美浜の会ニュース No.68


東電・経産省一体の不正事件−責任を徹底追及しよう
 東電の損傷隠ぺい・検査データねつ造事件は、電力トップの東電がいかにずさんな原発安全管理を行ってきたのか、その一端を見せつけている。同時に、ウソで塗り固められた、秘密主義の原発推進の本質そのものを示している。また、東電の不正事件は、同時に経産省の不正事件である。原子力安全・保安院は、内部告発から2年間も問題を放置し、その間「原発は安全」「プルサーマル推進」の旗を振り続けてきた。内部告発者の氏名を東電に明かして談合を続けてきた等々。
 9月13日、佐々木保安院院長は、調査も終了していない段階から、さらには、自らが出した報告書で「電気事業法第39条(技術基準適合義務)を遵守していなかった可能性がある」と明記しておきながら、「法的に東電の責任を問うことはできない」と早々と発表した。形式的なものとはいえ、東電に対する法的責任追及の放棄によって、東電と自らの責任を隠ぺいしようとしている。国と電力の癒着の度合いがいかに深いものであるかを示している。わずか1ヶ月後の9月末には、最終報告を出すという。幕引きを許してはならない。東電はもとより、経産省の責任を徹底して追及していこう。

シュラウドひび割れを放置したままでの運転を許すな
 保安院と東電は、8月29日に29件の不正を発表した当初から、ひび割れはあるが安全上問題なしと発表した。アメリカ機械学会ASMEの基準等を適用して判断すれば、ひび割れはたいしたことはない。だからシュラウド等にひび割れが存在する8機の原発も止める必要がないと断言した。
 さらに東電は、9月4日の市民との交渉で、ウソをついたことは認めながらも、シュラウド全周にひび割れが入っていることを知っていながら放置し、数年間も運転を続けたこと、すなわち、住民を事故の危険にさらしたことについては、一切謝罪していない。これこそが、東電の最大の罪である。
 福島・新潟の地元首長達の反発により、東電は、シュラウドひび割れについては、原発の運転を順次止めて検査することを余儀なくされた。しかし、東電と保安院は、検査はするがひび割れを放置したままの運転再開を狙っている。これを許してはならない。シュラウドがひび割れている実態と、それを放置したままでの運転は、原発事故の危険を現実に高める。地元をはじめ多くの人々の生命を危険にさらす。シュラウドは、核燃料を被い、冷却水の流れを調整する炉の心臓部である。地震などで脱落すれば、制御棒は挿入できなくなり、炉心溶融へと発展する。
 さらに、保安院・東電がひび割れのまま運転しても大丈夫とする「安全評価」は、既に破綻している。保安院等の評価では、シュラウドのひび割れは1年間に片側11oしか進展しないことになっている。しかし、今年8月に見つかった柏崎刈羽3号炉のひび割れは230oに達していた(9年間運転)。ひび割れの進展は、年間平均で片側約13oに達している。「安全上問題なし」の根拠は、事実でもって覆されている。さらに、全周に及ぶひび割れが見つかった福島原発U−3号炉は、ひび割れが起きないとされたSUS316L製の新シュラウドである。それでもひび割れは発生している。シュラウドのひび割れを放置したままでの運転再開を阻止しよう。

原発事故の危険を高める「維持基準」(損傷容認基準)導入反対
 経産省・保安院と電力は、東電不正事件を逆手にとって、「維持基準」「事後保全」等の検査制度の改悪を狙っている。東電南社長は、9月2日の辞任会見で「キズがあってはいけないという厳しい基準があるからウソをつく」と繰り返した。それ以降、ひび割れがあっても修理の必要なしという「維持基準」=損傷容認基準を導入せよの大合唱である。東電事件の調査と再発防止策を検討するために設置された委員会は、「維持基準」推進論者の近藤駿介氏を委員長に、名称も「原子力安全規制法制検討小委員会」と露骨である。経産省は9月末までに結論を出し、10月の臨時国会に電気事業法等の改訂案を提出し、「維持基準」の導入を前倒しで進めようとしている。シュラウドのひび割れを放置したままでの運転再開は、この「維持基準」の先取りでもある。
 論法はこうだ。日本にはこれまで設備の基準としては建設時のものしかない。そのため、機器は新品同然であることを求められる。検査と修理に時間と金がかかる。しかし、アメリカでは既に「維持基準」を導入し、安全性に問題のないひび割れなどは補修もせずに運転している。今回の東電のウソと隠ぺいも、安全性には全く問題なし。「維持基準」を導入すれば、東電のウソと隠ぺいも、やり放題ということだ。本末転倒も甚だしい。
 そもそも、運転開始以降数十年を経た原発が新品同然のはずがない。PWRでの蒸気発生器細管の損傷多発、BWRでのシュラウドひび割れ等に示されるように、原発の老朽化によって機器の劣化は進んでいる。1993年の高浜2号炉運転差し止め訴訟の判決は、蒸気発生器細管がボロボロの実態を前にして、老朽化を考慮しない国の安全評価に苦言を呈した。その後国は、老朽炉には10年に1度の「定期安全レビュー」を義務づけたが、形ばかりのものであった。老朽化の進展に伴って、検査は念入りに行い、損傷は十分な費用をかけて補修されなければならないはずだ。
 「維持基準」導入を巡る背景には、電力自由化の中で、原発の稼働率をあげ、修理費を削減して経済効率をあげたいという衝動力がある。事故が起きなければ、原発は停止しないというのが、「維持基準」の本質だ。原発事故の危険を一層高める「維持基準」の導入に反対しよう。

関電は「予防保全」で原子炉上ぶたを交換−本当にひび割れはなかったのか
 私達はグリーン・アクションと共同で、東電不正事件を踏まえて、9月11日に関電宛に質問書を出した。東電の不正事件は、経済性追求がその衝動力である。他の電力会社にも同様の不正があると考えて当然だ。とりわけMOX燃料データねつ造事件で実績のある関電のこと。同様の不正を行ってないのか、追及していこう。
 東電はシュラウドを交換するにあたり、ひび割れはないが「予防保全」のため交換すると言ってきた。しかし、これがウソであったことが今回明らかになった。関電は、97年以降原子炉圧力容器上ぶたを7機の原発で交換してきた。検査の結果ひび割れはないが「予防保全」のためという。よく似た話である。フランスでは90年代初頭に、上ぶたにひび割れが多数発見されていた。フランスEDFの91年報告書には、ひび割れの危険がある原発として大飯2号炉の名前もあがっていた。「ひび割れやその兆候」は本当になかったのか。交換した上ぶたは原子炉敷地内に保管されている。関電は、その上ぶたを徹底検査し、過去の検査資料も含めて検査結果を公開しなければならない。

反対運動が勝ち取った柏崎刈羽プルサーマル撤回
 8月29日、東電の南社長は記者会見で「プルサーマル計画の延期」を発表した。保安院が、東電の損傷隠ぺい・検査記録改ざん事件を発表した日であった。その後の報道によれば、新潟の地元3首長達がプルサーマル受け入れを表明した後に東電の不正が発覚すれば取り返しのつかないことになるとして、8月7日に東電は、不正問題に協力する代わりに、プルサーマル凍結を新潟県知事等に働きかけてほしいと、保安院に画策していたという。報道の真偽のほどは別として、東電がプルサーマル延期を発表した8月29日は、刈羽村での「住民対話集会」の最終日であった。当初の計画では、9月早々にも、新潟県知事・柏崎市長・刈羽村長が三者会談で「プルサーマル受け入れ」を表明する段取りとなっていた。しかしこの計画は既に破綻していた。地元の反対運動の力によって、刈羽村村長は「民意は変化した。プルサーマル受け入れ」と表明することはできないところまで追いつめられていた。8月末に行われたハガキによる村民意向調査結果では、8割の圧倒的多数の村民が「プルサーマル問題は昨年の住民投票で結果が出ている」と意思を表明した。28日には柏崎市で「プルサーマルいらない市民集会」が開催された。運動は攻勢に転じていた。29日の東電の延期表明は、客観的には、苦境に陥っていた首長達に救いの手をさしのべる結果となった。しかし、劇的な形でのプルサーマル延期表明を直接規定していたのは、「刈羽の熱い夏」の闘いであった。
 その後、9月6日には柏崎市議会でプルサーマル計画白紙撤回の決議があり、11日には刈羽村議会で事前了解願いを撤回する決議があげられた。これを受けて、12日、地元3首長は三者会談でプルサーマル事前了解願いの撤回を表明した。
 地元の反対運動は、昨年の住民投票の勝利に続き、今夏の推進策動を跳ね返し、事前了解願いの撤回を勝ち取った。地元反対運動の勝利であり、それと固く連帯した全国の反プル闘争の勝利でもある。これによってプルサーマル計画は、基本的に破綻した。

六ヶ所再処理工場運転阻止へ−安全協定の締結を阻止しよう
 プルサーマル計画が破綻した以上、青森県六ヶ所村の再処理工場・MOX燃料製造工場は、その必然性を根底から失った。再処理工場の建設は即刻中止し、MOX燃料製造工場計画は白紙撤回すべきである。
 しかし、青森県知事は、東電不正事件に対しても「国の調査を見守る」と沈黙を決め込んでいる。自民党県連議長が「MOX工場と使用済み核燃料搬入の凍結」を進言せざるをえない程である。青森県知事が唯一不快感を示したのは、経産省事務次官の「選択肢がなければ全く発想を変えた取り組みが必要になる」との発言に対してである。
 日本原燃は、東電不正発覚直後、再処理工場の化学試験を今月17日に前倒しすると発表した。しかし、その後、今度は再処理工場での配管取り付けミスが発覚し、当初の計画どおり10月に延期せざるを得なくなった。いずれにしても来年6月のウラン試験開始、05年の本格運転の計画は堅持したままである。来春の県議選前にも安全協定が締結されようとしている。安全協定の締結阻止に向けて、再処理工場の日常的放射能汚染の危険性、国の安全審査の欺瞞性を具体的に暴露していこう。六ヶ所再処理工場の運転を阻止して、国のプルトニウム利用政策を最後的に断念に追い込んでいこう。
 他方、再処理工場の運転開始の見込みとは切り離されて、六ヶ所村には使用済み核燃料が搬入され続けている。関西電力は9月6日高浜原発1・2号炉から25トンの使用済み核燃料を搬出した。輸送船はその後柏崎刈羽原発で使用済み核燃料39トンを積み、9日六ヶ所村に到着した。プルサーマル計画が破綻し、東電不正事件の直後であるにもかかわらず、関電は搬出を強行した。断じて許すことはできない。このことは、核燃料サイクルが破綻しようが、核のゴミさえ引き受けてくれればいいという露骨な意思の表明でもある。青森県のむつ市長は、「再処理工場が動かなければ中間貯蔵施設が一層重要になる」とあけすけに語っている。使用済み核燃料の搬出反対と中間貯蔵に反対する取り組みを強めていこう。

 8月29日で情勢は大きく変化した。地元首長達が我先に批判や不満を口にしている。それも当然だろう。そして何より、多くの人々の気持ちの中で、反原子力・嫌原子力の気運が強まっている。刈羽の勝利が与えてくれた、反対運動の力があって初めてプルサーマルを撤回させることができたという教訓に学びながら、人々の気運に依拠して、新たな運動を開始しよう。
 東電・経産省の責任を徹底して追及しよう。シュラウドひび割れを放置した運転を阻止しよう。「維持基準」導入を阻止しよう。プルサーマルの勝利を打ち固めよう。青森の運動と連帯し、六ヶ所再処理工場の運転を阻止しよう。これらの課題を闘い抜く中で、脱原発の道へと進もう。(9月15日)


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