国内及び国際情勢
迫害される外国人
― 入管収容所での人権侵害 ―

港町診療所  医師:山村 淳平
わたしは茨城県・牛久市の入管収容所での被収容者の健康状態をとらえるため、月に1度の割合で面会し、彼/彼女らの状況を聞き取っています。収容中の健康障害および収容所の医療の実態について、その一部をアリンヤウン26号ですでに報告しました。本稿はその続編ですが、強制送還後および仮放免後の経過もおっており、それらの問題点についてものべます。
2003年8月から2004年9月にかけて被収容者67名の聞き取り調査をおこないました。平均年齢は37.5歳、男女比は10対1です。対象例の国籍についてみると、ビルマが42%ともっとも多く、トルコ(クルド人)、イラン、パキスタンとつづき、難民申請者が全体の81%をしめていました。(表1)。

*調査期間:2003年8月〜2004年9月                        
*対象数:67例
*平均年齢:37.5歳(中央値37歳、範囲20〜58歳)
*男女比:10対1

表1:国籍別
国籍 ビルマ トルコ イラン パキスタン 中国 アフガニスタン スリランカ その他 小計(%)
難民申請者       27 11 9 1 2 2 2 0 54(81)
配偶者が日本人 1 0 1 2 0 0 0 3 7(10)
超過滞在外国人 0 0 1 3 0 0 0 2 6(9)
合計 28 11 11 6 2 2 2 5 67
(%) (16) (16) (9) (3) (3) (3) (8) (100)


収容平均期間は、調査時点での収容中例では13ヶ月、仮放免例では14ヶ月、強制送還例では16ヶ月であり、1年以上の例が全体の65%をしめていました。前回の報告では平均7.4ヶ月に対して、今回では平均15ヶ月と2倍にのびていました(表2)。

表2:収容期間
収容期間(ヶ月) 〜5 6〜11 12〜23 24〜 合計 平均
収容中 3 9 17 2 31 13
仮放免 3 2 13 0 18 14
送還 3 4 5 6 18 16
小計 9 15 35 8 67 15
(%) (13) (22) (53) (12) (100)


今回の調査では、親子が引き離される例および日本人の配偶者が収容される例がめだって多くなり、しかも病人や若年者も収容されていました。これは前回の報告時にはみられなかった特徴です(表3)。

表3:収容不適例
        例数
● 家族分離
親子 7(4組)
片親 6
配偶者が日本 7
● 若年者        
20歳 1
5歳以下 2 (対象症例外)
● 出産後 1
● 治療中の患者     
精神障害/椎間板ヘルニア 1
労災治療中 2
合計 27

 

このように収容不適例が多く、しかも収容期間がのびている傾向は2003年秋頃からみられており、そのころ始まった入管・警察庁・東京都合同による「不法」外国人一斉取締りと連動しているのではないかとかんがえます。駅や歩道で警察官に呼び止められ捕まえらたり、難民申請者であっても、毎月の入管への出頭時その場で強制的に入管収容所へ入所させられてしまった例が極めて多くなってきたのも、今回の特徴を示しています。突然に強制収容された外国人は、その結果どのような状況に置かれてしまったのでしょうか。
 精神的・身体的な健康障害がでてきているにもかかわらず、長期間の収容はつづき、それにともない病気の発症率がより高くなり、その病状の程度も重くなってきています。いつ解放されるか分からない状況で、彼/彼女らは将来への不安や強制送還の恐怖をたえずかんじています。無期限の収容は精神的な拷問にひとしく、精神的においつめられ、うつ状態がつよくなり、自殺をはかる被収容者は前回の報告をふくめてすでに7例にものぼっています。
 身体的疾患の代表としてあげられるのは椎間板症です。運動は極度に制限され、せまい空間の中で一日をすごさなければならず、悪化していくのは当然です。そしてきびしい規則のもとで管理され、異なった文化と言語をもつ外国人同士が同じ部屋ですごさなければならず、ストレスは増大します。そうした収容環境は、心因性と関連した胃炎/十二指腸潰瘍・高血圧・狭心症などを誘発する因子となります(表4)。


表4:疾患
*複数回答あり
例数 例数
心因反応 42 眼疾患 3
PTSD*疑   18 耳鼻科疾患 3
胃炎/十二指腸潰瘍疑 17 自殺企図 2
椎間板症 12 全身衰弱 1
高血圧 11 糖尿病 1
狭心症疑 7 結核 1
皮膚疾患 4 喘息 1
腎臓・泌尿器系疾患 4 脳梗塞 1
強度のうつ状態 3 胆石(手術要) 1
* 心的外傷性ストレス障害


 被収容者が入管収容所内の待遇改善を要求しようとすれば、入管は制圧で応じ、その過程で被収容者が暴行をうけた事件は2004年だけで2件確認されています。入管職員の暴行による具体的な被害としては5例みられており、そのうち1例に頸椎椎間板症、2例に腰椎椎間板症の障害がのこっていました(表5)。

表5:入管職員による暴行
例数
障害が残った 3
障害が残らなかった 2
合計 5


 入管収容所の医療では、悪化している病状に対して対症療法しかおこなわれず、しかも抗精神病薬・抗不安薬・催眠剤・鎮痛剤が長期間あたえられ、時には30錠以上の投薬になることもありました。通院中の患者は収容により治療が中断され、入管内での治療が継続されることはなく、しかも労災治療中の患者は労災の給付が中止されていました。これは正当な医療をうける権利だけでなく、社会保障をうける権利をもうばったことになります。また、入管の医師による触診および聴診がなされず、必要な検査もほとんどおこなわれていませんでした。そして、通訳はなく、病気や薬の説明がなされていないため、被収容者の薬に対する不安は強く、入管医師への信頼はほとんどありませんでした(表6)。

表6:入管内の診察
     あり (%) なし (%)
通訳     2 (4) 43 (96)
触診/聴診 20 (49) 21 (51)
検査 19 (53) 17 (47)
病気説明 16 (40) 24 (60)
薬の説明 21 (53) 19 (47)
薬の不安 29 (76)  9 (24)
薬の効果  7 (18) 32 (82)
医師への信頼性    7(17) 33 (83)

 強制送還は被収容者本人や家族につたえられないまま突然執行され、次のようにおこなわれていました。一人の被収容者に対して十数名ほどの入管職員が威圧をかけ、抵抗できないように体をおさえつけ、空港までつれていき、送還先国まで入管職員が3名同行していました。なかには入管職員により薬を強制的にのませられ、意識がモウロウとした状態で強制送還されていた例もありました(表7)。

表7:強制送還時の薬投与
             例数
4錠の投与    1
30錠の投与  1
合計 2

 強制送還後の状況では、収容中にわずらった病気がつづいているのが4例で、そのうち1例はリンパ節結核で抗結核薬投与により軽快していましたが、頸椎椎間板症の1例は症状が悪化していました。収容中に重い病気をわずらっていたにもかかわらず、処方されていた治療薬は送還時にあたえられておらず、搬送先国の病院への紹介状もわたされていませんでした。強制送還するにしてもその後の状況を考慮し、とくに重症の患者に対しては母国での治療継続につなげていかなければならないのですが、それがいっさいおこなわれていません。これは医療の倫理に反する行為といっていいでしょう。
 また、難民申請者4例は送還先国で当局による尋問と拘束をうけており、そのうち1例は調査時点で拘束中であり、3例は多額の保釈金を支払い数ヵ月後に拘束をとかれました。強制送還は難民申請者にとって‘死’を意味することもありえます。難民申請者が強制送還されればどのような処置がまちうけているのかを、法務省の入国審査官はまったく認識していません(表8)。

表8:送還後の状況
国籍 イラン パキスタン ビルマ アフガニスタン トルコ インド 小計 (%)
無事 3 0 2 2 0 0 7 (39)
病気継続   0 3 0 0 0 1 4 (22)
拘束/尋問   3 1 0 0 0 0 4 (22)
未確認 1 0 1 0 1 0 3 (17)
合計 7 4 3 2 1 1 18
(%) (39) (22) (17) (11) (6) (6) (100)

 わたしは難民支援協会で医療相談をおこなっていますが、そこでの相談者の半数以上は入管に収容された経験をもち、収容中の病気を仮放免後もひきずっていました。椎間板症・胃炎・十二指腸潰瘍などの身体的疾患だけでなく、精神的な疾患をわずらっていた相談者も多く、それが生活していく上で支障をきたしていました。重症でひきつづき治療しなければならない患者であっても、強制送還の患者と同様に、入所中の処方薬や病院への紹介状はわたされていませんでした。
 仮放免されても月に1度は入管に出頭しなくてはならず、再収容と強制送還にたえずおびえながら暮らしていかなければなりません。そして仮放免後に元の職場に復帰することはできず、収入の道がとだえ、生活していくことがきわめてむずかしい状況となっています。収容による健康被害がつづいていれば、治療のために高額な医療費を支払わなければならず、経済的負担が大きくのしかかってきます。ある例では収容中に椎間板ヘルニアの症状が一層悪化し、その状態で仮放免となりましたが、医療費を支払うことができなかったため、結局通院を断念してしまいました(表9)。


表9:仮放免後の状況
例数
健康障害が継続   10(そのうち生活上困難5例)
健康上問題ない   4
不明   4
合計 18


 長期収容は自由をうばい、家族をひきさき、病気をまねき、暴行による障害をもたらし、それらの後遺症は強制送還/仮放免後もひきつづいています。このように被収容者は二重、三重の被害にあっています。罪を犯しているわけでもないのに、外国人を長期間にわたり収容すること自体が間違っているのです。しかも、病気になっても入管は医療を保障する姿勢がほとんどみられず、入管職員は次のように述べていました。

「収容に耐えられるかどうかの判断をしているのが入管の医師の役割である」

医療の基本である予防と治療の観点にかけており、患者の医療を受ける権利を無視した言動です。しかし、これが収容と送還を優先している入管の本音と解釈していいでしょう。そうだとすれば、人数や予算をふやし医療設備をととのえたところで、入管の医療内容が改善されるものではありません。かりにその質を向上させたとしても、被収容者は入管の医師をほとんど信頼していないため、治療は意味をなしません。被収容者の医療をうける権利を確実に保障するためには、入管とは無関係の第三者の医療機関で診断と治療がなされなければならないでしょう。それが無理であれば、入管医療ヘの監視と仮放免の要求をたえずおこなっていかなければなりません。
 不適切な医療の対応・暴行・強制送還は氷山の一角であり、他にも問題とされる例が数多くあります。入管に対する監視をつよめていくと同時に、今回と同様の聞き取り調査をおこない、収容中だけでなく、仮放免後および送還後の経過をおわなければなりません。その調査結果は、国際条約の基準をみたしているかどうかを検討する上で重要であり、難民申請に反映されるべきです。こうした作業はしかし、個人では限界があり、組織的におこなった方がいいです。弁護団・人権団体・難民支援団体・外国人支援者・外国人団体の協力が不可欠であり、そしてビルマ市民フォーラムの皆さんの協力が必要です。ぜひお願いいたします。
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