解析をちょっといじって・・・ たちまち安全



  「制御棒飛び出し事故」では、飛び出した付近の燃料の保有熱量(エンタルピ)がー挙に上がり、高燃焼度燃料が粉々になって冷却水中に飛び散り、冷却性を損なって大惨事になる恐れがある。この危険性が最近の実験で明らかになったため、高燃焼度まで燃料を使うことに強い藤念があった。ところが、高浜原発プルサーマルの安全審査では、国が主導して、「制御棒飛び出し事故」の解析方法を変更し、安全余裕を大幅に切り縮めて審査をパスさせた。
 従来の解析方法のままで、新たな実験事実を踏まえた「RIE報告書」の新基準を当てはめると、約10%= 4100本もの燃料棒が破損してとても安全審査をパスできない。そこで関電は、解析方法を変えて下図Cのようにエンタルピの計算値を大幅に下げ、破損燃料棒の割合を約1%=410本にまで押さえたのである。しかし、申請書では「解析方法」の文章は前回と同じ、ただ文献番号(8)だけがひっそりと新たに付加されただけであった。
 その解析変更点の具体的な内容が、今回の第95部会資料「コメント回答くその3)」のp.8-15-1から実に 62頁にわたって詳細に解説されている。我々が意見募集に応じて、またりーフレットなどでこの点を問いただしたために、答えざるを得なくなったのであろう。結局、解析で変更されたのは、下図のとおり「ドップラ荷重係数」と「局所出力ピーキングファクタFq」の2点である。ここでは後者Fqに注目しよう。
 この事故では、炉心の周辺部にある制御捧クラス夕1本(制御棒 24 本)が、全挿入された状態から突然飛び出す。その瞬間、その付近の出力だけが異常に急激に高まる。「局所出力ピーキングファク夕 Fq」とは、その部分の局所的出力が、炉心全体の平均出力に比べてどれだけ高いかという、偏りの程度を表すもの。それゆえ図でB=@×Aが、制御棒が飛び出した付近の局所的な出力を表すことになる。
 これまでの解析方法では、図Aのように、Fq は高い値で時間的に変化しないという保守的な(安全側の)値が採用されていた。ところが今回は、この Fq の値をまさに「改善」するために、わざわざ複雑な3次元解析を行った。その結果、図Aの点線グラフのように Fq が時間的に変化することが分かったという。それで少し余裕を見込んで、図Aで「今回手法」の指す実線グラフをFqとして採用したのである。
 その Fq の実線を見ると、ちょうど炉の平均出力@が少し上がった時点で急激に鋭くガクンと下がっており、結局それが効いてHの局所出力が、Cのエンタルピが大幅に下がったのである。たとえこの方法でも、安全側に考えるのであれば、F4 の落ち方をせめて点線グラフより少しは緩やかにとるべきであった。ところが点線よりきつい角度で落としているため、急速に点線グラフに近づいている。つまり安全余裕は、従来の値から大幅に切り縮めただけではなく、その肝心の時点で特に少なくしているのである。このようにしなければ「RIE報告書」の新基準をパスする結果が得られないためであろう。以下、もう少し立ち入って問題点を指摘しよう。
●白紙データでは信頼性が分からない
 この変更された解析方法にどれだけ信頼性があるのか、それは我々素人には容易に判断できないが、実は専門家にさえ判断できない。なぜなら、肝心のデータが「商業機密に属するので」白紙になっているからである。肝心の「ドップラ荷重係数」の新旧数値が白紙。3次元計算は炉心を区切り時間も区切って(網目に分けて)行われるが、その精度を表すべき肝心の網目(メッシュ)幅が白紙、さらに炉の不確定性を表す数値が白紙なのである。
●原子力安全委員会が解析方法の変更を主導した
 関電の申請書の解析方法には文献(8)「三菱PWR の制御棒飛び出し解析手法」(平成10年)が今回黙って付加されたが、これこそが「ドップラ荷重係数」と「Fq」の3次元解析ソフトであることが第9 5部会資料の解説で初めて分かった。他方、同じく第95部会資料「安全評価について」(第9 5部会資料95-3-2号改1)によれば、この事故の解析方法は「RIE報告書」の方法に従っていると書かれている。それで再度「RIE報告書」をよく見ると、確かにそれらしい内容が文章中にチラッと善かれ、エンタルピの計算値もそれらしい値になっている。しかしそこには文献(8)は影さえ見えない。
 結局こういうことらしい。安全委員会は昨年2月にまとめたRIE報告書(案)の中で、Fqの解析方法の変更を事実上指示しているが、その前からすでに 三菱重工でそのソフトが開発されており、5月の関電の申請書には文献(8)として引用されるまでになったのである。すべては結託して進められたということだ。
●複雑なプルサーマル炉心でも安全余裕の切り縮めを合理化
 プルサーマル炉心は、ウラン燃料とMOX燃料の複雑な2重炉心で、おまけに MOX燃料集合体の中に3種類の富化度分布をもっている。このような複雑さに対応するため、「制御棒飛び出し事故」でも当然3次元解析をやらないと信頼性に欠ける。ところが申請書では、燃料棒が1本だけしかない場合と同じ1次元解析が基本になっており、今回は、Fq の計算にだけ3次元解析を適用したのである。さらに、今回の Fq 3次元解析の信頼性を実炉データと比較したというが、その比較対象になったのもウラン炉心である。
 他方、このような批判を予想したためか、原子力発電安全企画審査課で別の3次元解析を行った結果が第9 5部会資料 95-5-3 に報告されている。その結果では、燃料棒はわずか2本しか破損しない。それと比べて、なんと関電の解析は安全側かと感心してみせるのである。総動員で安全余裕の切り縮めを合理化する姿はファッショ的ですさまじい。
 しかしそこでの計算は、燃料集合体を機械的に4分割しており、MOX 燃料の複雑さから言えば信頼性に乏しい。複雑で未経験な MOX の場合、安全余裕をとくに大福にとるべきなのに、逆に大幅に削らないと動かせない状態は危険きわまりない。



トップ