◆3月30日は、誰も責任をとらない電力会社の「謝罪バーゲンセール」
◆経産大臣主導の「不正の洗い出し」はまったくの欺まん
電力会社の責任も国の責任も問わない「不正の垂れ流し」は、
「世界で一番危険な原子力立国」への道
原発の設置許可取り消し等の厳しい措置を要求していこう

2007年4月2日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

■誰も責任をとらない「謝罪のバーゲンセール」
 3月30日、電力各社は不正報告の会見を行った。2つの会場で延べ10時間にわたって行われた会見は、まさに「謝罪のバーゲンセール」そのものだった。
 不正を報告しても、電力会社のトップはそれに見合う責任をとろうとしない。東電社長等の減給だけで済まそうとしている。誰一人として辞任を口にする者はいない。この異様な状況そのものが、地域独占を保証された電力会社の特異性であり、その上にあぐらをかいた電力会社の体質そのものを象徴している。「体質改善」などどこ吹く風というようなものだ。
 原発に関する不正だけで、7社で100件を超えている。その中身は、臨界事故や緊急停止の隠ぺい、国の検査を偽装してパスしたり、記録紙の針を浮かせてデータを抹消したり等々、あらゆる悪知恵を駆使した電力会社の不正と隠ぺいのオンパレードである。これら不正は、1970年代の原発の運転開始時期から行われていた。福島第1原発2号機では1984年に、格納容器内で100名もの作業員が働く中で、原子炉容器の蓋が開いたまま制御棒34本が引き抜けるという事故が起こっていた。今回の報告書は、電力会社が事故や改ざんを小さく見せようと腐心しても、原発がいかに危険な状態で運転され続けてきたか、そしてそれらをひた隠しにして「安全」と偽り、地元住民と全国の人々を欺いてきたかの標本でもある。それでも、まだ氷山の一角にすぎないだろう。

■BWRの構造的欠陥−制御棒引き抜け事故を小さく扱う電力各社
 BWR原発の制御棒引き抜け事故は10件にも達した。この制御棒引き抜けは、車が停止中にブレーキが勝手にはずれて動き出すようなものだ。このことは、炉底部から挿入された制御棒を水圧によって調整しなければならないというBWR原発の制御棒駆動系の構造的欠陥を示している。「弁操作の手順ミス」で済まされるような問題ではない。とりわけ定検中の今回の事故は、圧力容器や格納容器の蓋がはずされ、安全装置が働かない状況での危険性を如実に示している。東電は、福島第1原発3号機の7時間半に及ぶ臨界事故について、「当然すぎるため、当時の保安規定には停止中の臨界管理に関する規定はない」として、保安規定違反による運転停止・設置許可の取消にはあたらないと予防線を張っている。また東北電力は、制御棒引き抜けについて、法令違反などには該当しないDランクとしている。それもわざわざ「Eの事象であるが、社会的影響を考慮しDにランクアップ」と注釈をつけ、制御棒引き抜け事故をまったく軽く扱っている(Dランク:法令・保安規定・安全協定への影響が軽微。Eランク:法令・保安規定・安全協定のいずれにも抵触しない)。さらに、事故を報告しなかったり、国の検査を妨害したことは電気事業法違反であるが、それも3年の時効を知った上で、おとがめなしと踏んでいる。

■経産大臣主導の「徹底的な洗い出し」はまったくの欺瞞
 甘利経産大臣は、「私の指示で不正を報告させている」「洗い出し」「膿を出し切る」とさかんに強調してきた。不正報告の前日の3月29日には、全国紙に新聞広告まで出すほどだった。初めから国主導で「不正を一掃し、体質を改善させるため」にやっていることだから心配はいらないと言う。しかし、これそのものが欺瞞だ。もともと国はやる気がなかった。しかし、「想定外」の臨界事故や隠ぺいが出てきたために、地元の怒りと社会的非難を前に、「国主導」と言わざるを得なくなったというのが実情だ。だまされてはならない。
 経産大臣は、不正報告1週間前の3月23日の大臣会見で、「データ改ざん、隠ぺいの事件を過去に全てさかのぼって調査せよという指示を昨年11月30日に私からすべての電力会社に出し、その報告がどんどん上がっているということです」と述べている。昨年11月30日の経産大臣名の指示文書などどこにもない。あるのは、原子力安全・保安院長名で出された「発電設備に係る点検指示について」だけだ。そして、この保安院長名の文書が出た経緯は以下の通りだ。
 不正問題の発端となったのは、中国電力の土用ダムを巡るデータ改ざんだった。このデータ改ざん発覚により、中国電力と国土交通省、経産省の三者による責任のなすりつけが続いていた。その過程で、関電等が水泥棒(河川法違反)をしているとの情報を得て、昨年11月21日に保安院長は「水力発電設備に係る調査について」という文書を出し、全ての電力会社に「水力発電」に限って不正などの報告を求めた。その後さらに、原発の温排水データねつ造が明るみに出たため、保安院長名で、11月30日に極めて簡単な上記文書「発電設備に係る点検指示について」を出した。そこでは「このような状況から、原子力安全・保安院は、貴社の水力発電設備、火力発電設備、原子力発電設備に対し、11月21日に指示したもの以外についても、データ改ざん、必要な手続きの不備その他の同様な問題がないか、点検を行うことを求めます」と書かれているだけだ。経産大臣の指示によるとの文言もなく、「清算する」「膿を出し切る」という強い意思とはかけ離れた、まったく事務的な文書である。そもそも「膿を出しきる」というのであれば、法的根拠をもった「報告聴取」をかけるべきであるが、単に「求め」ているだけだ。
 その後、1月末には柏崎刈羽1号機で国の検査を偽造してパスしていたという悪質な行為が発覚した。これも「想定外」だったようだが、次に志賀1号機の臨界事故が内部告発で明らかになり隠し通せない状況になった。そこで、3月15日の北陸電力の発表と同日に、「とりわけ悪質なケース」として、法的裏付けのない「運転停止措置」を出し火消しに走った。その後に東北電力や中部電力でも制御棒抜け落ち事故の報告が相次いだが、「臨界には至っていない」とし、「制御棒操作の手順を確認し、確実に実行するよう」にとの保安院文書を出し、「BWRの構造的欠陥論」を否定した。そして3月22日には、東電の福島1−3の7時間半にも及ぶ臨界事故が明るみに出た。志賀1号の前例に従えば、当然に運転停止措置をとるべきところだが、23日の大臣名の次の文書を出すことで乗り切ることにした。すなわち、「より一層の安全性の確立に向けた過去の改ざん等の総洗出しについて(発電設備の総点検の趣旨)」を発表し、大臣主導の「徹底的な"洗い出し"」を強調し、「世界で一番安全安心な原子力立国を構築してまいります」とまで述べている。
 原子炉緊急停止や臨界事故、立て続けの制御棒引き抜けという「想定外」の事態を前に、地元の怒りと社会的批判をかわすため、「大臣主導」のシナリオにせざるを得なかったということだろう。その実態は、不正報告に対して、なんら実効ある厳しい措置を科そうとしない経産大臣、保安院の姿勢が示している。
 この流れとは一定別に、国は、電力会社の不正体質に対して、「身をきれいにさせる」必要があった。原子力の海外進出のために、「原子力立国」の基盤づくりを装うためである。また、今後の検査制度の改悪では、これまでのように国が作成した定期検査の内容ではなく、電力各社が自ら作成する「保全プログラム」に沿って定検を行うことを狙っている。その実現の為には、電力会社への「不信」や「体質問題」に一定のかたを付けておく必要もあった。不正報告をただ垂れ流させ、形ばかりの謝罪で「みそぎ」とし、定検短縮などのさらなる効率化に邁進しようとしている。

■敦賀2号の法令違反の偽装工作を「応急措置」と呼ぶ経産大臣
 不正報告がBWRに集中している中で、PWRで最も悪質だとされているのが敦賀2号機の格納容器の漏えい率検査の偽装だ(1997年7月)。これは、国の検査で義務づけられ、放射能の漏えいがないように、多重防護の最後の砦である格納容器の気密性を確認する重要なものだ。原電報告書では、この検査の際に、均圧弁から漏れがあったため、均圧弁につながっている配管に「閉止板」を取り付けて漏れを防ぎ、国の検査をごまかしてパスしていたというものだ。同様の偽装と隠ぺいが、2002年に福島1−1で明らかになっていた。その偽装は1991年と1992年の2回の定期検査で行われていた。
 当時の保安院は東電に対し、原子炉等規制法第37条の違反(保安規定順守義務違反)として1年間の運転停止を命じた。同時に、他の電力会社に対し、同様の偽装がないか報告するよう命じていた。原電は、この保安院の要請も握りつぶし、今まで敦賀2号の偽装を隠ぺいしていた。「極めて悪質」だ。しかし、不正報告当日の経産大臣会見では、保安院から聴取したとして「そう深刻でない部分の応急措置をして、検査を受けること、直ちに本格対処しますということはあり得るのだそうです。・・・その報告がなかったことが問題だということです」と述べている。偽装工作を「応急措置」と呼び、「報告がなかったこと」だけに問題を矮小化し、運転停止等の厳しい措置をとる気のないことを早々と公言している。
 結局、予想されるのは、臨界事故を起こしていた志賀1号機に1年間の運転停止措置を科すことくらいだ。しかし、北陸電力は既に今年度の供給計画から1・2号機ともはずすと発表しており、運転停止は折り込み済みだ。あとは、「制御棒引き抜け」を報告義務とする原子炉等規制法の省令改正ぐらいだ。7時間半の臨界事故を引き起こしていた福島1−3号は現在も運転を続けている。
 また経産大臣は3月23日の記者会見で、不正は「(2002年の東電不正事件以後の)平成15年(2003年)10月の法改正以降の案件は、幸い1件もまだ出ていません」と語り、不正は「過去のものばかり」とたかをくくっていた。しかし、それも見事に裏切られた。中国電力では、29件の不正の中で9件もが2003年以後に起きたり、2003年以降も継続されている(なんと中国電力は、異常に簡単な報告書の概要だけで、全文をホームページに公表していない)。
 さらに経産大臣は、2月16日に「事業者が、現時点で、不正を許さない取組みをしているかについて確認する」よう保安院に特別な指示を出した。ところが、その同日に関電の電気事業法違反が発覚した。関電はECCS配管の溶接にあたって、国に申請を出し立ち会い等の検査を受けなければならないにもかかわらず、これらを無視して違法な溶接を行っていた。「現時点でも」不正が行われており、大臣の顔に泥を塗ったこれらの不正について、いったいどのような措置をとるのだろうか。

■電力の不正体質を醸成してきたのは国、しかし自らの責任は不問
 不正の原因について、電力各社は「軽い気持ちでやった」「運転計画を守りたかった」等々述べている。この背景には、安全性を軽視し経済性を最優先される姿勢と、都合の悪いことは「隠し通せる」という長年つちかわれてきた経験がある。そして、これらを醸成してきたのが国のとりわけ甘い規制であった。
 今回の不正報告は、これだけ多くの不正を国がやすやすと見逃していたことをも示している。しかし、経産大臣や原子力安全・保安院もまた、自らの責任に一言も言及していない。そればかりか「法令には不備はない」と自らの責任を棚上げにしている。これでは、単なる不正の垂れ流しでしかない。「世界一安全安心な原子力立国」とは裏腹に、とりわけ危険な原子力をこんな無責任状態で放置すれば、「世界で一番危険な原子力立国」へ突き進む道となる。

■電力会社の不正を具体的に暴き、設置許可の取り消し等の厳しい措置を国に迫ろう
 今回の報告では、電力会社が自ら不正のランク付けを行っている。AやBランクは「法令・保安規定に違反するもの」であるから、当然運転停止の措置や設置許可取り消しの処分を科すべきである。さらに電力会社がDランクやEランクとしているものでも、重要なデータの改ざんや当直日誌等に事実を書かなかったことなど、保安規定違反に該当する件はいくらでもある。女川1号機では、1997年から2004年まで、非常用炉心冷却系の炉心スプレイ系ポンプの吐出圧力計のデータを改ざんしていた。どのように「補正」(東北電力は改ざんではなく「補正」と言っている)を行っていたか詳細は記述されていない。ECCS系の重要なデータの改ざんがどうしてEランクなのか。また志賀1号機では、運転開始前の国の使用前検査で、循環水ポンプ吐出圧力のデータ改ざんを行っていた。それも今年3月9日まで続けていた。生まれる前から現在まで不正まみれだったことになる。1年間の運転停止などでは済まされない。設置許可の取消し以外にない。
 関西電力は、敦賀2号以外では、唯一不正のあったPWR系の会社となっている。上記の美浜1号機の違法溶接については、申請書を出し直し検査を受け直しているので問題なしとしている。また、温排水データの改ざんでは、他の電力会社が改ざんを認めている中で、改ざんを否定している。関電の体質の悪質さを浮き彫りにしている。美浜3号機事故以降も不正は続けられ、「再発防止策」が口先だけであることを改めて示している。

 電力各社は4月中に「再発防止策」を国に提出するという。お決まりの対症療法的な「対策」に、型どおりの「トップのコミットメント」、「コンプライアンスの徹底」等で飾りつけしたものに違いない。それを見て国は「指示や要請」を行うという。このままでは、なんら厳しい措置をとることにはならないだろう。

 保安規定違反は、原子炉等規制法の「設置許可の取消」要件にあたる。時効のない行政措置である。電力各社の不正報告を具体的に暴いて、設置許可の取り消し等の厳しい措置を要求し、実行させていかなければならない。