老朽化を示す美浜1号機での事故の頻発


 当初1月下旬に予定されていた美浜1号機の原子炉起動は、第22回定検終了近くになって発生したトラブルのため2月下旬に変更された。美浜1号の不正溶接が明らかになる前日の2月15日、関電は「原子力発電所の運営状況について」というタイトルのプレスリリースを公表した。その中で関電は、美浜1号について4件ものトラブルを報告している。湿分分離加熱器での細管破断をはじめ、いずれも深刻な問題である。それにもかかわらず関電は、トラブルではなく、「運転状況」という姑息な形で済ましている。しかも、いずれの問題についても原因は究明されていない。部品の取り替えだけで美浜1号の運転再開を行おうとしている。美浜1号機は、2005年の前回定検でも起動後に連鎖的に事故を起こしている※。それに引き続く今回の事故は、老朽化による事故の頻発時期に美浜1号が入りつつあることを強く示唆している。
※:主給水ポンプからの水漏れによって起動が遅れた(2005年8月5日が8月23日に延期)。起動したと思ったら、すぐに湿分分離加熱器からの蒸気漏れが発生(9月17日)。それによる原子炉停止作業中に今度は加圧器安全弁からの漏洩が起こり(9月29日)、続いて冷却材ポンプのシール水漏えいが発生している(9月29日)。その結果、原子炉は緊急停止。当初の起動予定から3ヶ月遅れて再起動となった(11月9日・再起動時に臨界失敗)。

1.湿分分離加熱器で細管が1本破断し、噴出した蒸気で隣接配管に穴
 2006年11月28日、A−湿分分離加熱器細管についてECT(渦流探傷検査)を行った結果、1本の細管が完全に破断、これと隣接する1本で破口(穴)が発見された。また、他に40本の細管に10%以上の減肉が見つかった。湿分分離加熱器とは、高圧タービンから低圧タービンへと流れる蒸気の効率を上げるために、主蒸気を使ってその蒸気を再加熱し、湿分を除去する機器である。破断した細管の中には主蒸気が流れる一方、細管の外側は高圧タービンを通過した後の圧力も温度も下がった蒸気が流れており、約40気圧の圧力差が存在する。今回1本破断ではなく、破断口から噴出した蒸気によって隣接細管にも穴があいていた。場合によっては、複数本破断から低圧タービンの破壊につながる恐れもあった。
 関電はプレスリリースで、破断および破口に至ったメカニズムを以下のように推定している。
(1)2005年9月17日に出力を下げて運転したため、細管の入口側と出口側で熱膨張による伸び幅の差が発生した。(2)その結果、破断した細管の外面の放熱板が管支持板に引っかかった。(3)熱による細管の伸びによって、破断した細管はさらに他の管支持板や破口(穴)した細管とも引っかかり、拘束状態となった。(4)その状態で、同じ年の9月29日にプラントを停止したため、今度は細管が冷やされて収縮、その結果亀裂が発生し、次の再開時に亀裂が進展、破断に至った。(5)破断した細管から噴出した蒸気により、隣接した細管が減肉し破口(穴)した。低出力運転はこれまでもあったはずなのにどうして2005年になって引っかかったのか。経年的な影響はどうなのか。関電の推定には疑問がある。

関電HPより作成

 2005年9月17日の低出力運転は、21回定検で発見された今回とは別系統のB−湿分分離加熱器からの蒸気漏れによるものである。関電の説明に従えば、美浜1号は事故が事故を呼ぶ満身創痍の状態と言えよう。関電は、壊れた細管に施栓し振れ止め防止用の補強棒を入れただけで、次回定検まで動かすとしている。壊れた部分をそのまま放置して運転を開始することは許されない。また、破断細管の分析と徹底した事故原因の究明を行うべきである。関電は「温度や圧力に大きな影響はなく、運転中は確認できなかった。破断時期は推定できない(福井新聞)」としている。恐ろしいことに、破断を全く検知できず、そのまま運転を続けていたのである。「温度や圧力」の変動を公表させる必要がある。

2.使用済み燃料に金属くずが付着していた
 2006年11月15日、使用済み燃料プールにおいて水中カメラを使った燃料集合体の外観検査を行っていた際、集合体の下部に金属くずの付着が見つかった。金属くずを回収するために、この集合体を移動させた所、異物は行方不明になった。また、他の2体の集合体からも金属くずの付着が確認されたため、2個の異物を回収した。関電は、「異物の混入経路について調査した結果、混入経路の特定には至」らなかったとしている。
 使用済み燃料プールに金属くずが入りこみ、燃料に付着するようなずさんな管理の実態が露呈した。関電は、燃料取替クレーンが発生源である可能性を示唆しているが、運転中に付着した可能性も否定できない。いずれにせよ美浜1号は、老朽化によってあちこちから金属くずが発生し、それが管理できない状態になっているということである。

3.原子炉上ぶた温度計から原因不明の水漏れ
 2007年1月21日、1次系の空気抜き作業のため圧力を上げたところ、原子炉上ぶたについている炉内計装用熱電対の上部シール部から水漏れが生じていることが確認された。関電は、シール部の分解点検を行ったが、シールするパッキンに、変形や傷、異物の付着は見つからなかったとしている。それにもかかわらず関電は、「漏えい経路の可能性が否定できない跡が確認され」たとし、パッキンを取り替えた。パッキンに異常はなかったと言いつつ、なぜか実際には異常らしきものがあったことになっている。パッキンは定検毎に取り替えられるものである。パッキンの品質そのものに問題があるのか、あるいは締め方等の作業の質が低下しているのか。上ぶた設置機器からの漏水は重大な問題である。関電は調査し原因を明らかにすべきである。

関電HPより作成

4.鉄さびの噛み込みで加圧器逃し弁が閉まらなくなった
 2007年2月1日、1次系の漏えい検査を実施したところ、2台ある加圧器逃し弁のうち片方で、弁がきっちりと閉まらなくなっていることが明らかとなった。関電によれば、ステンレスの弁座と弁体との間に「微小な鉄錆が噛み込んでい」たためだという。大きさ等は明らかにされていない。また、この鉄錆がどこから来たものなのか究明されていない。関電は、弁部を取り替えて復旧するとしているが、発生源が分かっていない以上、同じことが起こるに違いない。1次系のどこからか、錆が流れてきている。燃料棒を除けば温度が最も高くなる加圧器で錆が進行しているのかも知れない。これは、美浜1号の老朽化を示すものである。2005年の定検後の一連のトラブルの中でも、加圧器安全弁のシート部からの蒸気漏れという類似した事故が発生している。この時関電は、「異物がシート面に付着した可能性も否定できない」と、原因を特定しないままシート部を取り替えて運転を再開している。原因究明をしないまま、同じような事故が続いて起こっている。関電は錆がどこからやってきたのか徹底調査すべきである。