MOXを核兵器に転換する容易さはプルトニウム酸化物と同等(IAEA)


 11月24日の定例記者会見において、日本原燃の兒島社長は「MOX燃料から(プルトニウムを)もう一回分離することは、理屈の上では可能だが、現実にはまず不可能だ」と述べた。同社長の発言は、IAEA(国際原子力機関)の定めた基準を机上の空論と否定する暴論である。ここでは、IAEAの示した基準において、MOXがどう位置づけられているのかを具体的に見ていこう。
 IAEAは、「IAEA保障措置用語集(2001年版)」の中で、「核変換又はそれ以上の濃縮なしに核爆発装置の製造に用いることのできる核物質」を「直接利用核物質」と呼んでいる。そして、「この物質[直接利用核物質]には、プルトニウム238含有量が80%未満のプルトニウム、高濃縮ウラン及びウラン233が含まれる。直接利用核物質の化合物、混合物(例えば、混合酸化物(MOX))並びに使用済核燃料中のプルトニウムがこの区分に入る」「MOXは特殊核分裂性物質及び直接利用核物質と見なされる」としている(下図)。
 さらにIAEAは、「異なった形態の核物質を核爆発装置の金属構成要素に転換するのに必要な時間」を「転換時間」と呼び、物質の形態毎の「転換時間」を挙げている(下表)。この表を見るとMOXは、核兵器に用いることのできる形態に「週のオーダー(1〜3週間)」で転換できるというカテゴリーに入っている。これは、金属状態のプルトニウム等に次いで転換時間の短いカテゴリーであり、また、プルトニウム酸化物が属するのと同じカテゴリーである。
 つまり、IAEAの基準に基づけば、最終製品の形態がプルトニウム酸化物であろうが、MOXという形であろうが、核兵器への転用の容易さという観点、すなわち核拡散性の観点からすれば同等の危険性を持つということになる。
 すでに六ヶ所再処理工場は、核兵器に転用しうるような核物質の生産を開始している。このような機微物質の生産・蓄積は、核拡散の危険性を高めるものである。兒島社長の発言は、その危険性を軽視するものであり、到底容認できない。

ウランとプルトニウムの混合酸化物のIAEA保障措置上の扱い
4.16 混合酸化物(Mixed oxide, MOX)──熱中性子炉でプルトニウムのリサイクリング(「サーマル・リサイクリング」)及び高速炉のための原子炉燃料として用いられるウランとプルトニウムの酸化物の混合物。MOXは特殊核分裂性物質(4.5参照)及び直接利用核物質(4.25参照)と見なされる。

4.25 直接利用核物質──核変換又はそれ以上の濃縮なしに核爆発装置の製造に用いることのできる核物質。この物質には238Pu含有量が80%未満のプルトニウム、高濃縮ウラン及び233Uが含まれる。直接利用核物質の化合物、混合物(例えば、混合酸化物(MOX))並びに使用済核燃料中のプルトニウムがこの区分に入る。未照射の直接利用核物質は、相当量の核分裂生成物を含まない直接利用核物質である。この物質は、核爆発装置の構成要素に転換するために必要な時間及び業務量が、相当量の核分裂生成物を含んでいる照射済直接利用核物質(例えば使用済原子炉燃料中のプルトニウム)よりも少なくてすむことになる。

3.13 転換時間──異なった形態の核物質を核爆発装置の金属構成要素に転換するのに必要な時間。転換時間には、転用物質を転換施設に輸送する時間、又はその装置の組立に要する時間、あるいはその後に要するいかなる時間も含まれていない。その転用活動は、少なくとも、1個の核爆発装置を製造するまでは発見される危険性を最小にして、1個以上の核爆発装置の製造に成功することに高い確率を与えるように選ばれた一連の計画行動の一部と見なされる。これらの前提に基づいて、現在適用可能とされている転換時間を表Iに示す。

表I 完成したUまたはPu金属構成要素への推定物質転換時間

最初の物質の形態 転換時間
Pu,HEU又は233U金属 日のオーダー(7−10日)
PuO2, Pu(NO3)4又はその他の純粋なPu化合物;
HEU又は233U酸化物又はその他の純粋なU化合物、
MOX又は、Pu,U(233U+235U≧20%)を含む
その他の未照射混合物、
スクラップその他の種々の不純化合物中のPu,
HEU及び/又は233U
週のオーダー(1−3週間)a
照射済燃料中Pu,HEU又は233U 月のオーダー(1−3ヶ月)
233U 235U含有量が20%未満のU、Th 1年のオーダー
a この範囲はいかなる単一の因子によっても決まらない、ただし純粋のPu及びU化合物ではこの範囲の下端に、そして混合物及びスクラップは上端の方に位置する傾向がある。