六ヶ所再処理工場の安全協定締結を阻止しよう
−海の放射能汚染だけでも安全の根拠50μSvを超える−


 六ヶ所再処理工場が動けば、海に放出される放射能による被ばくだけで、50μSvを超えてしまう。申請書の50μSvを超えないという設定はやはり建設運転を強行するための虚構だった。このことがラアーグ再処理工場との比較で明らかになる。この事実を広く知らせ、議論を起こし、再処理工場の運転を阻止するために、安全協定の締結を阻止しよう。

■再処理工場の運転を阻止する具体的手段は、安全協定の締結阻止にある
刈羽村の人々の再度の決定的な勝利によって、「プルサーマルが実現できなければ、青森に使用済み燃料を運び出すわけにはいかない」との平沼経産大臣の言質が、改めて問われるべき状況になった。しかし、この大臣の言は必然的な傾向を表してはいるものの、使用済燃料はやはり躊躇なく青森に搬入されている。むしろ六ヶ所再処理工場では、ウラン試験の開始が前倒しされるという逆の動きが表面に出ている。東電の不正事件という原発推進派にとっての危機的状況の中で、せっかく獲得した青森県の利権を守ろうとする傾向が強まっても不思議ではない。来年6月に何としても再処理工場のウラン試験を強行するという反動的な動きが一面では強まるに違いない。
 この動向に実際に歯止めをかけ、再処理工場の試験運転を阻む具体的な手段をどうするのかが、いままさに問われている。その具体的歯止めの手段とは、恐らく「安全協定の締結阻止」であろう。これまで4施設で安全協定が結ばれた実績から、地位協定の性格から、さらに質問書への回答内容から、安全協定の締結抜きで再処理工場が運転されることは考えられないからである。
 これまでの安全協定は、住民の安全を守ることが協定の目的であると規定している。その安全が、安全協定の締結によって逆に脅かされるとなれば、そのことは安全協定が締結されてはならないことの根拠となりうる。
安全性とは、けっして技術的範疇に限られた概念ではない。人々の生命、生活を守ることこそが安全性なのである。刈羽村で如実に示されたように、その生命・生活を守ろうとする人々の生活感情や意志の中にこそ、運動の力が存在する。このリアリズムの視点は、運動にとって基本的に重要なものであると我々は考えたい。青森においても、再処理工場の運転に不安を抱く広範な人々の感情や意志を集約することこそが運動の力を生み出すはずである。そのため、再処理工場の安全性問題を再度批判的に詳細に検討する必要がある。

■日本原燃のいう安全性の根拠は、被ばく線量が50μSvを超さないこと
まず、日本原燃の再処理工場申請書では、安全性はどのように保証されているか確認しよう。安全の根拠は、日常的放射能放出に関しては、最大で22μSvしか被ばくしないこと、かつそれが原発敷地境界外での被ばく線量の目標値50μSvを下回るということである。このことが申請書に明記されている安全判断の基本である。むしろ、50μSv以下の建前を守るようにすべてが構成されているように見えるため、この虚構を破ることが運動の重要なポイントになると考える。
再処理工場からの日常的放射能放出には、海洋放出と大気放出がある。申請書の最新(2001年)の計算によると、これによって蒙る住民の最大被ばく線量(実効線量当量)は、海洋放出によって3.1μSv、大気放出によって19μSV、合計で22μSvとなっている。このうち、海洋放出による被ばく線量は、変更申請書が出るたびに減らされ、大気放出による分がそれを補うように少し増やされている。海洋放出による被ばくを減らしたいという何かの動機が働いているかのようである。被ばく線量の計算に働くのは、まず第1に放射能の核種ごとの放出量、第2にその放射能が人間に被ばくを及ぼす経路(移行係数、濃縮係数など)である。
海洋、大気放出にはそれぞれ5つの経路が想定されている。申請書に記述されている経路ごとの計算方式にそって、結果が正しいかどうかを我々は実際にチェックしてみた。そのうち大気放出による被ばく線量をグラフで示す。これは、最も被ばくの大きい東南東方向で、排気筒からの距離に応じて被ばく線量が変化する様子を示している。放射性雲による被ばくD1の場合、排気筒近くでは放射性雲は150m上空にあって地表面には広がっていないが、ガンマ線照射によって多くの被ばくを受けることがわかる。農産物摂取ではそのピークが4100m地点で起こるという申請書の記述をぴったり再現している。海洋放出による被ばく計算の結果も、基本的に申請書に記述されている計算結果を再現できることを確認した。相手の記述をフォローすることは、批判のための前提として必要な第1歩の作業である。

■批判−50μSv以下に納まるという虚構
ここでまず、海洋放出による被ばくについてひとつの基本的な批判をしておこう。海洋放出による5つの被ばく経路の中で最大の被ばく線量を与えるのが「海産物摂取による内部被ばく」であり、その中に海藻類による寄与がある。その海藻類は泊地区で採れると想定されているが、その泊の海水中放射能濃度は低くなるような計算方式がとられている。これを改善してより海流データに忠実な計算を行うと、泊の放射能濃度は6倍近く高くなる。この場合、海洋放出による被ばく線量は3.1μSvから4.75μSvにまで高まる。
そこで次に、六ヶ所再処理工場から海洋への放出量を核種ごとにラアーグの実績と比べてみると、六ヶ所では放出量が異常に低く想定されているのがわかる。そこで核種ごとの放出量がラアーグ並みになったとし、かつ上記の高い方の放射能濃度を採用して、申請書の計算方式どおりに被ばく線量を計算してみると、なんと海洋放出による分だけで76.5μSvにも跳ね上がる。これだけで、申請書が金科玉条にしている50μSvを突破してしまうのである。
さらに大気放出による被ばく経路にも問題がある。例えば、青森県人は牛肉を1日に6gしか食べないし、リンゴも食べないという想定で、食べ物による被ばくが低く抑えられている。

■安全協定阻止に向けての広範な議論を起こそう
さて、安全協定が締結される前に、このような具体的な議論が広範になされるべきである。安全協定は政治の舞台に乗るがゆえに広く注目を集めうる。青森県では、新聞に折り込みビラを入れることさえ事実上禁止されているがゆえに、運動は安全協定という場を最大限利用する必要がある。安全協定が舞台に登場するのに備えて、むしろぜひ登場させるために、安全問題についていまから広範な議論を起こしていくことが重要であろう。



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