BNFL再処理工場からの放出放射能は
アイリッシュ海から北極海までも汚染

−ひとたびプルトニウムが放出されれば、海底に蓄積し、海産物等を長期間汚染し続ける−


 刈羽村住民投票の勝利によって、プルサーマル計画実施の見込みは、ここ2、3年立たなくなった。その後どうなるかもまったく不透明である。それに伴って必然的に、六ヶ所再処理工場はその目的を失っている。刈羽勝利後のこのような情勢の変化の下、全国各地の運動は、プルサーマルの復活を阻止する闘いとあわせ、「刈羽の勝利を六ヶ所へ」を合言葉に、六ヶ所・青森の運動と連帯し、2005年に予定されている六ヶ所再処理工場の運転開始を阻止するための闘いを開始している。その一環として私たちは、1990年代以降明らかされつつある新たな発見や事実資料に基づいて、英セラフィールドにあるBNFL再処理工場による深刻な海洋汚染の実態を明らかにするという作業を開始した。この作業を通して、六ヶ所が動けばどうなるか、その姿をリアルに描き出し、これを運動のための武器としたい。
 セラフィールド再処理工場は、大量の放射性物質、特にプルトニウムやアメリシウムといった、寿命が長く危険性の高い核種をアイリッシュ海に放出してきた。イギリス政府とBNFLは、アイリッシュ海へ累積180kg以上のプルトニウムを放出したことを認めている。放出されたプルトニウムやアメリシウムの約95%は、アイリッシュ海の海底堆積物の中に蓄積されており、その蓄積したプルトニウムが新たな放出源となって、アイリッシュ海を汚染し続けている。ここでは、@放出量が激減しているにもかかわらず、環境中濃度が依然高止まりしており、Aさらにアイリッシュ海のみならず、北極海やバレンツ海にまでもプルトニウムが到達し、汚染が地球規模に拡がっているという最新の知見について簡単に紹介したい。そして、ひとたびプルトニウムが放出されれば取り返しがつかないこと、もし六ヶ所再処理工場が動き出せば、六ヶ所周辺の海域はもちろん、日本の周辺海域全体が汚染されてしまうであろうことについて述べたい。

(1)放出量が激減しているにもかかわらず、環境中のプルトニウム、アメリシウム濃度は下がっていない。
 1970年代の大規模な垂れ流し状態から現在まで、プルトニウムとアメリシウムの放出レベルは激減している。国内外からの強い批判の結果、イギリス政府は放出量を制限せざるを得なくなり、アルファ放射体(その主な核種はプルトニウム239,240とアメリシウム241)については、1974年の169兆ベクレルをピークに、1999年には0.13兆ベクレルと、年間放出量は1/1000以下へと減少した(図1)。

 それにもかかわらず、魚介類中のプルトニウム濃度は数分の1程度から、10〜20分の1のレベルにまでしか下がっていない。場合によっては、上昇しているケースさえある。図2は、代表的な魚介類中のプルトニウム239,240の濃度の推移を示したものである。タマキビガイについて見ると、プルトニウム239,240の濃度は1978年の150Bq/kgから、1999年の17Bq/kgと、約9分の1に減少し、ロブスターは、5.2Bk/kg(1978年)から0.28Bq/kg(1999年)と約19分の1の減少である。貝、甲殻類および海藻については、時間と共にプルトニウムのレベルは減少傾向にあるが、その減少の度合いは数分の1程度から20分の1程度にとどまっている。同じ期間に放出量が1/1000以下に減少したことと比較して、汚染の減少は極めて緩慢である。タラについては逆に、1976年の0.005Bq/kgに対して1999年では0.054Bq/kg(過去最高値)と当時よりも現在の方が、約10倍も濃度が高くなっている。カレイも同じように横這い状態であり、魚類については、プルトニウム濃度が低下するどころか、逆に高くなっている場合さえある。プルトニウム、アメリシウム等、超ウラン元素についての日本国内における食物摂取制限は、肉、魚類で10Bq/kgであり、1999年時点での海藻や貝の汚染レベルは、その摂取制限を超過するほどのものである。ロブスターについても、プルトニウムとアメリシウムのα放射体合計で考えれば、基準ぎりぎりである。海洋生物におけるプルトニウム汚染については、「汚染が厳しかった」と言われる70年代の汚染レベルが現在でも続いているのである。

(2)堆積物中に蓄積したプルトニウムは、数百年から数千年間残り続け、汚染は継続する。
 魚介類等におけるプルトニウムとアメリシウムの濃度が下がらない原因は、堆積物中に蓄積したプルトニウム、アメリシウムの海水への再移行にあると考えられている。セラフィールドからの直接の放出ではなく、過去の放出によって堆積物中に蓄積したプルトニウムが新たな放出源となり、アイリッシュ海の魚介類を汚染し続けているのである。英国水産海洋科学センター (CEFAS)のカーショウ博士は、その論文「アイリッシュ海の堆積物中のプルトニウムとアメリシウムの再配分についての観察:1978年から1996年の濃度と蓄積」の中で、これまでにセラフィールド再処理工場から放出された数十兆ベクレルという膨大な量のプルトニウムおよびアメリシウムが、潮間帯や亜潮間帯の表層堆積物(堆積物の表面から0〜5cmの部分)に強く蓄積されていることを示し、これがプルトニウムの巨大な貯蔵庫となっていると指摘している。また同じくCEFASのレナード博士は、プルトニウム239,240とアメリシウム241は粒子との反応性が強く、堆積物中に吸着すると容易には拡散しないという性質を持っており、堆積物中からプルトニウム、アメリシウムが消失してゆく半減期は、数百年から千年のオーダーであるとしている。もし仮に今の時点でセラフィールド再処理工場を止めたとしても、堆積物からの汚染によって、数百年から数千年間、汚染は持続するのである。

(3)プルトニウムはアイリッシュ海を超え、はるか北極海までも汚染する。
 アイリッシュ海の海底に蓄積した大量のプルトニウムとアメリシウムは少しづつ海水に溶け込み、あるいは海水中に浮遊するコロイドに吸着して、海流に乗り、アイリッシュ海を超え、遠く北極海にまで到達している。図3は、北海、ノルウェー沿岸、アイスランド、グリーンランド、バレンツ海におけるプルトニウム239,240の拡散の状況を示したものである。イギリスやアイリッシュ海周辺だけでなく、さらに広範な地域が、プルトニウム汚染に曝され続けるのである。
 ひとたびプルトニウムやアメリシウムが放出されてしまえば、その汚染は半永久的であり、極めて広い範囲に及ぶ。取り返しがつかないのである。もし六ヶ所が動き始めればどうなるか。六ヶ所周辺の海域が深刻なプルトニウム汚染を被るだけではない。プルトニウムは海流に乗って広く拡散し、日本の周辺海域全体が汚染されるのである。六ヶ所再処理工場は絶対に動かしてはならない。



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