美浜の会ニュース No.92



G8に対する抗議行動
写真 Indymediaのhpより
 サミット期間中、ハイリゲンダム近郊のロストックには、グローバリゼーションに反対する諸団体、環境保護団体等々が結集し、大規模な抗議行動を繰り広げた。最大で8万人が結集し、温暖化防止に向けた実効力ある取組等を要求した。しかし、サミットでの合意は、長期目標の設定はおろか、「2050年までに半減を真剣に検討する」にとどまった。具体的削減目標の設定にブッシュは猛烈に反対した。安倍首相は「美しい星50」を披露し、「50%削減は義務的目標ではなくビジョンだ」と発言し、ブッシュを助けて合意を骨抜きにした。
 原子力委員会は6月19日に、「地球環境保全・エネルギー安定供給のための原子力のビジョンを考える懇話会」を設置し、今年度内に検討結果を公表するとしている。来年の洞爺湖サミットに向けて「美しい星50」の原子力関連部分を具体化しようとしている。電事連は「温暖化対策のための原発」を前に出したキャンペーンを強めている。
 しかし、政府・電事連の温暖化対策は異様なまでに原発と原発輸出に依存したもので、とうてい温暖化対策などと呼べるものではない。電事連の温暖化対策は、老朽原発の設備利用率を2010年度に87〜88%にも高めるという危険極まりないものだ。検査制度の改悪等を通じて、現在の13ヶ月運転を最大20ヶ月にまで延長すること等々で利用率のアップを狙っている。温暖化対策に名を借りた老朽原発酷使に反対していこう。

1.「美しい星50」は温暖化対策ではない。原発推進と原発輸出を狙う
 サミットを目前に控えた5月24日、財界主催の国際交流会議「アジアの未来」晩餐会で、安倍首相は初めて「美しい星50」戦略を披露した(正式演題:美しい星へのいざない「Invitation to 『Cool Earth 50』」)。これは、「21世紀環境立国戦略」の中核として6月1日に閣議決定された。
「美しい星50」はなんら温暖化対策となりうるものではない。世界第4位の排出国でありながら、増大し続ける二酸化炭素の排出をくい止めようとする意思すらない。それは、中期目標を設定し、各国ごとに排出量の目標値を定めるという京都議定書の精神を骨抜きにするものだ。「美しい星50」の狙いは、温暖化対策に名を借りた原発推進であり、「資金メカニズム」によって途上国への原発輸出を強力に推進するものだ。まさに「放射能まみれの星」へのいざないだ。

(1)京都議定書の基準年・1990年比を否定する「2050年までに半減」
 「美しい星50」は、二酸化炭素の削減について「現状に比して2050年までに半減」という長期目標を掲げている。この「現状に比して」は、京都議定書の「1990年比」を否定し、実際の削減目標を極めてあいまいにするものである。基準年をどこに置くのかによって状況は大きく異なる。京都議定書から離脱した米国は、2006年の二酸化炭素排出量は1990年比で約18%増。日本の場合でも2005年度実績で7.8%増という現状を見れば明らかだ。
 そして、この長期目標達成のビジョンとして「革新的技術の開発」をあげ、「二酸化炭素排出ゼロの石炭火力発電」、「高温ガス炉、小型炉など先進的な原子力技術を開発し」と、実現の目処もないものを提唱している。

(2)中期の具体的削減目標等はなし。「資金メカニズム」で原発輸出
 次に中期戦略として、「2013年以降の温暖化対策の具体的枠組み設計」の原則として、「全ての主要排出国が参加し、京都議定書を超えて、世界全体での排出削減」等をあげている。しかし、2050年までの約40年間に、中期的な削減目標さえ設定していない。各国ごとの削減目標値を策定することにも言及しない。具体的な削減目標値設定に反対する日本の財界と、ブッシュの意を汲んだものだ。
 そしてこの中期目標達成の目玉にしているのが「資金メカニズム」と途上国への原発輸出だ。「途上国への原子力導入のため基盤整備を始めとする支援を積極的に推進」すると明言している。「資金メカニズム」については、その意図をあからさまに述べている。「我が国の提案に応えて、自国の政策を積極的に変えていく国に対して行います。したがって、これは日本から政策と協力を提案・発信する新しい形の支援」等々。すなわち、日本からの原発輸出を受け入れる国には金を出すという露骨なものだ。東芝・三菱重工・日立の原子力産業の海外進出を積極的に後押しするものである。同時に、金の力で途上国を隷属させようとするものだ。

(3)最大の排出源である電力・産業部門から目をそらさせる「国民運動の展開」
 最後の柱が、京都議定書の6%削減という約束を「確実に達成する」ための「国民運動の展開」だ。「クールビズの定着」、「1人1日1sのCO2ダイエット」等々。これは、排出増加の主な原因が家庭・国民にあるかのように見せかけ、責任を転嫁するやり方だ。直接の排出量は、家庭部門の5.2%に対して、発電所・産業部門・運輸部門で約80%を占めている。大量排出している電力・産業部門へは具体的な排出規制を行わず、経団連や電事連の「自主行動計画」(90年比ゼロ削減)に任せ、国は部分的にフォローアップを行うだけだ。電力・産業部門の排出量を具体的に規制することなしには、京都議定書の達成は不可能である。

2.政府・電事連の温暖化対策は異様なまでに原発依存
 日本は京都議定書で、第1約束期間の2008〜2012年の平均で6%の温室効果ガスの削減が義務づけられている。政府は2005年4月28日に「議定書目標達成計画」を策定した。「目標達成計画」での6%削減の内訳は、森林等の吸収源と京都メカニズムの両方で5.5%を占めている(京都メカニズム:途上国の排出削減事業等による削減の一部を自国の排出削減に割り当てる。補完的なものとして位置づけることとなっている。これに大幅に依存していること自体、当初より環境団体から厳しく批判されている)。そして排出量の大部分を占めるエネルギー起源の二酸化炭素は0.6%の増加に押さえることで目標を達成できるとしている。こうして、12.37億トン(1990年度実績)から11.63億トン(2010年度)に削減する目標となっている。

(1)電事連のCO2対策は、排出量ではなく「原単位」の削減
   電力消費をトータルに削減しなければ、CO2排出量の増加はさけられない

 2005年度の部門別の直接排出実績では、エネルギー転換部門(発電所等)が最大の排出源となっている(30.7%)。この部門の削減計画は、電事連が「自主行動計画」で定めている。
 電事連の2010年度目標では、図1のように、CO2排出量は基準年の1990年度比でむしろ約10%増加する。使用電力量は36%の大幅増(同比)となる。
実は、電事連の目標は、CO2排出量の削減ではなく、「使用端CO2排出原単位」の削減におかれている。原単位を1990年度実績0.421kg/kWhから2010年度の約0.34 kg/kWhへと20%削減することだという。しかし、この「原単位」方式はCO2削減を目指すものではない。
 原単位を対象とする理由について、電事連は次のようにいう。「電気の使用に伴う CO2排出量は、お客さまの使用電力量と使用端 CO2排出原単位を掛け合わせて算出できる。このうち、お客さまの使用電力量は天候やお客さまの電気の使用事情といった電気事業者の努力が及ばない諸状況により増減することから、電気事業としては、自らの努力が反映可能な原単位目標を採用している」(電事連資料:「電気事業における地球温暖化対策の取り組み」2006.12.18)。そう言いながら、オール電化住宅等で電力消費を奨励しているのだ。これは同時に、なぜ使用端を採用するかの理由も述べている。要するに、[CO2排出量=使用端CO2排出原単位×使用電力量]のうち、使用電力量に事業者は関知外で、係数の「使用端CO2排出原単位」だけに責任を負うという考えである。
 この「使用端CO2排出原単位」は表1の電源別原単位に右欄の電源構成のウエイトをかけて平均すれば算出できる。それゆえ、原単位は基本的に電源構成から決まるので、原単位を減らすとは、火力を落として原発の割合を高めることに他ならない。原発の設備容量は増えないので、原単位を減らすためには、老朽原発に鞭打つしかない。
 他方、電事連は原単位を下げるために別のカラクリを用意する。[使用端CO2排出原単位=CO2排出量÷使用電力量]という式で改めて原単位を定義し直す。これだと、後に述べるが、国内CO2排出量が増えても、京都メカニズムで排出量をみかけ上減らすことによっても原単位を小さくすることができる。

(2)電事連の「自主行動計画」─原発の設備利用率を87〜88%(2010年度)に設定
 そして驚くことに、電事連は原単位削減の目標値を達成するために、原発の設備利用率を2010年度に87〜88%もの高い水準に設定しているのである。ところが設備利用率の実態は、図2のように2005年度実績で総合70%だ。この実態からすれば、88%の利用率は夢物語にすぎない。それでもこの高い利用率をもってこざるを得ないところに、計画自体の破綻が示されている。しかし、政府も電事連もこのギャップには目をつむり、ひたすら設備利用率の向上にしがみついている。そのことは、政府の2005年度排出実績の発表の仕方にも表れている。

(3)2005年度の排出実績7.8%増は、「原発の利用率の低下による一時的影響」
 環境省は5月29日、2005年度の温室効果ガス排出実績(確定値)を発表した。国の総排出量は13.6億トンに達し、基準年に比べて約1億トンも増加している。1990年度排出量12.61億トンの7.8%増(前年度比0.2%増)である。
 環境省の発表資料では、排出量の増加を「原発の利用率の低下による一時的影響」と記し、原発が予定どおり動いておれば、7.8%増は5.5%増に押さえられたと強調している。「仮に原子力発電所が長期停止の影響を受けていない2002年の原子力発電の停止前に策定した計画(平成14年度供給計画:利用率84.1%)で2005年度に運転した場合、CO2排出量は約2900万トン削減され」と、排出増の原因を働きの悪い原発のせいにしている。
 「停止前に策定した計画」とは、2002年夏に明らかになった東電不正事件前に策定したものである。この東電不正事件では、地元の強い怒りで、東電の全ての原発が次々に運転停止に追い込まれた。東電の原発設備利用率は2003年には約26%、BWR平均でも約39%にまで落ち込んだ。その後回復傾向にはあるが、84%にはほど遠い。今年3月に明らかになった志賀原発1号機の臨界事故隠しやBWR原発の制御棒引き抜け事故や検査の偽造等々に対し、経産大臣は運転停止命令を出すことなく原発の運転を最優先にした。これは、温暖化対策の切り札とする原発の利用率回復を図るためでもあった。

3.「目標達成計画」見直し─検査制度の改悪で老朽炉の長期連続運転を狙う
 昨年末から中央環境審議会・地球環境部会等で「目標達成計画」の見直し作業が行われている。夏頃までに「中間とりまとめ」、今年度末に「最終とりまとめ」を出す予定だ。4月17日には「排出量及び取組の状況等に関する論点整理(案)」を公表した。その中でも、電力分野における取組として「科学的・合理的な運転管理実現による原子力設備利用率の向上」があげられている。そして、2005年に策定した「達成目標」−原単位20%削減−は、いまだ実現可能としている。その場合、「現行の対策では、CO2排出原単位は15%程度の改善にとどまるため」、原発の設備利用率をなんとしても87〜88%にアップさせること等をあげている。

(1)原発の検査制度の改悪─20ヶ月の連続運転で利用率アップを狙う
 「目標達成計画」見直し議論の中で電事連は、「2010年度の原子力設備利用率は現状の制度下では84%程度にとどまる」として、「制度変更」による利用率アップを狙っている。現在政府が進めている連続運転を13ヶ月から最大20ヶ月に延長するなどの検査制度の改悪で利用率を上げるというわけだ。経産省は8月を目処に省令を改訂し、この長期連続運転を来年度から実施しようとしている。国が定めた一律の定検から、電力会社が出す「保全プログラム」に沿った定検へと制度を変更し、状態監視保全等の運転を止めずに行う検査の拡大等で、長期連続運転を導入しようとしている。

(2)経済性優先で安い石炭火力に大幅依存
 不正事件や美浜3号機などの事故で原発が止まった分、電力会社は石炭火力発電所の運転で電力をまかなってきた。電源別発電量の割合では、石炭火力の割合が異常に増えている。1990年の実績では9.7%だったものが2005年には25.7%にも達し、2.6倍にもなっている。この石炭依存の電事連の姿勢については、昨年12月18日の環境部会で「温暖化対策の根本的な考え方と整合しない」と委員から厳しく批判されている。これに対して電事連は「石炭価格はLNGの1/3〜1/2程度と廉価であり、エネルギー多様化の観点からも現状が最適な利用率」として、今後も経済性を優先させ、あくまでCO2排出の多い石炭依存の姿勢を変えようとはしていない。

(3)最後は「京都メカニズムの活用」で排出削減
 次に電事連が見直しの目玉としているのが「京都メカニズムの活用」だ。これは電力会社が途上国で行った温室効果ガス削減事業(例えばチリでの養豚場屎尿からのメタンガス回収・燃焼等)で得る債権をCO2削減貢献として組み入れることだ。国内発電所の排出量から海外での削減事業で得た排出権を引いて国内排出量を見かけ上小さくし、原単位を低く抑えようというものである。そもそも原単位は電源別原単位と電源構成から決まるはずの量である。これでは、原単位は全く異なる概念になってしまう。
 電事連は京都メカニズムで「今後3年間で3000万トン-CO2削減」の計画を立てている。さらに、原発の利用率が低いため石炭火力発電所を最大限運転して排出量が増えても、今後京都メカニズムによる削減範囲を一層拡大し、原単位削減目標を達成する可能性を示唆している。

4.温暖化対策に名を借りた、老朽炉の酷使に反対しよう
 政府・電事連の温暖化対策は、異様なまでに原発に依存している。大事故の危険と膨大な核のゴミを生み出ことによって環境を破壊する原発は、環境破壊を食い止めるための温暖化対策にはなりえない。同時に、老朽炉で高い利用率を前提にした現行の対策は既に破綻している。
 老朽化の進むボロボロ原発で、達成したこともない87〜88%という高い設備利用率で運転を強行すれば、大事故の危険は一層高まる。既に関電の老朽炉・美浜1号(37才)では、取り替え不可能なコンクリートの劣化による冷却水漏れで、既に3ヶ月以上も運転再開できない状況が続いている。定検の最終段階になって漏洩などが確認され、むち打てども動かずという状態が各地の原発で起きている。
 電事連の「自主行動計画」は、各電力会社のCO2削減計画から作られている。しかし、各電力会社が原発の利用率をいくらに設定しているのか等の具体的根拠は公表していない。例えば関電は、2006〜2008年度の原単位を0.282 kg/kWhと設定しているが、原発の設備利用率については「美浜発電所3号機事故再発防止対策をはじめとする安全確保を実施した上」とするだけで具体的数値目標は公表していない。電力会社との交渉等を通じて、これらを明らかにさせよう。電事連の温暖化対策の実態が、老朽炉にむち打つ危険な運転であることを具体的に暴いていこう。検査制度の改悪に反対し、長期連続運転を阻止し、老朽炉の閉鎖に向けた運動を強化していこう。それによって、原発依存の温暖化対策を転換させていこう。
 原単位を削減目標にすることは老朽原発の酷使に導き危険であり、それは現実にはそもそも無理な目標である。使用電力量をトータルに削減する以外にCO2排出量を削減する道のないことは、誰の目にも明らかなことだ。オール電化住宅などもってのほかだ。原発依存から脱却し、浪費構造の変革と省エネ、自然エネルギーへの転換なしに温暖化と地球環境の破壊をくい止めることはできない。反原発運動と温暖化・環境破壊に反対する運動との連携を進めていこう。

(07/06/27UP)