日本原燃のずさんな体質を示すハル洗浄液漏えい事故
アクティブ試験を直ちに中止せよ


 4月11日午前3時40分ごろ、六ヶ所再処理工場・前処理建屋の溶解槽セル(部屋)内においてハル(燃料被覆管)を洗浄した水約40リットルが漏えいした。漏れた40リットル中には、あらゆる種類の放射能が大量に含まれている。たとえばプルトニウムは、1年間に外部に放出されるのと同程度あるいはそれ以上もが含まれていた。溶解槽セル内で気体になった放射能は、主排気筒から外部環境に放出された疑いがある。
 この事故は余りにもずさんな日本原燃の体質を如実に示している。熊坂宮古市長が「原燃の管理体制の問題が露呈した」と述べたとおりである。このままプルトニウムを分離する過程に入れば、きわめて危険な事態が到来しかねない。アクティブ試験はただちに中止すべきである。

1.漏えいしたハル洗浄水にはプルトニウムを含む大量の放射能が含まれていた
 日本原燃広報によれば、ハル洗浄槽には200リットルの洗浄液が溜まっており、5分の1にもあたる40リットルが漏えいしたという。漏えいした40リットルに含まれている放射能は、プルトニウムなどの全アルファ核種が164億ベクレル、全ガンマ核種が1240億ベクレル含まれていた。そのうち、ウランが重量表示で260グラム、プルトニウムが1グラムだという。
 ちなみに、通常運転で海洋に1年間に放出される予定の全アルファ核種は38億ベクレルだから、今回の漏えいアルファ核種はその4.3倍に相当する。そのうち海洋への年間プルトニウム240(Pu−α)放出量は30億ベクレルである。これを重量に直すと0.36グラムだから、今回の漏えいプルトニウムはその2.8倍もある。
 ハルは使用済み核燃料の被覆管が溶解せずに残ったものである。再処理の最初の工程(前処理)では、右図のように、使用済み核燃料棒を約4cm程度にせん断機で切り刻み、溶解槽に入れて硝酸でドロドロに溶かす。しかし、燃料被覆管(燃料棒のサヤ)は溶けにくいためハルと呼ばれる残存物となり、シュートを通ってハル洗浄槽に運ばれる。ハルには、溶けた放射能がこびりついているため水で洗浄するが、洗浄水中にはあらゆる放射能が混入する。漏えい水に大量の放射能が入っているのは当然である。
 漏えいによって、それだけセル内が汚染されたことになる。漏えい水は下部の受け皿に溜まったが、気体状の放射能は換気系統を通って主排気筒に導かれ、外部環境に放出された疑いがある。事実、日本原燃は、「洗浄水には放射性物質が含まれておりましたが、本事象による主排気筒モニタおよびモニタリングポストの指示値に変動はなく、環境への影響はありませんでした」と述べて、モニタの指示値に変動を起こすほどではなかったが、外部に出たことを示唆している。

2.漏えい原因−あまりにもずさんな管理
 今回の作業の目的はいまだはっきりしていない。4月13日付デーリー東北の記事では「洗浄水の中に金属片のくずがどれぐらい含まれているかを調べるための試運転作業中」だったという。それはともかく、原燃ホームページの説明からは、スチームジェットポンプを使って、ハル洗浄水タンクから洗浄水を抜き出し、それを他に移す作業をしていたことは確かなようである。

 上図のように、ハル洗浄槽には、洗浄水を抜き出すためのL字型ノズルが底部から突き出し、その上部は閉止プラグ(栓)で止められている。中の水を左にあるスチームジェットポンプでくみ出そうとしている(「蒸気」の矢印から「次工程へ」の矢印方向に蒸気を激しく流せば、そこの圧力が下がるため、フレキシブルホースを通って水をくみ出し、蒸気とともに次工程へ送ることができる)。ホースをノズルにつなぐためには、操作員がセルの外から窓をのぞきながらマニピュレータの遠隔操作で閉止プラグを取りはずさねばならない。ところが今回操作員は、閉止プラグでなく、その下にある接続用部品を取りはずしてしまった(右側の囲み内図参照)。接続用部品の下部の高さは水面以下のため、中の洗浄水があふれ出たのである。
 操作員には、窓から閉止プラグは見えている。接続用部品までが閉止プラグだと思い込んでいたというのだろうか。原燃は、「キャップと接続部品、配管はいずれもステンレス製で同じ色をしており、『見えにくかった』と説明している」という。接続用部品をはずせば漏えい事故が起きるという基本的な教育も訓練もなされていない。原燃のずさんな管理を物語っている。

3.閉止プラグをめぐる奇妙な設計・構造
 次に問題になるのは、なぜ操作ミスが起こるような構造にしていたのかということである。
 第1に、図では、水位ぎりぎりに閉止プラグがあるが、これでは少し水位が上がれば閉止プラグ位置からでも水は漏れる。第2に、なぜ閉止プラグの下にある接続用部品が簡単に取り外せるような構造になっていたのだろうか。
 第3に、何よりも奇妙なのは、ジェットポンプへの接続ホースをなぜ常時つないでおかないのかということである。厚さ1mもある鉛ガラス越しに手動の遠隔操作で閉止プラグを外したり付けたりする必要はない。おそらく、ジェットポンプはハル洗浄水の移送専用ではなく、別の役割もさせるのだろう。たとえば、今回のように洗浄水が漏れてセル下部の受け皿に溜まった場合、このジェットポンプでくみ出すことができる。仮にそうだとすれば、漏れた場合に備えるために常時接続にしなかったことが原因で、実際に漏れるという皮肉が起こったことになる。

4.事故をめぐる疑問点・問題点
 この事故はなぜ起こったのか等が徹底して問題にされるべきである。
(1) この事故の通報の遅れ、それを当初から認めている県や村の姿勢がまず問われねばならない。(2) 原燃のホームページでの説明は余りにもおおまかである。この作業の目的、ハル洗浄槽の位
置を示す正確な図、漏れた液中の放射能の正確な値、漏れた液はどのようにしてどこへ回収したのかなどが明らかにされていない。
(3) 換気系は働いていたのか、主排気筒を通じて気体放射能は外部に出たのかどうか。
(4) なぜ操作員のミスが起こったのか。ウラン試験のときにすでにこの作業は行っていたはずではないか。どのような教育訓練を行ったのか。
(5) なぜ操作ミスが起こるような構造になっていたのか。なぜ内部の水が簡単に漏れる構造なのか。なぜ常時ホースをつないでおく構造になっていないのか。
(6) このような欠陥がなぜ起こったのか。今回の事故を起こした責任はどこにあるのか。安全管理上の問題、組織的欠陥はどこにあったのか。
 これらの点が公的に明らかにされるべきである。

5.日本原燃のずさんな体質
 日本原燃は、すでに2月17日に低レベル廃棄物処理建屋で放射能を含む廃液漏えい事故を起こしている。この低レベル廃液はウラン試験の過程で産み出されたものである。それゆえ、この漏えい事故の実態や原因などはウラン試験の一環として保安院に報告され審査されるべきものであったはずだ。ところがそのような措置が何もなされないまま、アクティブ試験に突入してしまった。スケジュール優先だとしか言いようがない。この事故には非常に不可解な点がある。原燃はまずはその原因等を徹底解明し、公的に説明しなければならない。
 また、昨年には、使用済み核燃料貯蔵プールの漏えい問題が強引に幕引きされている。プールの水位が低下しない限り漏えいは認められるのだという保安院の見解がまかり通っている。
さらに、ガラス固化体貯蔵建屋ではコンクリート温度が規制の上限値を超えることが分かっているのに、改造しないでもよしとする見解が保安院と日本原燃の謀議でまかり通っている。
 このような安全管理をないがしろにする姿勢、スケジュール最優先の姿勢のままアクティブ試験に入れば、事故が起こるのは必然であると我々は2月10日の青森県知事への要望書の中で警告した。その危惧がやはり今回の事故で現実のものとなったのである。
 結局、今回の事故は、単なる人為ミスや単なる構造の欠陥で起こったというのではなく、これら一連の安全管理上のずさんな姿勢から、必然的に起こったものとして捉えるべきである。

6.アクティブ試験をただちに中止せよ
 今回の事故で、あまりにもずさんな日本原燃の体質が誰の目にも明らかになった。ところが日本原燃はアクティブ試験をこのまま継続する意向だと伝えられている。とんでもないことだ。この体質で、これから分離、精製過程と進んでいけば、臨界事故さえ起こしかねない。
 いまならまだ放射能汚染もわずかなままで済ますことができる。これ以上食品の安全ばかりか人の生命までも脅かすことはやめるべきだ。ただちにアクティブ試験を中止すべきである。