破断原因に関しては未だに何も明らかになっていない。それに加えて、原子炉冷却系に直結した配管におけるこの凄まじい破断が、原子炉の運転に与えた影響についてもまるで明らかにはされていない。そして公表された資料を見る限り、その時運転員がどのような操作をしていたのか、破断後何をどの様に判断しどの様な措置を取ったのかも、一切説明されていない。

 我々は既に、ECCSの試験運転時に発生した破断事故が、もし本当の事故時に発生していたとすれば「ECCSが働かず大惨事」になったであろうことを指摘した。しかし現在までに明らかになっていることは;(1)破断は突然に起こったということである。すなわち破断前の漏えいは検知できなかった。(2)今回の破断事故そのものが原子炉冷却水喪失事故であったということである。自動隔離弁が正常に働かなかったとすれば、それは手の施しようなない事故に発展しただろう。

 今回の事故の深刻さを知るためには、すなわち、破断の原因を明らかにし、その破断が炉心にどのような影響を及ぼしたかをはっきりとさせるには、まず、事故時の原子炉運転パラメータを公表させなくてはならない。これだけの事故を起こしながら、未だに原子炉系圧力や水位と言った、最も基本的な運転パラメータすら公表されていないのは、誰が考えても、誠に異様であり不可解なことである。

原子力安全委員会(第78回)資料によると事故の推移は次の通りである。

16:41  高圧注入系定期試験のため真空ポンプを起動
17:02  高圧注入系起動
17:02  火災報知器動作
17:02  高圧注入系停止(蒸気管差圧高により自動隔離)
17:25  高圧注入系待機除外と判断
18:15  プラント停止の決定

 事故を収束させたのは高圧注入系の自動隔離である。通常運転時に破断したこの部分には原子炉と同じ圧力がかかっており、いわゆる圧力バウンダリをなしている。そのような部分の破断は直接に冷却水喪失事故となる。すなわち破断箇所と原子炉との間にあった隔離弁を閉じたが故に事故はそこで止められたということである。この隔離弁が働かなかったとすれば、今回の事故は深刻な冷却水喪失事故に発展した(実際、美浜2号炉事故においては主蒸気隔離弁が閉まりきらず放射能混じりの蒸気が放出されつづける事態となった)。隔離弁のおかげで事故の進展がようやくくい止められたと理解すべきであろう。但し、この隔離が完全であったのかどうかについての情報も一切公表されていない。
 この資料による限り、「爆裂」は高圧注入系起動とほぼ同時に起こっている。既に指摘されているように、高圧注入系起動とは蒸気をタービンに送るバルブを開けると言うことであり、それによっては系内の圧力は下がることはあっても上がるとは考え難い。この破断原因を考える上でも17:02付近での運転パラメータが公表されることが不可欠である。爆発現象は秒単位、あるいはそれ以下で生じたであろう。このような分刻みの粗雑な資料では、事故の真相を明らかにることできない。破断のサイズに依存するが、原子炉設置許可申請書等に記されているように、BWR冷却水喪失事故は秒単位で原子炉圧力や水位が変動する。中部電力と政府はコンピュータに記録されている運転パラメータと事故トレンド記録を全て公表するべきである(美浜2号炉事故後には、関電はこれを公表した)。
 そして少なくとも以下の運転パラメータがグラフとしても公表されるべきだ。

原子炉出力、原子炉圧力、原子炉水位(広域と狭域)、
蒸気流量、給水流量、再循環ポンプ流量、制御棒位置
高圧注入ポンプのタービン圧力、高圧注入ポンプ出力圧力

 また水素爆発であったとすれば、どうしてあの箇所に、何処から水素がやって来たのかが明らかにされなくてはならない。原子炉内では水素ガスは奇異な存在ではない。冷却水に溶け込み、水蒸気と一緒に系内を循環している。強力な放射線によって原子炉では常時水が水素と酸素に分解されているからである。また燃料棒被覆管の酸化によって発生した水素も系内に溜まり続けている。スリーマイル島原発事故では格納容器内で数回の水素爆発があった。これは炉心溶融事故時に被覆管が酸化した結果発生した水素によると考えられている。格納容器の狭いBWRでは炉心溶融まで進まなくとも、通常運転時の燃料棒被覆管の酸化によって発生する水素が、配管破断事故時に容器内に漏れて爆発を起こす危険性がある。また一部のBWRでは配管の応力腐食割れを防止するために水素の意図的な添加が行われている。浜岡1号炉の原子炉内に、どの程度の水素が存在していたのかを公表させなくてはならない。

 破断あるいは「爆裂」の凄まじさは、原子炉冷却系から逃げ出た蒸気の量に比例する。そして逃げ出た蒸気が多ければ多いほど原子炉には深刻な影響が及ぶ。最悪の事態は避けられたものの、今回の事故は紛れもない冷却水喪失事故として始まった。そのような事故の真相を明らかにさせること、すなわち「心臓部」で起こった事故の深刻さを明らかにすることが必要である。そのためにも原子炉の主要な運転パラメータを、ともに協力して、中部電力と政府に公表させよう。このような情報公開は、蒸気爆発や水素爆発とも言われる「爆裂」の原因を明らかにするためにも絶対に不可欠なものである。

 国の保安院は、早々と「再現実験」を行うと言い出した。水素がどれだけ集まったら爆発するかを再現してもなんの意味もない。なぜ水素が集まったのか等々が具体的に解明されなければならない。
 当然明らかにされるべき事故時の運転パラメータ事故トレンド記録原子炉内の水素量を公表させよう。



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