デービス・ベッセ原発の大穴が示す
米原子力規制委員会の安全性軽視・規制放棄の実状


 昨年、アメリカのオハイオ州にあるデービス・ベッセ原発で原子炉上蓋に直径18p、深さ15pの大穴が開いているのが発見され、大問題となった。この大事件により、アメリカ原子力規制委員会(NRC)が安全性を軽視して規制を放棄している現状が浮き彫りとなり、問題が発覚して約1年になろうとする現在も、この事故におけるNRCの責任を追及する動きはますます強くなっている。このため、NRCは今年2月11日に、アメリカの全PWRを対象に上蓋管台の非破壊検査を義務付けるなど、規制を強化せざるを得ないところまで追い込まれている。
 政府の独立機関であるNRCは、許認可や安全審査などの権限を有し、必要とあらば原発の運転停止命令を出すことも出来る。しかしデービス・ベッセの場合、NRCはこの原発を運転しているファーストエナジー社の利益を優先し、危険性を知りながら運転続行を容認していた。憂慮する科学者同盟(UCS)や原子力資料情報サービス(NIRS)等アメリカの運動は、情報公開法をフル活用して事実資料を収集しながら、今回の事故でのNRCの責任を追及し続けている。
 2001年8月、NRCは全てのPWRに対し、12月31日までに管台の検査を実施し結果を報告するよう要求した。ところが利益追求のため計画外の停止を嫌がったファーストエナジー社は、2002年4月までの運転続行を願い出た。NRCは当初この要求に強硬姿勢を取り2001年11月には規制局長のサイン入りの停止命令まで用意していたが、途中で態度変更し、2002年2月までの運転続行を容認したのである。2002年2月に原発が停止し、労働者が原子炉内に入って上蓋の大穴を発見した。
 最近、NRCがデービス・ベッセでの管台の損傷による腐食問題を認識していながら放置していたことをより具体的に示す証拠が明らかになってきた。何と、NRCは原子炉上蓋に錆びが付着し盛り上っている写真と、この問題を取り上げた報告書をファーストエナジー社から2000年春の段階で受け取っていた。さらに、昨年の解雇処分を不当として今年2月18日に提訴した元ファーストエナジー社の技術者によれば、NRCは1998年以前に既にこの問題を知っていたか、あるいは1998年の段階で認識したかのどちらかであるという。その技術者自身、2001年秋の段階で、1分間とはいえNRCにこの問題を直接説明したことがあるという。にもかかわらず、NRCは何ら対策をとらず、数年間にわたって危険性を放置し続けたのである。NRCの内部調査によれば、規制局長はこの原発の運転容認を求める政治的圧力があったことをほのめかしているというが、一私企業の利益のために安全性を犠牲にするNRCの姿勢は到底許されるものではない。
NRCはデービス・ベッセ発覚後も引き続いて安全性を軽視している。ファーストエナジー社は現在停止中のこの原発の再稼働に向けて準備を進めているが、NRCは燃料の装荷許可を早々と出した。また、2002年2月の原子炉停止の際、停止時間を短くするため早々と労働者を炉内に送り込み、被曝させた問題についても、今年2月20日には、罰金処分なしと正式に決定した。
 
 90年代に始まった電力自由化の中で、NRCは企業の利潤追求に迎合し、安全性を切り捨てることに専念してきた。運転期間の20年延長、最大約15%の出力増強、最高62000MWd/tまでの燃焼度の引上げとそれに伴う1サイクルの運転日数の増大等、全て認可している。デービス・ベッセの事故は、これら安全性切捨ての必然的な結果として出てきたものである。
 アメリカの事例は、来年からの維持基準導入がいかに危険であるかを体現したものである。関電高浜1号機ではすでに維持基準が先取りされ、損傷を抱えたまま原子炉が起動された。運動が監視を強め、反対の声を上げていくことで第2のデービス・ベッセをくい止めよう。