美浜の会ニュース No.83(8/10)


 今年6月9日に、六ヶ所再処理施設の使用済み核燃料貯蔵プールで、またも水漏れが起きた。前回、2002年2月のプール水漏れ確認に端を発する日本原燃の点検の結果、再処理施設全体で5箇所の貫通欠陥を含む291ヶ所の「不適切溶接施工」が確認された。「総点検」の結果、原燃は昨年3月17日にプールを含む「設備及び建物の健全性は確認された」と報告し、原子力安全・保安院も同年3月30日に「同社の健全性評価の判断は的確に行われたと評価」したのである。この健全性判断のゆえに、青森県知事は昨年4月末に、停止していた使用済み核燃料の搬入を認め、さらには安全協定を結んでウラン試験に入ることを認めたはずである。
 今回の漏えいは、「健全性は確認された」との原燃の判断の誤りを事実で示したばかりか、漏えいは今後も起こりうる状況にあることをも示した。それは同時に、保安院の判断が誤っていたことをも示すものである。
 ところが原燃は7月12日に、「1時間当り10リットルの漏えい量を管理上の目安値」として保安規定の下部規定に盛り込むと表明した。つまり、放射能を含むプール水のある程度の漏えいは容認するとの姿勢に転じたのである。その後原燃の姿勢は、地元の反発を受けて揺れているが、保安院は漏えいを許容するという点で、きわめて強硬な姿勢をとっている。それは、県民の安全・安心をうたってきた三村知事の立場をも否定するものである。
 この問題では、県知事、原燃及び国の間に微妙な食い違いが生じ、特に原燃の「目安値」に関する説明姿勢が揺れ動いている。運動はこの食い違い、矛盾に目を向け、リアルに問題を捉える必要がある。前回に健全性を是認した国の責任を追及しよう。施設・設備の厳密な管理を知事が国に強く要求するよう、知事への働きかけを強め、矛盾をさらに拡大しよう。その中で、問題の所在を多くの人たちに訴え、ウラン試験を止める力を形成していこう。

漏えいを認める、毎時10リットルの「漏えいの目安値」
 7月12日に原燃は、今回のプール水漏れに関する報告書「漏えいの原因と今後の対応」を公表した。その中で、今後の「漏えいに対する運用ルール」として次の2点を実施すると表明している。
@漏えいを確認した段階から、1日1回の監視から1日3回の監視へと監視体制を強化する旨を保安規定に定める。
A1時間当り10リットルの漏えい量を管理上の目安値として、漏えい箇所の特定作業に着手するとともに、漏えい箇所の特定後、漏えい量の増減傾向を評価し、計画的に補修を実施する旨を(保安規定の)下部規定に定める。
 これでは、漏えいをすぐに止める措置をとるのではなく、当面は漏えい量を監視するだけ、目安値を越せば漏えい箇所の特定作業に入り、補修を計画するという意味にしかとれない。つまり、漏えいは基本的に容認するという姿勢である。
 この姿勢を裏付けるように、同報告書の「安全性への影響」判断では、今回の漏えい量は、プールの自然蒸発量の1時間100リットル、さらにはプールへの水の補給能力である1時間5万リットルに比べれば十分小さいと強調している。
 この傾向を保安院は明確化し、判断基準にまで高めている。7月15日の第15回「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」において、保安院の古西課長は、指針類が要求しているのは「貯蔵設備の冷却水保有量が著しく減少することを防止」することだと強調した。そのときの資料15−2−3でも、「保有水量に著しい減少を生じる恐れがなければ安全上支障を生じないと判断している」と書かれている。

揺れる「漏えいの目安値」の説明・評価
 しかし、このような漏えい容認方式には直ちに青森県内の運動などから反発の声があがった。7月15日の六ヶ所村議会でも議員から「原燃の姿勢は後退している」との指摘があり、前記検討会でも漏えいを放置するのは認められないとの意見があった。そのためか、この「目安値」の説明は時間とともに揺れ動くのである。
@「再処理とめよう!全国ネットワーク」及び青森県内5団体が共同で7月25日に原燃と交渉したとき、広報グループの鈴木副部長は、「目安値」を使用済み核燃料搬入計画と関連付けて説明した。漏えい量が目安値を越せばすぐに漏えい箇所の特定・補修にとりかかるが、未満の場合はすぐに補修は行わず、使用済み核燃料の搬入計画等を勘案しながら「計画的に」補修するとした。この線は明らかに7月12日報告より補修を優先する傾斜を強めているが、同時に、補修計画は使用済み核燃料搬入の状況に左右されるという本音を見せている。しかし、使用済み核燃料搬入との関連で「目安値」を説明する仕方は、他の場面では見られないこの場限りのこととなった。
A7月27日の定例社長会見で原燃の兒島社長は、運用のルールについて説明が不十分であったために皆様に大変ご心配をかけたことを詫びた上で、「漏えいを確認した場合は、直ちに漏えい箇所の特定作業にとりかかり、その量の多少にかかわらず全てを必ず補修します」と明言した。これは明らかに7月12日報告書の漏えい容認路線を否定しており、これでは何のための「目安値」設定かという疑問が湧くことになる。
B8月4日の原子力安全委員会再処理プロジェクトでの原燃の報告では、上記社長発言のニュアンスは消えて、完全に7月12日報告の線で説明がなされている。
C同じく8月4日に、保安院の井田審議官が青森県知事を訪問した。これは7月25日に県知事と六ヶ所村長が中川経産相を訪れ、地域住民の不安を募らせる結果になっているので「責任ある対応」をしてほしいと要請したことに応えたものである。われわれが7月26日に対県交渉を行ったとき、県の対応は何を言っても「いま国に評価を要請しているので」の一点張りであったが、それがこの前日の要請を指していたのである。ところが4日の井田審議官の回答は、今回の漏水量は保有水量の著しい減少を招くものでなく、安全上支障がなく、法令報告にも当たらない、ウラン試験には影響ないというきわめて形式的なものであった。毎時10リットルの目安値については、「日本原燃から申請があった段階で厳正に審査する」と述べるにとどまっている。
 このように、7月27日の社長会見での、わずかな漏えいでも直ちに補修という線は、8月4日の保安院の県への回答によって完全に否定された形になった。三村知事の「何かあったらまず直すよう」との補修優先要請、県民の安全安心を守るという立場からの要請は、事実上国によって否定されたままになっているのである。

健全性は確認されたはずではなかったのか−健全性の定義を変える保安院
 前回の2002年2月にプール水漏えいが確認されたとき、保安院は今回とは明らかに違う態度をとっていた。2月1日付の保安院文書では「このような漏えいは早期に検知し、保守することが重要であるとの認識に立ち」、「その箇所を特定し、漏えいを防止するために必要な措置を講ずること。また、特定された漏えい箇所について、その発生原因を究明し、報告すること」を指示している。また、同年11月20日付文書でも、「貫通に至った原因究明」とともに、「漏えい箇所の補修計画を策定し、報告すること」を指示している。しかし今回は、「補修計画」など立てなくても、保有水が著しく減少さえしなければ安全だとの別の基準を前面に立てているのである。
 なぜ、このような態度に変わったのだろうか。それは次のような面から見る必要があるだろう。
 第一に実態的な面では、今回の漏えいによって、不正溶接(計画外溶接)がどこにどれだけあるか把握できていないことが改めて明らかになった。今後も漏えいは起こると原燃は認めざるを得ないことになった。それどころか、漏えい水が必ず検知溝に入って検知されるとは限らない可能性さえある。これらのことを原燃は交渉でしごくあっさりと認めたのである。ところが他方、使用済み核燃料プールはこれから次第に詰まってくるので、前のように燃料を空いている場所に移して補修することはできなくなる。補修をすれば使用済み核燃料の搬入を停止せざるを得ないし、時間も費用もかかる。そのため、多少の漏れは容認し、ある程度の目安値を超える場合でもゆっくりと漏れを確認し、諸般の事情に合わせて補修計画を立て、水中溶接などの手段を用いて補修すればよいことにしたのであろう。
 第二に、むしろこの面が本質的かも知れないが、前回の総点検で「設備及び建物の健全性は確認された」という原燃の判断を保安院も是認したが、その保安院の判断が誤りであったことが事実で示されたことである。その場合の健全性には、プールの不正溶接はすべて確認して、もはや漏えいは起きないという内容も含まれている。しかし、保安院の立場では自らの誤りを認めることは耐えがたいことに違いない。この責任を免れるためには、健全性の定義を変えるしかない。つまり、漏れがあっても健全性は成り立っていることにしてしまったのである。今回の保安院の強引な姿勢はこの事情から生じているに違いない。
 第三に、第二と関連するが、保安院としては問題が普遍化し、ウラン試験に影響が及ぶことを避けることである。不良溶接(計画外溶接)をいっぱい含む欠陥プールは、当時の原燃の品質保証体制の欠陥、スケジュール優先の姿勢によってつくり出されたものである。そして、「総点検」によって「健全性」を確認したとするその「総」点検とは、プールだけでなく、再処理施設の全体に関する総体的な性格の点検である。総体の部分であるプールの欠陥を見抜けなかったということは、再処理施設全体における欠陥が見抜けないような点検であったことを示している。このように問題が波及するのを防ぐためにも、プールの欠陥は本当の欠陥ではないとするしかない。

放射能の放出を許容するのか
 原燃の「目安値」の設定は、放射能の海洋放出を容認することを意味している。原燃の7月12日報告では、「漏えいした水は放射性物質を除去し、放射能濃度を確認した後、海洋に放出していることから、安全に影響を及ぼすものではありません」と書かれている。7月25日の原燃との交渉で、「放射性物質を除去」しているのかなどと確かめたところ、すでに海洋に放出した漏えい水には放射能が含まれていることをしごくあっさりと認めた。
 保安院が第15回検討会に提出した資料15−2−3では、「敷地外への管理されない放出の防止は適切に行われていると評価」している。さらにそこで古西課長は、漏えいした水は堰(管理区域内で放射能のあるなしの境界)から出ていないから、「支障が生じる形になっていないと評価」した。海洋放出はないと誤解しているようである。さらに堰の中にとどまっているからよいとするなら、ソープのようなセル内の大量漏えいでも許されることになる。
 この関連で問題になるのは、海洋への放射能放出に関して濃度規制が存在しないことである。安全協定でも濃度規制はなく、1年間に放出する総量についての規制しかない。これでは一時に大量の放射能を放出することは防ぎようがない。今回のような計画外放出あっても、定例の月例報告だけで済ませるとのことだが、これでは一時の大量放出も平均化され埋もれてしまう。三陸海岸の汚染を憂慮する声が岩手の人たちから最近上がっているが、このような運動はさらに高まるであろう。

わずかな漏えいも認めない立場を徹底し、健全性判断を誤った保安院の責任を追及しよう
 すでに述べたように「漏えいの目安値」をめぐっては食い違いや揺れが見られるが、その矛盾した面を再度整理しておこう。
(1)7月27日の社長見解と8月4日の国見解との間に矛盾がある。社長見解は地元に配慮してほとんど従来に近いところまで後戻りしたが、国は断固として漏えいには問題がないという姿勢を貫いている。社長見解では、以前の健全性評価の問題が蒸し返されることにつながりかねない。それゆえ、国としては認めがたいものに違いない。
(2)原燃の見解の揺れが激しく、前後の説明が矛盾している。7月12日見解を社長が否定し、8月4日はまた戻り、その間の7月25日交渉ではまた別の説明がなされていた。
(3)県民の安全・安心をかかげてきた三村知事と国との間に微妙な隙間があいた。「漏えいの目安」などについてもっぱら国の評価を求め、色よい回答を県は期待したのに、見事に裏切られている。この回答を受けて県はどうするのか、まさにボールを持たされた状態にあるのだ。
 運動は、このような矛盾した実態に目を向け、その矛盾に介入し拡大するように目標を立てる必要があるだろう。わずかの漏えいも認めない立場を徹底し、放射能放出を許す「漏えいの目安値」の撤回を迫ろう。設備の健全性を確認したはずの保安院の責任を追及し、ウラン試験の中止を迫ろう。
 すでに8月1日には、核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会から、この問題に関する37項目の公開質問書が出され、8月19日までの文書回答と交渉の場を求めている。今後、青森県議会全員協議会が開かれる。漏えいを許さないという徹底した立場で、国と対決する方向で、問題の所在を広くアピールしていこう。それを通じて、ウラン試験をとめる運動を形成していこう。