美浜の会ニュース No.93


 中越沖地震から1ヶ月半になろうとしている。柏崎刈羽原発を襲った激しい揺れによって、原発の耐震安全性が崩壊したことは誰の目にも明らかとなった。地震大国日本で、さらに地震の活動期に入った現在、脱原発の歩みを早めることなしには、「原発震災」は避けられないような状況に近づいている。そのような中、「原発は地震に耐えられるのか」という広範な関心と不安の声が広がっている。これらを組織し、各地の運動を進めていこう。
 他方、政府や電力各社は、基準地震動S2を超える揺れが生じたという事実を前に、「機器の安全余裕」があるとして、耐震安全性の崩壊を覆い隠そうとしている。これを徹底して批判することが、現在の運動の焦点である。原子力委員会の近藤委員長は24日「耐震基準を超えたとしても国内の原子炉はさらに大きな揺れに耐えられる造りになっている」と述べている。また、原子力安全・保安院の主導によって電力各社は「耐震性の見直し」と称して「自主的な評価」を9月20日頃に出すことになっている。そこでは、「機器の安全余裕」で耐震性をクリアさせる手法を用いて評価しようとしている。しかしこれは、老朽化の実態を無視して「許容値」以内であれば安全とする危険なものだ。この危険な手法に批判を集中し、各原発に即して耐震性の崩壊を暴いていこう。

■ 誰も責任を取ろうとしない東電・政府、電力各社
 柏崎刈羽原発の全号機で設計基準以上の激しい揺れが観測された。揺れは(1号機を除き)全ての周期で設計値を上回っていた。この1点だけからして、原発の耐震安全性が崩壊したことは明らかである。しかし、政府や東電は、自らが評価し、国が許可してきた耐震安全性が根底から崩れたことに対して、誰も責任をとろうとはしていない。そして「原発は安全に停止した」「放射能の影響なし」を繰り返すばかりである。電力各社は、原発の運転を続けたまま、「耐震安全性の見直し」を口にしている。これまで活断層の値切りや隠ぺいを行ってきたことの反省もなしに、活断層の再調査を行うと語っている。再調査の前に、これまでの「耐震偽造」についてその責任を明らかにすべきであるが、誰もその責任については語らない。まったく無責任極まりない状況だ。国や電力各社の責任を追及していこう。
 国の「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」の班目委員長は、「原発の24ヶ月連続運転」を打ち出した「検査の在り方に関する検討会」の委員長でもある。また「調査・対策委員会」のワーキンググループの一つにも位置づけられた従来からの「耐震設計構造小委員会」の委員である衣笠氏は、「活断層カッター」とも呼ばれる人物で、通産省技官当時、六ヶ所再処理工場の地震動評価の際にもその「手腕」を発揮した。また、柏崎刈羽原発の国の安全審査をパスさせた張本人でもある。「地震は歴史的実験」発言で辞任に追い込まれた宮健三委員の実例に照らしても、このような御用学者は即刻解任すべきだ。全国から厳しく監視していこう。

■ 柏崎刈羽原発の全号機は閉鎖しかない
 柏崎刈羽原発は7号機全てで、設計基準を上回る激しい揺れに襲われた。地元反対運動が33年前から主張し続けていた活断層の過小評価、軟弱な地盤構造、それらによる原発の耐震安全性の過小評価が現実に証明された。今回動いた活断層については、いまだ特定されず、種々な見解が出され評価が分かれている。このことは、活断層調査の困難性を示している。また、現在の原発の耐震基準が基本としている「地表面に現れた断層」を活断層とみなし、評価すればいいとする基本方針が現実味のないことを顕在化させた。さらに、今回のような「逆断層」の地震には、国の評価の基準となっている金井式(地表断層線の中心に震央をとる方法)が全く当てはまらないことも明らかとなった。柏崎刈羽原発は「活断層の上に原発を作ってはならない」とする国の指針をも満たしていない。また、地震の専門家であり「原発震災」の危険を訴え続けている石橋克彦氏は、この地を再び地震が襲う可能性についても警告している。
 他方、柏崎刈羽原発の機器の破損などは、現在判明しているものだけでも2000件を超えている。敷地内の道路の陥没(公表されているもので1.6メートルにもおよぶ陥没)等の地盤のズレ、格納容器内クレーン軸部の破損、排気筒につながるダクトの変形等々。さらに、原子炉圧力容器の内部の調査は、8月21日から1号機で始まったばかりだ。全号機の調査には相当の月日がかかる。それでも既に、制御棒の変形、それに伴う燃料の破損等々が問題にされ始めている。また、目視では確認できない配管等のひびや内部のひずみ等を考慮すれば、柏崎刈羽原発の再利用など到底できない。柏崎刈羽原発は全号機を閉鎖する以外にない。

■ 炉内の状況や労働者被ばくに関する情報を公開させよう
 東電や保安院、安全委員会などは地震直後から「『止める、冷やす、閉じこめる』は正常に機能し、原子炉本体の安全は保たれた」と盛んに宣伝している。これは一方では、設計基準を超える揺れが生じたことは事実として認めざるを得ないが、それが耐震安全性の崩壊を意味するものではないという苦し紛れの言い訳でもある。他方、本当に「冷やす、閉じ込める」機能に問題がなかったのかという疑念が生じている。東電の極めて限られた公表資料からも、とりわけ起動中に地震に襲われた2号機では、自動停止後の水位計の異常な振る舞いと、想定外のECCSの作動から炉内では減圧沸騰の可能性が指摘できる(9頁参照)。しかし東電は、減圧沸騰の危険性について一言も述べていない。また、2号機では、地震発生直後の数分間、電源異常によると思われるコンピュータの故障でアラームタイパの一部が欠落し、炉内の状況が記録されていない。これら炉内の状況に関する詳しい情報を公開させよう。
 さらに、労働者被ばくの問題については、東電も国の「調査・対策委員会」も全く取り上げようとさえしていない。使用済み燃料プールからあふれた放射能混じりの水をぞうきんやモップで拭き取っている下請け労働者達は、マスクも着けずに作業をさせられている。漏洩水には、コバルト60等の放射能が含まれており、拭き取り作業でそれは空気中に舞い上がり、呼吸によって吸い込まれる。また、断片的に出てくる報道によれば、1・2号機の管理区域にいた400名以上の労働者は、地震によって放射能汚染の測定器が故障し、原子炉建屋から退出する際に、被ばく量の測定もできなかった。地震当時定検中だった1号機の労働者は、激しい揺れによって飛び散った使用済み燃料プールの水をかぶっていた。さらに1号機では、管理区域用の赤靴の片方が原子炉ウェル(圧力容器の上部付近)から見つかり、もう片方は原子炉容器の中に落ちた可能性があるという。東電は、管理区域内で靴を履き替えることはないとしたうえで、原子炉ウェル近くで作業していた労働者が激しい揺れによってウェルに落ちた可能性を否定していない(ウェル近くの最大の揺れは1000ガルで地震計が振り切れている)。これらは、地震が定検中の原発を襲うときの、労働者被ばくの深刻さを示している。労働者被ばくの実態について事実を明らかにさせよう(15頁参照)。

■「耐震安全性の見直し」−「機器の安全余裕」で耐震性をクリアさせるやり方は、原発の老朽化を無視した危険な手法
 8月20日、電力各社と日本原燃(再処理工場等)、日本原子力研究開発機構(「もんじゅ」)は「耐震安全性評価(バックチェック)の実施計画の見直しについて」を保安院に提出した。経産大臣の指示に基づいたものであり、昨年9月に改定された新耐震指針に基づく既存原発の耐震安全性の実施計画を前倒しするなどの計画である。また、各社は「自主的な評価」として、1ヶ月を目途に「柏崎刈羽原子力発電所で観測されたデータを基に主要設備の概略影響評価を実施」するとしている。
 この「自主的な評価」は、「自主的」といいながら、各社全て同一の方法によっている。保安院の強い指導によるものと推察できる。ここでは、(1)柏崎刈羽原発で観測された地震動を各原発に当てはめ、(2)今回の揺れの方が大きい場合は、さらに各機器の許容値を考慮して評価し、(3)それでも耐えられない場合は、多度津の実証試験の結果等も考慮して評価するというやり方だ(6頁参照)。
 「自主的な評価」ではまず、(1)にあたる、柏崎刈羽原発で観測されたどの地震動を採用するのかが問題になる。原発の耐震設計では、基準地震動を解放基盤表面に入力したうえで、建屋や機器の揺れを評価する。そのため、少なくとも柏崎刈羽1号機の解放基盤表面と同程度の深さで観測された993ガル(設計値は450ガル)を用いて、各原発の基準地震動S2と比較すべきである(阪神淡路大震災では最大観測値は818ガルで、その当時、電力各社はそれは地表面の値であり、原発は地下の岩盤上で揺れは1/3程度と言っていた。今回の柏崎刈羽原発の揺れがいかに大きかったかがわかる)。柏崎刈羽原発の993ガルに対応するのは、美浜原発の場合405ガルである。そして、各原発が993ガルに耐えられない場合は、この時点で耐震性が崩壊しているとして評価を終了し、その原発は即刻運転を停止しなければならない。しかし、「自主的な評価」では「基礎版上の応答スペクトル」を採用するとなっている(柏崎刈羽1号機の観測値の場合は最大値680ガル)。全く妙な話である。実は、解放基盤表面と同程度の地点に地震計が設置されているのは、柏崎刈羽1号機と5号機だけであり、それもデータの上書きによって残っているのは最大値993ガルという数値だけである。これでは応答スペクトルを書けないとなっている。記憶容量が少ないため本震のデータが余震データで上書きされたというのは東電の不始末である。それを「利用」してか、「基礎版上」のデータ同士で比較しようとしている。これは、解放基盤表面の揺れを基にして耐震設計を評価するという原則から逸脱するものである。それでも柏崎刈羽の揺れの方が大きくなった場合には、次のステップが用意されている。
 そのステップ(2)は、柏崎刈羽原発の観測値が各原発の基準地震動S2を超えても、機器の「安全余裕」で原発は持ちこたえるから大丈夫だという設定だ。このことは、8月10日の関電交渉でも、関電がしきりに「機器の安全余裕がある」「原発は耐震性だけで作られているのではない」と主張していたことと符号している。これでは、基準地震動を基にした耐震性などどうでもいいということになり、耐震安全性の根本を破壊するものである。
 電力会社が「安全余裕」と呼ぶものは,材料のばらつきや初期欠陥,溶接不良や運転による劣化などにより、必ず確保しなければならない「安全代」であって、決して「余裕」などではない。基準地震動S2の場合の機器の許容値は、限界値(設計引張り強さ。ほとんど破壊状態)の2/3で、安全率は1.5倍しかない。さらに配管等では、S2の許容値と限界値がほぼ同程度となっている場合があり、「安全余裕」はほとんどなくなる。そして最も重要なことは、この許容値は、機器の材質によって決められており、新品の材料で割り出された値であり、原発の老朽化や中性子線による脆化の実態などは一切考慮されていないことだ。安全余裕を持ちだして、許容値以下だから安全だとする主張は、個々の原発の老朽化の実態を無視したもので、現実の安全を保証するものではない。9月20日頃に出される各電力の「自主的な評価」を徹底して批判していこう。

■ 関電も活断層を値切っている−美浜原発は「野坂断層31q:M7.3」に耐えられるのか
 関電の原発では、活断層の巣である敦賀半島にある美浜原発の耐震安全性が最も心配される。他の電力会社同様に、関電も活断層を値切って評価している。野坂断層については陸地の7qだけを断層と評価して事実上無視している。
 しかし、国の地震調査研究推進本部(推本)は2004年1月に、野坂断層を31qと評価し「野坂断層帯では、全体が1つの区間として活動し、マグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定される。この場合、2−3m程度の左横ずれと断層の北東側が南西側に対して高まる段差が生じる可能性がある。」と警告している。野坂断層に関する評価は、関電の想定を大きく上回っている。この推本の設定を美浜原発に当てはめれば、最大速度振幅は約30カインとなり、設計値17.6カインを大幅に上回る。8月10日の関電交渉では、美浜原発は「野坂断層31q:M7.3」の地震に耐えられるのかと追及したが、その場では「今は答えられない」とのみ答え、次回交渉で明らかにするよう要求した。
 若狭の原発群は、神戸から新潟に続く「ひずみ集中帯」の中に位置している。今年3月に起きた能登半島地震もこの「ひずみ集中帯」に位置しており、北陸電力が設定した限界地震を上回る揺れが原発を襲っている。また、敦賀原発では、敷地内に浦底断層が走っており、推本は長さ26qでM7.2の地震の危険性を主張している。しかし日本原電は、直下型地震としては公式通りM6.5しか考慮していない。

■ 海の活断層調査を余儀なくされた日本原燃
 日本原燃は、これまで必要ないとしていた海の活断層調査に踏み切らざるをえなくなった。当初予定していた今年11月からの本格運転開始というスケジュールに合わせ、8月20日の報告書では、10月までに耐震安全性の全体的な評価を終了する予定としている(当初の7月終了から3ヶ月の延期)。六ヶ所再処理工場の耐震性は、個々の原発よりはるかに深刻な問題を抱えている。6月末ですでに2270トンの使用済み燃料が集積しているが、それは100万kW原発の炉内燃料の約20倍にも相当する。そのうち160トン分がすでに再処理されているため、高レベル濃縮廃液が約80uつくられたと推測される。これは、加圧水型原発の炉内にある死の灰のおよそ2倍が液体状で貯槽に入っていることを意味する。この高レベル濃縮廃液は絶えず冷却し撹拌し続けなければ、放射能のだす熱で深刻な事態を引き起こす。地震で電源系統や冷却系統、排気系統が破損するだけで、恐ろしい事態が到来することになる。
 しかし日本原燃は、4月に発覚した耐震偽造問題の改造工事を終了したとして、中断していたアクティブ試験の次のステップ(第4ステップ)に進もうとしている。8月29日の青森県議会全員協議会では過去の耐震偽造問題を中心に、第4ステップに進むかどうかを議論することになっている。原燃は第4ステップの開始とともに、4月以降中断していた使用済み核燃料の搬入も再開するという。これによって県には核燃料物質等取扱税が再び入り始めるとことになる(1s当たり19,400円の税率)。
 今問題なのは、過去の耐震偽造だけではない。新たに開始する海の活断層調査の結果も踏まえて、再処理工場の耐震安全性を検証することである。それまでは、アクティブ試験は中止すべきである。24日には、花とハーブの里、三陸の海を放射能から守る岩手の会、グリーンピース・ジャパン、グリーン・アクション、当会の呼びかけで29団体が、青森県議会議員宛に「新潟県中越沖地震による原子力施設耐震性評価の崩壊を踏まえた要望書」を出し、第4ステップ入りに反対するよう要請した。
 日本原燃のアクティブ試験のスケジュールは既に大幅に遅れている。残る第4・5ステップに約半年かかり、試験終了は来年3月頃までずれ込むと報道されている。その上に、耐震安全性の問題が加わったのだ。まずは第4ステップ入りを延期し、耐震安全性の評価をじっくりとやるべきだ。英仏の再処理工場周辺には大地震の巣はない。耐震性の問題は六ヶ所再処理工場に固有のものだ。「実績のある他国の技術導入」云々はまったく適用できない。
 原子力研究開発機構は、「もんじゅ」の運転再開について、来年5月の予定を5ヶ月ほど延期せざるを得なくなっている。海底の活断層が過小評価されていた問題が発覚したためだ。10月27日には、福井県で市民と開発機構との間で公開討論会が開催される。「もんじゅ」の運転再開を許さないためにも、耐震安全性問題が一つの中心的な課題となる。

■ 新たな多くの人々の関心や不安を組織して、運動を進めよう
 今回の地震は、大量の電力を消費する大都市と原発の危険だけを押しつけられる地元という構図をも浮かび上がらせた。しかしマスコミは、原発の運転再開を促すかのように首都圏の電力供給危機については大々的に報道するが、それを支えてきた立地点の人々の怒りと恐怖は伝えようとしていない。また、温暖化対策の切り札として原発に依存する現行の温暖化対策の不安定性と限界をも明らかにした。柏崎刈羽原発の長期の運転停止によって、東電の原発の利用率は大幅に落ち込む。2010年頃に原発設備利用率88%を前提とする温暖化対策は破綻した。電力消費を大幅に削減する抜本的な変革以外に京都議定書の「6%削減」を実行することはできない。また、日本の原発の耐震安全性の崩壊は、米国・中国・インドネシア等への原発輸出を狙う原子力産業にとって、またそれらを後押しする政府の「原子力立国計画」にとっても致命的な打撃となって跳ね返っている。
 しかしそれでも(あるいはそれがゆえに)保安院は、原発の連続運転を現行の13ヶ月から最大24ヶ月まで延長し、利用率の向上によって経済性を最優先する省令の改訂を行い、来年度から実施しようとしている。柏崎刈羽原発のショックの後に具体化されようとしているこの定検制度の改悪に対し、立地県の自治体などは「24ヶ月運転の安全性が明らかにされないかぎり導入は無理」と反発を強めている。この背景には、定検で集まる労働者の宿泊で生計を立てている地元の民宿業者などの反発もある。

 政府や電力各社は、「柏崎刈羽原発の知見をもとに耐震安全性の見直しを行う」と言わざるを得なくなった。これを機に、各地の原発の耐震性を具体的に問題にしていこう。活断層の値切りや機器の安全余裕で耐震性をクリアさせようとするやり方を批判し追及していこう。9月20日頃に出る各社の「自主的な評価」を批判していこう。
 新たに多くの人々が地震と原発の問題に強い関心を寄せ始めている。この間の地震の頻発という現実を背景に、様々な層の人々の中で「原発は地震に耐えられるのか」という関心や不安が広がっている。このような声に依拠して、広範な運動を組織していこう。

(07/08/28UP)