ソープ再処理工場─再処理契約に重大な変更
「バーチャル再処理」─再処理せずにプルトニウムと廃棄物を返還
運転再開の見通しは立たず、永久閉鎖の前倒し検討も浮上


 英国のソープ再処理工場(THORP)で、(1)再処理後にウラン、プルトニウムと廃棄物を顧客へ返還する方法と、(2)ソープ工場の運転再開について、重大な方針転換が行われようとしている。
 ソープ工場は2005年4月の配管破断事故後、いまだ停止したままである。破断した配管を迂回して運転する方法をNII(原子力施設検査局)が今年1月に承認したものの、蒸発器に関する問題のため今のところ再開は今秋以降にずれこむとされている。
 ソープ工場の再開の見通しが立たない中、工場を所有するNDA(原子力廃止措置機関)が、6月15日、廃棄物等の返還方法の変更許可申請を貿易産業省(DTI)に提出した。これは、使用済み核燃料を再処理していなくても、セラフィールドにすでに蓄えられているプルトニウム、ウラン、高レベル放射性廃棄物ガラス固化体を再処理契約量に見合うよう海外顧客に分配して納品できるようにするものである。現行の契約では、海外顧客から運ばれた使用済み核燃料を再処理した後に、抽出した核物質と廃棄物を顧客ごとに送ることになっている。NDAの求めている変更は、「バーチャル再処理」とも呼ばれており、実際には再処理していないのに、あたかも再処理したかのように装うものである。セラフィールドにすでに貯蔵されている発生国のわからない核物質と廃棄物を各顧客に送るというものである。
 DTIは、NDAの変更申請について公開審議を始めており、7月26日まで6週間かけて審議する予定である。この審議で提出された非公開文書を英インディペンデント紙がリークした。この文書は、今夏とされていたソープ工場の再開が今秋までありえないとしている。さらに、「最悪の事態」として2010年もしくは2011年まで再開しない場合を想定している。ソープ工場はもともと、再処理契約完了期日の2010年に永久閉鎖する予定だった。しかし、もし「最悪の事態」になれば、永久閉鎖期日の前倒しも考えられ、その場合は、ソープ工場にすでに海外から運び込まれた約800トンの使用済み核燃料全てを英国が保管し続けることになるのか、欧州の他の再処理工場(事実上、仏ラ・アーグしかない)に使用済み核燃料を移すことになるのか検討することになるだろうとしている。
 約800トンの使用済み核燃料は、ドイツとスイスと日本の電力会社、英ブリティッシュ・エナジー社から運ばれたものである。NDAは、ドイツとスイスから出ている再処理の遅れに対する不満を緩和するために、今回の変更申請を提出したとされている。「今回の申請は核物質を海外顧客のニーズにあった時期に顧客が使用できることを保証するものであり、廃棄物、プルトニウム、ウランのタイムリーな返還を円滑にします」とNDAは言っている。
 今のところDTIはNDAの変更申請を承認するつもりである。しかし、インディペンデント紙によれば、行き場のない約800トンの外国の使用済み核燃料を英国が新たに抱えるとなれば、英国政府が新原発建設方針を承認するかどうか検討しているこの時期に、原子力産業の評判に重大な打撃を与えると報じている。
 2005年4月の配管破断事故の影響は、英国政府にソープ工場の運転再開を諦めて、永久閉鎖の前倒しを行うことを選択肢にいれさせるまでに至っているのである。

(07/06/27UP)