耐震評価の崩壊に「安全余裕」で抵抗する危険な道


 中越沖地震は柏崎刈羽原発に東電想定外の影響を与え、従来の耐震安全性評価を崩壊させた。関西に住むものにとって、とりわけ断層の巣・敦賀半島にある原発の耐震安全はどうなるかが重大事であり、関心と心配が大きく広がっている。ところが、耐震評価は崩壊しても「安全余裕」で安全性は確保されるのだという危険な抵抗が、電力会社の自主性の名のもとに、明らかに政府主導で行われようとしている。以下で、その内容を具体的に取り上げ批判したい。

1.中越沖地震が柏崎刈羽原発に与えた東電想定外の影響
 中越沖地震は、これまでの耐震評価での東電の想定を超えた次のような影響を柏崎刈羽原発に対して与えた。すべての原発で、以下を踏まえて耐震安全性が見直されるべきである。
(1)東電の申請書で書かれている地表面の活断層からは離れた位置が震源となったばかりか、活断層の形態や動き方についていまだ諸説が入り乱れている。それほど活断層の状態が想定外であり、それどころか従来の活断層の概念では捉えきれない可能性も浮上している。

(東電公表資料より)
(2)今回のマグニチュードから従来の手法で計算される地震動を大きく上回る揺れが、柏崎刈羽原発で実際に生じた。M6.8と震源距離23.3kmから従来の金井式では最大速度振幅が9.1カインにしかならない。東電の申請書での最大速度振幅は、中央丘陵西縁部断層によって12.8カイン、設計用S2模擬地震動で22.0カインだから、これらを大きく下まわる。ところが1号機地下5階の基礎版上1−R2で測定された速度振幅の最大値は、EW(東西)方向で約80カインにもなっている(入倉他、原子力安全PT第3−2−1)。入倉氏らがキラーパルスと呼んでいるほどの、まったく予想外の衝撃的振動をもたらしている。
(3)従来の耐震安全性は地震の揺れに対するものであった。ところが今回は、揺ればかりでなく、地盤のズレが直接に施設を襲っている。たとえば3号機の変圧器では、地盤の縦向きズレによる電気母線部の破損によって火災が起こった。このような地盤のズレは地下深くから及んできているのか、ボーリング調査を行って確かめるべきである。地盤のズレは配管や電気ケーブルなどに引きちぎるような損傷を与える恐れがある。しかし、この問題は、いまのところまだ耐震安全性としてあまり問題にされていない。

2.柏崎刈羽原発における地震動の実態
 柏崎刈羽原発における地震動の実態を1号機を例にとって見ておこう。次頁の図2のように地下5階(マイナス32.5m)の基礎版上1−R2に地震計が置かれていて、その記録から図3の地震動(EW方向)が得られ、さらに図4の周期ごとの加速度振幅(スペクトル)が得られている。図3より、設計で想定したS2最大加速度273ガルを上回る680ガルが襲っている。図4から、測定値はほとんどの周期で設計用に想定した地震動を大きく上回っているのが分かる。
 図2の左側にある地盤系G7〜G10での測定値を深さに沿って表したのが右の図1である。深さ250mのG10でEW方向に993ガルになっている。深くなるほどむしろ揺れが大きくなる傾向から、地下284mの解放基盤表面では揺れが993ガルより大きいと推定できる。






3.耐震評価の崩壊に「安全余裕」で抵抗−関電の影響評価




 関電は8月20日に、「柏崎刈羽原子力発電所における観測データをもとに行う当社原子力発電所の主要設備への概略影響評価」を公表した。これは電力各社がいっせいに1ヶ月を目途に「自主的に」行うものであるが、その基本内容や方式は全社でまったく同じである。
 関電が実施する検討評価フロー図を解釈して書き直したのが図5である。まず例えば美浜発電所の3機からどれか1機を選定する(以下美浜1号を想定)。その後次ぎの3段階を予定している。
◆第1段階:柏崎刈羽原発の基礎版上の応答スペクトルを美浜1号に引き寄せて、美浜1号のS2による応答スペクトルと比較する。しかし、柏崎刈羽でも号機によって違う応答のどれを選ぶのか。最地下階での最大の観測値をそのまま美浜の最地下階に当てはめるのか、ここに不定性がある。
柏崎刈羽1号機の前記解放基盤表面での揺れ少なくとも993ガルを美浜1号の解放基盤表面に入力して評価すべきだ。
 今回の地震の影響を耐震評価の教訓とするならば、前記比較で柏崎刈羽を当てはめた揺れが美浜1号のS2を上まわった段階で、美浜1号の耐震性が崩れたと認めるべきだ。ところが、次は安全余裕をもち出して抵抗しようとする。
◆第2段階:次は柏崎刈羽で観測された加速度を美浜1号の例えば原子炉容器に当てはめたとき、それにより生じる応力が「許容値」を超えるかどうかを問題にする。表1では美浜1号のS2により発生する応力は24.0で許容値48.1を超えていない。
 しかし柏崎刈羽のような大きな加速度であれば、応答値が48.1より大きくなり許容値を超えることもありうる。そのギリギリまでならよしとしたいという意図が今回の評価姿勢に表れている。
 S2の許容値とは、弾性限界を超えて元に戻らないような歪が生じるが破壊にまでは至らないような値である。図6では、「設計引張り強さ」Suという限界値の2/3をS2の許容値としている。
 しかし許容値ギリギリまで許すことは、表1に見られるように、許容値より相当小さい応力(応答値)しか生じないように設計してきた慎重な姿勢をかなぐり捨てるものである。特に老朽化した美浜1号では「設計引張り強さSu」が建設当初より小さくなり、従って許容値も相当に小さくなっている可能性がある。
◆第3段階:ところが、許容値を超えてもなお多度津の振動実験(模擬試験)では容易に機器は壊れなかったという実証実験結果までもちだして評価するのを最後の「砦」にしている。
 このような危険な評価姿勢はやめて、第1段階だけにとどめ、いさぎよく耐震性の崩壊を認めるべきだ。

4.野坂断層を全面的に評価せよ
 関電が行っている作業には、もう一つ活断層の評価の見直しがある。これは2009年9月に結論を出す予定だがまだ2年間もある。それまでに大地震が起きたらどうするのか。来年3月には中間報告をだすという。
 端的に言えば、美浜原発に対して野坂断層が全面的に動くとして、耐震性がどうなるか直ちに評価をやり直すべきである。関電の申請書では野坂断層は7kmしかないとして事実上無視しており、図7にある折れ曲がった海域断層(長さ17.4kmでマグニチュード6.9)をS2として採用している。ところが、政府の地震調査研究推進本部は関電の野坂断層に海域まで含めた長さ31kmの全体を野坂断層とし、これがいっせいに動いてマグニチュード7.3が発生するとしている。この場合、図8のように、申請書の17.6カインが約30カインに跳ね上がる。
 この場合の耐震性がどうなるかを、2年後を待たずに直ちに評価すべきである。もし耐震性が崩れるなら美浜原発は廃炉にすべきだ。

(07/08/28UP)