1. 「安全宣言」・「安全キャンペーン」に対する批判を開始しよう
  1. 今回の事故の特徴の一つは、労働者被曝のすさまじさにある
  1. 周辺住民の中性子線被曝が過小評価されている
  1. 放射能の放出は厳然たる事実−被曝と汚染の実態はまだまったくわかっていない
  1. 20時間にわたって臨界が続くという過去に例のない特異な事故だった
  1. 取り返しのつかない被曝−低線量被曝・内部被曝による晩発性障害


[1]「安全宣言」・「安全キャンペーン」に対する批判を開始しよう

(1)推進派・マスコミによる「安全」の大合唱

 原発推進派だけではなく、多くのマスコミが、事故の規模を軽視・過小評価し、JCO労働者と周辺住民の被曝を隠し、周辺環境への汚染を切り捨てるためのキャンペーンを始めている。これら「安全キャンペーン」は、政府・科技庁・県の幕引きと一体のものである。強烈な中性子線によって多くの労働者、周辺住民が被曝させられ、最大の犠牲者である3人の労働者は瀕死の重態にある。希ガスや放射性降下物による被曝と汚染もあるはずである。事故の真相と被害の実態はまだ何も分かっていない。それにも拘わらず、何の根拠もなしに「安全キャンペーン」を進めるこうした動き全体に激しい怒りを感じる。許すことができない。
 朝日新聞は10月4日付け紙上(東京版)に、「放射能残留は心配なし」という見出しをデカデカと掲げ、「放射性物質の周辺への飛散はほとんどなく」「水、住宅、農作物などの....汚染はな」い、だから、被曝の「心配はない」という論旨の記事を掲載した。これより前10月1日には既に全国版で「10`圏合理性疑問」「屋内避難勧告はやりすぎ」「少ない放出放射能」「健康への影響ほとんどなし」と大々的に安全キャンペーンを張った。また10月3日に放映されたNHKの『日曜討論』では、「今回の事故ではたいした量の放射性物質ができていない」「大騒ぎしすぎだ」「10kmの避難など不要」などという発言を推進派が繰り広げた。
 何度臨界が繰り返されたのか、反応の規模も何もまだ全くわかっていない。それにも拘わらず、「臨界を引き起こしたウランは0.004グラムにも満たないごく微量」(読売6日)「核分裂反応を起こしたウランは最大でも千分の1c程度−ほんのわずかの量」(朝日7日)と、あたかも放射能の放出など、なかったかのような報道がなされている。
 これら最近のマスコミの「安全キャンペーン」は、あの札付きの御用学者宮崎阪大教授が「今回の事故ではいたずらに危機感を煽る報道が少なかったことは評価できる」(産経6日)と言うくらいひどいものである。

(2)まったく根拠のない「安全宣言」

 臨界は「一応終息」した。しかし、事故のあった転換棟は、周囲に土のうを積み上げただけで、密閉されずにそのままの状態である。核分裂によって生み出された大量の放射性物質はまだ隔離されずに存在する。被曝の調査も、汚染の調査も形ばかりのものに過ぎない。周辺住民の日常生活はまだまだ放射能にさらされているのである。
 それにも拘わらず、政府は早々と「安全宣言」を出し、「心配するな」と呼びかけている。マスコミはこぞって政府の主張を支持し、そのお先棒をかついでいる。朝日などご丁寧にも「350m以遠の人は健康診断を受けるような心配はない」という助言を住民に対してする始末である。
 いったい何がどのように安全なのか。その根拠とは次のようなものである。
@ガイガーカウンターによる測定によると周辺住民に被曝はほとんど認められない。また、政府・県は十分な被曝、健康調査をおこなっており、問題は認められなかった。
A危険だったのは中性子線だが、350mの避難要請によって回避できた。
B反応したウランは微量で、また建物も破壊されなかった。従って、放射能の放出はほとんどなく、残留放射能による汚染はない。
 しかし、これらの根拠に何の正当性もないことは明らかである。
@ガイガーカウンターによって測定することができるのは、衣服、身体に付着している放射能を持つチリだけである。今回の事故で影響の大きかった中性子線によって受けた被曝はこの方法では絶対に分からない。また希ガスによって受けた被曝、放射性降下物による内部被曝も分からない。(※内部被曝を調べるためのホールボディカウンタによる検査を実施した住民はたった5世帯に過ぎない。)
 また、政府・県の汚染調査はせいぜいが数十サンプルを調べただけで、生物濃縮もホットスポット(局所的に高い放射能の沈着)の可能性も考慮に入れたものではない。事故当日夕刻からの降雨による「黒い雨」も考え、綿密で徹底的な調査が必要である。さらに低線量被曝による晩発性障害の発生を考え、長期的な影響調査、医療活動が絶対に必要である。
A中性子線による被曝は明らか。まず第一に多くの労働者が主に中性子線によって被曝させられている。また、周辺の住民も年間許容線量を超えるか、あるいはそれに匹敵するような被曝を受けた。
B事故の態様、核分裂反応が何回起こり、どのような核種がどれだけできたのか、そのうちどれだけの量が環境中に放出されたのか。まだまったく推測の域を出ない。その下でどうして放射能の放出などなかったと決めつけることができるのか。
 
(3)被曝を隠し、責任を放棄するための「安全宣言」

 「今、自分は健康に思えるが、5年後、10年後が心配だ」「原因究明も大切だが、被災者の存在がこのまま忘れ去られてしまうことが一番怖い」「健康診断や自宅の水質、土壌検査では異常はなかったが不安は続いている」
 周辺住民は、日常の生活に戻りつつある中で被曝への不安を増大させている。全く当然である。JCO労働者については直接自分の近未来の生命と健康を害することが分かるにつれてもっと不安が高まるだろう。ガン死や晩発性障害の恐怖と日々向かい合わねばならない。
 「安全宣言」の狙いはまず第一に、被曝被害を隠し、汚染を隠すことで、このような住民の不安と動揺、怒りを沈静化させ、事態の収拾をはかることにある。しかし、それだけではない。もはや事故は終結し、新たな被曝の可能性はないと決めつけることによって、調査を打ち切り、継続的な長期にわたる影響調査も何も一切やらないと宣言することがその狙いである。そして、今後生じうる被害に対する補償と一切の責任を放棄することにある。被曝を隠し、責任を放棄するための「安全宣言」を絶対に許してはならない。
 「安全宣言」を撤回させ、被曝と汚染の実態を明らかにするために、徹底的・全面的な調査をおこなわせよう。「安全キャンペーン」に対する批判を開始しよう。

[2]今回の事故の特徴の一つは、労働者被曝のすさまじさにある

(1)最大の犠牲者−高線量被曝を受けた3人の労働者

 高線量の中性子線、ガンマ線を、多数の労働者が受けた。中でも、ウラン溶液の注入作業に直接従事していた3人の労働者は、爆心直下とも比較されるような致死的な放射線を浴びせられた。3人は、まともな教育も何も受けさせられずに、危険性の高い、違法な作業に従事させられ、そして被曝した。安全無視のコスト削減、リストラ、強硬推進の最大の犠牲者である。

(2)事故を収拾し、「安全宣言」を出すために被曝を強要された労働者

 3人についで、線量が高かったと考えられるのは、臨界が続いている転換棟への接近を強要され、水抜き作業に従事させられた労働者18人である。さらに、翌10月1日に棟内に入り、ホウ酸水注入作業に従事させられた労働者6人。周囲に土のうを積む作業に従事させられた労働者9人である。合計33人の労働者が、事故を収拾し、「安全宣言」を出すために、被曝を強要された。
 水抜き作業員の被曝量の最大は98mSv。他の5人が56〜73mSv。残り12人は50mSv以下とされている。また、ホウ酸水注入作業に従事させられ、沈殿槽を撮影した労働者も大量被曝しているはずだ。当初の報道では2mSv以上とされていた。ところが、10月6日の科技庁資料では、0.034mSv〜0.6mSvという信じられない程低い値に引き下げられた。
 いずれにせよ、職業人の年間許容線量か、それ以上の線量を短時間で受けている。すさまじい被曝。白血病やガン等、放射線障害を発症する危険性は高い。
 しかも、これらの数値は意図的に大幅に過小評価されている。水抜き労働者の最高98mSvは4日になって訂正された数値である。当初の発表値は103mSvであった。しかし、これだと緊急時の被曝線量を超えてしまい、政府の作業方針の違法性が問題となる。そこで基準をクリアするように後で数値を書き換えたことは明らかである。
 水抜き作業は午前2時半から6時過ぎまで約4時間、断続的に実施された。3時25分に冷却水配管のバルブを開放し、4時16分に配管を破壊した。科技庁の発表資料には、ほぼ1時間毎に測定した中性子線量が記載されているのだが、水抜き作業と重なる約4時間分のデータは完全に空白となり、公表されていない。「忙しくて計れなかった」としているが、白々しい嘘である。公表をためらわれるほど高すぎたため隠しているのではないか。これら「決死隊」労働者は予想以上の被曝を受けている可能性がある。
 政府・安全委員会は水抜き作業が、高線量の被曝を伴う殺人的な行為であることを十分に承知しながら、労働者を送り込んだ。安全委内では「緊急事態なのだから、暫定的に限度線量を200mSvにしてでも」などという発言すらあった。被曝労働の実態の中に原子力の非人間性が現れている。
 3人の労働者は急性障害で苦しんでいる。そして被曝させられた多くの労働者が健康と生命の不安を感じているはずである。急性障害を負わせ、大量の被曝をさせて、何が「事故は終わった」「もう安全」なのか。まったく犯罪的である。
 その他、事故当時JCO事業所内にいた他の労働者も同程度の被曝をしているはずである。
 被曝労働者のすべてのデータを出させ、被曝被害の実態を明らかにさせなければならない。徹底した医療対策を取らさせなければならない。
 事故の早期の幕引きのために、労働者を現場に入れて、清掃作業を開始するという動きが出ている。これ以上の被曝者を作らせてはならない。

(3)政府やマスコミは、JCO労働者と周辺住民を意図的に切り離そうとしている
   われわれは両者を切り離してはならない

 JCO労働者が浴びた放射能こそ、現在の稼働中原発が重大事故を引き起こした場合に、まさにその周辺住民が浴びる放射能の度合いを示している。稼働中原発の周辺住民は他人事ではない。事故の大きさによっては都市部の住民の近未来の出来事でもあり得るのである。

[3]周辺住民の中性子線被曝が過小評価されている

 「敷地境界でも数mSvで、ただちに人体に影響が出るものではない」「距離の2乗に反比例して急減するので、350m以遠は大丈夫」政府は最初からこう繰り返した。
 しかし、これはまったくの嘘である。実際は、多くの住民が強烈な中性子線を浴びたのである。

(1)350m内の住民約150名は通常の最大約3200倍(推定)の中性子線を浴びせられ、
          避難要請が出るまでに年間許容線量以上の被曝を受けさせられた

 科技庁発表の敷地周辺での測定データによると、中性子線とガンマ線の線量当量の比は、ほぼ10対1となっている。これをほぼ正しいものとすると、転換棟から約70mの地点での11:00段階でのガンマ線が0.85mSv/hなので、中性子線は約8mSv/hとなる。単純に計算すると、350m地点で約0.32mSv/hとなる。350m圏内住民への避難要請が15:00、事故発生からすでに4時間半である。そうすると避難勧告の段階で、すでに350m内の住民は、1.4mSvの被曝を受けた計算になる。350m内の住民は、通常時(0.1マイクロSv)の3200倍というとてつもない強度の中性子線にさらされ続け、一般人の年間許容線量以上の被曝を受けさせられたのである。さらに、避難所に行かず、自宅にとどまった人もいる。この人たちの受けた線量はもっと多い。これでなぜ「被曝はない」と言えるのか。

(2)500mでも、臨界「終息」までの20時間あまり、通常の最大約1600倍(推定)の
         中性子線を浴び、年間許容線量以上かそれに匹敵する被曝を受けた

 さらに500m地点では、同じように考えた場合、0.16mSv/hとなる。この場合、500m地点の住民は20時間の間に住民は3.2mSvの中性子線を浴びたことになる(事故直後の推定値8mSv/hによる計算なので実際はもう少し低い)。この圏内は住宅数も圧倒的に多くなる。500mまでの住民は年間許容線量を超えるか、またはそれに匹敵する放射線を浴びせられた。

(3)政府は周辺住民を中性子線の中に放置した

 家屋には中性子線の遮蔽能力はほとんどない。中性子線による被曝が問題となる場合は、とにかく遠くに逃げることが正しい措置だったはずである。しかし、政府はこれを知りながら、「屋内退避」つまり外出の禁止を命じ、住民を閉じこめ、被曝するにまかせた。不測の事故によって被曝してしまったのではない。故意的、人為的に被曝させられたのだ。さらに許せないのは、放射線に対する感受性が強い、乳幼児、妊婦に対して特別の措置を一切講じなかったことだ。
 それだけではない、爆発的な臨界と放射能の大量放出というような最悪の事態が想定されていたにも拘わらず、住民たちをより遠くへ避難させる措置を講じなかったばかりか、その危険性を一切知らせず、家に閉じこめたままにしたことだ。政府は住民を見殺しにしたのである。

[4]放射能の放出は厳然たる事実
           −被曝と汚染の実態はまだまったくわかっていない


(1)希ガスの放出と被曝は明らか

 事故時に希ガスが20時間にわたって、環境中に放出され続けたことは明らかである。キセノン139、クリプトン91が作業員3人の衣服、体内から検出されている。また、原研のガンマ線モニタ、旧動燃事業所のガンマ線モニタの上昇は、明らかに希ガスの雲が通過したことを示している。生成された直後の高放射能の希ガスのほぼ全量が環境中に放出され被曝に寄与したと考えるべきである。

(2)セシウムやヨウ素等、核分裂生成物が環境中から検出されている

 希ガス以外の核分裂性の放射性物質が環境中に放出されたのも明らかである。土壌中の至る所からセシウム137が見つかっている。京大原子炉グループは事業所周辺のヨモギからヨウ素131(23〜55ベクレル/kg)を検出した。政府・県は基準濃度以下だから安全だという。しかし、乳幼児や妊婦など特別に感受性が強い人々の存在も考えれば無視できるような数字ではない。そもそも事故起源の放射能が環境中に存在すること自体が問題である。長期的な生物濃縮や、ホットスポットの発生も何もまったく考慮せずに、なぜ安全だということができるのか。

[5]20時間にわたって臨界が続くという過去に例のない特異な事故だった

 放射能の放出量とそれによる汚染の程度を評価するためには、少なくとも、どれだけの放射能が作り出されたのか、どのような核種が、何ベクレル生成したのか、明らかにされなければならない。それには、反応したウランの量=核分裂数のデータが必要である。しかし、今回の事故は、20時間にわたって臨界が続くという過去に例のない特異な事故であり、反応したウランの量など正確にわかっていない。
 それにも拘わらず、「核分裂はほんの少し」で「核分裂生成物もわずか」という宣伝がおこなわれている。まったく不真面目な態度であり、許すことができない。
 事故の全容を明らかにさせ、希ガス、核分裂生成物の発生量と放出量、それによる被曝と汚染の実態を明らかにさせなければならない。

[6]取り返しのつかない被曝−低線量被曝・内部被曝による晩発性障害

 たとえ低線量であっても、放射線は確実に細胞を破壊し、遺伝子を傷つける。そして、何年もたってから、ガン等の晩発性の障害を引き起こし、遺伝的な悪影響を与える。しかしその障害と被曝の因果関係を証明することは困難である。もし今後、住民の間に、晩発性の障害が発生しても、その責任がどこにあるのか、今回の事故との関係はどうなのか、証明することは非常に難しい。政府、事業者は容易にはその責任を認めない。スリーマイルでは、ガンなどを発病した住民が電力会社に対して2000件を超える訴訟を起こしているが、未だ因果関係は認められず、多くの住民が苦しんでいる。
 これが原発事故、被曝事故の特殊性、危険性である。
 また、原爆やチェルノブイリが示している通り、被曝、原発事故は何世代にも渡るとりかえしのつかない被害、傷跡を残す。今回の事故はこの被曝の恐ろしさをわれわれに示した。原発推進を止めない限り、もっと深刻な第二、第三の事故の発生は避けられない。このような被曝事故を二度と起こさせてはならない。そのためには、原発依存のエネルギー政策を転換させる以外にないのである。 (H)



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