美浜の会ニュース No.73


 6月30日から、むつ市では、「中間貯蔵」誘致の是非は市民の意思で決めようと、住民投票条例制定に向けた署名活動が始まっている。署名開始1週間で、法定で定められた約800名を越す、1157名の署名が集まり、1万人を目標に精力的に活動が進められている。「中間貯蔵」に反対するむつ市の運動と連帯しよう。「中間貯蔵」を阻止し、再処理にも、ワンス・スルーにも反対し、脱原発へと進もう。

住民の声を無視したむつ市長の誘致表明
 6月26日、むつ市長は、「中間貯蔵」誘致を表明した。数日後に始まる住民投票の運動に敵対し、市民の声を踏みにじるものである。むつ市は、市長の誘致表明に至る過程でも、徹底的に住民の声を封じ込めてきた。市が設置した「専門家会議」は、ほとんどが推進派の学者であった。さらに、「専門家会議」は非公開の会議として始まり、市民の抗議で公開にしたが、わずか5回の会議のうち、むつ市内で開催されたのは非公開の第一回会合だけ。あとは、茨城県東海村・東京・仙台で行われ、「公開」とは名ばかりであった。「最終処分場になるのでは」という住民の当然の不安に対し、市長は当初「そうならないよう法律に明文化してもらう」と発言しながら、「安全協定で国に役割を果たしてもらう」とトーンダウンし、26日の誘致表明では、(「中間貯蔵」は)「将来は情勢も変化する」と、まるで「永久貯蔵」を認めるかのような無責任な発言を行っている。
 このような市長の強引で傲慢な推進に対し、「核の『中間貯蔵施設』はいらない!下北の会」は、「反対の声をことごとく封じ込めてきた」暴挙として厳しく批判し、住民投票の実現を呼びかけている。

「中間貯蔵」施設は安上がりのゴミ対策、政府は新たな交付金で札束攻撃
 前号の「美浜の会ニュース」で詳しく述べたように、「中間貯蔵」は「永久貯蔵」に他ならない。東電自らが述べているように、50年後の搬出先は「未定」のままだ。また、容器の蓋をいっさい開けないため、現行法規では、中身の安全性が確認できず、搬出することはできない。

マンガリーフより一部転載(無断転載禁)
発行/核の「中間貯蔵施設」はいらない!下北の会
 イラスト/ 高木章次
 さらに「中間貯蔵」施設は、安上がりの核のゴミ対策である。「施設」の構造は学校の体育館並のものである。空気の取入口から入る風で自然冷却するだけ。大地震で倒壊することは否定されていない。容器の中身の安全性を確認するためには蓋を開けねばならず、そうなれば、原発と同様の遮蔽が必要となり費用がかさんでしかたがない。だから60年間は容器の蓋は開けない。
 電力自由化が進む中で、電力各社は経済性を最優先にしている。「維持基準」の導入により、損傷があっても運転継続を可能とし、さらに定検短縮・長期連続運転等で既存原発の運転そのものの効率化をはかる。他方で、核のゴミ対策でも、安価な「中間貯蔵」施設で金をかけずに乗り切ろうとしている。
 一方政府は、電力会社の経済性最優先の核のゴミ対策を後押しするため、新たな交付金を使った札束攻撃で、「中間貯蔵」を強引に押し進めようとしている。むつ市長は当初、「中間貯蔵」関係の交付金は約320億円(50年間)と説明していた。誘致表明前の6月3日には、金額は一挙に跳ね上がり、1290億円(60年間)、年間約22億円の電源三法交付金が見込まれると公表した。その差額970億円は、政府が今年度から導入しようとしている「中間貯蔵」用の「長期発展交付金」である。その最大のものは、搬入した使用済み核燃料1トンにつき、年間40万円の交付金を支払うというものだ。6000トンの使用済み核燃料を受け入れる計画で、単純計算で、60年間で1440億円。関電も御坊市の説明会で、「現在制度化中」であるにもかかわらず、この新交付金を宣伝し、カネでつろうとしている。私たちの電気料金を使って、次々と「新交付金」を作り、地方財政の赤字につけ込む、全く汚い手口である。
 さらに、東電出身の加納議員等が主導する自民党のエネルギー関係部会は、6月13日、「中間貯蔵」の推進と、再処理やバックエンド費用については国の責任を明確にする旨の「中間報告」をまとめた。これと軌を一にして、電事連は「9兆円の再処理費用のメドがたっていない」との情報を意図的にリークした。「国の責任」とは、バックエンド費用に税金を投入し、電力会社の負担を小さくしてあげるというものだ。「9兆円」の中身には、「中間貯蔵」費、MOX燃料加工費等も含まれている。このことは、いかに原発が経済的に成り立たないかを自ら露呈すると同時に、他方で、その尻拭いを人々に転嫁しようとするものだ。行き詰まった、危険な核燃サイクル政策に、さらに一層莫大な税金を投入するなどもってのほかだ。

再処理にも、ワンス・スルーにも反対
 朝日新聞は、6月21日付の社説で、六ヶ所再処理工場を凍結し、見直し、「増え続ける使用済み燃料を数十年間おいておく中間貯蔵施設は早くつくるべきだ」と提唱している。政府が言う再処理を前提とした「中間貯蔵」ではなく、社説では「中間貯蔵」をワンス・スルーのためのものととらえているに違いない。すなわち、基本的にワンス・スルーに方針転換せよと主張している。私たちは、再処理にも、ワンス・スルーにも反対である。
 「中間貯蔵」にどのような立場をとるかによって道は大きく分かれる。ワンス・スルー方式で原発の運転継続を認めるのか、それとも、糞詰まり状態を大衆的に、人々の意識のうえに顕在化させ、そのゴミ捨て場の道を封じることによって、原発の運転を停止させ、脱原発に転換させていくのか、どちらかである。中間の道や曖昧さが入り込む余地はない。そういう意味で、核燃サイクル政策が事実上破綻した現在、反対運動にとって、「中間貯蔵」を阻止することは、脱原発に向けたチャンスの時でもある。
 むつ市での異常なまでの強引な推進は、電力と政府が「中間貯蔵」を戦略的に最重要なものと位置づけていることの現れである。この背景には、使用済み核燃料が原発サイトで溢れかえるという切迫した状況がある。六ヶ所再処理工場に使用済み燃料を搬出できなければ、2010年頃には多くの原発で、使用済み燃料プールが満杯となる。定検で燃料交換ができなくなるという事態が迫っている。個々の原発でみれば、高浜原発3・4号炉では3年後にプールが満杯になる。そのため関電は、プールのリラッキングで急場をしのごうとしている。それでも、2010年頃には満杯になる。それ程までに追いつめられているということだ。
 また一方で、政府の核のゴミ問題に関するキャンペーンは、「自らの世代で生み出したゴミを次の世代に残してはならない」と言う。これは、核のゴミを生み出す原発を推進し続けてきた自らの責任に頬被りをする全く無責任なものだ。ここでも、発生者責任が厳しく問われなければならない。核のゴミ問題の解決のためには、まず、これ以上増やさない、すなわち原発推進をやめ、再処理も「中間貯蔵」も中止することが先決である。
 日本の状況は、脱原発を国家の政策として掲げ、段階的削減に向かう欧州の状況とは全く異なっている。だからこそ、原発の延命のための、核のゴミを一層拡大させるための「中間貯蔵」に反対し、これを阻止しなければならない。

米国初の「中間貯蔵」施設が凍結状態に
 原発先進国の米国でも、「中間貯蔵」施設の建設は進んでいない。事実上、凍結状態になっている。原発を所有する8つの民間会社の共同出資会社PFS社は、ユタ州のゴシュート族居留地であるスカル・バレーに44000トンもの「中間貯蔵」施設の建設を狙っている。しかし安全審査の最終局面になって、隣接するヒル空軍基地等の戦闘機が「中間貯蔵」施設に墜落した場合の安全性が十分ではないとして、NRCは3月10日、その部分に関する申請を却下した(NRCは地震時のキャスクの安全性や、PFS社の財政的能力に関するユタ州の批判については退けている)。その後4月に入ってPFS社は規模を10分の1に縮小して再申請した。しかしNRCは5月29日、「手続き上の問題」として再度これを却下した。この背景には、空軍・ペンタゴンが、軍事演習の縮小等に反対しているという、大きな力が働いている。ユタ州政府は、「量の問題ではない。40年間もの、事実上の永久的な核のゴミ捨て場そのものに反対する」と徹底した反対姿勢を貫いている。さらにこの問題は、使用済み核燃料の最終処分場として狙われているユッカ・マウンテンにも飛び火している。同じくネリス空軍基地を抱えるネバダ州でも、「ユッカもスカル・バレーと同じ」として、州政府や住民の反対運動が一層強まっている。

米国では、内部告発で貯蔵キャスクに安全上の欠陥までも発覚
 さらに米国では、6月、使用済み核燃料の輸送・貯蔵キャスクに安全上の欠陥があることが内部告発によって明らかになった。ホルテック社製のキャスクに、違法溶接・中性子遮へい材の損傷・検査データのねつ造などが存在するという。
 告発者はすでに2001年12月にこの問題をNRCに訴えていた。NRCはこれまでこのことを握りつぶしてきた。市民団体がNRCの安全規制の失敗を厳しく批判し、問題を公然化させた。こうしてやっと、6月26日に、NRCは調査を開始すると発表した。さらに、このホルテック社製のキャスクはスカル・バレーの「中間貯蔵」施設でも使用される予定であったため、問題はより一層大きなもになろうとしている。
 このホルテック社製のキャスク問題は、日本の「中間貯蔵」問題にも影響してくるに違いない。米国の事件は、貯蔵期間中に容器の健全性が失われるという危険性を示している。むつの「中間貯蔵」でも、同様の問題が起こる危険性を現実に示している。さらに、使用済み燃料のキャスクを製造している三井造船は、コンクリートキャスク(PWR用)についてホルテック社と契約を結び、「ホルテック社技術の独占的な使用と実施許諾。ホルテック社からの技術援助(技術情報提供など)」を受けていると宣伝している。関西電力は「中間貯蔵」用に、コンクリートキャスクも選択肢に入っていると、私たちとの交渉で述べている。
 米国で起きている新たな状況を、広く宣伝していこう。

運動の力で、「中間貯蔵」を阻止し、脱原発へと進もう
 私たちはグリーン・アクションと共催で、6月29日に「再処理にも、『中間貯蔵』にも反対する討論集会」を開催した。関電が「中間貯蔵」施設建設を狙っている和歌山から、松浦さんにも参加していただいた。その中で松浦さんは、「なんの権力ももたない地元としては、押しつけられたものに、ただ反対して活動していくだけだ」と強調された。脱原発派が国家権力を握っているドイツや、野党であっても脱原発派が多数を占める欧州の状況と、日本の政治的状況は全く異なる。これまで新規立地やMOX・「もんじゅ」も、まず、生活に根ざした、長期にわたる地元住民の運動がねばり強く闘われてきた。それに都市部の運動が連携しながら、ぎりぎりの所で阻止してきた。そして、その一つ一つの勝利は、個別の勝利にとどまらず、政府の原子力政策・核燃料政策全体を窮地に追いつめつつある。この運動が、全体の流れを根底で規定しながら、地元首長達の矛盾を拡大している。

 むつ市では、7月30日まで住民投票条例制定のための署名活動が続けられる。「中間貯蔵」に反対する、むつ市の運動と連帯しよう。関電の「中間貯蔵」に反対する和歌山の運動と連帯していこう。

「核の『中間貯蔵施設』はいらない下北の会」に激励とカンパを
「下北の会」事務局 むつ市本町1−1
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