ユタ州は「中間貯蔵」計画に徹底して反対
米国初の「中間貯蔵」計画に暗雲―戦闘機墜落・射爆の危険性が浮上
さらに内部告発によって、輸送・貯蔵キャスクに安全性問題が浮上


米国初の「中間貯蔵」計画に戦闘機墜落・射爆の危険性が浮上
 米国初の「中間貯蔵」施設の建設計画が進められている。しかし安全審査の最終局面で浮上してきた戦闘機墜落・射爆の危険性が大きな焦点となり、事実上の凍結状態にある。原発所有会社の共同出資会社であるPFS社(Private Fuel Storage)は、ユタ州スカル・バレーにあるゴシュート族特別保留地に、4000基(44000d)のキャスクを貯蔵する巨大な使用済み燃料の貯蔵施設を建設する計画を進めている。

※米軍施設の位置については、情報が秘匿あるいは著しく制限されているため、正確でない可能性があります。
 日本と異なり、建設予定地のユタ州はこの計画に徹底的に反対している。建設予定地は、ユタ州の州都ソルトレイク・シティの近郊に位置し、ヒル空軍基地と、米空軍の射爆訓練場に挟まれる位置関係にある。したがって、施設の上を日常的に軍の戦闘機が飛び交い、射爆を行っている。ユタ州は、空軍基地・射爆場が接近して存在するため、戦闘機の墜落や流れ弾による重大事故の危険性があることを指摘、建設計画を批判している。NRCは3月10日に戦闘機の危険性の問題で、その部分に関するPFS社の申請を却下した。これに対してPFS社は貯蔵キャスクの数を4000基から336基に減らすことによって、申請を通そうとしている。貯蔵基数を減らしたことによって施設の敷地面積は減少するので、戦闘機墜落・射爆の可能性は極めて小さくなるというのがPFSの主張である。しかし、ASLB(原子炉安全許認可会議:米NRC)は現在の所、PFS社の申請を「手続き上の問題」という理由で再び却下している。
 連邦政府は、3月の申請却下の際、軍の戦闘機による危険性に言及した。国防総省と空軍自身も軍事演習等の縮小に反対しており、スカル・バレーでの中間貯蔵計画には反対だといわれている。PFS社の規模縮小申請をNRCが却下した背景には、このような軍の思惑があるのかも知れない。
 ユタ州は、このPFS社の規模縮小に対して、「違法な回避策」であり、フルサイズの施設を建設する許可を本質的に与えてしまう「謀略に他ならない」と強く非難している。PFS社自身、キャスク数336基の縮小施設が許可された後に「4000基の施設を建てることをひそかに」考え、「フル施設を建設する幸先良いスタート」だと語っている。州当局者は、「施設の大きさが問題なのではなく、核廃棄物をそこに貯蔵するということ自身が問題だ」とPFS社の計画を批判している。他方NRCは、PFS社の「中間貯蔵」施設計画について、戦闘機問題に関する調査を早急に行い年末までに決定を出すようASLBに指示し、早期の決着を目指している。
 原発所有会社とPFS社は、ユッカ・マウンテン最終処分場が操業を開始する2010年までの一時的貯蔵だとしている。しかし永久貯蔵にされてしまう危険性は非常に高い。地元紙デザレット・ニュースは4月4日の社説で「地上での『一時的』貯蔵が40年にも達することを意味していることを考えれば、ユタ州の施設は、ユッカ・マウンテンの施設が操業開始するまでの10年程度を待つための暫定的な解決になると考えるわけにはいかない」と主張している。

戦闘機問題はユッカ・マウンテン最終処分場計画にも飛び火
 PFS社の中間貯蔵施設計画に対する戦闘機墜落の問題は、ユタ州に隣接するネバダ州ユッカ・マウンテンの最終処分場計画にも飛び火している。ユッカ・マウンテンは、ネバダ核実験場の南端に位置するが、ネバダ核実験はネリス空軍基地と隣り合わせで、同基地の射爆訓練場に取り囲まれる位置関係にある。つまり、ユッカマウンテンの上空を軍の戦闘機が飛行しているのである。ユタ州のスカル・バレー中間貯蔵施設で戦闘機が問題となるのであれば、ユッカ・マウンテンでも同じ危険性が問題となるはずである。ネバダ州の地元紙であるラスベガス・サン紙は「ユッカもスカル・バレーと同じように評価せよ」と題した3月12日の社説で「スカル・バレーが上空からの危険のために核廃棄物貯蔵の一時的サイトとして不適切ならば、永久貯蔵サイトとしてのユッカは、どうやって同じ危険から免れるというのか?」と主張している。最終処分場に反対してきたネバダ州の当局者も、戦闘機問題を、最終処分場の操業開始への重大な障害になるだろうとしている。
 軍当局者は、ユッカマウンテンの最終処分場は地下施設であるということを根拠にして、反論している。これに対して地元紙は、「ユッカには核廃棄物が日々到着するため、埋設を待つ何千dもの使用済み燃料が常時野外で積み上げられたままになるだろう」とし、スカル・バレーと同じだと批判している。国防総省の高官の中にも、ネリス空軍基地の空域化での核廃棄物輸送に反対するものがいるといわれている。ユタ州の中間貯蔵から飛び火した戦闘機問題は、ユッカ・マウンテン計画の新たな障害として、今後さらに焦点化することになるだろう。

追い打ちをかけるように内部告発によって輸送・貯蔵キャスクに安全性問題が浮上
 戦闘機問題に追い打ちをかけるように、使用済み核燃料の輸送と貯蔵に用いられるキャスクの安全性について重大な問題が持ち上がっている。エクセロン社の元検査官の内部告発が事の発端である。内部告発によれば、既に5つの州(イリノイ、ジョージア、ニューヨーク、オレゴン、ワシントン)で使用されているホルテック社製のキャスクには、違法な溶接、中性子遮へい材の損傷、品質保証書のねつ造等9つの問題が存在するという。キャスクには溶接に関連すると思われる傷があり、市民団体パブリック・シチズンとNIRSは「核燃料が積み込まれたキャスクが圧力とひずみのもとで予想通りに機能できず、また、ある環境の下では高レベル核廃棄物からの放射線を十分に抑制できないであろうことを意味する」と述べている。
 この内部告発者は1年以上前、すでに2001年12月にこの問題をNRCに訴えていた。ところがNRCはこれまでこの告発を握りつぶしてきたのである。パブリック・シチズンとNIRSは、これらの問題を見落としてきたNRCの安全規制の在り方を強く批判し、6月19日に徹底した調査を行うよう要請した。NRCは、市民団体の要請により問題が公になってはじめて、6月26日に調査を開始すると発表するに至った。
 ホルテック社製のキャスクは、ユタ州で計画されているPFS社の「中間貯蔵施設」でも使用予定だという。また、ユッカ・マウンテンの最終処分でも同じキャスクが使用されるといわれている。問題は5つの州の原発みならず、さらに大きく、中間貯蔵や最終処分にまで波及しようとしている。
 さらにこのキャスクの安全性問題は、日本の中間貯蔵施設の問題にも大きな影響を与えるに違いない。アメリカの事例は、中間貯蔵施設を受け入れた後になって、キャスクに傷が生じる等の問題が浮上する可能性を示唆している。つまり、例えば東電がむつ市で建設を計画している「中間貯蔵施設」でも、長期にわたる保管期間中にキャスクの健全性が保てなくなり、放射能が放出される、あるいは二度と運び出せなくなる等の危険性が現実的なものであることを、アメリカの事例は示しているのである。さらにもっと直接的な相関がある。三井造船は、使用済み核燃料を保管するキャスクを製造しているが、同社はコンクリートキャスク(PWR用)についてホルテック社と契約を結び、「ホルテック社技術の独占的な使用と実施許諾。ホルテック社からの技術援助(技術情報提供など)」を受けていると宣伝している。関西電力は中間貯蔵用に、コンクリートキャスクも選択肢に入っていると交渉で述べており、関電の中間貯蔵計画に問題が波及する可能性がある。