6月27日、アメリカ・ワシントン州にあるハンフォード原子力地区で、自動車事故が原因で大火災が発生した。日本のマスコミでは一切報道されなかったが、火災は、アメリカ最大規模のハンフォード核廃棄物貯蔵施設に及び、原子力地区の約半分を焼いた。昔の核廃棄物処分溝と、今では干上がっている2つの核廃棄物処分池を火は覆い、放射性廃棄物やPCB等の危険な化学廃棄物が入っていると思われる1200個以上のドラム缶が埋まっている場所の約800m手前にまで、火は迫っていた。6月30日に火が消し止められるまで、エネルギー省(DOE)は、「放射能の放出はない」との説明を繰り返していた。しかし、火災後、エネルギー省と環境防護庁(EPA)がそれぞれ採取した空気サンプリングからプルトニウムが検出された。プルトニウムが火災でばらまかれ、住宅地域
にまで広がっていることが判明した。
 環境防護庁は、リッチランドとパスコという町での空気サンプリングからプルトニウムを検出した。検出されたプルトニウムは、米国内50ヶ所で日常的に集めている大気汚染データの通常レベルの1000倍もあった。エネルギー省は、ハンフォード原子力地区内のサンプリングで5地点からプルトニウムを検出した。この原子力地区の年平均の100倍にあたる、1立方メートルあたり0.0016ピコキュリーのプルトニウムが検出されている。しかし、エネルギー省と環境防護庁と健康省(DOH)は、検出されたプルトニウム量は国の基準以下で、住民への影響は1回のレントゲンでうける被曝よりも小さいので、住民の調査は必要ないと主張している。政府の主張に対し、プルトニウムの粒子を吸いこめば、肺ガンを引き起こす可能性があると、市民グループが反論している。
 住民と同様、被曝の危険にさらされた約1000人の消防士については、検査結果がまだ公表されていない。このうち、エネルギー省が雇った100人中40人が尿検査を受けたが、尿検査はストロンチウムの検査が目的で、プルトニウムの検査は実施されていない。
 プルトニウムは、どこから出てきたのか。その発生源は、まだ特定されていない。地中に埋められた放射性廃棄物からばら撒かれたとの説と、1960年代・1970年代の核実験によるフォールアウトだとする説が提起されている。放射能除去促進を要求している市民グループは、地中の放射性廃棄物から植物がプルトニウムを吸い上げ、火災でこの植物が燃えたため、プルトニウムがばら撒かれたのかもしれないと説明している。健康省は、火災後に採取した周辺の植物からストロンチウムを検出したと発表した。政府にとっては、フォールアウトの方が都合よいに決まっている。放射性廃棄物が原因であれば、地中のドラム缶等の撤去が問題になる。エネルギー省は、プルトニウム汚染が明らかになってから、当初は否定していた発生源調査を行う意向を示している。
 放射性廃棄物の貯蔵は、まさに危険と隣り合わせである。何が、どこに、どれだけ埋まっているのかわからないので、汚染を予想することも、被害を最小限に抑えることもできなかった。ハンフォード火災は、放射性廃棄物貯蔵の危険性を現実に示したのではないだろうか。



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