−4月28日 関電交渉報告−
ECTの検出性能とは別に関電独自の「傷」の判定基準を導入
「これまで東電も我社も余計な補修をやっていた」


ECTの検出性能とは別に関電独自の「傷」の判定基準を導入
炉底計装筒管台 上蓋管台
実験レベルでのECTの検出性能 0.5mm 1mm
実機条件でのECTの検出性能 不明 3mm
「傷」の判定基準(※維持基準のため) 3mm なし
 4月28日関電との交渉を行い、彼らがこれまで「3mm」としてきたECTの検査精度を中心に追及した。その結果、2つの種類の「3mm」が存在することが判明した。
 まず第一の「3mm」は、炉底にある炉内計装筒管台におけるECTの検査精度である。この場合の「3mm」は、関電独自の傷の判断基準であって、ECTの検出性能自体とは別物である。
 関電の説明によれば、炉内計装筒管台におけるECTの検出性能は、試験片を使った実験の場合0.5mmである(実機条件の場合は、ノイズ等の影響により検出性能は落ちる)。一方、見つかった信号指示を「傷」と判断する判定基準は、@ECTの検査で明らかに傷と判断できる深さであることAその深さから次サイクルまでの傷の進展を考慮しても、強度上十分板厚に余裕があることという2つの点から決められている。これが判定基準3mmである。つまり、純粋なECTの検出性能以外の恣意的な条件を勝手に導入し、実際の検出性能より甘い「傷」の判定基準を設定しているのである。実験レベルでのECTの検出性能が0.5mmで、「傷」の判定基準が3mmであるとすれば、実機条件下でのECTの検出性能は0.5mmから3mmの間のどこかにあるはずである。そこで関電に対し、計装筒管台部における実機条件下でのECT検出性能を明らかにするように追及したのだが、「実機の検出性能は手元にない」と逃げに終始した。結局関電は、検出性能とは関係なく傷の判断基準を別に設けている。これは事実上の維持基準の先取りである。

これまで告示501の解釈はあいまいだった。それで東電も我社も余計な補修をやっていた
 「高浜1号機の原子炉容器炉内計装筒管台の保全について」は、「検査の判定基準」として、深さ3mm以下を「良」とし、3mmを超えた場合に「健全性評価を実施する」としている。これは、傷を放置したままでの運転を明確に認めたものであり、「維持基準」の先取りに他ならない。
 今回の交渉で関電は、このような判定基準を導入したのは今回の高浜1号のケースが初めてであることを明らかにした。では「なぜ、今の時期に導入したのか」という追及に対し、「今の告示501号でも傷があっても修理しなくても良い場合があるということがはっきりした」からであるということを認めた。これは「予防保全」の立場・原則からの大きな転換である。関電は、「これまで告示501の解釈はあいまいで、運転中の場合でも告示501の材料規格の考え方を適用し、基本的に傷があれば修理してきた」が、「東電さんの事が起こった後の国会答弁等、最近では福島瑞穂議員に対する経済産業省の回答等で、傷があっても告示501の構造規格の方で規定されている強度や肉厚を満足していれば良い」という解釈が最近になって明確になったのだと説明した。そしてその上で、「これまで東電も我社も余計な補修をやっていたのだ」と認めた。告示501に対する国の新解釈が示されたため、それにならって考え方を改めたということである。
 これまで散々「新品同様だから安全」と宣伝し続けてきたのではなかったか。老朽化が進み、現実に傷が発生するようになって「これまでも傷はあってもOKであり、新品同様は間違いでした」とは許し難い詐欺的行為である。関電は、維持基準を先取る「判定基準」を撤回せよ。

上蓋管台におけるECTの検出性能を1mm(1995年)→3mm(2002年)と緩めたのか?
 第二の「3mm」は、上蓋管台におけるECTの検査精度である。関電は、上蓋管台の「3mm」は、計装筒管台のような判定基準ではなく、実機条件下でのECTの検出性能であるとした。しかしこの説明は不可解である。なぜなら関電が1995年に公表した「関西電力の渦電流探傷検査状況(平成7年12月末現在)」の表の下には、「参考:装置の検査精度 約1mm」と記載されているからだ。この矛盾について関電は、1995年に公表した検査精度は、実際には実験レベルでの検出性能を参考値として示したもので、実機における検査精度は3mmだったのだと説明した。つまり、実際の検査精度は3mmしかないのに、それを1mmとして公表していたことになる。関電の言い分が本当だとすると、これは明らかな詐欺である。例えば、「検査精度 約1mm」としながら、2mmの傷があってもこれを見逃し、「損傷ゼロ」と報告していたことになる。「嘘の精度を公表していたのか」と追及すると、関電は何も答えられなくなった。
 1995年の段階では、実機の上蓋管台におけるECTの検出性能を1mmとしていたのだろう。現実の傷の進展と、維持基準の先取りをにらみ、昨年10月に上蓋の報告書を出すにあたって、ECTの精度をこっそりと緩和したに違いない。そのことを隠すために、1995年に公表した精度は「試験片のものであり、実機条件ではない」などという苦し紛れの言い訳を考え出したのであろう。上蓋管台の「3mm」はECTの精度などではなく、恣意的に定められた判断基準なのではないか。

高浜1号機をはじめ関電原発の炉内計装筒管台は応力腐食割れ発生域に入っている
 高浜1号は18万時間程度(正確には17.7万時間)の運転時間で炉底計装筒管台でのSCCを発生させた。したがって、高浜1号の炉底部と温度条件および材質が同一である高浜3・4号機、大飯3・4号機の上蓋管台部のSCC発生予測時間40万〜60万時間は間違っているのではないか。
 この質問に対して関電は、温度はほぼ同程度であるが、応力が大きく異なり、この差が両者のSCC発生の時間の差となっていると回答してきた。つまり、上蓋管台よりも炉底の計装筒管台の方が条件が厳しく、上蓋よりも早くSCCが始まったのだということになる。具体的には、上蓋管台部の応力は約350MPa(メガパスカル)=3500kg/cm2に対して、高浜1号機の炉内計装筒管台部の応力は約500MPaであり、SCC発生予測時間は18.8万時間だという。つまり、予測通りSCCが発生したと事実上認めたのである。関電の予測に従えば、高浜1号機をはじめ、同程度の運転時間を持つ高浜2号機、美浜1〜3号機もSCC発生域に入っていることになる。
 「炉底でのSCC発生の危険性があるのではないか」と追及すると関電は、ウォーター・ジェット・ピーニング(WJP)によって引っ張り応力が緩和されたため大丈夫だと答えてきた。WJPによってSCC発生時間がどのくらい伸びたのかときくと、「応力が完全に緩和されたのでSCCは問題にならない」と言う。では無限に伸びたというのかと聞くと、「そうではない」という。一体何万時間伸びたのかと聞くと「答を持っていない」である。いい加減な対応である。
 そもそもWJPは応急的な措置である。もしWJPで炉底部のSCC発生時間が問題にならないくらい延長されるのであれば、なぜ上蓋管台を取り替えたり、温度低減化工事を実施する必要があったのか。上蓋管台にもWJPを施せばよかったではないか。炉底管台は取り替えることも温度を下げる措置も取れない。そこでしかたなく、WJPを実施したのである。
 アメリカの南テキサス1号炉では炉底の計器挿入貫通口部でホウ酸の堆積物が発見されている。おそらく炉底管台部で貫通割れが発生している。同炉は米国で最も若い原発の一つで、運転開始は1988年8月である。つまり、高浜1号機の約半分の期間で貫通割れに至ったことになる。
 関電が認めている通り、炉底管台部は上蓋よりも条件が厳しく、SCC発生の危険性はより高い。炉底で貫通割れが起きれば、大規模な一次冷却水漏れから、重大事故を起こす危険性がある。WJPで対策は十分という関電の説明はまったく信用できない。アメリカでもすでに現実の事故が発生している。高浜1号をはじめ、炉底計装筒管台の徹底した検査と対策を行うべきである。