美浜の会ニュース No.89


 六ヶ所再処理工場で8月12日に始まったアクティブ試験第2ステップは、12月中旬に試験工程を終了し、来年1月半ばまでに国の確認を受けるとされている。当初予定より約2ヶ月の遅れである。
 この遅れの一つの理由は、使用済み核燃料のせん断が8月19日から1ヶ月半も中断したことであり、その原因は、プルトニウム等を含む燃料粉がせん断機内に固着したためだった。しかし原燃はこの「固着物」を調査することもなく廃棄物にしてしまった。プルトニウムを廃棄物として扱うことが許されるのだろうか(7頁参照)。また、大気や海への放射能垂れ流しについては、低減のための措置をとろうともしていない。このことは、安全協定違反でもある(8頁参照)。
 これらは別記事に委ね、ここでは、第2ステップで始まったウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)の製品化に伴って明らかになった問題に焦点を当てる。
 原燃は、酸化プルトニウム単体ではなくMOXだから「核不拡散性に優れている」、「原子力の平和利用の一つのモデル」だとプレス発表で豪語した。しかし原燃は、11月22日の交渉でこの見解は「IAEAの基準に基づいたものではない、物性によるものだ」と認めた。さらに11月24日の記者会見では、原燃社長は「核兵器用への転換は理屈の上では可能でも、現実には不可能」だと主張した。「現実には不可能」というこの社長見解に従えば、IAEAの基準は非現実的な可能性になってしまい、査察も必要ではなくなる。六ヶ所と同じ混合脱硝法でなら、誰が再処理をしても何の現実的危険もないことになってしまう。IAEAの基準を否定するこのような見解の持ち主が、再処理工場を管理することほど危険なことはない。
 このような原燃社長の見解が大手を振ってまかりとおることが許されていいのだろうか、このことを厳しく追及していこう。MOXの核兵器用への転換は「現実には不可能」との見解について、公の場で釈明するよう要求しよう。

 以下では、原燃の無責任極まりない見解の内容とその変遷を、原燃プレス発表と市民団体の取り組み等に基づいて整理して記述する。

1.11月2日の原燃プレス「ウラン・プルトニウム混合酸化物の生成開始について」
  ──MOXは「核不拡散性に優れ」ている──
 11月2日に原燃は、ウラン・プルトニウム混合酸化物の生成を開始したと発表した。六ヶ所再処理工場の混合脱硝建屋では、プルトニウム硝酸溶液とウラン硝酸溶液を混ぜあわせ、電子レンジのようにマイクロ波を照射することで硝酸を除去し(脱硝)、混合酸化物を生成する。この日のプレス発表は以下のようになっている。
 六ヶ所再処理工場の最大の特長は、わが国が独自に開発した「混合脱硝」という核不拡散につながる技術を有していることです。すなわち、同工場で出来上がる製品は、プルトニウム単体ではなく、核不拡散性に優れ且つ、MOX燃料製造に適したウラン・プルトニウムの混合酸化物粉末であります。さらにIAEAとの協定に基づくフルスコープの保障措置とあいまって「原子力の平和利用」の一つのモデルになるものと考えています。
(引用者注:上記引用文の「プルトニウム単体」とは、「酸化プルトニウム単体」のこと。このことは11月22日の交渉で確認。また、アンダーラインは引用者。以下同様。)

 ここでは、まず、核不拡散性につながる「混合脱硝」の技術を六ヶ所の「最大の特長」と規定している。そして出来上がる製品=ウラン・プルトニウム混合酸化物(50:50のMOX)が「核不拡散性に優れ」、「MOX燃料製造に適し」ていると結論づけている。すなわち、「核不拡散性に優れ」ているとする根拠を、酸化プルトニウム単体での抽出ではなく混合酸化物だからとしている。ここでは、「IAEAの保証措置」は追加的記述になっている。

2.11月10日 市民団体が原燃に要望書
  ──原燃見解はIAEAの基準に反している──
 上記の原燃プレス発表等について、市民団体は連名で原燃に要望書を提出した。原燃のプレス発表は、明らかにIAEAの基準に反している。そのため、要望書の中で下記の内容を質問している(IAEAの基準については、5頁参照)。
(a) MOXが酸化プルトニウムと違って「核不拡散性に優れ」ているというのは、IAEAのどの基準に基づいてのことか
(b) 転換時間(核爆発装置の金属構成要素に転換するのに要する時間)に関するIAEA保障措置上の扱いでは、酸化プルトニウムとMOXは同じ範疇に属していて1〜3週間とされていることから、両者に本質的な違いはないのではないか。

3.11月16日の原燃プレス「ウラン・プルトニウム混合酸化物製品の生産開始について」
  ──「核不拡散性の高い」独自技術──

 原燃は11月16日に、MOXの粉末を製品として回収した。マスコミは「MOX粉末製造成功」、「サイクル実現へ前進」との見出しで1面トップで報じ、瓶に入ったMOX粉末のカラー写真(原燃提供)を掲載した。原燃は10月26日から「混合脱硝」工程に着手し、11月2日にMOXの粉体製造を開始。そして加熱、粉砕、混合の工程を経て16日に粉末製品にした。粉末缶に12sずつ充填し貯蔵容器に密閉して混合酸化物貯蔵建屋で保管する。この日の原燃プレスは、市民団体の要望書を意識してか、「核不拡散性に優れ」という文言はなくなり、「核不拡散性の高い」と、より慎重な言い回しになっている。しかし、本質は変わっていない。
 六ヶ所再処理工場は、核不拡散性の高いわが国独自の「混合脱硝」技術を用いるとともに、IAEAとの協定に基づいて、フルスコープの保障措置(注)の導入、査察の受け入れを行っており、「原子力の平和利用」の代表的なモデルの一つと考えています。

4.11月22日の原燃交渉
  ──「核不拡散性に優れた」はIAEAの基準ではなく「物的特性」と認める──

 98団体の共同提出となった要望書を基に、11月22日、六ヶ所村で原燃との交渉を行った(交渉報告は8頁参照)。原燃は、「核不拡散性に優れ」ているという見解について、IAEAの基準に基づくものではないことを認めた。また、酸化プルトニウム単体とMOXが、IAEAの転換時間(「異なった形態の核物質を核爆発装置の金属構成要素に転換するのに必要な時間」)では「1〜3週間」という同じ範疇に属していることも認めた。「核不拡散性に優れ」ているという原燃の見解は、IAEAの基準とは無関係な「MOXの物的特性」を基にしたものだという。また回答では「核爆発装置への転用の観点からはMOXは酸化プルトニウムと比較しても転換しにくい状況」だと強調した。このように、「物的特性」を前に出すことで、自らの見解を維持した。

5.11月24日の原燃社長の定例記者会見
  ──「高い不拡散性と透明性」は査察の受け入れによると示唆──

 原燃交渉の2日後、社長の定例記者会見が行われた。原燃が発表している「定例社長記者懇談会挨拶概要」(11月24日付)では、MOX粉末の製品化について「資源小国のわが国において念願の準国産エネルギーの生産を、この青森の地で開始しました」「・・・全く新しい扉を開いたわけであり、その持つ意味合いは非常に重いものがある」と述べた後、下記のように語っている。ここでは、「MOXだから核不拡散性に優れ」、「核不拡散性の高い」というこれまでの見解はなくなっている。むしろ、「高い核不拡散性と透明性」は、保証措置と査察の受け入れによって確保・維持すると読める内容に変わっている。原燃交渉で、これまでの見解がIAEAの基準によるものではないことを認めたためだろうか。こっそりと表現を変えている。
当社としては、今後もIAEAとの協定に基づいて、フルスコープの保障措置、査察を受け入れ、高い核不拡散性と透明性を確保・維持しながらサイクル事業に取り組むことにより、エネルギー資源問題や地球環境問題への対応面で、ぜひお役に立ちたい、と決意を新たにした次第です。

6.11月24日の原燃社長発言
  ──MOXの核兵器用への転換は「現実には不可能」
──
 ところがこの定例会見で、記者からの質問に対しては、社長は一転して驚くべき発言を行った。「反核燃派が『三週間程度で、核兵器の材料に転換できるため、核不拡散性に優れているとは言えない』と批判していることについて、『MOX燃料から(プルトニウムを)もう一回分離することは、理屈の上では可能だが、現実にはまず不可能だ』と反論した」(11月25日東奥日報)。すなわち「核不拡散性に優れている」の根拠に具体的に踏み込んできた。MOXの核兵器用への転換は「現実には不可能」という。この社長見解では、IAEAの基準は現実性のない単なる理屈上のものとなってしまう。そうであれば、なぜ24時間の査察などが必要なのだろうか。
 金属プルトニウムが8s程度あれば核兵器にできるとされている。MOXでは金属重量で約16sであり、MOX粉末の体積では約13リットル程度だ(酸化物の固まりなら2リットル程度にすぎない)。しかもMOXは、既にやっかいな放射能が除去された状態なので、再処理の工程を最初から繰り返す必要はなく、プルトニウムとウランを分離するだけなので、実験室内でできる作業だとされている。

7.11月30日 市民団体がIAEAエルバラダイ事務局長に公開書簡提出
 原燃社長のこの「現実には不可能」という発言に対して、11月30日、原水禁、原子力資料情報室、グリーン・アクション、グリーンピース・ジャパン、ピースボートと当会の6団体で、来日中のエルバラダイ事務局長に公開書簡を提出した。
 IAEAの核兵器用の金属構成要素に転換するのに必要な時間に関する規定は非現実的なものなのか、またMOXからプルトニウムを分離することが「現実的に不可能」であれば転用や盗難の可能性について心配する必要はないのか。この点についてIAEAの立場を明確にするよう求めている(6頁参照)。

全国から、社長見解の釈明を求める声をあげていこう
 以上見てきたように、原燃はIAEAの基準を否定する無責任極まりないデマを繰り返している。MOXが「核不拡散性に優れている」とのプレス発表は現在もHPに掲載されており、その見解を取り下げてもいない。そしてMOXの核兵器への転用が「現実には不可能」という原燃社長の見解は、「MOXは核不拡散性に優れている」ことの具体的論拠に踏み込んだものだ。
 IAEAの基準「MOXのIAEA保障措置上の扱い」では、MOXは「直接利用物質」(核変換又はそれ以上の濃縮なしに核爆発装置の製造に用いることのできる核物質)に分類されている。そして核兵器用への転換時間は「週のオーダー(1〜3週間)」で酸化プルトニウムと同じ範疇に入っている。原燃社長の見解は、IAEAの基準を否定する暴論である。原燃社長の見解では、査察もなにも必要ない。他国が六ヶ所方式の再処理工場を建設しても誰も止める必要はない。
 六ヶ所再処理工場のアクティブ試験では、約430トンの使用済み核燃料を再処理して約7トンのMOX粉末を取り出す(そのうち半分の3.5トンがプルトニウム)。本格運転になれば、年間800トンの再処理によって、約16トンものMOXが取り出される。非核兵器保有国で大規模な商業用再処理が認められているのは唯一日本だけである。このこと自体が核拡散の危険を一層高めるものである。
 ところがその管理の最高責任者たる社長は、MOXの核拡散の危険性を公然と否定する。IAEAによる査察の必要性を事実上認めない。このような社長が、膨大な機微物質を生産し続けることが、果たして国の内外で許されるのだろうか。この点について原燃社長は、公の場で釈明すべきである。「日本は核査察を受け入れているNPTの優等生」と宣伝している政府の責任も問題となる。国会や青森県議会でも議論されなければならない。
 全国から、社長見解の釈明を求める声をあげていこう。