美浜の会ニュース No.84


 電力各社がプルサーマルを次々と打ち出したことによって、各地の反プルサーマル運動は活性化し、全国的な反プルサーマルの流れと合流し、連携を強めながら進展しつつある。
 プルトニウム利用の透明性を図るという2003年8月5日の原子力委員会決定によって、プルサーマルと再処理の関係が公的に確認され、プルトニウムを分離する前にプルサーマル計画の「措置」を公表することが求められている。電気事業者に対するこの要求は、再処理を前提にすればプルサーマルを促進する力になるが、プルサーマルを止めれば逆に再処理を牽制するように作用する。六ヶ所再処理工場でプルトニウムを分離するアクティブ試験が、プルサーマル事前了解との関係で具体的に問題になってきた。事前了解はまだどこでも得られていない。
 その前に、ウラン試験の最終段階である総合確認試験にストップをかけることが焦点となっている。ガラス固化体貯蔵建屋の改造工事でまたも偽りの安全評価が行われている。反対運動は、このようなごまかしをけっして許さないよう、問題を広く暴露し、保安院の責任を追及し、地元自治体がごまかし工事とその結果を承認しないよう牽制を強めていこう。

玄海3号・伊方3号・島根2号・浜岡4号プルサーマルと反対運動の進展
 東電と関電のプルサーマルが進行停止状態に陥っている間に、玄海3号、伊方3号、島根2号及び浜岡4号という第2陣のはずのプルサーマルが前面に出てきた。
 玄海3号では、昨年5月の申請書に今年9月7日に許可が出て、燃料製造契約に向けて玄海町と佐賀県の事前了解を待っている段階にある。伊方3号では、昨年11月の申請書を安全委員会が第2次審査している段階にある。伊方では、申請書を出す場合の事前了解はあるが、MOX燃料製造に関する本番の事前了解はこれからだ。島根2号と浜岡4号では、まだ申請書が提出されていない。それゆえどの原発でも、MOX燃料製造に関する地元了解はまだ得られていない。
 玄海3号と伊方3号は、世界に類を見ないほどに危険なプルサーマルである。島根2号と浜岡4号のBWRの場合、「海外の実績」とはいうものの、動いているプルサーマル炉はドイツのグンドレミンゲンBとCの2基だけしかない。本来の設計に反する行為であるプルサーマル実施の真の理由は、プルサーマルが止まれば核のゴミ処理問題に直面することにある。しかし政府や電力はそれを隠して、必要性や安全性で人々にまやかしの術をかけるしかないのである。
 ついに政府は、危険手当「核燃料サイクル交付金」まで持ち出してきた。2006年度までにプルサーマルを受け入れた自治体には、同意から装荷までは年2億円、装荷から5年間は年10億円を交付するという。来年度までに手を挙げた自治体にだけ、トップランナーとしてご褒美をあげるという。しかし、プルサーマルはウラン炉と基本的に同等だというのがこれまでの立場ではなかったのか。このような交付金支給は、プルサーマルが特別に危険だと自ら認めるに等しい。
九州でも四国でも、事前了解にストップをかける運動が力強く進展している(14頁参照)。浜岡4号プルサーマルに反対する運動は、中部電力の大宣伝にチラシ配布や街頭宣伝などで対抗し、11月12日に市民討論会を行う準備も進められている。
 プルサーマルの急展開に関し、六ヶ所再処理工場でのアクティブ試験との関係が急浮上してきた。日本原燃が今年12月から開始予定のアクティブ試験では、使用済み核燃料からプルトニウムが分離される。2003年8月5日の原子力委員会決定によって電気事業者は分離前にプルトニウム利用計画を公表しなければならないが、その利用の道はいまプルサーマルしかないのである。

両刃の剣としての原子力委員会決定
 2003年8月5日の原子力委員会決定では、それまでのように「利用目的のないプルトニウム、すなわち余剰プルトニウムを持たないとの原則」に立つだけでなく、次のような「措置を実施する」よう電気事業者に求めた。「電気事業者は、プルトニウムの所有者、所有量及び利用目的を記載した利用計画を毎年度プルトニウムを分離する前に公表することとする。利用目的は、利用量、利用場所、利用開始時期及び利用に要する期間の目途を含むものとする」とされ、「この措置により明らかにされた利用目的の妥当性については、原子力委員会において確認していくこととする」とされている。また、海外で保管されているプルトニウムについては「燃料加工される段階において国内のプルトニウムに準じた措置を行うもの」とされている。
 この原子力委員会決定は、その前年の東電不正事件後の秋に、福島県や新潟県がプルサーマル事前了解を白紙撤回した流れに対抗して、巻き返しを期して打ち出されたものである。その先頭に立って、関電は同年10月からプルサーマルの大宣伝を始め、福井県の全戸にカラーパンフを配布し、新聞に2面広告まで出し、一連の電柱に「だ・か・ら・プルサーマル」パネルを張り巡らせた。2004年3月末にはコジェマ社とのMOX燃料基本契約(仮契約)にこぎつけたが、本契約を前にした8月9日に美浜3号機事故を起こし、電柱パネルを取り外すはめになった。
 原子力委員会決定は、再処理を前提として、分離プルトニウムの利用方法を明示するよう電気事業者に迫る点で、プルサーマル推進の有力な武器となるはずのものである。しかし他面、もしプルサーマルが停滞すれば、分離プルトニウムは余剰プルトニウムとなるために、論理的には逆に、再処理の進行を抑制する力ともなり得るという、両刃の剣としての性格をもち得る。

アクティブ試験に使える使用済み核燃料は存在しない
 アクティブ試験が迫りつつある現在の状況下で、原子力委員会決定は実際にどのような意義をもつのだろうか。まずは関電を例にとって、その実際を見てみよう。
 アクティブ試験では、430トンの使用済み核燃料を使用することになっている。本番の再処理では、最初の年に30トン、その後270、350、480、640トンとなり、第6年目から800トンが使用される。これと比べてアクティブ試験の430トンはいかにも多い。
 関電はアクティブ試験のために140トンの使用済み核燃料を提供する。これはアクティブ試験に使用するPWR分210トンの67%を占め、全体430トンの33%に相当する。予定では今年12月にアクティブ試験が始まるのだから、分離プルトニウムの利用計画が公表されねばならない。ところが、10月20日の関電交渉で確かめたところ、アクティブ試験で分離される「プルトニウムの所有者は関電です」、「プルトニウムの所有量は、試験で使う燃焼度が不明なので具体的に言えません」という以外、他のすべての項目については「現在のところお答えできません。しかしアクティブ試験が始まるまでには公表します」というものだった(8頁参照)。
 アクティブ試験で分離されたプルトニウムは、いずれ六ヶ所に建設されるはずのMOX燃料工場で加工される予定だが、その工場は今回策定された原子力政策大綱によれば「2012年度操業開始を目途に施設の建設に向けた手続きを進めている」とのことである(大綱12頁)。それなのにどうして、アクティブ試験で分離されるプルトニウムの利用量や利用開始時期などがいま特定できるのだろうか。この事情は、もちろん関電だけでなく、アクティブ試験に使用済み核燃料を提供するすべての電気事業者に共通する問題である。
 では、2012年頃から始まる何か抽象的な利用計画を提出すれば、アクティブ試験でプルトニウムを分離することが許されるだろうか。しかし、これまでと現在の事実からすれば、地元了解なしにプルサーマルを実施することはできない。アクティブ試験で分離されるプルトニウムの利用について地元了解が得られないままで分離すれば、そのプルトニウムは宙に浮き余剰となる危険性があるからだ。
 ちなみに、海外保有プルトニウム利用は、事実上、六ヶ所で分離されるプルトニウム利用に先行する計画になっている。例えば、伊方3号の場合、海外保有プルトニウムによるMOX燃料は3回の装荷分しかない。2009年度末に最初の装荷が予定されているので、3回目は2012年度くらいになるが、ちょうどその頃に六ヶ所のMOX燃料工場が動く仕掛けになっている。玄海3号と島根2号でもせいぜい4回の装荷分しかないので事情は同様だ。
 したがって、海外保有プルトニウム利用の地元了解さえ得られていない現状で、アクティブ試験を実施することが許されないのは当然である。現状では、アクティブ試験に使える使用済み核燃料は存在しない。

東電と関電の特殊なプルサーマル事情
 前記の一般的事情に加えて、東電と関電のプルサーマルには特殊な事情がある。他の電力会社と違って、プルサーマル実施に関する地元了解が単にまだ得られていないということではない。
 東電の場合はいったんなされた地元了解が白紙に戻されている。関電の場合は、地元了解は形式的に生きているものの、美浜3号機事故によって安全管理の信頼性を無くしたために、MOX燃料の製造契約に進むことに福井県からストップをかけられている。事実、10月20日の関電交渉では、「当社としては、平成15年12月のプルサーマル計画では、高浜3・4号機、大飯発電所の1基から2基で使用する予定としておりましたが、具体的計画については、現在美浜3号機事故の対策に専念しており、MOX燃料について検討できる状況ではないため、示せる状況ではありません」と答えている。つまり「具体的計画は示せる段階にない」と認めている。また、東電は白紙撤回される前の了解がいまでも生きているなどと東電交渉で述べたようであるが、そのような詭弁が地元自治体に通用するはずはない。つまりこれら2つの電力について現状では、プルサーマルは未検討なのではなく、検討した経過の後で、実施を拒否されているという現状にある。
 したがって、他の電力会社にもまして、アクティブ試験のために使用済み核燃料を提供できるような状況にはないのである。

プルサーマルを停止させることの本質的な意義−原子力政策大綱の虚構を暴く
 今回の原子力政策大綱の核燃料サイクル・ビジョンは虚構の上に立つものであり、その実は核のゴミ処理を先延ばしするための方便に過ぎない。まずは使用済み核燃料が年に800トンずつ再処理されるように絶え間なく六ヶ所再処理工場に運ばれるとの前提に立っている。それは、老朽原発も利用率85%でよく働き、原発新増設が必要なだけ実現して、出力5,800万kW(現在約5,000万Kw)が維持されるとの仮定に立っている。しかし、このような前提がまったくの虚構であることはいまや誰に目にも明らかである。
 プルサーマルを推進する真の理由・本音は、すでに2001年5月に公にされている。このとき、刈羽村の住民投票でプルサーマルが否定されそうになったため、当時の平沼経産大臣が自筆署名の大きなビラを住民に配り、その中で、プルサーマルが止まれば原発が止まるがそれでもプルサーマルに反対するのかと言わんばかりの脅しをかけた。それまでは、もっぱら「資源の乏しいわが国は」だったのに、住民運動に圧されて本音を言わざるを得なくなったのである。
 プルサーマルを止めればサイクルは止まり、再処理工場は目的を失う。そうなって初めて、使用済み核燃料が「燃料」という虚構を脱ぎ捨てて、本来の「核のゴミ」となり、自らの処理を人々に迫ることになる。そうなって初めて、核のゴミをどう処置すべきかという問題についての真剣な議論が開始される。プルサーマルを許すことは、日本をますます核のゴミの泥沼へと引きずりこむことに他ならない。プルサーマルを停止することこそが、別の道を模索すべき第一歩となるのである。

ウラン試験の最終段階・総合確認試験にストップをかけよう
 現在六ヶ所再処理工場では、昨年12月から実施されているウラン試験が最終段階に近づいている。もしウラン試験が終了すれば、アクティブ試験が開始されるまでに、ウラン試験に関する最終報告書の審査・承認、アクティブ試験に関する保安規定の審査・承認がなされ、さらに安全協定が改めて締結されるなどの諸手続きが必要になる。安全協定に関しては、放射能放出の規制のあり方が問題となり、関連して三陸海岸を放射能から守るという岩手県の運動が大きな意義をもって前にでるに違いない(10頁参照)。別に、ガラス固化溶融炉の技術的問題も姿を現さざるを得ない(12頁参照)。もちろん、プルサーマル利用計画は必ず問題になる。
 しかし肝心なことは、いまはまだウラン試験の最終段階である総合確認試験に入る前の段階にあるということである。総合確認試験では、これまでのウラン試験でまったく関与しなかったガラス固化建屋等第3グループの建屋が初めて対象に入ってくるので、その保安規定が問題になる。さらにそれまでのウラン試験を総括した中間報告書が提出され保安院の承認を受けねばならない。
 実は、その前に重要な特殊な関門が待ち受けている。それはガラス固化体貯蔵建屋で10月18日から始まった改造工事に安全上のごまかしがあるという問題である(5頁参照)。その改造工事には2〜3ヶ月かかる。保安院は、建屋のコンクリート温度が安全上重要な2箇所で制限値の65℃を超えることを容認した。この保安院の責任を追及していこう。さらに焦点は、青森県知事と六ヶ所村長がこれを認めるかどうかにある。認めなければ原燃は総合確認試験に入ることができない。その方向に世論形成するようこの問題を広く暴露していこう。

 プルサーマルによって各地の運動は活性化している。8月29日には、九州の運動に、それまでの全国的な反プルサーマルの流れが合流し、152団体・114個人の意思が佐賀県知事と玄海町長に向けられた。各地のプルサーマル反対運動はさらに連絡を密にし、連携を強めていこう。
 プルサーマルの地元了解を阻止することで、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験入りを阻止しよう。その前に、まずはウラン試験の最終段階である総合確認試験にストップをかけよう。
 反プルサーマルと反再処理の運動は連携して核燃料サイクルをとめよう。