美浜の会ニュース No.90


 昨年の水力発電所のデータ改ざんに端を発し、電力各社のデータねつ造、偽装等の不正が次々と明るみに出ている。1月31日には東電の原発で199件ものデータねつ造・偽装が明らかになった。柏崎刈羽1号ではECCS検査を偽装して国の検査を通り抜け、原子炉起動後2日間ECCSポンプのモータは故障したままだった。原子力安全・保安院は東電には3月1日までに、さらに各電力会社に対しては3月31日までにデータ不正等について報告を求めている。不正は今後さらに広がりを見せると予想される。同時に、検査のいい加減さと規制に実効力をもたせようとしない国に対する怒りが強まっている。
 繰り返される不正を前にして、地元首長達が怒りをあらわにしている。2月22日には、全原協(全国原子力発電所所在市町村協議会)の代表河瀬敦賀市長と副代表会田柏崎市長が電事連と保安院に対し、不正の連発に対する抗議と検査の徹底を申し入れた。
 不正を繰り返す電力会社と実効性のある規制を行わない国に、これ以上原発の運転を続けさせるのは危険すぎる。不正事件で生み出されている怒りを基礎に、この期に、典型的な炉に焦点を当て、その不正や危険な実態を暴露して閉鎖に追い込む運動を開始しよう。

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■関電の水力発電でも大規模な不正−河川法違反
 関電の水力発電所でも、大規模な法令違反・データねつ造・隠ぺいが明らかになった。関電は2月14日に保安院と国交省に報告書を提出した。全148基のうち2基を除く全ての水力発電所で不正を行っていた。不正の手口は、例えば、許可された取水量を超えて取水しても表示は制限内となるような不正プログラムを組み込むという悪質なものだ。1973年頃から本社の指示で行ったという会社ぐるみの不正だった。関電はこの不正プログラムを「標準機能」とまで呼んでいる。さらに、発電用以外の水使用については、許可申請を出さず無断で使っていたのが129発電所で459件もある。
 2月15日の関電交渉では「違法の可能性がある」と述べるだけで、自ら違法行為を行ったという認識も反省もなかった。会社ぐるみの違法にもかかわらず、トップが責任を取ることもない。関電の体質は何も変わっていない。
 国交省は22日、とりわけ悪質な5つの発電所に立入検査を行い、発電用以外の違法取水を確認し取水停止を指示した。そのため2発電所(新落合・兼山)は発電不能となり停止した(5頁参照)。

■美浜1号でECCS系配管の無許可溶接−電気事業法違反
 水力発電所の大規模な不正に続いて、2月16日には美浜1号で違法行為が発覚した。定検中にECCS系配管の溶接工事で、国に許可申請を出さずに無許可で溶接を行っていた。電気事業法では、溶接検査にあたっては、国に許可申請を出し、検査機関(原子力安全基盤機構)による確認と立ち会い検査を受けねばならない。関電は、許可申請を出さずに昨年12月19日に違法溶接を行っていた。明らかに電気事業法違反という重大な違法行為だ。
 この違法が発覚したのは、定検の元請け会社である三菱重工業の指摘によるものだった。関電はそれによって初めて気づいたという。ECCS系配管という最重要の部位に関しても関電自らは何も管理していなかったことになる。安全軽視の体質を如実に示している。
 関電は、核燃料を抜き取り、溶接部分を取り外し、改めて国の立ち会いの下で溶接をやり直すと早々と発表した。違法行為の原因も明らかにならないうちから、溶接のやり直しを表明するなど本末転倒だ。違法行為の責任をとることもなく、早期の運転再開にしか関心がない。

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■国の不正問題への対応−具体的な実効を伴う規制を行わず
 電力会社の不正問題は、それらを見過ごしてきた国の検査のあり方へ波及している。地元首長達の怒りを前にして、国も「検査の強化」を口にせざるを得なくなっている。
 2月16日、甘利経産大臣は保安院に指示を出した。「事業者が、現時点で、不正を許さない取り組みをしているかを確認する」というものだ。「現時点で」とは、「過去の」不正には目をつぶるということでもある。事実、東電の不正発覚に対して保安院は「過去の不正であり、自ら申告し報告したのは前進」とまで述べている。電気事業法では、2002年の東電事件以前の事例は「時効」が成立しているという。もう一つの原子炉等規制法に基づいた運転停止処分は検討もしていない。
 大臣指示の具体的内容は次のとおりだ。「強化検査項目」として「(1)トップマネジメントによる自律的な改善の仕組みの確立状況、(2)安全文化の醸成についての取り組み状況」を確認するという。関電のように社長直筆の「安全宣言」(=トップマネジメント)を出しても事故や不正はなくならない。「安全文化の醸成」ではなく、「違法・不正・隠ぺい体質の醸成」の根源を明らかにしなければならない。そして何より、国自らの検査が全く機能していないという現実を直視すべきである。
 さらに東電に対しては「対東京電力追加検査項目等」として、「柏崎刈羽原子力発電所の保安検査への検査官の追加派遣及び検査の期間延長」等をあげている。これら検査官の増員も期間の延長も1回限りの措置である。国への批判をかわすためのマヌーバーでしかない。

■あいまいな安全規制を許されている電力の特異性
 電力会社の体質とそれを支えている国のずさんな規制は、独特なものだ。不二家の場合、経産省は、不二家が取得しているISO(品質・環境管理の国際規格)について、認証機関に臨時審査を要請した。その結果、一部の工場ではISOの認証が一時停止された。電力会社の不正事件に対する姿勢とは全く異なる。食品メーカ等が不正事件を起こせば消費者離れによる経営危機に追い込まれる。ましてや何度も不正を繰り返せば倒産も免れない。しかし、ずさんな安全規制と地域独占を保証された電力会社にはその心配がない。保安院は、少なくとも電力各社のISOの認証について、取り消しを含む審査を要請すべきだ。
 電力会社の不正の体質は、安全性よりも経済性を優先する姿勢、国のいいかげんな安全規制、規制当局との癒着、国策としての原子力の特異性、地域独占の下で基本的に競争他社がいない電力の特異性−そこから生まれるおごり等によって醸成されている。何度わびても、何度「安全の誓い」という誓詞を唱えても、不正事件は繰り返される。
 だからこそ、とりわけ厳しい監視と規制が必要となる。しかし、国も電事連も一体となって「稼働率至上主義」に邁進している。国の「検査のあり方検討会」では、定期検査の内容を電力にまかせる等の検査制度の抜本的な改悪を08年から実施しようとしている。米国の規制緩和を模倣し、老朽原発にむち打って、米国並みの高稼働率を狙っている。しかし、「米国の憂慮する科学者同盟」は、安全余裕が切り縮められた米国原発の危険な実態を調査し、その基礎に、推進機関とは独立しているはずのNRC(原子力規制委員会)が進める大幅な安全規制の緩和があるとして「安全ネットに大穴があいている」と警告している。

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 以上のように、不正を繰り返す電力会社と実効性のある規制を行わない国に、これ以上原発の運転を続けさせるのは危険すぎる。不正事件で生み出されている怒りを基礎に、典型的な炉に焦点を当て、運動の力で閉鎖に追い込んでいこう。大事故を起こした原発、違法行為が明らかになった原発、危険な老朽原発等、その不正や危険な実態を暴露して閉鎖を求めていこう。
 関電の場合、ターゲットは、5名もの死者を出した老朽美浜3号と老朽化の激しい美浜1号だ。東電の場合は、違法を繰り返し老朽化の進む福島T−1号に焦点を当てようとの機運が高まっている。他の電力会社でもすでにいくつかの事例が明るみに出ているが、さらに3月31日の報告で不正等の実態が明らかになるに違いない。

■違法溶接/全身ボロボロの老朽炉美浜1号を閉鎖に
 美浜1号で違法溶接が明らかになった前日、関電は1月末に予定していた原子炉起動を1ヶ月延期し機器の修理を行っていると発表した。11月から行っていた定検の最終局面で、複数の機器で損傷が見つかったためだ(6頁参照)。
 まず、A−湿分分離加熱器の細管1本が破断していた。破断した配管から噴出した蒸気で隣の配管には穴があいていた。配管損傷の原因は、2005年のトラブルによる出力低下が原因と思われる。事故が事故を呼び起こしている。また1月21日には原子炉容器上蓋に突き出ている温度計から冷却材がにじみ出した。2月1日の耐圧漏えい試験では加圧器逃し弁からの漏えいもあった。
 定検の最終段階で明らかになったこれらの損傷は、老朽炉美浜1号が満身創痍であることを示している。全身ボロボロ。もう運転には耐えられないとの叫びである。老朽炉美浜1号をこれ以上酷使してはならない。また、違法溶接の発覚によって、原子炉起動はさらに1ヶ月延期になるといわれている。3月末には不正問題の報告も予定されており、関電の不正がさらに発覚することになるだろう。1970年に運転を開始し37才となる老朽炉の代表、美浜1号は閉鎖すべきだ。
 美浜3号の事故以降、関電の原発では二次系配管の肉厚が基準値以下に薄くなっていた箇所が66箇所にも及んでいたことが新聞報道で明らかになった。大飯3号を除く10基の原発で起きていた。66箇所のうち約8割は、30年を超える老朽炉5基に集中している。老朽化による配管減肉の実態を示すものであり、同時に、これらを放置してきた関電と国のずさんな管理・検査をも示すものだ。その象徴的な代表が美浜1号なのだ。

■美浜3号を閉鎖に−大事故を引き起こした体質はそのまま
 5名もの死者を出した美浜3号機事故について、福井県警は25日に関電若狭支社の元保修課長などを含む6名を業務上過失致死傷容疑で書類送検する。当初報道されていた若狭支社長の送検は見送られた。若狭支社長は、大飯1号での配管の大幅減肉を受けて点検を指示し、8月14日からの定検の決裁を行っていたにもかかわらず、「美浜3号の未点検情報は知らされていなかった」との理由のようだ。関電のこれまでの主張どおりである。
 関電は2月7日、2年半ぶりに美浜3号の営業運転を再開した。ご遺族の怒りや多くの人々の反対や不安の声を聞くこともなく、温排水データ改ざんの報告も出さないうちに運転を強行した。事故の真相は解明されておらず、関電トップは責任を放棄している。
 美浜3号の運転再開にあたって、関電は法令順守や品質保証活動の強化を約束していた。美浜1号の違法工事や頻発する事故は、関電のいう再発防止策が一切守られていないことをはっきりと示している。事故のたびに「基本の基本ができていない」と繰り返している。今年に入ってからだけでも関電の原発では事故やトラブルが続いている。高浜1号での一次冷却水流出とそれを下請け作業員が浴びる事故等々。関電の安全軽視の体質はなんら変わっていない。美浜3号の運転を許可した国の判断が間違いだったことは明らかだ。経産大臣の指示に照らしても、関電の場合「現時点で、不正を許さない取り組み」がなされていないことは明らかである。美浜3号は閉鎖すべきだ。

■福井県や県議会でも批判が高まり始めている
 エネルギー拠点化計画に邁進し、関電や国から補助金等を集めることに最大の関心を払ってきた福井県も、何らかの対応を取らざるを得なくなっている。県は23日、安全管理の徹底を求めて関電・原電・原子力機構に対し異例の文書での申し入れを行った。とりわけ関電に対しては、美浜1号の違法溶接に関して今後の取組みを早急に報告するよう求めた。安全環境部長は関電に対し「事業者の信頼失墜だけでなく、県の行政に県民の理解が得られなくなると危惧している」と厳重注意した。県の対応の背景には、県民の怒りや不信がある。また22日の福井県議会・厚生警察常任委員会では、立て続けの不祥事に対し、次期議会に原子力安全対策を専門とする特別委員会の設置を提案することを決定した。統一地方選を前にしたトラブル続きに対し、自民党県議からもプルサーマル中止の検討と「トラブルをなくせない組織を傍観するわけにはいかない」と批判の声が出ている。
 関電は、美浜3号の運転再開後にプルサーマルを再開することを狙っていた。しかし、不祥事続きでとてもプルサーマルを言い出せる状況にはない。福井県は8年も前の事前了解を撤回すべきである。美浜1号、3号を閉鎖させる運動を強めることは、同時に関電プルサーマルの復活を阻止することにつながる。

■老朽原発など典型的な原発に焦点を当て、閉鎖を求める運動を進めよう
 東電の常態化した不正・偽装に対し、福島1−1など典型的な原発に焦点を当てて閉鎖を求める機運が高まっている。東北電力では放射能放出量のデータねつ造が明るみに出ている。九電は、極めて重要な一次系配管(余剰抽出水系統取出配管)の大幅減肉を放置し続けていた。北電では水力のデータ改ざん等々。3月31日には全電力会社が報告を出す。それをとらえて、交渉等を通じ不正の具体的実態を暴き、その責任の追及しよう。地元自治体などへの要請行動に取り組もう。国に対しては、全国の運動が連帯して、ずさんな検査の責任を追及し検査の強化を要求しよう。不正を起こした発電所のISO認証取消を含む審査を要求しよう。これらを、典型的な原発の閉鎖を求める運動に集約していこう。