原発2次系配管の「管理指針」は破綻している


 関電・美浜3号機の2次系配管の破断は、検査管理がきちんと行われていれば、起こらなかったと言えるだろう。28年間一度も検査しなかったのは、検査対象リストから漏れていたからだという。そのため、原子力安全・保安院が各電力会社に求めたのも、検査リストから漏れている箇所がないかどうか調べて報告せよというもの、それだけであった。
美浜3号機の破断箇所は本当にリストから漏れていたのか、なぜどのように漏れていたのか、このことは死亡事故の刑事罰に係わるだけに、現在の大きな焦点となっている。しかし、ここではこの問題はさて置こう。ここで問題にするのは、検査対象リストとは何か、対象リストに入っていれば安心なのか、現在の配管「管理指針」で2次系の管理はできるのか等である。
結論として、2次系配管の「管理指針」は破綻している。(1)美浜3号機の当該破断箇所は予想外に早く減肉し、下流側の減肉範囲も指針の予想を超えて広い。(2)大飯1号のひどい減肉箇所は、指針では減肉しないはずの箇所であり、しかも減肉速度が指針の前提と違って加速している。(3)指針では減肉しないはずの偏流なし直管部でも、トロージャン原発では減肉が起こっている。
2次系配管のあるがままの実態を明らかにするために、何よりも原発を止めた点検とすべてのデータ公開が急務になっている。

1. 検査対象リストとは何か、破断箇所はどのように検査対象になっていたか
 2次系の検査対象を決めているのは、1990年に設定された「原子力設備2次系配管肉厚の管理指針(PWR)」である。これは、1986年12月の米国サリー2号機(PWR)の配管破断事故を契機として、PWR関係の電力会社などが自主設定したものとされている。その対象となる2次系配管には、(水混じり)蒸気が通る管と水の通る管があるが、ここでは問題を単純にするために、水の通る管について見ていこう。
 そうすると配管は次の3分類に従う(蒸気の通る管でも基本的に同じ)。
[1] 主要点検部位:偏流(乱流)発生部(管口径の2倍までの下流域)でかつ減肉傾向のある部位。
 (a)温度100〜200℃のすべての管は減肉傾向ありと見なす。
 (b)温度200〜250℃では制御弁と玉型逆止弁下流域のみ減肉傾向ありと見なす。
[2] 偏流発生部位で減肉傾向のない箇所でも、念のため、10年間に25%を点検対象とする。
[3] 偏流の発生しない箇所(何もない直管部など)は検査の対象とは見なさない。
このうち、[1]の部位については、まず減肉率(減肉の進む速度)を想定し(水の管では通常は年に0.394mmと想定)、それを用いてある下限の厚み(「計算上必要厚」)に到達するまでの年数(余寿命)を計算する。後は測定時点の厚みの測定値を用いて減肉率と余寿命を計算する。余寿命が2年以下となればその部分を交換する。これが配管の(1)相当部位に関する管理方式である。
 上記[2]の部位についての管理方式は指針には何も書かれていない。「念のため」とあるように、まさか減肉が起こるとは思われていない部位である。
 さて、美浜3号機の破断箇所は、オリフィスの下流域なので偏流発生箇所、かつ温度約140℃だったので、上記の分類[1](a)に相当し、立派に検査対象となるべき箇所であった。なお、ここのオリフィスは、中央に直径34cmの穴を開けた円盤で、それを内径64cmの管内に設置する。通常は秒速2.2mの水流がオリフィスの中央穴を通るときは秒速5.6mにまで高まり、下流で渦を巻く乱流となる。流速を測るだけにしてはずいぶんと無理を引き起こす構造になっている。

2. 大飯1号の主給水管エルボの減肉が提起する管理指針への重大な疑問
 大飯1号は今年6月初めからの定期検査で、主給水管の曲がり部(エルボ)で元の管厚の半分にも達するようなひどい減肉が見つかった。では、この部位は検査対象になっていたのだろうか。
 この減肉箇所の水温度は約230℃なので、上記基準[1](b)に照らせば制御弁と玉型逆止弁の下流域なら検査対象となる。ところが、ここは玉型ではあったが、逆止弁ではなく隔離弁の下流域だった。そのため、「管理指針」設定の前年1989年に検査されたものの、「軽微な減肉」と判断され、「10年で25%」検査の部類[2]に入れられてしまった。その後たまたま蒸気発生器取り替えのついでに1993年に測定されたが減肉傾向が認められないまま、今年の測定でひどい減肉が見つかったのである。もし、「10年で25%」方式の最後の25%に入れられていたら、前の検査の40年後(2033年)になるまで検査されないという恐ろしいことになっていた。いまも動いている原発で、このような事例がないという保証は何もないのである。
 また、この大飯1号の減肉データは、「管理指針」の上記[1]部位の管理方法にも強い疑問を提起している。いまの方式は、過去の測定データから減肉率を計算し、それをそのまま将来にも当てはめて減肉を予測する。ところが、大飯1号B系の実測データを用いて2次曲線で予測グラフを描いてみると、下図(印)のようになり、明らかに減肉率(グラフの傾き)は加速している。最後の辺りでは減肉率が年に0.9mm強となっているが、これは非常に大きい値である。大飯1号では当該部位をステンレスに取り替えたが、むしろ管理方式を「取り替える」必要がある(なお、この評価では、年数として全出力に換算した年数[=設備利用率(%)累積/100]を採用している)。
 結局、減肉しないはずの[2]部位の配管がひどい減肉を起こし、しかもその減肉の仕方がまた予想外の加速を示したという意味で、大飯1号の事実は「管理指針」を否定している。


3. 偏流の発生しない箇所なら検査しなくてよいのか
 「管理指針」では、上記[3]のように、偏流の発生しない箇所はいっさい検査しなくてよい。ところが、米国トロージャン原発では、1987年の定検時に、主給水配管の直管部の2箇所で、相当な減肉が発見されている。配管の公称厚さ15.1mmが、次回運転中に(つまり次の定検開始までに)法的な設計上の最低厚さ(13.0mm)に到達すると判断された。その減肉の箇所は、偏流を起こす箇所から下流側に少なくとも管口径の7倍下ったところであった。「管理指針」では、偏流の影響は口径の2倍程度までしか及ばないと見なされているのだから、7倍も離れれば偏流は存在しないはずなのだ。つまり偏流なしでも減肉するというこの事実は、「管理指針」の根本的な仮定に重大な疑問を提起している。

4. 偏流の影響は配管口径の2倍までしか及ばないか
 「管理指針」では、上記[1]の部位について、オリフィスなど偏流を起こす物から下流側に管口径の2倍までを「主要点検部位」と定めている。ところが、今回の美浜3号機の破断箇所の調査によれば、オリフィスから下流側に配管外径の3倍を超える領域でも、公称10mmの厚みが半分以下の4.1mmにまで減肉していた。つまり、この面でも、「管理指針」は破綻している。

5. 関電はいま何を点検しているのか
 美浜3号機事故の後、関電は8月24日現在で11基中7基の原発を止めて点検している(他の4基はいつ止めるのか定かでない)。実際に点検しているのは、次の3分類の箇所である。
(a)点検リストから漏れていたスチームコンバータ加熱蒸気管のオリフィスや制御弁下流部の4箇所。及び、事実上リストから漏れていた偏流を起こす11箇所。11箇所のうち8箇所を占める高浜3号機について、関電は他のプラントの測定結果から健全だとしたが、批判に押されて高浜3号を止めて点検せざるを得なくなった。
(b)美浜3号の破断箇所と類似のオリフィス下流部の箇所
(c)大飯1号エルボ部と類似の箇所
 これだけの合計で全11基の点検予定箇所は276箇所になる。では、これだけ点検すれば安心なのかと言えばけっしてそうではない。「管理指針」に基づく前記[1]と[2]の点検対象箇所は11基全部で43185箇所ある。そのうち点検済み箇所が31646箇所、点検未実施の箇所は11539箇所もあるという。したがって、今回止めて点検する箇所は、点検未実施箇所のわずか2.4%に過ぎないのである。
 さらに、例えば高浜2号では止めて点検する箇所が24箇所であり、すでにすべて点検は終了した。高浜2号は蒸気発生器を3台もつ3ループ炉だから、同一種類の箇所が3箇所ある。そのような箇所を1種類と数えれば、24箇所とはいうものの、実は6種類の箇所を点検しているだけなのだ。
 点検未実施の箇所とは、前記[2]の「10年で25%」点検の部類なのだろうか。そうすると今後10〜40年後にならないと点検しない箇所が多数あることになる。点検済みの場合でも、いったい最近でいつ点検したのだろうか。関電交渉での回答からすれば、10〜15年以上も前に点検したきりという場合も多数含まれている可能性がある。大飯1号のように、減肉が予想外に急速に進んでいまにも破断するかも知れない恐ろしい状態にあるかも知れないのである。

6. 関電は4基をすぐ止めて点検し、政府は過去からのすべてのデータを提出させ公開せよ
 関電の原発ではまだ4基が動いているが、すぐ止めて点検すべきである。特に大飯1号は最後の順番になっているが、動いていること自体が非常に危険なのである。
 原子力安全・保安院は8月18日に関電に追加の点検結果提出を指示した。これは2次系配管の運転開始以来の各種点検情報を含めるものであり、それなりに評価できるが、残念ながら対象が美浜3号機だけに限られている。この際、他社も含むすべての原発を過去に遡って総点検し、その情報をすべて公開すべきである。