放射能の行方を見定める−六ヶ所ナガスクジラ作戦


 六ヶ所再処理工場から海に放出される膨大な放射能はどこに流れ着くのか。目に見える形でこれをあらかじめ再現する大規模な実験が、8月3日に行われる。約1万枚のはがきを流す「ナガスクジラ」作戦を、「再処理とめよう!全国ネットワーク」が実行するのだ。
 実際の放射能は、むつ小川原港沖合3km、約50mの深さの海底放出口から放出され、いったん海面に浮上する。夏場では約13m四方の海面に広がった後、津軽暖流に乗りながら拡散していく。その海面に浮上した放射能を1枚1枚のはがきが体現する。それらは偶然に左右されながら、あるものは海岸沿いに南下して八戸港に入り込む。またあるものは海岸に沿って北に向かい泊漁港に到達するかも知れない。さらに別のものは津軽暖流にのってそのまま南に向かい、リアス式の三陸海岸にまで到達するだろう。そのはがきの来たところに放射能は来るし、それらの到達点を結ぶ線上にも放射能は来る。こうして、放射能による汚染を広くアピールする。
この体験は、ラ・アーグのお母さんたちの深刻な話しを想起させる。そしていま行われている、六ヶ所再処理工場の試運転に反対する署名運動をさらに進める力となるに違いない。
 こっそりと隠されてきた放射能が、1万枚のはがきの姿でドバッと一挙に人々の目の前に現れる。これは推進派にとって大きな打撃となるに違いない。なにしろ設置許可申請書では、海の放射能値はわずか3点だけしか記されていない。放出口のすぐ側の2点と泊漁港だけである。津軽暖流は主に南に流れていくのに、そのような広がりについては一言も触れられていないのだから。
 さらに、設置許可申請書では完全に無視されている2つの重要点が浮上する。第1は風の影響であるが、これはまったく無視されている。実際には夏にはヤマセという東風によってはがきは海岸方面に流される傾向が生まれる。そのため、実験当日の風向きと風速を記録しておくことは重要だろう。ただし、実際の放射能は泡がはじけることによって風に乗って陸上深くにまで運ばれるのであるが、はがきではこれは再現できないという限界もある。第2は、設置許可申請書の設定では、放射能は海岸で完全に反射されて海に戻ることになっている。もし、はがきが海岸にうち寄せられてそこにとどまれば、それは彼らの勝手な仮定をうち砕く。その事実はまさに、セラフィールドやラ・アーグのように、放射能が海岸に蓄積されることを如実に示すものとなる。
 この実験の意味について、ぜひとも留意すべき重要な点がある。放射能の広がりは主に海流によって決まるが、海流は場所によって異なるし、同じ場所でも風向きなどの偶然に支配されて時々刻々変化する。すなわち確率事象なのである。設置許可申請書では、海流の向きと速さを場所的に平均化し、さらに時間的にも年間平均している。このような平均挙動の結果としての海中放射能濃度が3点で記されている。ところが、実験は8月3日のある時刻に行われるのだから、そのときだけの偶然の条件によって結果が決まる(統計用語では見本過程となる)。それゆえ、広がりを見るためには、海流と風を見ながら時間をずらし、数回に分けて放流する必要がある。
 もうひとつ留意しておくべき点がある。下北から三陸にかけての海域の流れは津軽暖流に支配されているが、その流れは東側にそびえる親潮前線の壁に遮られ、制約されている。その親潮前線が今年は昨年と比べて東側に相当に後退している。8月半ば頃のような傾向がすでに現れている。それだけ、三陸海岸に向かう流れが岸寄りに押しつけられる傾向が弱まっているかもしれない。このような様子は、海上保安庁海洋情報部(旧水路部)のホームページにある海流推測(予報)図で見ることができる(http://www1.kaiho.mlit.go.jp 海の動き、海流速報&海流推測図、バックナンバー)。実験前にはこの推測図も参考までに見て、記録しておく必要があるだろう。
 六ヶ所再処理をとめる運動の前進のため、この実験の成功に期待しよう(K)。



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